【完結】「婚約破棄ですか?分かりました」おしまい?

えるろって

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王宮の「昼から夜にかけてのバラの催し」がいよいよ一週間後に迫った。シャーベット家でもアリスの参加が公に決まり、フローレンスからの正式な招待状と共に、当日のスケジュールが取り寄せられている。

「ふぁ……昼間はバラを見て回るガーデンツアー、そのあと軽い昼食、夕方からはバラをテーマにしたダンス。夜まで残りたい人は残ってバータイムとパーティーを楽しむ……すごいスケジュール」

アリスは書斎でその案内書に目を通しながらため息をつく。寝るのが嫌いとはいえ、昼から夜までフルに動くのは体力的にしんどい気もするが、それを言っていられないほど自分には大事なイベントだ。  
フローレンスは昼から夜までフル参加する気満々だし、クライヴも「できるだけ長く滞在したい」と手紙を通して言っている。エリックは警護かもしれず、スケジュールは流動的だが、夜に残れればアリスと話す時間が作れるかもしれない。

「わたし、昼のテンションで乗り切れるかな。夜は眠くなるわけじゃないんだけど、夕方くらいが一番しんどかったりもするんですよね」

自分の体調を思い返し、アリスは少し悩む。寝るのが嫌いだからと言って体力が無限にあるわけではない。むしろ夕方に眠気が来たり、逆に夜になるとハイになってしまう日もあり、リズムが崩れることも多い。

(でも、エリックが参加できるのは夜の可能性が高いし、クライヴさまも夜までいてくれる。フローレンスは一日通して盛り上がる……わたし、みんなに振り回されないようしっかりしなきゃ)

そう自分に言い聞かせているところへ、ノックの音がする。侍女が「フローレンス様がお越しです」と例のごとく告げに来た。アリスは「また来た……」と苦笑しつつ、客間へ向かう。

---

客間のドアを開けると、フローレンスはテーブルに大量の布見本を並べている。どうやらドレスの素材を吟味しているらしい。目を輝かせてアリスを招き、「さあ、手伝って!」と声をかける。

「うわあ、フローレンス、また派手な準備してますね。昼と夜に合わせるって難しいんですよね」

「そうよ。昼は明るい太陽の下で映える色、夜はキャンドルや月光で映える色――両方を満たすドレスって容易じゃないの」

フローレンスが真剣に生地を広げながら、アリスに選ばせようとする。「あなたはロリっ子可愛い系が似合うから、淡い色にラメを混ぜるとか、レースを夜光仕様にしてみるとか?」

「夜光仕様……さすがにわたしには派手すぎませんか? 寝るの嫌いとはいえ、そこまで目立ちたくないです」

アリスは苦笑しながら、フローレンスの猛烈な提案の嵐をしのぐ。結局、昼も夜もそこそこ映える薄いブルーやピンクの生地に、金糸でアクセントをつけるプランを模索することに落ち着きそうだ。

「フローレンス、あなたこそどんなドレスにするんです? わたしより目立つやつですよね?」

「当たり前じゃない。ローベル家のあざときらびやかスタイルで攻めるつもり。……まあ、そんなに気負わなくても、あんたは自然に可愛いから大丈夫よ」

アリスは「ロリっ子扱いしないで……」と呟きながらも、淡いブルーの生地を手に取り、「これ、夜の光にも映えそう」と微笑む。

「よし、わたし、これにします。昼も夜も闘える……寝るの嫌いな時間帯を経て、最終的に夜を迎える形ですね」

「いいんじゃない? エリックもクライヴさまも、あんたの魅力にやられそうね」

アリスは胸が苦しくなる。「二人とも好き」と言える勇気があれば楽だが、それは無理だ。王宮の舞台でエリックとちゃんと話せるか、クライヴが再婚約をどう切り出すか――想像すると心が乱れる。

「……フローレンス、わたし、エリックと話す機会を作りたいの。クライヴさまも気になるけど、エリックにちゃんと気持ちを伝えておかないと、後悔しそうで……」

「うん、分かってる。私もそのつもり。協力するわよ。昼から夜にかけて、エリックが警護ならどこかで休憩とかあるでしょ? そのタイミングを狙うの」

「うん……フローレンスがサポートしてくれるなら助かる。寝るの嫌いな夜会ではエリックが護衛だったけど、今回は彼自身が王宮側の人になるかもしれなくて、うまく接触できないかもしれないし」

フローレンスは「大丈夫大丈夫」とあざとい笑みを浮かべる。彼女なりに策をめぐらせているらしく、「昼と夜の間、夕方あたりに一人でバラ園を散策するフリをしてエリックを呼び出すとか?」と提案する。

「夕方……か。たしかに、昼が終わって夜が始まる時間帯なら、わたしの身体リズム的にも会話を集中しやすいかも」

アリスは膝を打つ。寝るのが嫌いながら、昼に消耗して夜に元気が出るまでの狭間の時間――夕方こそ何かを成し遂げるのに適したタイミングかもしれない。エリックも休憩か交代がありそうだし、クライヴも別の貴族と挨拶してる間なら、それほど邪魔されないかも。

「じゃあ、そうします。夕方頃にエリックを呼び出せるよう、何か方法を考えます。フローレンス、力貸してください」

「任せといて。なんなら私がエリックを誘導してあげるわ。……ところでクライヴさまのほうはどうする? 夜まで残るでしょうし、あんたの返事を待ってる感じよ?」

アリスは俯き、「それはイベントの後でちゃんと話そうと思う。昼~夜のバラ祭が終わって、落ち着いたタイミングでわたしの答えを伝えられるようにしたい」と弱々しく微笑む。

「そっか。じゃあエリックとの話の結果次第でクライヴへの返事も変わるのね?」

「そう……気持ちを決めるための、一日になりそう。寝るの嫌いとか言ってられないくらい忙しいかも」

フローレンスは「ファイトよ、ロリ令嬢」と肩を叩く。アリスも「うん……がんばる」と小さくガッツポーズする。  
こうして、“昼~夜のバラの催し”がアリスにとって重大な決断の舞台となることが確定した。エリックに想いを伝え、クライヴに返事をする――二大ミッションを同じ日にこなすのは気が重いが、それを乗り越えなければ先へ進めない。寝るのが嫌いという個性が、この恋にどんな結末をもたらすか――運命の日はすぐそこまで迫っていた。
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