25cmのシンデレラ

野守

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第4話 お届け物です

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 私の仕事は魔法使いのお婆さん。もちろん冗談だが、それに近い仕事だとは思っている。
 昔からシンデレラの物語で一番好きなのは、魔法使いのお婆さんだった。お婆さんでなくても、なんなら不思議な鳩とか、妖精のパターンでも良い。とにかく私は陰から物事を動かす裏方……もとい、黒幕にゾクゾクする性分なのだ。

「別の日にしましょうか」

泣き叫ぶ赤ちゃんを見て言ったら、若い母親が頷いた。その横で赤ちゃんをあやす父親も困り笑いである。ハーフバースデーの記念撮影に来た親子だが、主役の赤ちゃんが虫の居所の悪い日に当たってしまったらしく、なんとか泣き止ませようと頑張って早一時間。ふわふわドレスのシンデレラは舞踏会に行きたくないらしい。
 ここは私の働く写真館。チェーン店ではない個人経営の店だが、この辺りでは規模の大きな方で、ご近所でもお馴染みの歴史ある写真屋さんだ。ちなみに私はカメラマンじゃない。着替えの準備からメイクまでを主に担当しながら、撮影の補助、レジ打ちや予約対応、撮影コースの説明に子供の相手など、ほぼ何でも屋といえるお店のスタッフである。

「ご予約を変更しますね。次に空いている日は」

私と母親の会話をかき消す大音量の泣き声が響く。周囲のお客さんまでびっくりして振り返ったので、もう父親が無言で外に出て行った。ガラス越しにもうっすらと泣き声が聞こえてくる。

「……そういう日、だったんですね」
「……そういう日、だったみたいです」

母親が黙々と予約日を選びながら言った。まあ、赤ちゃんとはそういうものだ。理由はよく分からないけど、一日中ぐずって仕方ない日というものがある。私たちもそれを知っているから、予約日は変更可能にしてあるのだ。

「ではまた来週、お待ちしておりますね」

最後に笑顔で見送ったら、赤ちゃんがジトっとした涙目でこっちを見た。私、何かしましたね? 両親によって「ばいばーい」なんて強制的に手を振らされたからだろうか。
 そして息つく暇も無く声がかかる。

「坂本さん、次の撮影補助入ってもらえる?」
「はい。控室の衣装片づけたら、すぐに行きます!」

すごく忙しいし疲れるし大変だけど、会社でパソコンを打ちながら電話対応しているよりは、よほど自分に合った仕事に就けたと思っている。日々の生活に埋もれる現代人が一日だけ、とっておきの自分に変身して非日常を楽しめる場所なのだから。その変身を演出する私の仕事は、やっぱり魔法使いのお婆さんだと思う。






 とはいえ魔法使いにも休息は必要だ。毎週木曜日が休館日なので、必然的に私の休日も木曜日になる。

「あぁ……服と靴……どうしよう」

ぐるぐる回る洗濯物を見ながら呟いた。今日はもう一回洗濯機を回さないと、そろそろ仕事用の靴下が無いタイミングだ。
 デパートから手ぶらで帰って二週間。あれ以来なんとなく行きづらいし、そもそも再度行ったところでサイズは無いと思うと、急に腰が重くなってしまった。今回は通販で適当な一式でも買って済まそうか。いっそレンタルにしちゃおうかな、福利厚生で割引があるし。でも、そうやって毎回とりえずで済ませているから、いざという時に焦るんだよな……。
 そんな堂々巡りをしていたとき、インターホンが鳴った。

「はーい」
「お届け物です」

ネットで買ったメイク道具が届いたのか。モニターをよく見もせずにドアを開けたら、やけに身なりの良い配達人が営業スマイルで立っていた。リボンのついた箱を掲げて。

「ご無沙汰しております、坂本梨代さん。先日はお世話に」

一回ドアを閉めた。幻覚かな。

「何で?」

外にいたのは篠塚さんだった。今日はグレーのスーツを相変わらずビシッと着こなし、白い箱に赤いリボンのついた物体を抱えて、さも当然のように教えてもいない自宅を訪ねてきた現実。本当に何で?

「まだ寝ぼけてたのかな。それとも疲れすぎて幻覚が……」
「あの、坂本さん! 突然押しかけてすみません、この間お会いした篠塚です! 改めてお礼に伺ったのですが!」

ドア越しの説明というか釈明に、コンコンというノックの音。安いアパートの廊下で止めて欲しい。
 仕方ないので細くドアを開けて、ドアチェーンをかけたまま警戒心むき出しの声を出してみた。

「ご丁寧にどうも。お気持ちだけで十分ですので、お引き取りください」
「いやあの、用意した品をぜひ差し上げたくて」
「結構です」
「要りませんでしたか?」

篠塚さんが自分で箱を開けて、ドアの隙間数センチから中身を見せる。絶妙な焦げ茶の優雅な靴が収められていた。

「先日サイズの無かった商品、二十五cmサイズをお造りしました。坂本さんのための非売品です」

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