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第2章 一年二学期
第75話 女生徒SIDE:美柑の家庭事情②
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桜井美柑とその弟アキラは驚愕した。
「「えーーーーっ! 年末にハワイ行くのー?!」」
桜井の母は、年末はハワイ旅行に行くと、唐突に打ち明けた。
だが、家族旅行ではない。
仕事の都合で、子供を置いて自分だけハワイに行くと言うのだ。
「お母さん!! ずるいっ」
「え、ええ、そのぉ、つまりね。お店の女の子たちとお正月休みしようと思って。一週間も留守にして悪いんだけど」
アキラは泣いて母にすがった。
「いやだぁっ! 僕も一緒に行きたいよーーっ」
「ご、ごめんね、アキラ。今度一緒に行こうね」
「つれてってよー。ばかやろー!!」
「アキラ……」
桜井は、母の微妙な表情を見逃さなかった。
「嘘だわ。奥村組の部長さんと行くんでしょ」
母は、美柑の言葉に固まった。
「美柑……」
(やはり、怪しいわ。顔色が変わった)
「それとも、金丸商事の係長さんかなぁ」
「い、いえ、美柑ったら、何言ってるの」
母は狼狽していた。
「あっ、エステート住友の専務さんとだ! うーーん、大映出版の編集長も怪しい」
「美柑、お前って、お客様の社名をよくまあスラスラと……」
「おとなしく吐けーーーーっ!」
女同士の戦いをつぶさに見ていたアキラは、無邪気につぶやいた。
「僕、金丸のおじちゃん好きだよ。だって、お店でおこづかいくれたもん」
「アキラ、あんたお金で騙されるんじゃないわよ! お姉ちゃんだって、小さい頃はお店でお客さんからおこづかいもらって喜んでたわ。だけど、本当はそんなの欲しくなかった。知らないおじさんからもらう一万円札よりも、お父さんからもらう百円玉が欲しかった。うううっ……どうして、死んじゃったのよ、お父さーん。うわぁーん」
「美柑、……この際だから言うけど、お父さん死んでないわ。生きてるから」
「やっぱりそうなのね。知ってたわ。お母さんは未婚の母で、お父さんに捨てられたんでしょー」
「あら、よく知っているわね。お前に教えたことあったっけ?」
「薄々感づいていたわよ。うちには仏壇もないしお父さんの写真もないから、そうかなーーーって想像していたただけよ。まさか、事実だったなんて……。ここまではっきり言われるとショックだわ」
「しかたがないでしょ。お父さんとは身分差があって、一緒になれなかったのよ」
「そういう重い事実を、よくも笑いながら子供に言えるわね……」
「お母さんだって、こういうことを口にできるまで何年苦しんだか」
「信じられないっ! それにこんな派手な水着まで用意して! わたしなんか、今年は水着を買えなかったんだからっ」
「お母さんは、あんたたちのために毎日辛くても……」
「やめてよ! もう毎日毎日、ご飯作るのなんか嫌―――っ!!!!」
アキラは母と姉の喧嘩に我慢できずに、とうとう叫んだ。
「いいかげんにしろよっ!」
桜井美柑も母も、その声に驚いて黙ってしまった。
まだまだ幼い赤ちゃんだと思っていたアキラが、男としての威厳を見せたのだ。
アキラは、ふっと一呼吸おいてから、いつもの可愛らしい笑顔に戻って言った。
「お母ちゃん、いいよ。ボーイフレンドたちとハワイ行って」
「アキラ……」
「めいっぱい楽しんできなよ。お母ちゃんはいつも働きっぱなしだからさ」
母は、アキラにすがりついて泣いた。
「アキラ……、あんたの笑った顔、お父さんにそっくりよ。まるで生き写し……」
桜井美柑はその演技にあきれてしまった。
「だから、生きているんでしょ。死んでないって、お母さん白状したじゃん」
「アキラ、お前って本当にいい子ね。お土産買ってくるからね」
「うん、大丈夫。僕も友達の家に泊りに行くから」
「おや、そんなに仲がいい友達ができたの? よかったわねぇ」
「うん、長谷川っていうんだ。すっげ大きい家なんだぜ」
「長谷川……? そ、そうなのね、よかったわ。お友達は大切にしなさいね」
母は、あっさりとアキラの外泊を認めた。
そうなると、桜井美柑は黙っていない。
「ちょっと待ったぁーーー! アキラ、あんたがその友達の家に行ったら、お姉ちゃん、この家でひとりになるじゃないの」
「美柑は、サトシおじさんの所へ行けばいいじゃん」
「な、何言ってんのよ、バカ!」
母まで、アキラの意見に賛成した。
「あら、いいこと言うわねアキラ。そうよ、そうしなさい美柑。それか、サトシ先生にこの家に来ていただいたら?」
「お母さんまでっ! 本当にあんたは母親かぁーーー? ああ、もしかしたら、わたしだけここの家の子じゃないとか……」
桜井美柑は母親に怒りながら、ちょっと引っかかるものがあった。
長谷川という名前を最近聞いたような気がする。
だが、どこで聞いたのか思い出せなかった。
(もう、なによアキラまで! 余計な事言って。本当に口が達者なんだから。この間までオムツしていたくせに。母さんも母さんだわ。しれっと昔の事実を暴露して。薄々感づいていたから、別にショックじゃないと言いたいところだけど、はっきりされるとショックだわ)
その夜、桜井は布団の中で、なかなか眠れなかった。
(ああ、どうしよ。進路調査票。もう適当に書いちゃおうっかな。期末テストの勉強もしなくちゃいけないし、サトシ先生の実家に行くのは、もうやめようかな)
目を閉じると、サトシの母親の高慢な顔が浮かんできた。
(くっそ、無理だわ。学歴も美貌も手に入れるなんて。現実を見よう。この家でグレずに生きていくだけで精一杯よ)
将来の夢とは程遠い今の現実に、桜井はひとり布団の中で思った。
(世の中って理不尽ね)
「「えーーーーっ! 年末にハワイ行くのー?!」」
桜井の母は、年末はハワイ旅行に行くと、唐突に打ち明けた。
だが、家族旅行ではない。
仕事の都合で、子供を置いて自分だけハワイに行くと言うのだ。
「お母さん!! ずるいっ」
「え、ええ、そのぉ、つまりね。お店の女の子たちとお正月休みしようと思って。一週間も留守にして悪いんだけど」
アキラは泣いて母にすがった。
「いやだぁっ! 僕も一緒に行きたいよーーっ」
「ご、ごめんね、アキラ。今度一緒に行こうね」
「つれてってよー。ばかやろー!!」
「アキラ……」
桜井は、母の微妙な表情を見逃さなかった。
「嘘だわ。奥村組の部長さんと行くんでしょ」
母は、美柑の言葉に固まった。
「美柑……」
(やはり、怪しいわ。顔色が変わった)
「それとも、金丸商事の係長さんかなぁ」
「い、いえ、美柑ったら、何言ってるの」
母は狼狽していた。
「あっ、エステート住友の専務さんとだ! うーーん、大映出版の編集長も怪しい」
「美柑、お前って、お客様の社名をよくまあスラスラと……」
「おとなしく吐けーーーーっ!」
女同士の戦いをつぶさに見ていたアキラは、無邪気につぶやいた。
「僕、金丸のおじちゃん好きだよ。だって、お店でおこづかいくれたもん」
「アキラ、あんたお金で騙されるんじゃないわよ! お姉ちゃんだって、小さい頃はお店でお客さんからおこづかいもらって喜んでたわ。だけど、本当はそんなの欲しくなかった。知らないおじさんからもらう一万円札よりも、お父さんからもらう百円玉が欲しかった。うううっ……どうして、死んじゃったのよ、お父さーん。うわぁーん」
「美柑、……この際だから言うけど、お父さん死んでないわ。生きてるから」
「やっぱりそうなのね。知ってたわ。お母さんは未婚の母で、お父さんに捨てられたんでしょー」
「あら、よく知っているわね。お前に教えたことあったっけ?」
「薄々感づいていたわよ。うちには仏壇もないしお父さんの写真もないから、そうかなーーーって想像していたただけよ。まさか、事実だったなんて……。ここまではっきり言われるとショックだわ」
「しかたがないでしょ。お父さんとは身分差があって、一緒になれなかったのよ」
「そういう重い事実を、よくも笑いながら子供に言えるわね……」
「お母さんだって、こういうことを口にできるまで何年苦しんだか」
「信じられないっ! それにこんな派手な水着まで用意して! わたしなんか、今年は水着を買えなかったんだからっ」
「お母さんは、あんたたちのために毎日辛くても……」
「やめてよ! もう毎日毎日、ご飯作るのなんか嫌―――っ!!!!」
アキラは母と姉の喧嘩に我慢できずに、とうとう叫んだ。
「いいかげんにしろよっ!」
桜井美柑も母も、その声に驚いて黙ってしまった。
まだまだ幼い赤ちゃんだと思っていたアキラが、男としての威厳を見せたのだ。
アキラは、ふっと一呼吸おいてから、いつもの可愛らしい笑顔に戻って言った。
「お母ちゃん、いいよ。ボーイフレンドたちとハワイ行って」
「アキラ……」
「めいっぱい楽しんできなよ。お母ちゃんはいつも働きっぱなしだからさ」
母は、アキラにすがりついて泣いた。
「アキラ……、あんたの笑った顔、お父さんにそっくりよ。まるで生き写し……」
桜井美柑はその演技にあきれてしまった。
「だから、生きているんでしょ。死んでないって、お母さん白状したじゃん」
「アキラ、お前って本当にいい子ね。お土産買ってくるからね」
「うん、大丈夫。僕も友達の家に泊りに行くから」
「おや、そんなに仲がいい友達ができたの? よかったわねぇ」
「うん、長谷川っていうんだ。すっげ大きい家なんだぜ」
「長谷川……? そ、そうなのね、よかったわ。お友達は大切にしなさいね」
母は、あっさりとアキラの外泊を認めた。
そうなると、桜井美柑は黙っていない。
「ちょっと待ったぁーーー! アキラ、あんたがその友達の家に行ったら、お姉ちゃん、この家でひとりになるじゃないの」
「美柑は、サトシおじさんの所へ行けばいいじゃん」
「な、何言ってんのよ、バカ!」
母まで、アキラの意見に賛成した。
「あら、いいこと言うわねアキラ。そうよ、そうしなさい美柑。それか、サトシ先生にこの家に来ていただいたら?」
「お母さんまでっ! 本当にあんたは母親かぁーーー? ああ、もしかしたら、わたしだけここの家の子じゃないとか……」
桜井美柑は母親に怒りながら、ちょっと引っかかるものがあった。
長谷川という名前を最近聞いたような気がする。
だが、どこで聞いたのか思い出せなかった。
(もう、なによアキラまで! 余計な事言って。本当に口が達者なんだから。この間までオムツしていたくせに。母さんも母さんだわ。しれっと昔の事実を暴露して。薄々感づいていたから、別にショックじゃないと言いたいところだけど、はっきりされるとショックだわ)
その夜、桜井は布団の中で、なかなか眠れなかった。
(ああ、どうしよ。進路調査票。もう適当に書いちゃおうっかな。期末テストの勉強もしなくちゃいけないし、サトシ先生の実家に行くのは、もうやめようかな)
目を閉じると、サトシの母親の高慢な顔が浮かんできた。
(くっそ、無理だわ。学歴も美貌も手に入れるなんて。現実を見よう。この家でグレずに生きていくだけで精一杯よ)
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