サトシ先生は美しき十代の乙女に手を出さない

白神ブナ

文字の大きさ
82 / 273
第2章 一年二学期

第81話 サトシと美柑の探偵ドラマ③

しおりを挟む
 まだ幼いアツシくんを囲んで、若いお父さんとお母さんがにこやかに微笑んでいる写真。
その写真に写る若いお父さんは、サトシの父の部下である長谷川によく似ていた。

「まさか」

「やっぱり、そうだわ。これ、長谷川さんじゃない? ちょっと若いけど」

「他人の空似ってこともある。それに、アツシくんのお母さんも写っている。長谷川さんの奥さんとの子どもなら、全然問題ないじゃないか」

「あ、そうよね。先生、頭いいわ。わたしの勘違いだったわ」

「ほうら、言った通りだろ。桜井の妄想だったんだよ」

「ごめんなさい。あはははは!」

サトシと桜井は、とんだ思い込みにお互いの顔をみながら笑った。
その時、家政婦がリビングにやって来た。

「お待たせしております。今、ご主人が帰ってきました。応接室でお会いになりますか?」

「げっ! もう? 早っ」

「桜井! 言葉! あ、どうぞお構いなく、挨拶したら私どもは帰りますので」

「左様でございますか。では、しばらくお待ちくださいませ」

家政婦が玄関へと戻っていくと、桜井は焦りだした。

「先生、どうしよう。こわいよー」

「大丈夫だ。先生がいるから安心しなさい」

サトシと桜井がどんな気持ちでいるのかなんて、知る由もないアキラとアツシは、リビングを駆けまわって遊び大騒ぎだ。



 リビングのドアが開いた。

「楽しそうだな」

そう言って、入って来たのはサトシと桜井がよく知っている長谷川だった。

「あれ? 社長の息子さん、どうしてここに。あ、息子さんの教え子さんまで……」

「どうも、いつも父がお世話になっております。いつぞやは、父の気まぐれパーティにお付き合いいただきまして、ありがとうございました」

「いえいえ、こちらこそ、お父様にはいつもよくしていただいて……」

大人同士の長い挨拶が続いた。

「あれーー? アツシのパパとおじさんって知り合いだったの?」

アキラが素朴な疑問を投げかけた。
すると、長谷川さんは不思議な顔をした。

「アキラくんのおじさんなんですか? そうとは知らずに、わたくしは大変失礼なことを……」

「いや、おじさんと呼ばれていますが、違います。アキラくんのお姉さんの担任です」

「え、アキラくんのお姉さん? 君はアキラくんのお姉さんだったんですか。あのとき、ちっとも名乗らなかったから、知りませんでした。じゃ、もしかして……、君が美柑……ちゃん?」

「長谷川さん、どうして桜井の下の名前を……」

サトシが長谷川さんと話している間じゅう、ずっとサトシの陰に隠れていた桜井は、引きつった笑いで挨拶をした。

「へへへ、こんにちは。桜井美柑です。あの時は英会話に緊張してしまって、自己紹介もできなくてすみません。わたしの名前、アキラから聞いて知ったんですよね」

「桜井美柑ちゃん……」

長谷川は真剣な顔をして、サトシと桜井を応接室へと案内した。

「いつか美柑ちゃんには話さなければいけないと思っていました。ここですと、子供たちがいますから、こちらへどうぞ」




 応接室のソファーに腰を下ろすと、長谷川は話しはじめた。

「どこからお話していいのやら、この家へはどうやっていらしたんですか?」

「歩いて」

「先生、そう意味じゃないと思うよ」

「あ、そうか」

桜井は住所の書かれたメモを広げた。

「この紙、わたしのお母さんが書きました。何か困ったことがあったらここに行きなさいと言って、今は海外へ旅行中です」

「お母さんがそう言ったんですね。じゃあ、全てを話してもいいと言う意味でしょう。お母さんが旅行中というのは知っています。アキラくんを頼まれたのも、直接お母さんからです」

「お母さんを知っているんですか?」

「はい、君のお母さんとは大学生時代に知り合いました。わたし達は愛し合い、君のお母さんは君を身ごもり、そして結婚するつもりでした。ところが、親の反対にあって、お母さんとは別れさせられたのです」

サトシは驚いたが、ここで自分が驚いたら桜井が動揺すると思い、きわめて冷静沈着を装った。

「では、桜井美柑のお父さんは、つまり……長谷川さんだと」

「はい。その後、お母さんが女手ひとつでも子育てできるようにと、毎月の養育費を払い続けてきました」

「では、アキラくんのお父さんは誰かご存じですか」

「それも、わたしです」

「え? だって、アツシくんも長谷川さんのお子さんですよね」

「お恥ずかしい話ですが、その後お見合い結婚した妻の妊娠中に、また君のお母さんと付き合ってしまいました。妻には大変申し訳ないことをした」

「それで、奥様はなんと」

「妻は、知っていたのかもしれません。アツシが小学一年生のときに、病気で亡くなりました」

「それは、大変でしたね。そこからは、ひとりで子育てを?」

「はい、家政婦を雇ってなんとかやっています。それから、再び美柑ちゃんのお母さんとばったり会いまして、今も子供たちのことを二人で話しています」

「桜井、大丈夫か? もう帰ろうか」

サトシは何も言わなくなった桜井が心配だった。
桜井は極度のストレスを受けているはずだ。

「大丈夫です。だいたいわたしの察していた通りだったし。でも、なんで隠すのかな。お母さんも長谷川さんも酷いわ。わたしって、そんなに世間に知られてはまずい存在なの?」

「そんなことはない。美柑ちゃんという名前はわたしがつけました。アキラとアツシもわたしが名付けた。本当は自分の手元で育てたかった。しかし、世間の目に負けてしまった。弱いわたしが悪いのです」

「アキラはこの家で遊べて、純粋に喜んでいるみたい。お母さんだって、きっと長谷川さんのこと好きなんでしょ。 だから、今も交際を続けているんだわ。わたしだけ知らなかったなんてね。笑えるわ。へへへ、ほんとに悪いジョークだわ」

「お母さんには、改めて結婚を申し込みました。だけど、首を縦に振らなかった。『子供の養育費、教育にかかる費用、全部負担してね』と言われました。だから、私立学校の費用も……」

サトシは前に長谷川が言った言葉を思い出した。

「ああ、だから『白金女子学園に知り合いが通っています。いい学校です』と言っていたんですね。あのときの知り合いとは、桜井美柑のことだったんですか」

「そうです。愛情を注ぎたくてもできない。わたしはお金で応援することしかできなかったんです」

「もういいわ。わかりました。長谷川さん、アキラをよろしくお願いします。そして、わたしのお母さんと幸せになってください。失礼しました!」

桜井は応接室を飛び出し玄関口へと向かった。
そこへ、何も知らないアキラが、廊下を走って美柑に抱き着いてきた。

「おい、美柑、逃げるなよ。みんなで美味しいご飯でも食べに行こうぜ。きょうはアツシのパパがレストランにつれて行ってくれるんだぞ」

桜井はアキラをぎゅっと抱きしめた。

「お姉ちゃんが作るご飯より美味しいご飯、……あるんだねー。アキラ、ちゃんとアツシパパのいう事聞くのよ。あまり困らせたらダメよ」

「バカヤロー、僕はいい子なんだ。アツシパパを困らせるわけないだろ。なんなら、ここの家の子になってもいいんだぜ」

桜井はアキラの頬をひっぱたいた。

パチン!

「痛え! 何すんだよー! 」

桜井はポロポロと涙をこぼし、アキラはうわーーーんと大声で泣きはじめた。

「アキラ、ここの家の子になれてよかったね! じゃあ、いつまでもそうしてなさい。お姉ちゃんは、もう知らないから」

桜井はそう言って長谷川の家を飛び出した。

「桜井!」

サトシは桜井を追いかけようと、靴を履きながら長谷川に言った。

「あんたは、子供を愛していない!」

「佐藤さん、わたしは……」

「ごちゃごちゃ言うな。その言い訳がどれほど子供を傷つけるか、何もわかっていない!」

そう言うと、サトシは桜井を追いかけた。
サトシの背後でアキラが泣いている声が聞こえてくる。

「美柑のバカヤロー――! もう二度と来るなーーー! うわぁーん」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...