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クライヴの揺れる決意
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一方その頃、公爵家の屋敷ではクライヴ・リンドンが重い溜息をついていた。デスクに山積みの書類を前に、集中力を欠いたままペンを動かす。瞼に浮かぶのは、眠たげな瞳のあの少女――アリスの姿だ。
「……クライヴ、どうしたのだ? お前らしくもない」
書斎に入ってきたのは、クライヴの兄であるギルバート・リンドン公爵嫡男。クライヴより数歳年上で、次期公爵として政務に励む堂々とした青年だ。
クライヴはペンを止め、わずかに肩を落として答える。
「兄上……いや、ちょっと考え事をしていて。仕事がはかどらないだけです」
「珍しいな。お前がこれほど悩むとは……やはり、アリス嬢のことか?」
ズバリと指摘され、クライヴはぎくりとした。兄はすでに“婚約破棄”の経緯も知っている。クライヴが何を思っているか、ある程度察しているのだろう。
「アリス・シャーベット……眠たげで、やる気がないように見えて、実は芯が強いという話だな」
「ええ……。周囲からは『ロリっ子に見える』などと囁かれ、僕も最初は『公爵家の花嫁としては不向きだ』と思っていました」
「しかし、いざ婚約破棄を告げたら、あっさりと受け入れられ、かえって落ち着かなくなった。そういうことだろう?」
「……そうなんです」
クライヴは眉間に皺を寄せる。彼は確かにアリスとの婚約に不満を抱き、“これでは公爵家の名が汚れる”とまで思い詰めた結果、破棄を宣言した。だが彼女のあまりにあっさりとした態度が胸に引っかかっている。
「クライヴ、お前はどうしたいのだ? 今更『やっぱり婚約を戻す』なんて言うのか?」
「……それは、僕にもわかりません。正直、今の状況では公爵家も落ち着かず、新しい縁談の話もいくつか来ています。周りは『クライヴは誰と結婚するんだ』とやきもきしている」
「アリス嬢が他の貴族から求婚されている噂も聞くぞ。シャーベット家はもともと血筋も悪くないし、アリス嬢自身が可憐な存在だから、放っておけば他家に取られても不思議ではない」
ギルバートの言葉に、クライヴは胸がざわつく感覚を覚える。もしアリスが別の男と結婚するなら……それはそれでいいのかもしれない。彼女が幸せになるのなら、自分が口を出す権利はない。
しかし、心のどこかでそれを否定したい自分がいる。
「……僕は、アリスにはもっと『公爵家の令嬢』らしく振る舞ってほしかった。けれど、あの子は自分のペースを貫いている。それが少し羨ましいようにも思います」
「自分が正しいと信じた道を歩いているとも言えるな。それに、お前が思うほど彼女は子どもじゃない。多少無防備ではあるようだが」
クライヴは机上の書類を適当に片付けると、立ち上がって窓辺に移動する。外には広大な庭園が広がり、名門公爵家らしい威厳を示している。今のクライヴにとって、その威厳すらも重荷だ。
「兄上、もし僕がアリスに再び婚約を申し込みたいと言ったら……笑いますか?」
「はは、笑うかもしれん。いや、そうだな……少し呆れるかもしれんが、お前の人生だ。どんな決断をしても、俺は反対はしないさ」
ギルバートの気のいい笑顔に、クライヴはほっと息を吐く。自分の感情に正直になるのは難しい。家のため、名門の誇りのため――その思いがクライヴを縛る。だが同時に、彼はアリスの存在を無視できなくなりつつある。
「今度、シャーベット家の父上……グラント様にご挨拶に行く用事がある。もしお前も同行したければ、そう言えよ」
「……ええ、考えておきます」
クライヴは小さく頷く。アリスと再会してどうなるか、彼自身も分からない。だが、彼女のあの眠たげな瞳に潜む“芯の強さ”が気になって仕方ないのだ。
やがてギルバートが書斎を出て行き、クライヴは一人取り残される。ペンを握り直す手は、先ほどよりも軽く感じられた。再び仕事に没頭しようとするが、頭の中にはアリスの柔らかな声がこだまする。
「……俺は本当は何を求めているんだ?」
問いに答えられないまま、クライヴの目は書類に落とされる。その心の揺れは、いずれ大きな行動となって表に現れるのかもしれない。そして、それはアリスの平穏をも揺るがすことになるかもしれない。
「……クライヴ、どうしたのだ? お前らしくもない」
書斎に入ってきたのは、クライヴの兄であるギルバート・リンドン公爵嫡男。クライヴより数歳年上で、次期公爵として政務に励む堂々とした青年だ。
クライヴはペンを止め、わずかに肩を落として答える。
「兄上……いや、ちょっと考え事をしていて。仕事がはかどらないだけです」
「珍しいな。お前がこれほど悩むとは……やはり、アリス嬢のことか?」
ズバリと指摘され、クライヴはぎくりとした。兄はすでに“婚約破棄”の経緯も知っている。クライヴが何を思っているか、ある程度察しているのだろう。
「アリス・シャーベット……眠たげで、やる気がないように見えて、実は芯が強いという話だな」
「ええ……。周囲からは『ロリっ子に見える』などと囁かれ、僕も最初は『公爵家の花嫁としては不向きだ』と思っていました」
「しかし、いざ婚約破棄を告げたら、あっさりと受け入れられ、かえって落ち着かなくなった。そういうことだろう?」
「……そうなんです」
クライヴは眉間に皺を寄せる。彼は確かにアリスとの婚約に不満を抱き、“これでは公爵家の名が汚れる”とまで思い詰めた結果、破棄を宣言した。だが彼女のあまりにあっさりとした態度が胸に引っかかっている。
「クライヴ、お前はどうしたいのだ? 今更『やっぱり婚約を戻す』なんて言うのか?」
「……それは、僕にもわかりません。正直、今の状況では公爵家も落ち着かず、新しい縁談の話もいくつか来ています。周りは『クライヴは誰と結婚するんだ』とやきもきしている」
「アリス嬢が他の貴族から求婚されている噂も聞くぞ。シャーベット家はもともと血筋も悪くないし、アリス嬢自身が可憐な存在だから、放っておけば他家に取られても不思議ではない」
ギルバートの言葉に、クライヴは胸がざわつく感覚を覚える。もしアリスが別の男と結婚するなら……それはそれでいいのかもしれない。彼女が幸せになるのなら、自分が口を出す権利はない。
しかし、心のどこかでそれを否定したい自分がいる。
「……僕は、アリスにはもっと『公爵家の令嬢』らしく振る舞ってほしかった。けれど、あの子は自分のペースを貫いている。それが少し羨ましいようにも思います」
「自分が正しいと信じた道を歩いているとも言えるな。それに、お前が思うほど彼女は子どもじゃない。多少無防備ではあるようだが」
クライヴは机上の書類を適当に片付けると、立ち上がって窓辺に移動する。外には広大な庭園が広がり、名門公爵家らしい威厳を示している。今のクライヴにとって、その威厳すらも重荷だ。
「兄上、もし僕がアリスに再び婚約を申し込みたいと言ったら……笑いますか?」
「はは、笑うかもしれん。いや、そうだな……少し呆れるかもしれんが、お前の人生だ。どんな決断をしても、俺は反対はしないさ」
ギルバートの気のいい笑顔に、クライヴはほっと息を吐く。自分の感情に正直になるのは難しい。家のため、名門の誇りのため――その思いがクライヴを縛る。だが同時に、彼はアリスの存在を無視できなくなりつつある。
「今度、シャーベット家の父上……グラント様にご挨拶に行く用事がある。もしお前も同行したければ、そう言えよ」
「……ええ、考えておきます」
クライヴは小さく頷く。アリスと再会してどうなるか、彼自身も分からない。だが、彼女のあの眠たげな瞳に潜む“芯の強さ”が気になって仕方ないのだ。
やがてギルバートが書斎を出て行き、クライヴは一人取り残される。ペンを握り直す手は、先ほどよりも軽く感じられた。再び仕事に没頭しようとするが、頭の中にはアリスの柔らかな声がこだまする。
「……俺は本当は何を求めているんだ?」
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