【完結】「婚約破棄ですか?分かりました」おしまい?

えるろって

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花火の開始まで数分。王宮の大広間は人が流れ始め、外の広場やバラ園へ向かう人が増えている。フローレンスが合流し、アリスに「さて、どこで花火を見る?」と尋ねるが、アリスは「わたし、エリックと話すんです」とだけ告げる。

「ふぁ……彼がどこにいるか探さないと。警護の場所によっては会いづらいかもしれないし」

「大丈夫、騎士たちは花火開始時には外に配置されることが多いから、あっちの渡り廊下方面を見に行ってみましょう」

フローレンスが先導し、アリスは廊下を駆ける。ライトアップされた屋外が見える窓辺を通り抜けると、途中でエリックらしき背中が見えた。警護仲間と会話しているようだが、運よく人通りが少ない。  
アリスはフローレンスに「ありがとう」と小声で言い、そっと近づく。「エリック……!」と呼ぶと、彼は意外そうに振り返る。騎士仲間たちは「じゃあこっちは俺が担当する」と気を利かせて散らばり、エリックはアリスと二人きりになる。

「アリス……花火が始まるぞ。ここにいたら危ないかもしれない」

「危ないって……場所を移動したほうがいいですか? でも、わたし、どうしてもあなたに答えを伝えたくて」

アリスの口調が切迫していて、エリックも黙らざるを得ない。二人は渡り廊下の角へ移動し、窓の外で花火が打ち上がり始める音が響く。ドン……という低い振動とともに、夜空に光の軌跡が走るのが見える。

「ふぁ……始まっちゃいましたね。エリック、あなたはここで警護なんですよね?」

「そうだな。だが少しなら話を聞ける。……お前の答えって?」

アリスは瞳を閉じ、深呼吸をしてからエリックの目を見据える。

「わたし、クライヴさまの優しさと誠実さに惹かれていて、再婚約を本気で考えてくれているのが嬉しかった。夜も受け入れてくれるし、家のためにもなる。でも……」

「……でも?」

「わたしはエリックが好きです。寝るのが嫌いなわたしの夜をずっと支えてくれたあなたが好き。……それが“恋”かどうか分からなかったけど、今日一日、昼から夜まであなたを探して、結局あなたがいないと夜は完成しないと感じました」

エリックの表情が動揺で揺れる。外から花火の炸裂音が次々に聞こえ、明るい閃光が窓を彩っている。

「アリス……それって、クライヴを捨てるってことか?」

「捨てるわけじゃないけど、わたしはやっぱりあなたを選びたい。クライヴさまを裏切ることになるかもしれない。でも、夜更かししてるわたしはあなたがいないと完成しない気がして……」

言葉が途切れ、アリスはこらえきれず泣きそうになる。エリックは唇を震わせて踏み出し、ついにアリスの両肩を抱き寄せる。音が少し遠のいたかのように二人だけの世界ができあがる。

「……本当にいいのか? 公爵家との縁を捨てて、俺と一緒になる道は険しいぞ。政略結婚話が来るかもしれないし、親父さんも賛成するか分からない」

「父様は、わたしの幸せを一番に考えてるって言ってくれた。あなたが本気でわたしを守ってくれるなら、家も認めてくれるかもしれない。わたしの“寝るのが嫌い”も一緒に乗り越えられるのは……あなたしかいないと思うの」

エリックは震える息を吐き、アリスの頭をそっと抱きしめる。ドン……という花火の振動が窓越しに響き、夜空が色とりどりに染まっているのが見えるが、二人の視界にはもうお互いしか入っていない。

「アリス、俺も……あんたが好きだ。ずっと護衛として言えなかったけど、本当はあんたと未来を作りたい。結婚だなんて柄じゃないと思ってたけど、あんたが望むなら俺は頑張る」

「エリック……っ」

アリスの涙がぽろりと落ち、エリックの肩を掴む指に力がこもる。遂に二人が想いを確認した瞬間だ。寝るのが嫌いな夜に紡いだ絆が、ここで一つの形を得た。

「じゃあ……わたし、クライヴさまに断りを入れないといけませんよね。再婚約はできないって……どうしよう、あの方を傷つけるのは嫌だけど」

「仕方ない……それが恋だろう。苦しいけど、クライヴは分かってくれると思う。あいつはあんたを尊重してたし、無理やり奪おうとはしないはずだ」

エリックの言葉に、アリスは深く頷き、目元を拭う。ドン……バラバラ……花火の轟音と閃光がラストスパートを迎えているのを感じる。今が最高潮、まさに“夜の終わり”に近い。

「わたし、花火が終わったらクライヴさまを探して話します。あなたが待っててくれるなら、終わってからまた会いましょう」

「分かった。……俺は仕事だから、すぐには動けないかもしれないが、どこかで落ち合おう。フローレンスを使って連絡をしてくれ」

「はい……ありがとう、エリック。わたし、あなたがいない夜なんて考えられない」

エリックは微笑み、小さくアリスの額に触れそうになるが、ここは王宮の廊下だ。騎士としての立場があるため、そのままそっと手を離すだけに留める。  
二人は最後に見つめ合い、強く頷き合う。これが寝るのが嫌いな少女と騎士の本音の確認――夜の運命が交差し、答えが出た瞬間だ。あとはクライヴに伝える作業だけが残っている。アリスは花火のフィナーレを感じながら胸を締め付けられつつ、足早に廊下を後にする。  
遠くで轟音を響かせながら、花火は夜空を彩っていた。クライヴとの再婚約が消えるかもしれない。エリックと結ばれる道を選んだアリスが、この夜のうちにクライヴとけじめをつける――寝るのが嫌いな夜に繰り広げられた恋模様の終着点が、すぐそこに迫っている。
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