サトシ先生は美しき十代の乙女に手を出さない

白神ブナ

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第1章 一年一学期

第35話  レイコ姉さんは女子校出身 

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 「じゃ、そろそろ帰りましょうか?」

サトシの姉は、このタイミングでやっと寝室のドアをノックした。

「さぁ、桜井さんお家に帰りましょう。わたしが運転するから、サトシ、あんたは後部座席に乗って」

「なんで、俺が後部座席なんだよ」

「桜井さんと女同士の話がしたいのよ。それくらい気を利かせなさいよ。本当に、サトシったら鈍いんだから。桜井さん、こっち、こっち」




 姉の車の中で、桜井は助手席に座っていた。
サトシは後部座席に、男ひとり取り残された感じで座っていた。

「レイコ姉さん、ちゃんと桜井の家の住所、わかっているんだよね」

「もちろんよ」

「じゃあ、どうしてこの大通りを走るんだよ。どう見ても遠回りじゃないか」

「お腹を空かせて待っている弟さんがいるんでしょ。マックのドライブスルーに寄って、ハンバーガーでも買っていってあげたら、喜ぶと思わない? だって、今日の桜井さん、お料理するのは無理なんだから」

「お姉さま、そんなに気を使わなくても、わたし大丈夫ですから」

「だーめ! わたしとサトシもお腹が空いているんだもの。もう、わたしマックの事しか考えられない!」

そんな姉の言葉に、桜井は笑った。

「フフッ、そんなにおかしい?」

後部座席のサトシは、桜井の笑い声を久しぶりに聞いた気がした。

(よかった。笑ってくれて)


マックのドライブスルーに着くと、サトシの姉はハンバーガーセットをたくさん注文した。

「こんなにたくさん……多すぎませんか? お姉さま」

「あーそれね。わたしとサトシの分もあるから……」

「あ、そうなんですね。やだ、わたしったら、弟にこんなに食べさせるのかと」

「サトシ、お代は立替だからね。あとで請求しまーす」

「ああ、わーったよ」


 マックでハンバーガーをたくさん買い込んだ後、車は桜井のアパートに向かって走っていた。
姉は運転しながら、桜井に話をはじめた。

「桜井さん、うちの親族の女子はみんな聖ルチア女学館なのよ。でもそれって、特別に優秀だとかお嬢様だという意味じゃないの。
実は、聖ルチア女学館の理事長ってね、わたしたちの叔父なのよ。要するに、身内だから入れただけ。だから、友梨奈が聖ルチア女学館だからって、特別でもなんでもないからね。
あの子、わがままだから人を見下したようなことでも言ったんでしょ。ごめんなさいね」

「親族が聖ルチア女学館。じゃあ、お姉さまも?」

「ええ、聖ルチア女学館の卒業生よ。だから女子校のことはよくわかるの」

「そうなんですね。なんだか、親近感湧いて来ちゃいました」

「親近感ついでに、暴露していいかしら?」

「暴露って、何をですか? ヤバい話でもするんですか?」

「うちの母校、聖ルチア女学館ってね。実は、卒業生と結婚した先生の割合が結構高いのよ。
意味わかる? 女子高生が先生を好きになるって、あるあるってことよ」

「え、卒業生と?」

「そう。ただし、在校中に付き合ったらダメよ。大人が未成年に手を出すなんて犯罪でしょ。……でも、卒業してから数年後に、先生と結婚する確率が高いのよね」

「えええ! 意外です」

「そう、卒業後ってところがポイントよ。本当にお互いの事を大切に思っているのなら、先生から生徒の人生が壊れるようなことはしないと思うわ。生徒だって先生に学校辞められたら困るじゃない。
卒業して三年後でも五年後でも、お互いの気持ちが続いているのなら、ゴールインは不可能じゃないって話よ。それだけは、桜井さんに教えたかったの」

「お姉さま……」

「桜井さんは、すてきな女子高生だとわたしは思うわ。もっと自分に自信を持っていいのよ」

女同士の会話に、恐る恐る後部座席から声をかけるサトシ。

「あのぅ、レイコ姉さん? 俺の生徒に何か悪知恵でも授けているんじゃないだろうな」

「あーら、人聞きが悪いこと言わないでよ。悪知恵じゃないわ。生きる希望を与えているのよ」

「わたし、こんなお姉さまが、欲しかったです」

「あらそれ、あるかもよ。たとえば義理の姉になら可能性が……」

「レイコ姉さん!!」

車の中だからよく見えないが、サトシの顔は、たぶん今……赤いだろう。

車の中は、揚げたてのフライドポテトの美味しそうな匂いが充満していた。
もうすぐ桜井のアパートというところで、姉はつぶやいた。

「ああ、お腹が空いちゃった。弟さんもお腹すかせて待っているんでしょうね」

「ああ、そうかもな。このハンバーガーセットで、アキラくんが喜ぶといいな」

姉のつぶやきに、サトシも同調した。
桜井はサトシ姉弟に、とても感謝していた。

「はい、とても喜ぶと思います。でも、喜びすぎてアキラはサトシ先生に絡んでくるかもしれません。アキラに引き留められても負けないでね先生。これ以上、先生に迷惑はかけられない」

「もちろん、絶対に帰ります」

「何? 絡んでくるって何? アキラくんってワンちゃんなの? そんなにサトシは気に入られているの?」

姉は桜井が言った意味を言葉通りに捕えて、アキラという名前の犬かもしれないと冗談を言った。

(当たらずとも遠からずだ。かわいいやつなんだな、これが)

サトシは、生意気だが天真爛漫なアキラの顔を思い起こしていた。

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