73 / 100
73
しおりを挟む
夜も更けてきた頃、王宮のバラ園ではいよいよフィナーレを飾る花火の準備が行われていた。夜空に豪華な花火を打ち上げて、バラの催しを締めくくるという趣向だ。
アリスはフローレンスとともに夜風を感じながら屋外を歩く。昼間から夜まで一日かけて参加した疲れは大きいが、逆に「最終的な答えを出すまで気を抜けない」という意識が支えている。
「ふぁ……もうすぐ花火が打ち上がるんですよね。それまでにクライヴさまとも少しお話をしておこうかな」
「そうね。エリックには“花火が上がる前にもう一度呼んでくれ”って言ってたんでしょ? だったらクライヴさまに、先に感情の確認をするのもアリかも」
フローレンスが地図をちらりと出し、「花火の観覧スポット」がどこかを確認する。そこはバラ園の中央広場で、大勢の人が集まる予定らしい。アリスは「人が多いと話しづらい」とため息をつくが、フローレンスは「なら少し離れた場所で落ち合えばいい」と提案する。
「クライヴさまが探しているでしょうし、あんたから声をかけて、ちょっとだけ人目の少ないところで話すのよ。花火が始まる前の数分だけでも。で、最後の返事は花火のあとにするの」
「……そうですね。よし、わたし、クライヴさまを探してみます」
アリスは意を決してバラ園中央へと進む。ライトアップの具合が変化し、花火に備えて照明を少し落としているようだ。人々のざわめきが耳に入り、遠くで音楽の調べが響いている。
「クライヴさま、どこかに……」と視線を走らせると、少し先のアーチの下に青い衣装の青年が立っているのが分かった。間違いなくクライヴだ。アリスは胸を押さえながら近づき、「クライヴさま……!」と声をかける。
「アリス……探してたよ。大丈夫か? 一日長かっただろう」
「ええ、なんとか……夜になってからのほうがわたしは元気ですけど。でも、そろそろ疲れました」
クライヴは微笑み、「なら休もうか? 花火が上がるまで少し時間がある」と言って手を差し伸べる。アリスはその手を取るか迷うが、最終的にそっと添え、二人でアーチのそばにあるベンチへ移動する。
夜風が心地よいとはいえ、睡魔と疲労が襲ってきそうになる。寝るのが嫌いなアリスでも、これほど活動すれば限界はあるのだ。それを見てクライヴは「少し寄りかかってもいい」と促す。
「ありがとう……でも、花火が始まる前に、少しだけ、あなたと話したくて」
クライヴはアリスの表情を覗き込み、「どんな話?」と優しい声で尋ねる。アリスは俯き、「このままだとわたし、あなたに甘えすぎてしまいそうだ」と言う。
「甘えすぎ……?」
「はい、クライヴさまが優しくて、わたしの夜やわたしのわがままを全部受け止めようとしてくれる。でも、それって本当にいいのかなって思うんです。わたしが寝るの嫌いって理由だけで、あなたに迷惑をかけちゃってるし……」
クライヴは首を振る。「迷惑なんて思ってない。むしろ、君の夜に付き合うことで新しい世界を知ったんだ。……公爵家の次男としては規格外の行動かもしれないけど、それが楽しいとも感じる」
「わたし……そう言ってもらえるのは嬉しいけど、いつか結婚したら普通の夜を送るかもしれませんよ? 子どもができたら尚更……。寝るの嫌いとは言ってられないはずで」
独白のように告げるアリスに、クライヴは静かに頷き、「そうなったら、俺が隣で支えるさ。寝るの嫌いから寝るの平気になっても、俺は君を愛せる」と断言する。アリスは胸が苦しくなるほどの安心感を覚えるが、同時にエリックの悲しげな顔が思い出される。
「わたし、花火が終わる頃にはちゃんと答えを出すつもりです。クライヴさまを選ぶかどうか、あまり引き延ばしたらあなたにも失礼だし……」
「ありがとう。待つよ、アリス。君から“はい”って言われるのを期待してる」
クライヴは薄く微笑み、アリスは視線を落とす。まるで求婚直前の空気が流れていて、身体が熱くなる。夜の静寂とともに彼の気持ちが一層強く感じられ、アリスの中でエリックへの想いと拮抗しているのがわかる。
このタイミングで花火の合図を知らせる太鼓の音が響いた。クライヴが「始まるな」と立ち上がり、アリスの手を取ろうとする。
「良かったら一緒に花火を見ないか? みんなの集まる大広場は混むけど、少し離れた場所でも綺麗に見えるかもしれない」
「ふぁ……ありがとうございます。でも、わたし……この花火のあとにエリックと話す約束をしてるんです。だから、あまり遠くには行けないんです」
少し申し訳なさそうに言うと、クライヴは一瞬苦い笑みを浮かべたが、すぐに肯定する。「分かった。じゃあ俺は大広場のほうへ行こうか。後でまた……返事を聞かせてほしい」
「はい……」
二人はベンチから立ち上がり、夜風を受けて別れる形となる。クライヴが広場へ向かい、アリスはフローレンスのもとへ走る。寝るのが嫌いな彼女も、今夜だけはどこまででも動けそうだ。
――この花火が終わったとき、アリスはエリックかクライヴのどちらかを選ぶのか。それとも別の答えを出すのか。夜が最高潮に達し、決断のときが迫る。アリスは息を乱しながら、自分の運命を左右するラストシーンへ駆けていくのであった。
アリスはフローレンスとともに夜風を感じながら屋外を歩く。昼間から夜まで一日かけて参加した疲れは大きいが、逆に「最終的な答えを出すまで気を抜けない」という意識が支えている。
「ふぁ……もうすぐ花火が打ち上がるんですよね。それまでにクライヴさまとも少しお話をしておこうかな」
「そうね。エリックには“花火が上がる前にもう一度呼んでくれ”って言ってたんでしょ? だったらクライヴさまに、先に感情の確認をするのもアリかも」
フローレンスが地図をちらりと出し、「花火の観覧スポット」がどこかを確認する。そこはバラ園の中央広場で、大勢の人が集まる予定らしい。アリスは「人が多いと話しづらい」とため息をつくが、フローレンスは「なら少し離れた場所で落ち合えばいい」と提案する。
「クライヴさまが探しているでしょうし、あんたから声をかけて、ちょっとだけ人目の少ないところで話すのよ。花火が始まる前の数分だけでも。で、最後の返事は花火のあとにするの」
「……そうですね。よし、わたし、クライヴさまを探してみます」
アリスは意を決してバラ園中央へと進む。ライトアップの具合が変化し、花火に備えて照明を少し落としているようだ。人々のざわめきが耳に入り、遠くで音楽の調べが響いている。
「クライヴさま、どこかに……」と視線を走らせると、少し先のアーチの下に青い衣装の青年が立っているのが分かった。間違いなくクライヴだ。アリスは胸を押さえながら近づき、「クライヴさま……!」と声をかける。
「アリス……探してたよ。大丈夫か? 一日長かっただろう」
「ええ、なんとか……夜になってからのほうがわたしは元気ですけど。でも、そろそろ疲れました」
クライヴは微笑み、「なら休もうか? 花火が上がるまで少し時間がある」と言って手を差し伸べる。アリスはその手を取るか迷うが、最終的にそっと添え、二人でアーチのそばにあるベンチへ移動する。
夜風が心地よいとはいえ、睡魔と疲労が襲ってきそうになる。寝るのが嫌いなアリスでも、これほど活動すれば限界はあるのだ。それを見てクライヴは「少し寄りかかってもいい」と促す。
「ありがとう……でも、花火が始まる前に、少しだけ、あなたと話したくて」
クライヴはアリスの表情を覗き込み、「どんな話?」と優しい声で尋ねる。アリスは俯き、「このままだとわたし、あなたに甘えすぎてしまいそうだ」と言う。
「甘えすぎ……?」
「はい、クライヴさまが優しくて、わたしの夜やわたしのわがままを全部受け止めようとしてくれる。でも、それって本当にいいのかなって思うんです。わたしが寝るの嫌いって理由だけで、あなたに迷惑をかけちゃってるし……」
クライヴは首を振る。「迷惑なんて思ってない。むしろ、君の夜に付き合うことで新しい世界を知ったんだ。……公爵家の次男としては規格外の行動かもしれないけど、それが楽しいとも感じる」
「わたし……そう言ってもらえるのは嬉しいけど、いつか結婚したら普通の夜を送るかもしれませんよ? 子どもができたら尚更……。寝るの嫌いとは言ってられないはずで」
独白のように告げるアリスに、クライヴは静かに頷き、「そうなったら、俺が隣で支えるさ。寝るの嫌いから寝るの平気になっても、俺は君を愛せる」と断言する。アリスは胸が苦しくなるほどの安心感を覚えるが、同時にエリックの悲しげな顔が思い出される。
「わたし、花火が終わる頃にはちゃんと答えを出すつもりです。クライヴさまを選ぶかどうか、あまり引き延ばしたらあなたにも失礼だし……」
「ありがとう。待つよ、アリス。君から“はい”って言われるのを期待してる」
クライヴは薄く微笑み、アリスは視線を落とす。まるで求婚直前の空気が流れていて、身体が熱くなる。夜の静寂とともに彼の気持ちが一層強く感じられ、アリスの中でエリックへの想いと拮抗しているのがわかる。
このタイミングで花火の合図を知らせる太鼓の音が響いた。クライヴが「始まるな」と立ち上がり、アリスの手を取ろうとする。
「良かったら一緒に花火を見ないか? みんなの集まる大広場は混むけど、少し離れた場所でも綺麗に見えるかもしれない」
「ふぁ……ありがとうございます。でも、わたし……この花火のあとにエリックと話す約束をしてるんです。だから、あまり遠くには行けないんです」
少し申し訳なさそうに言うと、クライヴは一瞬苦い笑みを浮かべたが、すぐに肯定する。「分かった。じゃあ俺は大広場のほうへ行こうか。後でまた……返事を聞かせてほしい」
「はい……」
二人はベンチから立ち上がり、夜風を受けて別れる形となる。クライヴが広場へ向かい、アリスはフローレンスのもとへ走る。寝るのが嫌いな彼女も、今夜だけはどこまででも動けそうだ。
――この花火が終わったとき、アリスはエリックかクライヴのどちらかを選ぶのか。それとも別の答えを出すのか。夜が最高潮に達し、決断のときが迫る。アリスは息を乱しながら、自分の運命を左右するラストシーンへ駆けていくのであった。
0
あなたにおすすめの小説
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です
結城芙由奈@コミカライズ連載中
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】
私には婚約中の王子がいた。
ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。
そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。
次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。
目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。
名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。
※他サイトでも投稿中
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる