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第2章 一年二学期
第79話 サトシと美柑の探偵ドラマ①
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サトシと桜井は、桜井の母が残したメモに書かれた住所を頼りに、ある家を探していた。
「多分、この辺なんだけど……住宅街って町名と番地が微妙に入り組んでて、わからないわ」
「桜井、こんなに歩いていて体調の方は大丈夫なのか?」
「ええ、ちょっと頭がボーっとしてるけど、痛みは軽くなったから大丈夫です。倒れたら先生が助けてくれるでしょ」
「おい、おい、こんなところで倒れないでくれよ」
今から一時間前。
サトシが桜井の家を訪ねると、桜井はピンクパーカーに黒のジーンズ姿で待っていた。
「お、もう出かける準備が出来ているのか」
(私服姿の桜井って可愛いな)
サトシが、ほんの少しワクワクしながら問いかけたが、桜井は答えずに真剣なまなざしで一つのメモ用紙を見せて来た。
「ここ! ここに行きたいんです」
見ると、そこには同じS区の住所が書かれていた。
「なんだ、どんな遠くへ行きたいのかと思えば、これは家の近くじゃないか。ここだったら桜井ひとりでも行けるだろう」
(やっぱりデートじゃなかった)
「そうじゃなくて、名前を見てください。長谷川優太郎。下の名前はわからないけど、長谷川さんって苗字、覚えがありませんか?」
「長谷川……ああ、俺の父さんの部下の、長谷川さんと同じ苗字。でも、苗字がたまたま同じで、あの長谷川さんは関係ないだろう……。で? このメモは、一体誰が何の意味で?」
「わたしのお母さんです。ハワイに行く直前に、『何か困ったことがあったら、ここを訪ねなさい』って。そこ、アキラが泊っている友達の家です」
「アキラ君の友達の家を頼りなさいという意味か。まあ、娘をひとり家に残してハワイへ……ハワイ?! バカンスしてるなぁ」
「その名前、うちに毎月送られてくる食材の送り主なんです。わたしはお店のお客さんだと思っていたんですけど、たぶんもっと深い関係ではないかと」
「深い……、それって大人の事情的な?」
「うん、はっきり言いましょう。たぶんお父さんかと」
パサッ
サトシは驚きのあまり、住所が書かれたメモを落した。
「桜井のお父さんって生きていたのか。てっきり亡くなっているのだと勝手に思っていた」
「わたしも小さい頃は、お母さんにそう教えられてきました。でも、家には仏壇も無いし、遺影もない。昔のアルバムにもお父さんの写真は一枚も無いんです。ということは、お父さんは実は生きていて、お母さんは未婚のままわたしを産んだのではないかと……」
「待て、待て、桜井。話が飛躍しすぎだ。何の証拠もないのに、重要なことをそんな軽々しく考えるんじゃない」
「はい、軽く考えていましたが、図星でした。お母さんは未婚の母だったことを一週間前に白状したんです」
「え? でも、そのお父さんが長谷川さんというのは飛躍しすぎだろう」
「アキラの友達が長谷川という名前だと、お母さんは知っていたのか、知らなかったのか……」
「ほら、そうだよ。やっぱり考えすぎだって」
「だから、それを確かめたいんです。わたしの考えすぎなのか、どうなのか。アキラがお世話になっているのは事実だから、ご挨拶とお礼に行くのは構いませんよね」
「確かに、それなら」
「でも、一人で行くのは恐いんです。だから先生、一緒に付いてきてください」
桜井の悩み事は、サトシの想像をはるかに超えた重さだった。
(まさか、それが事実なら小説並みにドラマチック、などと思っては桜井に失礼か)
「俺が付いて行ったら、話がこじれたりしないか? 一体どんな顔で俺は付いて行けばいいんだ」
「そうね。とりあえず、お母さんのボーイフレンドってことで、いいえ、ダメだわ。このネタは使えない」
「どうして」
「だって、アキラは先生のこと知っているんだもの」
「そ、そうだ。じゃ、正直に行こう、正直に」
「そうですね。それと、アキラがいつもお世話になっているから、何か手土産でも持って行かないと失礼ですよね」
「じゃ、つるや千年堂の和菓子の詰め合わせでも」
「そうですね。そうしましょう」
こうして、手土産持参で長谷川さんの家を探すことになった。
そして、見事に道に迷っているのである。
「先生、ここの電話番号に電話して聞いてくれませんか?」
「え? 桜井が電話しなさい。自分のことでしょう」
「先生、冷たい。宅急便か何かのふりして聞くだけなのに、電話してくれないんなんて……わたしって、やっぱり不幸な星のもとに生まれたんだわ」
桜井は半べそをかきながら、しゃがみ込んだ。
「わーった。電話する。電話するから、メモを見せなさい」
サトシは桜井からメモを奪うと、自分の携帯から電話しはじめた。
「あー、すみません。長谷川さんのお宅でしょうか。あの、白猫便なんですけどー、住所の確認です。S区○○の〇丁目〇番地で間違いないですかねー。ちょーーと分からなくなりましてー、何か目印になる建物とかありますかー? はい、はい、……長い塀の先? はい、あ、わかりましたー。どうもすみませーん。ありがとうございましたぁー」
電話を切って、サトシは桜井に向かって「ここだよ」とサインを送った。
なんと、目の前の大きな家の表札に、長谷川と書かれていた。
「灯台元暗し、だな」
「多分、この辺なんだけど……住宅街って町名と番地が微妙に入り組んでて、わからないわ」
「桜井、こんなに歩いていて体調の方は大丈夫なのか?」
「ええ、ちょっと頭がボーっとしてるけど、痛みは軽くなったから大丈夫です。倒れたら先生が助けてくれるでしょ」
「おい、おい、こんなところで倒れないでくれよ」
今から一時間前。
サトシが桜井の家を訪ねると、桜井はピンクパーカーに黒のジーンズ姿で待っていた。
「お、もう出かける準備が出来ているのか」
(私服姿の桜井って可愛いな)
サトシが、ほんの少しワクワクしながら問いかけたが、桜井は答えずに真剣なまなざしで一つのメモ用紙を見せて来た。
「ここ! ここに行きたいんです」
見ると、そこには同じS区の住所が書かれていた。
「なんだ、どんな遠くへ行きたいのかと思えば、これは家の近くじゃないか。ここだったら桜井ひとりでも行けるだろう」
(やっぱりデートじゃなかった)
「そうじゃなくて、名前を見てください。長谷川優太郎。下の名前はわからないけど、長谷川さんって苗字、覚えがありませんか?」
「長谷川……ああ、俺の父さんの部下の、長谷川さんと同じ苗字。でも、苗字がたまたま同じで、あの長谷川さんは関係ないだろう……。で? このメモは、一体誰が何の意味で?」
「わたしのお母さんです。ハワイに行く直前に、『何か困ったことがあったら、ここを訪ねなさい』って。そこ、アキラが泊っている友達の家です」
「アキラ君の友達の家を頼りなさいという意味か。まあ、娘をひとり家に残してハワイへ……ハワイ?! バカンスしてるなぁ」
「その名前、うちに毎月送られてくる食材の送り主なんです。わたしはお店のお客さんだと思っていたんですけど、たぶんもっと深い関係ではないかと」
「深い……、それって大人の事情的な?」
「うん、はっきり言いましょう。たぶんお父さんかと」
パサッ
サトシは驚きのあまり、住所が書かれたメモを落した。
「桜井のお父さんって生きていたのか。てっきり亡くなっているのだと勝手に思っていた」
「わたしも小さい頃は、お母さんにそう教えられてきました。でも、家には仏壇も無いし、遺影もない。昔のアルバムにもお父さんの写真は一枚も無いんです。ということは、お父さんは実は生きていて、お母さんは未婚のままわたしを産んだのではないかと……」
「待て、待て、桜井。話が飛躍しすぎだ。何の証拠もないのに、重要なことをそんな軽々しく考えるんじゃない」
「はい、軽く考えていましたが、図星でした。お母さんは未婚の母だったことを一週間前に白状したんです」
「え? でも、そのお父さんが長谷川さんというのは飛躍しすぎだろう」
「アキラの友達が長谷川という名前だと、お母さんは知っていたのか、知らなかったのか……」
「ほら、そうだよ。やっぱり考えすぎだって」
「だから、それを確かめたいんです。わたしの考えすぎなのか、どうなのか。アキラがお世話になっているのは事実だから、ご挨拶とお礼に行くのは構いませんよね」
「確かに、それなら」
「でも、一人で行くのは恐いんです。だから先生、一緒に付いてきてください」
桜井の悩み事は、サトシの想像をはるかに超えた重さだった。
(まさか、それが事実なら小説並みにドラマチック、などと思っては桜井に失礼か)
「俺が付いて行ったら、話がこじれたりしないか? 一体どんな顔で俺は付いて行けばいいんだ」
「そうね。とりあえず、お母さんのボーイフレンドってことで、いいえ、ダメだわ。このネタは使えない」
「どうして」
「だって、アキラは先生のこと知っているんだもの」
「そ、そうだ。じゃ、正直に行こう、正直に」
「そうですね。それと、アキラがいつもお世話になっているから、何か手土産でも持って行かないと失礼ですよね」
「じゃ、つるや千年堂の和菓子の詰め合わせでも」
「そうですね。そうしましょう」
こうして、手土産持参で長谷川さんの家を探すことになった。
そして、見事に道に迷っているのである。
「先生、ここの電話番号に電話して聞いてくれませんか?」
「え? 桜井が電話しなさい。自分のことでしょう」
「先生、冷たい。宅急便か何かのふりして聞くだけなのに、電話してくれないんなんて……わたしって、やっぱり不幸な星のもとに生まれたんだわ」
桜井は半べそをかきながら、しゃがみ込んだ。
「わーった。電話する。電話するから、メモを見せなさい」
サトシは桜井からメモを奪うと、自分の携帯から電話しはじめた。
「あー、すみません。長谷川さんのお宅でしょうか。あの、白猫便なんですけどー、住所の確認です。S区○○の〇丁目〇番地で間違いないですかねー。ちょーーと分からなくなりましてー、何か目印になる建物とかありますかー? はい、はい、……長い塀の先? はい、あ、わかりましたー。どうもすみませーん。ありがとうございましたぁー」
電話を切って、サトシは桜井に向かって「ここだよ」とサインを送った。
なんと、目の前の大きな家の表札に、長谷川と書かれていた。
「灯台元暗し、だな」
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