25cmのシンデレラ

野守

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第16話 ゲームコーナー

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 一階を見て回った後は、二階を飛ばして三階に行ってみた。というより本日のメインががここにあるのだ。

「クレーンゲーム、最難関まで制覇したって言ってましたよね」
「はい。腕に自信ありです」
「じゃあ本物で見せてもらいましょうか」

私が篠塚さんを連れて行ったのはゲームコーナーである。三階の中で結構な広さを占め、エリア内でもさらにプリクラ、カプセルトイ、クレーンゲーム、アーケードゲームなどの種類ごとに区画が分かれている。平日の昼間なためか、そんなに混んでいなかった。

「いいでしょう。何が欲しいですか」
「じゃ、あれで」

私が指さしたのはビッグサイズのお菓子を吊り上げるやつ。抱き枕かという大きさの袋の中に、スナック菓子が大量に入っているらしい。
 意気揚々とタイミングを計ってボタンを押す篠塚さんは、見事に狙った物を吊り上げて得意気な顔をし……一番上に着いた衝撃であえなく落下した景品を見て固まっていた。

「機械の故障では」
「諦めてください。そういうヤツなんですよ」

ゲーム機の端に貼られた注意書きを見せる。「吊り上げ時のガタンという衝撃・揺れは機械の仕様です。故障ではありません」だそうだ。

「そんなにホイホイ取れたらお店潰れますって」
「この悔しさはどこにぶつければ」

今度こそと意気込んで百円玉を投入している。今日は散財しそうな予感だが、たまには贅沢する日があっても良いだろう。それも頑張って働く大人の特権なのだから。
 今度こそはを幾度となく繰り返し、たぶん七度目の挑戦でようやく景品を入手した。

「どうぞ」

差し出された景品は本当に私がもらって良いのだろうか。

「篠塚さんのお金で獲ったんですし、篠塚さんの物では」
「じゃあ俺がもらって、それを坂本さんにあげます。それで平等でしょう」
「なるほど」

なら有難くいただいておこう。
 私たちのすぐ後ろでは、大学生くらいのカップルが同じようなことをしていた。彼女の方が大きなぬいぐるみを抱えて喜んでいる。きっとあれが理想的なデートの姿だ。こういう時、大きなぬいぐるみでも欲しがる女の子だったら可愛いんだろうな。

「次はどれにしましょうか」

篠塚さんの声にはっとした。そうだ、そもそもデートじゃない。仕事中だった。

「そうですねぇ。……あ、これ見てください」

私が足を止めたのは、二本渡された棒の隙間から箱を落下させるタイプのゲーム。クレーンじゃないけどクレーンゲームと呼んで良いのだろうか。

「福引でもらったゲーム機と同じじゃないですか。何回くらいプレイしたら取れるんですかね?」

数千円つぎ込んでも取れるか分からないなら、もうギャンブルと同じな気がする。最初から定価で買った方が安く済みそうだ。

「でも試してみたくなっちゃうあたり、人間の心理って危ないですよね」
「これは……危ないですね」

篠塚さんの口調はやけに真剣だった。顔を見ると、何やら考え込むようにガラスの中を覗き込んでいる。
 そんな時だった。

「あれ、タツ兄?」

声をかけてきたのは隣のゲーム機をいじっていた店員さん。オレンジ色のスタッフ用ジャンパーを着ているし、私より年下に見えるから、雰囲気だけならアルバイトの人みたいだ。
 声の主を見た篠塚さんは、驚いたというよりギョッとした顔をした。

正輝まさき、何でここにいるんだ」
「何でって、俺の会社じゃん。いちゃ悪い?」
「現場スタッフじゃないだろう。会社の仕事はどうした」

正輝と呼ばれた彼はニヤっと笑って、派手なスタッフ用の上着を引っ張ってみせた。

「現場の勉強しに来たんだよ。店舗を知るのは大事だろ?」
「そう言って遊んでただけだろ」
「デスクワーク飽きたんだよ。これ着てればタダでゲームし放題、便利だろ?」

頭を抱える篠塚さんが何か言う前に、正輝さんの目は私に向いた。

「ああ、デート中だった? 悪ぃ悪ぃ、お邪魔だったな」
「違う」
「違います」

私と篠塚さんが同時に言った。その様子を見た正輝さんが意地悪そうに笑みを深め、私が抱えていた景品を顎で示す。

「そんだけ遊んどいて? めっちゃお楽しみじゃん」

こんな状況は夏祭りでもあった気がする。絵面として否定しづらいのが非常に困るのだが、本当に違うのだから仕方がない。
 説明しようと口を開く私を制するように、篠塚さんが一歩前へ出た。

「その言い方は失礼だろう。仕事がらみで付き合ってくれている人だ。変な誤解をされては彼女が迷惑する」
「へいへい、そういう建前になってるんですね。りょーかい。この前も見合い突っぱねたって聞いたからさぁ、誰かいるんだろうとは思ってたよ」
「おい!」
「ごゆっくりー」

正輝さんはひらひら手を振りながら離れて行った。そのまま奥へ引っ込むのかと思ったら、少し離れた場所で別のゲームを始めている。しかも合鍵で扉を開け、勝手に中の景品をズラして位置を変えていた。

「すみません。不快な思いをさせました」
「い、いえ。篠塚さんが悪いわけじゃないですから」

思いっきり謝罪の形で頭を下げられ、私の方が慌ててしまう。周りの人の目も気になるのに。
 篠塚さんが苦い顔で出口を探す。

「ここは出ましょう。……あ、でも少しだけ待っていただけますか」
「ええ」

速足で正輝さんに近寄り、何か言葉を交わしている。話の内容は分からない。それでも早々に戻ってきた篠塚さんは私を連れて、急ぐようにゲームコーナーを後にしたのだった。

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