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――エリック母の親戚、昼の訪問――
数日が経ち、ハリス家の親戚筋から「エリックとアリスが揃って挨拶に来てほしい」という要望が正式に届いた。アリスは「ついに来た……」と覚悟しつつ、エリックと一緒に馬車で昼間に訪問することになった。
これまで夜メインで生きてきたアリスにとって、昼の社交はまだ億劫だが、エリックの励ましもあり、「わたし、父様と侍女を連れてがんばります」と前向きに構える。
「ふぁ……昼に移動って身体がだるくなるかもしれないけど、今は慣れないと。結婚したら朝から動くのも日常になるんですよね」
馬車の中でそうつぶやくと、エリックは「そうなるな。寝るのが嫌いだろうが、毎日夜更かしはできなくなるかもしれない」と笑う。アリスは苦笑しながら「そっか……」と返す。
「でも、あなたが仕事で朝早く出るなら、わたしも昼行動しないとダメですよね。エリックの母様や親戚にも、昼にちゃんと動ける令嬢って見てもらわないと」
「安心しろ。あまり堅苦しい連中じゃない。むしろ“寝るのが嫌い”だと面白がって受け入れてくれるかもしれないぞ」
「ふぁ……それならいいけど。クッキーの差し入れでも持って行こうかしら」
アリスはポケットに忍ばせたクッキーをちらりと見せる。前夜に焼いた小袋を用意しており、初対面の際の手土産として渡すつもりだ。エリックは「さすがだな」と笑う。
やがて馬車がハリス家親戚筋の屋敷へ到着する。エリックの母セシリアや、近しい親戚が集まっているとのこと。敷地はシャーベット家よりは小さいが、それでも優雅な庭と落ち着いた建物が並んでいる。
グラントとアリスが馬車から降りると、エリックが先に姿を見せて出迎えてくれる。その背後にはセシリアや数名の親族が控えており、やはり昼間の穏やかな光の下で、貴族風の挨拶が交わされる。
「ようこそお越しくださいました、シャーベット伯爵様、そしてアリス嬢。今日はお会いできるのを楽しみにしておりました」
「こちらこそ、ご丁寧にありがとうございます。娘のアリスが世話になっております。……グラント・シャーベットです」
父グラントが淡々と挨拶を返し、アリスも「ふぁ……はじめまして、アリス・シャーベットと申します」と深くお辞儀する。寝るのが嫌いだろうが、昼の礼儀はきちんとこなせるのだ。
セシリアが「まあ、お会いできて嬉しいわ。アリス嬢が昼に来てくださるなんて光栄。……エリックともう婚約されるご予定と聞き、楽しみにしています」と柔らかく微笑み、他の親戚も「どんな方なのか」と興味津々の様子だ。
「ふぁ……こういう場はやっぱり緊張しますね」
アリスは小声でエリックに耳打ちすると、エリックが「大丈夫、護るから」と笑う。馬車にエリックが同乗してもよかったが、実務の都合で先に来ていたらしい。
こうして一行は応接室へ入り、昼下がりのティータイムが始まる。寝るのが嫌いなアリスにとって昼の社交はまだ不安だが、エリックの親戚たちは「伯爵家のロリ令嬢」だと騒ぐことなく、好奇心と柔和な対応で迎えてくれる。アリスは少し安堵する。
会話が進む中、アリスは前夜に焼いたクッキーを手渡す。「ささやかなものですが、わたしが夜に作ったクッキーです。寝るのが嫌いで夜更かししてるうちに腕が上がったらしく……」と照れ笑いを浮かべると、親族たちが「まあ美味しそう」「夜に作るなんて珍しいわね」と興味を示す。
セシリアがそれを受け取って一口かじり、「なるほど、確かに香ばしくて優しい甘さ。これは良いわね。エリックにも食べさせているのかしら?」と尋ねる。
「はい、エリックもよく手伝ってくれてます。騎士の体力づくりにはあまり甘い物は良くないかもしれないですけど……」
アリスがそう言うと、エリックが笑って「甘い物も程々なら大丈夫だ。実際、クッキーで夜を乗り越えたりもしてるよ」と冗談めかして応じる。親族たちがクスクス笑う中、アリスは恥ずかしげに頬を染める。
こうして和やかに歓談しながら、グラントとセシリア、そして数名の親族が具体的な婚約式後の流れを話し合う。昼に挙式するのか、夜にするのか、どこで居住するのかなど、まだ細かい調整は山積みだ。
「ふぁ……父様、あまり昼や夜のどちらかに拘らなくていいですよね? エリックと相談しながら決めていきたいです」
アリスがそんな要望を出すと、親族の一人が「昼も夜も二人が自由に暮らせるようにすればいいのよ。寝るのが嫌いなら無理に昼型に直さなくても、大丈夫でしょう?」と好意的に返してくれる。想像以上に自由度があり、アリスは嬉しい驚きを覚える。
(わたし、もっと身構えてましたけど……ハリス家の親戚って優しい方が多いみたい。エリックが育った環境だからかな)
お茶を飲みながら、昼の穏やかな陽射しが差し込む応接室での会話が続き、アリスは「案外、昼の社交も悪くないかも」と思い始める。夜だけに閉じこもらず、このように昼もエリックと一緒にいられれば、いずれは寝るのが嫌いというトラウマも克服できるのかもしれない。
こうしてハリス家親戚との初顔合わせは成功し、昼下がりまで盛り上がった後、シャーベット家への帰路につく。アリスは馬車に乗り、「ふぁ……やっぱり疲れた。でも、あなたの親戚のみなさん優しくて安心しました」とエリックに微笑む。エリックも「そう言ってもらえて嬉しい」と答え、さらに二人の距離が縮まった気がする。
「エリック……わたし、昼でもちゃんと動けるようにならなくちゃですね。寝るのが嫌いでも、昼を大事にする日が増えそうです」
「そうだな。無理はしなくていいが、結婚すれば朝から何かと忙しい日もある。俺も忙しいが、一緒に助け合えば大丈夫さ」
二人は視線を絡め、笑い合う。寝るのが嫌いな少女が、昼間に彼の手を借りながら親戚との面会を無事にこなし、未来への手ごたえを得た。昼と夜を両立する夫婦像が、少しずつ形になっているのをアリス自身も感じ始めている。
数日が経ち、ハリス家の親戚筋から「エリックとアリスが揃って挨拶に来てほしい」という要望が正式に届いた。アリスは「ついに来た……」と覚悟しつつ、エリックと一緒に馬車で昼間に訪問することになった。
これまで夜メインで生きてきたアリスにとって、昼の社交はまだ億劫だが、エリックの励ましもあり、「わたし、父様と侍女を連れてがんばります」と前向きに構える。
「ふぁ……昼に移動って身体がだるくなるかもしれないけど、今は慣れないと。結婚したら朝から動くのも日常になるんですよね」
馬車の中でそうつぶやくと、エリックは「そうなるな。寝るのが嫌いだろうが、毎日夜更かしはできなくなるかもしれない」と笑う。アリスは苦笑しながら「そっか……」と返す。
「でも、あなたが仕事で朝早く出るなら、わたしも昼行動しないとダメですよね。エリックの母様や親戚にも、昼にちゃんと動ける令嬢って見てもらわないと」
「安心しろ。あまり堅苦しい連中じゃない。むしろ“寝るのが嫌い”だと面白がって受け入れてくれるかもしれないぞ」
「ふぁ……それならいいけど。クッキーの差し入れでも持って行こうかしら」
アリスはポケットに忍ばせたクッキーをちらりと見せる。前夜に焼いた小袋を用意しており、初対面の際の手土産として渡すつもりだ。エリックは「さすがだな」と笑う。
やがて馬車がハリス家親戚筋の屋敷へ到着する。エリックの母セシリアや、近しい親戚が集まっているとのこと。敷地はシャーベット家よりは小さいが、それでも優雅な庭と落ち着いた建物が並んでいる。
グラントとアリスが馬車から降りると、エリックが先に姿を見せて出迎えてくれる。その背後にはセシリアや数名の親族が控えており、やはり昼間の穏やかな光の下で、貴族風の挨拶が交わされる。
「ようこそお越しくださいました、シャーベット伯爵様、そしてアリス嬢。今日はお会いできるのを楽しみにしておりました」
「こちらこそ、ご丁寧にありがとうございます。娘のアリスが世話になっております。……グラント・シャーベットです」
父グラントが淡々と挨拶を返し、アリスも「ふぁ……はじめまして、アリス・シャーベットと申します」と深くお辞儀する。寝るのが嫌いだろうが、昼の礼儀はきちんとこなせるのだ。
セシリアが「まあ、お会いできて嬉しいわ。アリス嬢が昼に来てくださるなんて光栄。……エリックともう婚約されるご予定と聞き、楽しみにしています」と柔らかく微笑み、他の親戚も「どんな方なのか」と興味津々の様子だ。
「ふぁ……こういう場はやっぱり緊張しますね」
アリスは小声でエリックに耳打ちすると、エリックが「大丈夫、護るから」と笑う。馬車にエリックが同乗してもよかったが、実務の都合で先に来ていたらしい。
こうして一行は応接室へ入り、昼下がりのティータイムが始まる。寝るのが嫌いなアリスにとって昼の社交はまだ不安だが、エリックの親戚たちは「伯爵家のロリ令嬢」だと騒ぐことなく、好奇心と柔和な対応で迎えてくれる。アリスは少し安堵する。
会話が進む中、アリスは前夜に焼いたクッキーを手渡す。「ささやかなものですが、わたしが夜に作ったクッキーです。寝るのが嫌いで夜更かししてるうちに腕が上がったらしく……」と照れ笑いを浮かべると、親族たちが「まあ美味しそう」「夜に作るなんて珍しいわね」と興味を示す。
セシリアがそれを受け取って一口かじり、「なるほど、確かに香ばしくて優しい甘さ。これは良いわね。エリックにも食べさせているのかしら?」と尋ねる。
「はい、エリックもよく手伝ってくれてます。騎士の体力づくりにはあまり甘い物は良くないかもしれないですけど……」
アリスがそう言うと、エリックが笑って「甘い物も程々なら大丈夫だ。実際、クッキーで夜を乗り越えたりもしてるよ」と冗談めかして応じる。親族たちがクスクス笑う中、アリスは恥ずかしげに頬を染める。
こうして和やかに歓談しながら、グラントとセシリア、そして数名の親族が具体的な婚約式後の流れを話し合う。昼に挙式するのか、夜にするのか、どこで居住するのかなど、まだ細かい調整は山積みだ。
「ふぁ……父様、あまり昼や夜のどちらかに拘らなくていいですよね? エリックと相談しながら決めていきたいです」
アリスがそんな要望を出すと、親族の一人が「昼も夜も二人が自由に暮らせるようにすればいいのよ。寝るのが嫌いなら無理に昼型に直さなくても、大丈夫でしょう?」と好意的に返してくれる。想像以上に自由度があり、アリスは嬉しい驚きを覚える。
(わたし、もっと身構えてましたけど……ハリス家の親戚って優しい方が多いみたい。エリックが育った環境だからかな)
お茶を飲みながら、昼の穏やかな陽射しが差し込む応接室での会話が続き、アリスは「案外、昼の社交も悪くないかも」と思い始める。夜だけに閉じこもらず、このように昼もエリックと一緒にいられれば、いずれは寝るのが嫌いというトラウマも克服できるのかもしれない。
こうしてハリス家親戚との初顔合わせは成功し、昼下がりまで盛り上がった後、シャーベット家への帰路につく。アリスは馬車に乗り、「ふぁ……やっぱり疲れた。でも、あなたの親戚のみなさん優しくて安心しました」とエリックに微笑む。エリックも「そう言ってもらえて嬉しい」と答え、さらに二人の距離が縮まった気がする。
「エリック……わたし、昼でもちゃんと動けるようにならなくちゃですね。寝るのが嫌いでも、昼を大事にする日が増えそうです」
「そうだな。無理はしなくていいが、結婚すれば朝から何かと忙しい日もある。俺も忙しいが、一緒に助け合えば大丈夫さ」
二人は視線を絡め、笑い合う。寝るのが嫌いな少女が、昼間に彼の手を借りながら親戚との面会を無事にこなし、未来への手ごたえを得た。昼と夜を両立する夫婦像が、少しずつ形になっているのをアリス自身も感じ始めている。
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