【完結】「婚約破棄ですか?分かりました」おしまい?

えるろって

文字の大きさ
15 / 100

夜会の招待状、嵐の予感

しおりを挟む

日の沈みかけた庭園を一通りめぐった後、クライヴは「また改めて連絡する」と言い残して公爵家の馬車で帰っていった。  
アリスとエリックは玄関まで彼を見送り、廊下を並んで歩きながらさっきの会話を思い返している。アリスは少しホッとしたような表情だ。

「クライヴさま、思ったよりちゃんとわたしの話を聞いてくれました。びっくりしました……」

「……そうだな。俺はもっと高圧的に来るかと思ってたけど、意外と弱気というか、慎重になってるように見えた」

エリックは複雑そうに呟く。クライヴがアリスに対して誠実な態度を見せれば見せるほど、エリックの胸中には言い知れない不安と焦りが募っていく。  
だが、それをアリスにぶつけるわけにもいかない。護衛としての立場を全うするためには、アリスが自分で選ぶ道を尊重しなくてはならないからだ。

「エリック、いつも守ってくれてありがとう。……わたしが無防備で、ごめんなさい」

アリスが小さく言うと、エリックははっとした様子で首を横に振る。

「お前が謝ることじゃない。俺はお前がそのままでいてくれるほうが……」

言いかけて、エリックは言葉を呑み込んだ。余計なことを言えば、アリスが戸惑うだけだろう。下手をすれば“好意”と受け取られてしまうかもしれない。しかし、それを打ち明けないままでいいのか――エリックの胸は悶々としている。  
そこへ、侍女長のミレイが慌ただしく駆け寄ってきた。

「お嬢様、また王都で夜会が開かれることになったらしいのです。先ほど招待状が届きました」

「夜会……?」

アリスは思わず眉を上げる。前回の夜会では、婚約破棄後の初顔合わせで散々話題の的になった。今回もまた同じような視線を浴びるのだろうか、と憂鬱になる。  
しかしミレイはさらに続けた。

「今回は王宮主催ではなく、侯爵家のお嬢様がお誕生日を兼ねて企画しているそうで、かなり大規模になるそうです。各家の令嬢や貴公子がこぞって参加するとのこと……」

「……また、目立ちますね」

アリスは小さくため息をつく。せっかくクライヴやエリックとの間で話を進めているところに、余計な社交イベントが入り込む。今度はどんな噂や求婚が持ち上がるかわからない。  
エリックがアリスの肩を軽く叩くようにして励ます。

「大丈夫だ。俺がちゃんとついていく。フローレンスも行くだろうし、あいつも意外と頼りになるから」

「そうですね……。フローレンスがいれば、まだ安心かも」

もっとも、フローレンスはアリスを助けながらも面白がって騒動を煽る節があるから、一概に安心とは言えないが。アリスは胸の内で苦笑する。  
侍女長ミレイは招待状を手渡しながら、内容を簡単に読み上げる。開催日は来週末。会場は侯爵家の別邸で行われるらしく、規模は相当大きい。ドレスコードも豪華な正装が求められるとのこと。  
気になるのは、クライヴが来るかどうか、そしてディーンをはじめとする“求婚希望者”がどのくらい参加するかだ。アリスは既に名前を聞いただけでげんなりしそうになる。

「ふぁ……。行くしかないんでしょうか」

「そうだな。シャーベット家はこれまで公爵家との縁組で一目置かれていたところもあるが、今は婚約破棄の件で周囲にいろいろ言われている。下手に欠席すると『やはり後ろめたいのでは』なんて噂されるかもしれない」

エリックの言葉に、アリスは「うう……」と唸る。社交界というのは、欠席の理由ひとつで変に勘繰られるから厄介だ。  
ミレイも心配そうに声をかける。

「お嬢様、準備は私どもが精一杯いたしますので、どうかお気を確かに。前回とは違って、アリスお嬢様の新しいドレスも用意できるかと」

「ドレス……。着るのは嫌いじゃないんですけど、騒ぎになるのは苦手です」

「ふふ、騒ぎになるのが嫌ならば、もういっそ目立たない色にするのも手かもしれませんね」

ミレイの提案に、アリスは少し考える。「なるほど、地味な色なら注目されにくいかも……」と一瞬思ったが、たとえ地味なドレスを着ても、“婚約破棄されたロリ令嬢”として噂になるだろうことは変わらない。  
エリックはそんなアリスの様子を見て、ふと視線をそらす。

「どんなドレスを選んでも、お前は可愛い。……それがまた周りを惹きつける要因だろうな」

「え……?」

「あ、いや……何でもない。とにかく、行くなら俺も同行するから安心しろよ」

気恥ずかしそうに言うエリック。アリスは思わず顔を赤らめて、「ありがとう……」と小さく返事をした。  
そうやって来週末の夜会が決まり、アリスはまたしても騒動の渦中に巻き込まれることになる。クライヴは参加するのか、ディーンはどう動くのか、ほかの貴族たちは何を言い出すのか――予測できない嵐が近づいているのを感じながらも、アリスはそれを仕方なく受け入れようとする。

「……寝るの、やっぱり嫌いだけど、今夜は早めに休もうかな」

珍しくそんなことを呟くアリス。次に訪れる社交の場に備えて、心の準備だけでもしておくべきだろうか。  
そう思いつつも、ベッドに入ればまた眠ることへの抵抗感が頭をもたげるかもしれない。それでも、エリックとクライヴと……自分の周囲で動くたくさんの人たちのことを考えると、少しだけまぶたが重くなる気がした。

――果たして、どんな夜会になるのか。アリスが眠りを嫌いながらも、ほんの少し心に宿した“ドキドキ”を抱えて迎える運命の舞台。それは、さらなる波乱と意外な展開を引き寄せることになるだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@コミカライズ連載中
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

処理中です...