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数日が経ち、アリスは公の予定がない穏やかな休日を迎えた。ディーン子爵が出入り禁止状態となり、騎士団の監視も厳重らしい。クライヴも特に動きはなく、シャーベット家は久々に落ち着いた空気に包まれている。
「ふぁ……休日って、ほんとに暇ですね。寝るの嫌いだから、昼寝もしたくないし……」
アリスはリビングのソファでまどろみながら、クライヴにもらったジャムを思い出す。結局、パンに塗って食べたり、クッキーに添えたりして楽しんでいるが、まだ半分以上残っている。
すると侍女がやってきて、「お嬢様、せっかくならエリック様も交えてティータイムをされてはいかがでしょうか?」と提案してくる。アリスは「え、でも……」と少し躊躇するが、侍女が「せっかくの甘さ控えめジャムですし、クッキーに合わせてみんなで召し上がるのも楽しいかと」と背中を押す。
「……そうですね。エリックも今は屋敷にいるんでしょうか。ちょっと聞いてみます」
アリスは侍女とともに屋敷を探し回り、案の定エリックを見つける。書斎の近くで警備中らしい。昨日の会話で気まずくなったまま放置するのも嫌だし、ここは勇気を出して誘ってみようと思い至る。
「エリック、今、お時間ありますか?」
「……ん、ああ」
エリックは戸惑いつつも、アリスの顔を見て「どうした」と問う。アリスは笑顔を作って言う。
「わたし、クライヴさまからもらったジャムがまだ残ってて……エリックと一緒にティータイムできたら嬉しいです。寝るの嫌いだけど、こういう休日にはちょっと息抜きしてもいいかなって」
「ティータイム……。いや、護衛がそんな……」
「いいじゃないですか、護衛だってお茶は飲むでしょ? それにわたし、エリックに食べてもらいたいクッキーもあるんです。ちゃんと朝に焼き直しましたから」
アリスは目を輝かせる。昨日とは打って変わって積極的に誘っているのは、少しでもエリックとのぎこちない空気を解きほぐしたいからだ。
エリックは少し考えてから、根負けしたように溜息をつき、「……わかった。短時間なら」と頷く。アリスは「やった!」と手を叩いて侍女と目を合わせ、リビングの準備を指示する。
---
そして数分後、リビングのテーブルにはサンドイッチやクッキー、クライヴが送ってくれたジャムや紅茶が並んでいる。アリスとエリック、そして侍女が一人加わって三人でティータイムを楽しむ形だ。
「……ふぁ。わたし、こうやってエリックとゆっくり話すのって久しぶりかも。夜はいつもクッキー作りしてたけど、落ち着いて食べる機会ってなかなかなくて」
アリスはクッキーにジャムを塗り、一口かじって満足そうな顔をする。エリックも「いただきます」とクッキーをかじるが、無表情を崩さない。
「うん、美味い。お前、上達したな」
「ほんとですか? やった……寝るの嫌いだけど、クッキー作りは続けていきたいんですよね」
微笑むアリスに、エリックはどこか戸惑いの色を見せるが、「本当にうまい」と再度言葉を添える。侍女も「お嬢様のクッキー、最近の評判ですわ」と嬉しそうだ。
しばらく無言でティータイムが続く。アリスは何度かエリックに視線を送ってみるが、彼はあまり積極的に話さない。そこでアリスは思い切って切り出す。
「エリック……昨日はごめんなさい。わたしのせいで、変なことになって……」
「変なことって……」
「えっと、わたしがクライヴさまのことを嬉しそうに話してるのが嫌だったのかな、って。幼馴染としては、わたしが他の人と……ああ、言いにくいです」
アリスは顔を赤らめつつ、「自分で言いにくいならやめとけばいいのに」とも思うが、黙っていてもモヤモヤするだけだと決断したのだ。
「嫌とかじゃない。俺は……護衛だし。お前が幸せになるなら、クライヴだろうと誰だろうと構わない。俺がどんな気持ちを抱いても……どうにもならないだろう?」
淡々と語るエリック。そこには諦めや哀愁が混ざった空気が漂う。アリスは胸が苦しくなるが、エリックの言葉を否定できない自分がいる。
結局、アリスは「わたしはエリックのことも大事なんです、今までありがとう」としか言えない。エリックも「護衛だから、これが当然」と返すだけ。侍女がオロオロしている横で、二人は微妙に通じ合わない空気を作ってしまう。
「はあ……寝るの嫌いなわたしが、エリックに気を遣わせちゃってますね。ごめんなさい」
「いや……謝るのはおかしい。お前は何も間違ってない」
それだけ言って、エリックはクッキーに軽くジャムをつけて頬張る。甘さ控えめの果実味が口に広がるが、心は甘くもなんともない。
アリスは「わたし、どうすればいいんだろう」と胸中で呟く。クライヴへの感謝と好意、エリックへの愛着と責任感――いずれも自分にとって大事なのに、両立する方法が見えない。寝るのが嫌いな問題以上に、この三角関係が頭を悩ませる。
そんな中、侍女が「あ、お嬢様。ご客人が来られました」と報せに来る。なんとフローレンスがまたやってきたらしい。「今日も何やら楽しそうな気配を感じて」と笑うだろうか。
アリスはエリックと顔を見合わせ、「じゃあティータイムはここまでね」と席を立つ。何とも言えないぎこちない終わり方だが、少なくともエリックは「美味しかった」と言ってくれたのが救いかもしれない。
(夜はいつも一緒にクッキー作りしてきたのに、どうしてこんなに遠いんだろう――)
もやもやを抱えたまま、アリスはフローレンスを出迎えるため客間へ向かう。寝るのが嫌いなことは少しずつ克服しているが、その代わり、恋の迷路にどんどん迷い込んでいるようだった。
「ふぁ……休日って、ほんとに暇ですね。寝るの嫌いだから、昼寝もしたくないし……」
アリスはリビングのソファでまどろみながら、クライヴにもらったジャムを思い出す。結局、パンに塗って食べたり、クッキーに添えたりして楽しんでいるが、まだ半分以上残っている。
すると侍女がやってきて、「お嬢様、せっかくならエリック様も交えてティータイムをされてはいかがでしょうか?」と提案してくる。アリスは「え、でも……」と少し躊躇するが、侍女が「せっかくの甘さ控えめジャムですし、クッキーに合わせてみんなで召し上がるのも楽しいかと」と背中を押す。
「……そうですね。エリックも今は屋敷にいるんでしょうか。ちょっと聞いてみます」
アリスは侍女とともに屋敷を探し回り、案の定エリックを見つける。書斎の近くで警備中らしい。昨日の会話で気まずくなったまま放置するのも嫌だし、ここは勇気を出して誘ってみようと思い至る。
「エリック、今、お時間ありますか?」
「……ん、ああ」
エリックは戸惑いつつも、アリスの顔を見て「どうした」と問う。アリスは笑顔を作って言う。
「わたし、クライヴさまからもらったジャムがまだ残ってて……エリックと一緒にティータイムできたら嬉しいです。寝るの嫌いだけど、こういう休日にはちょっと息抜きしてもいいかなって」
「ティータイム……。いや、護衛がそんな……」
「いいじゃないですか、護衛だってお茶は飲むでしょ? それにわたし、エリックに食べてもらいたいクッキーもあるんです。ちゃんと朝に焼き直しましたから」
アリスは目を輝かせる。昨日とは打って変わって積極的に誘っているのは、少しでもエリックとのぎこちない空気を解きほぐしたいからだ。
エリックは少し考えてから、根負けしたように溜息をつき、「……わかった。短時間なら」と頷く。アリスは「やった!」と手を叩いて侍女と目を合わせ、リビングの準備を指示する。
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そして数分後、リビングのテーブルにはサンドイッチやクッキー、クライヴが送ってくれたジャムや紅茶が並んでいる。アリスとエリック、そして侍女が一人加わって三人でティータイムを楽しむ形だ。
「……ふぁ。わたし、こうやってエリックとゆっくり話すのって久しぶりかも。夜はいつもクッキー作りしてたけど、落ち着いて食べる機会ってなかなかなくて」
アリスはクッキーにジャムを塗り、一口かじって満足そうな顔をする。エリックも「いただきます」とクッキーをかじるが、無表情を崩さない。
「うん、美味い。お前、上達したな」
「ほんとですか? やった……寝るの嫌いだけど、クッキー作りは続けていきたいんですよね」
微笑むアリスに、エリックはどこか戸惑いの色を見せるが、「本当にうまい」と再度言葉を添える。侍女も「お嬢様のクッキー、最近の評判ですわ」と嬉しそうだ。
しばらく無言でティータイムが続く。アリスは何度かエリックに視線を送ってみるが、彼はあまり積極的に話さない。そこでアリスは思い切って切り出す。
「エリック……昨日はごめんなさい。わたしのせいで、変なことになって……」
「変なことって……」
「えっと、わたしがクライヴさまのことを嬉しそうに話してるのが嫌だったのかな、って。幼馴染としては、わたしが他の人と……ああ、言いにくいです」
アリスは顔を赤らめつつ、「自分で言いにくいならやめとけばいいのに」とも思うが、黙っていてもモヤモヤするだけだと決断したのだ。
「嫌とかじゃない。俺は……護衛だし。お前が幸せになるなら、クライヴだろうと誰だろうと構わない。俺がどんな気持ちを抱いても……どうにもならないだろう?」
淡々と語るエリック。そこには諦めや哀愁が混ざった空気が漂う。アリスは胸が苦しくなるが、エリックの言葉を否定できない自分がいる。
結局、アリスは「わたしはエリックのことも大事なんです、今までありがとう」としか言えない。エリックも「護衛だから、これが当然」と返すだけ。侍女がオロオロしている横で、二人は微妙に通じ合わない空気を作ってしまう。
「はあ……寝るの嫌いなわたしが、エリックに気を遣わせちゃってますね。ごめんなさい」
「いや……謝るのはおかしい。お前は何も間違ってない」
それだけ言って、エリックはクッキーに軽くジャムをつけて頬張る。甘さ控えめの果実味が口に広がるが、心は甘くもなんともない。
アリスは「わたし、どうすればいいんだろう」と胸中で呟く。クライヴへの感謝と好意、エリックへの愛着と責任感――いずれも自分にとって大事なのに、両立する方法が見えない。寝るのが嫌いな問題以上に、この三角関係が頭を悩ませる。
そんな中、侍女が「あ、お嬢様。ご客人が来られました」と報せに来る。なんとフローレンスがまたやってきたらしい。「今日も何やら楽しそうな気配を感じて」と笑うだろうか。
アリスはエリックと顔を見合わせ、「じゃあティータイムはここまでね」と席を立つ。何とも言えないぎこちない終わり方だが、少なくともエリックは「美味しかった」と言ってくれたのが救いかもしれない。
(夜はいつも一緒にクッキー作りしてきたのに、どうしてこんなに遠いんだろう――)
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