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第4章 二年一学期
第115話 個人情報カードと志望校調査票
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新しく受け持った二年C組でのHRが終わって、サトシは職員室に戻って来た。
新しい学級委員長や、委員が決まり滑り出しは好調だった。
「サトシ先生、桜井のことで何か聞いていますか?」
隣の席の青柳先生に話しかけられたサトシは、桜井の名前が出てドキッとした。
「何かってなんでしょう。何か変わったことでもありましたか」
「個人情報カードと志望校調査票を渡したんですが、なんだか表情が暗いんですよね」
「まだ、進路が決まってないからじゃないですかね」
「そうかもしれませんが、個人情報カードで暗くなるって何かあるんですかね」
個人情報カードとは、生徒の名前、生年月日、住所、家族構成、連絡先などを入学時に記入してもらったものだ。
進級にあたり、一旦生徒に返して変更があったら書いてもらう。
サトシは、もしかして家族構成かなと思った。
桜井の母親が長谷川さんと入籍するとは聞いていたが、それがいつとは聞いていなかったが。
心当たりと言ったらそれしかない。
「桜井なら持ち帰って、家族と話してから記入して持ってくると思いますよ」
「サトシ先生なら、何か知っているかと思ったんですが、意外と知らないんですね」
青柳先生の言葉にサトシはカチンときたが、ぐっと堪えて大人の対応をした。
「はい、意外と知りません」
「大丈夫ですか? 聞いていますよ、桜井と結婚を前提に付き合ってらっしゃるんでしょう?」
「大丈夫です。桜井は困ったことがあったら、自分から言ってきますから。こちらから無理に聞き出すことはしません」
「余裕ですね」
「……それ、嫌味で言ってます?」
「いいえ、褒めているんです」
(こ・い・つ! やっぱりわからねーー)
「それはどうも」
内心腹を立てながらも、サトシは満面の笑みを返した。
その日の夕方、サトシは学校から携帯で桜井に電話した。
「もしもし、先生だけど、何か困っていないか?」
―「えええええー! なんでわかるんですかぁ?」
「いや、その、青柳先生が心配していたから」
―「ああ、なんだ、そういうことか。愛のテレパシーかと思った」
「残念ながら違う」
電話の奥で、桜井の母の声が聞こえて来た。
―「美柑、だあれ? サトシ先生?」
―「そうだよ。ちょっと、うるさい。黙っててよ」
―「あら、お母さんもサトシ先生とお話したいわ」
―「何言ってんのよ。ふざけないでよ」
―「ちょっと、電話貸して、美柑」
―「お母さん、やめてよ」
保護者が話したいと言うのには、理由があるに違いないとサトシは思った。
「桜井、ちょっとお母さんと代わってくれるかな」
―「えええ、もう! わかりましたっ」
怒りながら桜井は母に携帯を渡した。
―「いつもお世話になっております。桜井美柑の母でございます」
「いえいえ、こちらこそお世話になりっぱなしで、申し訳ありません」
―「クラス替えでサトシ先生が担任じゃなくなってしまって、残念です」
「はぁ、わたくしも残念ですが、新しい担任も一生懸命やっていますので、ご安心ください」
―「それが、家の事情を説明するとなりますと、ややこしい話ですからね。娘から新しい先生には言いにくいこともありまして……」
サトシは、桜井の母の話を聞いて、やはりこれが原因だと確信した。
「お母さん、何か、ありましたか?」
―「ええ、このたび長谷川とわたしが入籍することになりまして、それにあわせて引っ越そうかと思いましてね」
「え? どこか遠い所に引っ越すんですか?」
―「まさか。長谷川の家にわたしと子供たちが引っ越すんですよ。家族同じ家で暮らそうと、ただそれだけなんです」
「あ、なんだ。じゃ、学校はアキラくんもお嬢さんも変わらないんですね」
―「ええ、これからもよろしくお願いします」
「ああ、よかった。こちらこそよろしくお願いします」
―「で、名前なんですけど、わたしと息子は長谷川になるんですが、娘だけ桜井の戸籍のままにしようかと。弁護士の先生とも話し合っております」
「あ、そうですか。でも、それでお嬢さんは納得しているんですか?」
―「いいみたいですよ。サトシ先生と結婚したらまた苗字変わるから、桜井のままでいいって」
「あ、そこまで考えていたんですね」
―「それに、娘はこれから受験とかありますでしょ。手続きとかなんかで複雑なことは避けたいんですの」
「はぁ……」
―「長谷川は、当初の約束通り、大学を卒業するまで学費を払うって言ってくれてるんですが、娘が遠慮しちゃって」
「学費を払ってもらうことに遠慮しているんですか?」
―「あの子だって、本当はやりたいことがあると思うんですが、進学しないとか言い出しまして……」
「大学受験しないと?」
―「ええ、就職するとか言い出しましてね。先生、あの子の本当の気持ちを聞いてくださいませんか?」
「わかりました。今夜、そちらに伺います。あ、お母さんはお仕事に行かれますか?」
―「わたしが居たらどうせ喧嘩になりますから、仕事に行きますわ。どうか話を聞いてやってください。先生、こちらで夕飯でも召し上がって、よければ泊っても。とにかく、よろしくお願いします」
「そんな図々しいことはできませんよ。でも話は聞きますから。こちらこそよろしくお願いします」
―「では、美柑に代わりますね。美柑、もういいわよー。美柑!」
電話は母親から桜井に代わった。
ー「先生、ごめんね。うちの親がでしゃばって」
「今夜、そっち行くから。お母さんにもそのこと話したから」
ー「本当? やった! じゃ、今夜は肉じゃがにするね。待ってまーす」
「肉じゃが! よしっ。今から急いで帰る」
サトシが職員室に戻って、パソコンを落し机の上を整理していると、青柳先生が驚いて見ていた。
「サトシ先生、今日はもう終わりですか? 早いですね」
「えっと、ちょっと急用が入って……」
「もう仕事終わったんですか。さすがです」
「いや、終わってないけど、後は明日の朝に早く来てやります」
古松川先生はずっと様子を見ていて、サトシが急ぐ理由を察していた。
「行けるときにいった方がいいですよ。わたしも今夜は大山先生と例の店に行こうかなぁ」
「ありがとうございます。古松川先生。じゃ、お先に失礼します」
サトシは、古松川先生がスナックびわでお母さんと話してくれるなら、心強いと思った。
新しい学級委員長や、委員が決まり滑り出しは好調だった。
「サトシ先生、桜井のことで何か聞いていますか?」
隣の席の青柳先生に話しかけられたサトシは、桜井の名前が出てドキッとした。
「何かってなんでしょう。何か変わったことでもありましたか」
「個人情報カードと志望校調査票を渡したんですが、なんだか表情が暗いんですよね」
「まだ、進路が決まってないからじゃないですかね」
「そうかもしれませんが、個人情報カードで暗くなるって何かあるんですかね」
個人情報カードとは、生徒の名前、生年月日、住所、家族構成、連絡先などを入学時に記入してもらったものだ。
進級にあたり、一旦生徒に返して変更があったら書いてもらう。
サトシは、もしかして家族構成かなと思った。
桜井の母親が長谷川さんと入籍するとは聞いていたが、それがいつとは聞いていなかったが。
心当たりと言ったらそれしかない。
「桜井なら持ち帰って、家族と話してから記入して持ってくると思いますよ」
「サトシ先生なら、何か知っているかと思ったんですが、意外と知らないんですね」
青柳先生の言葉にサトシはカチンときたが、ぐっと堪えて大人の対応をした。
「はい、意外と知りません」
「大丈夫ですか? 聞いていますよ、桜井と結婚を前提に付き合ってらっしゃるんでしょう?」
「大丈夫です。桜井は困ったことがあったら、自分から言ってきますから。こちらから無理に聞き出すことはしません」
「余裕ですね」
「……それ、嫌味で言ってます?」
「いいえ、褒めているんです」
(こ・い・つ! やっぱりわからねーー)
「それはどうも」
内心腹を立てながらも、サトシは満面の笑みを返した。
その日の夕方、サトシは学校から携帯で桜井に電話した。
「もしもし、先生だけど、何か困っていないか?」
―「えええええー! なんでわかるんですかぁ?」
「いや、その、青柳先生が心配していたから」
―「ああ、なんだ、そういうことか。愛のテレパシーかと思った」
「残念ながら違う」
電話の奥で、桜井の母の声が聞こえて来た。
―「美柑、だあれ? サトシ先生?」
―「そうだよ。ちょっと、うるさい。黙っててよ」
―「あら、お母さんもサトシ先生とお話したいわ」
―「何言ってんのよ。ふざけないでよ」
―「ちょっと、電話貸して、美柑」
―「お母さん、やめてよ」
保護者が話したいと言うのには、理由があるに違いないとサトシは思った。
「桜井、ちょっとお母さんと代わってくれるかな」
―「えええ、もう! わかりましたっ」
怒りながら桜井は母に携帯を渡した。
―「いつもお世話になっております。桜井美柑の母でございます」
「いえいえ、こちらこそお世話になりっぱなしで、申し訳ありません」
―「クラス替えでサトシ先生が担任じゃなくなってしまって、残念です」
「はぁ、わたくしも残念ですが、新しい担任も一生懸命やっていますので、ご安心ください」
―「それが、家の事情を説明するとなりますと、ややこしい話ですからね。娘から新しい先生には言いにくいこともありまして……」
サトシは、桜井の母の話を聞いて、やはりこれが原因だと確信した。
「お母さん、何か、ありましたか?」
―「ええ、このたび長谷川とわたしが入籍することになりまして、それにあわせて引っ越そうかと思いましてね」
「え? どこか遠い所に引っ越すんですか?」
―「まさか。長谷川の家にわたしと子供たちが引っ越すんですよ。家族同じ家で暮らそうと、ただそれだけなんです」
「あ、なんだ。じゃ、学校はアキラくんもお嬢さんも変わらないんですね」
―「ええ、これからもよろしくお願いします」
「ああ、よかった。こちらこそよろしくお願いします」
―「で、名前なんですけど、わたしと息子は長谷川になるんですが、娘だけ桜井の戸籍のままにしようかと。弁護士の先生とも話し合っております」
「あ、そうですか。でも、それでお嬢さんは納得しているんですか?」
―「いいみたいですよ。サトシ先生と結婚したらまた苗字変わるから、桜井のままでいいって」
「あ、そこまで考えていたんですね」
―「それに、娘はこれから受験とかありますでしょ。手続きとかなんかで複雑なことは避けたいんですの」
「はぁ……」
―「長谷川は、当初の約束通り、大学を卒業するまで学費を払うって言ってくれてるんですが、娘が遠慮しちゃって」
「学費を払ってもらうことに遠慮しているんですか?」
―「あの子だって、本当はやりたいことがあると思うんですが、進学しないとか言い出しまして……」
「大学受験しないと?」
―「ええ、就職するとか言い出しましてね。先生、あの子の本当の気持ちを聞いてくださいませんか?」
「わかりました。今夜、そちらに伺います。あ、お母さんはお仕事に行かれますか?」
―「わたしが居たらどうせ喧嘩になりますから、仕事に行きますわ。どうか話を聞いてやってください。先生、こちらで夕飯でも召し上がって、よければ泊っても。とにかく、よろしくお願いします」
「そんな図々しいことはできませんよ。でも話は聞きますから。こちらこそよろしくお願いします」
―「では、美柑に代わりますね。美柑、もういいわよー。美柑!」
電話は母親から桜井に代わった。
ー「先生、ごめんね。うちの親がでしゃばって」
「今夜、そっち行くから。お母さんにもそのこと話したから」
ー「本当? やった! じゃ、今夜は肉じゃがにするね。待ってまーす」
「肉じゃが! よしっ。今から急いで帰る」
サトシが職員室に戻って、パソコンを落し机の上を整理していると、青柳先生が驚いて見ていた。
「サトシ先生、今日はもう終わりですか? 早いですね」
「えっと、ちょっと急用が入って……」
「もう仕事終わったんですか。さすがです」
「いや、終わってないけど、後は明日の朝に早く来てやります」
古松川先生はずっと様子を見ていて、サトシが急ぐ理由を察していた。
「行けるときにいった方がいいですよ。わたしも今夜は大山先生と例の店に行こうかなぁ」
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サトシは、古松川先生がスナックびわでお母さんと話してくれるなら、心強いと思った。
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