サトシ先生は美しき十代の乙女に手を出さない

白神ブナ

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第3章 一年三学期

第102話 ガトーショコラ持ってきちゃった。うふっ

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 サトシがお茶の準備をしていると、インターホンが鳴った。

「あ、来た」

先生たちは氷のように固まって、南極並みの冷たい空気が部屋を包んだ。
サトシが恐々玄関を開けると、桜井はスンとして立っていた。

「来たけど? でも、中には入れません。教頭先生に怒られるから」

「大丈夫、俺の他にも、大山先生と古松川先生がいるから。今、お茶を出そうとしていたんだ。中に入ってくれると嬉しいなぁ」

「お茶?……ですか」

「そ、お茶」

「……コーヒーがいいです」

「そっか、コーヒーね。コーヒー淹れようか」



 桜井がサトシの家のリビングに入ると、古松川先生がいきなり土下座をした。

「桜井さん、大変申し訳ございません! 桜井さんがサトシ先生にあげたチョコレートが、何故かわたしの机の上にありまして、勘違いしてしまいましたっ」

「はぁ?……」

「サトシ先生が帰ってから、学校でラッピングを解いて箱を開けまして……、桜井さんのメッセージカードを読む前に、わたしは一個食べてしまいました。申し訳ない!!」

「げっ! ナニコレ。やだ、古松川先生ったら、頭を上げてください」

大山先生がカバーに入った。

「古松川先生に悪気はないんだ。桜井とサトシ先生の仲を裂こうなんて思ってないから」

「なんだ、そんなことがあったんですか? じゃ、サトシ先生はわたしのチョコレートを受け取っていないんですね」

サトシも平に平に謝った。

「そういう事だ桜井。俺も何も言わなくて悪かった。どうか許してもらえないか」

「ということは、わたしが一番悪いわ。ああ、失敗した。朝一番に学校に行って、用務員のおじさんに『サトシ先生の机に置いてください』って頼んだのが間違いだったわ。用務員のおじさん、古松川先生の席と間違えたなんて……」

「桜井、用務員のおじさんに頼んだのか?」

桜井は大笑いしはじめた。
お腹を抱えて笑いながら、涙を流している。

「ひー、可笑しい。なにこれ、ウケるーー! ヒヒヒヒ、く、苦しい。笑い死んじゃう」

「大丈夫か、桜井」

「桜井、水を飲め、水だ」

「落ち着け! ゆっくり深呼吸するんだ。スッスッ、ハァー。スッスッ、ハァー」

「大山先生、それはラマーズ出産法」

慌てた先生たちから心配されている中、桜井は徐々に落ち着きを取り戻した。

「はぁ、はぁ、はぁ、……それで? サトシ先生は、何人の女子からチョコレートを何個もらったんですか? さあ、白状なさい」

「えっと、下校時に三人からで三個。それと今の桜井を入れて四個になりました」

「フフフ……では、他の女子からのチョコは、全てわたしが没収します。いいですね」

「はい、わかりました。あ、一人だけ『奥さんと一緒に食べてください』って言っていました」

「やだー、奥さんだなんてー。もう!」

桜井がデレるデレる。

「さてと、大山先生も古松川先生もお腹空いていませんか? みんなでこれを食べましょう」

桜井は持ってきた、紙袋から箱を取り出した。
そして、蓋を開けると、そこにはガトーショコラがまるごとホールで入っていた。

「おおおお!」

「お母さんのお店で、バレンタインデーになると出しているガトーショコラです。昨日からずっと何個も作り続けていたから疲れちゃった。これはその中の一個。どうぞ、召し上がれ」

「桜井が焼いたのか?」

「すごい」

「パティシエかよ」

「毎年、バレンタインはこれを焼くので大変なんですよ。だから本命の人に手作りチョコなんか作る暇も無いし、作って渡したことないんです。でも、今日はサトシ先生の家に先生方が揃ってるから、お母さんに事情を言って、一個持ってきちゃった。うふっ」




「だから、コーヒーって言ったのか」

(怒っておきながら、ちゃんと他の先生の事も考えてホールのガトーショコラを、「持ってきちゃった。うふっ」なんて反則だろ)

大山先生も古松川先生もキュンとなった。

桜井はガトーショコラを先生たちと分け合うと、サトシと楽しそうに食べ始めた。

「なんだよ。用務員のおじさんのミスかよ」

「うん。来年からは、用務員のおじさんに頼むの、やめようっと」

「でも、悪気はないんだから、責めるのはかわいそうだよ。ってか、来年もあると思っていいんだな」

「予定はあくまでも予定であって未定です。でも、用務員のおじさんのおかげで、こんな楽しい思い出ができたし。今年はラッキーってことで」



 古松川先生と大山先生は、サトシと桜井のやり取りを見ていて羨ましくなってきた。

「サトシ先生、羨ましいなぁ。こんなに可愛い生徒の受け持ちになるなんて」

「受け持ちになっただけじゃなくて、婚約したんですよ、大山先生。サトシ先生は勝ち組ですよ」

「うむ。俺だって、桜井がスナックびわのママさんの娘さんと知っていたら、先に付き合ったかもしれない」

「ダメです! 大山先生。やめてくださいよ。絶対に阻止しますからね」

サトシは、学校以外の桜井の顔を、他の先生に見られたくなかった。

(学校以外の桜井を知っているのは、俺だけなんだから)

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