【完結】「婚約破棄ですか?分かりました」おしまい?

えるろって

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夜も更けてきた頃、王宮のバラ園ではいよいよフィナーレを飾る花火の準備が行われていた。夜空に豪華な花火を打ち上げて、バラの催しを締めくくるという趣向だ。  
アリスはフローレンスとともに夜風を感じながら屋外を歩く。昼間から夜まで一日かけて参加した疲れは大きいが、逆に「最終的な答えを出すまで気を抜けない」という意識が支えている。

「ふぁ……もうすぐ花火が打ち上がるんですよね。それまでにクライヴさまとも少しお話をしておこうかな」

「そうね。エリックには“花火が上がる前にもう一度呼んでくれ”って言ってたんでしょ? だったらクライヴさまに、先に感情の確認をするのもアリかも」

フローレンスが地図をちらりと出し、「花火の観覧スポット」がどこかを確認する。そこはバラ園の中央広場で、大勢の人が集まる予定らしい。アリスは「人が多いと話しづらい」とため息をつくが、フローレンスは「なら少し離れた場所で落ち合えばいい」と提案する。

「クライヴさまが探しているでしょうし、あんたから声をかけて、ちょっとだけ人目の少ないところで話すのよ。花火が始まる前の数分だけでも。で、最後の返事は花火のあとにするの」

「……そうですね。よし、わたし、クライヴさまを探してみます」

アリスは意を決してバラ園中央へと進む。ライトアップの具合が変化し、花火に備えて照明を少し落としているようだ。人々のざわめきが耳に入り、遠くで音楽の調べが響いている。  
「クライヴさま、どこかに……」と視線を走らせると、少し先のアーチの下に青い衣装の青年が立っているのが分かった。間違いなくクライヴだ。アリスは胸を押さえながら近づき、「クライヴさま……!」と声をかける。

「アリス……探してたよ。大丈夫か? 一日長かっただろう」

「ええ、なんとか……夜になってからのほうがわたしは元気ですけど。でも、そろそろ疲れました」

クライヴは微笑み、「なら休もうか? 花火が上がるまで少し時間がある」と言って手を差し伸べる。アリスはその手を取るか迷うが、最終的にそっと添え、二人でアーチのそばにあるベンチへ移動する。  
夜風が心地よいとはいえ、睡魔と疲労が襲ってきそうになる。寝るのが嫌いなアリスでも、これほど活動すれば限界はあるのだ。それを見てクライヴは「少し寄りかかってもいい」と促す。

「ありがとう……でも、花火が始まる前に、少しだけ、あなたと話したくて」

クライヴはアリスの表情を覗き込み、「どんな話?」と優しい声で尋ねる。アリスは俯き、「このままだとわたし、あなたに甘えすぎてしまいそうだ」と言う。

「甘えすぎ……?」

「はい、クライヴさまが優しくて、わたしの夜やわたしのわがままを全部受け止めようとしてくれる。でも、それって本当にいいのかなって思うんです。わたしが寝るの嫌いって理由だけで、あなたに迷惑をかけちゃってるし……」

クライヴは首を振る。「迷惑なんて思ってない。むしろ、君の夜に付き合うことで新しい世界を知ったんだ。……公爵家の次男としては規格外の行動かもしれないけど、それが楽しいとも感じる」

「わたし……そう言ってもらえるのは嬉しいけど、いつか結婚したら普通の夜を送るかもしれませんよ? 子どもができたら尚更……。寝るの嫌いとは言ってられないはずで」

独白のように告げるアリスに、クライヴは静かに頷き、「そうなったら、俺が隣で支えるさ。寝るの嫌いから寝るの平気になっても、俺は君を愛せる」と断言する。アリスは胸が苦しくなるほどの安心感を覚えるが、同時にエリックの悲しげな顔が思い出される。

「わたし、花火が終わる頃にはちゃんと答えを出すつもりです。クライヴさまを選ぶかどうか、あまり引き延ばしたらあなたにも失礼だし……」

「ありがとう。待つよ、アリス。君から“はい”って言われるのを期待してる」

クライヴは薄く微笑み、アリスは視線を落とす。まるで求婚直前の空気が流れていて、身体が熱くなる。夜の静寂とともに彼の気持ちが一層強く感じられ、アリスの中でエリックへの想いと拮抗しているのがわかる。  
このタイミングで花火の合図を知らせる太鼓の音が響いた。クライヴが「始まるな」と立ち上がり、アリスの手を取ろうとする。

「良かったら一緒に花火を見ないか? みんなの集まる大広場は混むけど、少し離れた場所でも綺麗に見えるかもしれない」

「ふぁ……ありがとうございます。でも、わたし……この花火のあとにエリックと話す約束をしてるんです。だから、あまり遠くには行けないんです」

少し申し訳なさそうに言うと、クライヴは一瞬苦い笑みを浮かべたが、すぐに肯定する。「分かった。じゃあ俺は大広場のほうへ行こうか。後でまた……返事を聞かせてほしい」

「はい……」

二人はベンチから立ち上がり、夜風を受けて別れる形となる。クライヴが広場へ向かい、アリスはフローレンスのもとへ走る。寝るのが嫌いな彼女も、今夜だけはどこまででも動けそうだ。  
――この花火が終わったとき、アリスはエリックかクライヴのどちらかを選ぶのか。それとも別の答えを出すのか。夜が最高潮に達し、決断のときが迫る。アリスは息を乱しながら、自分の運命を左右するラストシーンへ駆けていくのであった。
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