サトシ先生は美しき十代の乙女に手を出さない

白神ブナ

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第4章 二年一学期

第135話 緊急職員会議・サトシ先生の辞職願

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 「そろそろ結論が出たようですね。他の先生がたも」

 教頭は、緊急職員会議の結論を出そうとしていた。
教員たちは、それぞれがそれぞれの意見を話していた。

「そもそも、教員と結婚を前提とした付き合いなど許されないのでは」
「週刊誌のネタにでもされたら、この学校は終わりですね」
「来年度の志願者数にも影響が」
「しかし、具体的な根拠に欠けるのでは」
「サトシ先生はどういう考えなんでしょう」
「サトシ先生なら大丈夫と思っていましたが、本人が退学を希望しているのならしょうがないでしょう」

教員たちの声をじっと聞いていたサトシは、静かに挙手した。

「教頭先生、よろしいでしょうか」

「はい、サトシ先生」

「桜井美柑を卒業させてください!」

「問題の当事者からそう言われましても……」

「このたびは、学校の教職員のみなさまに大変ご迷惑をおかけしました。その責任をわたしに取らさせてください。これを」

サトシは、校長の前まで進んで、辞職願を差し出した。

「ん? これは」

「わたしが校長先生に、桜井とのことを相談した時、お約束した通りです。責任を取って辞めさせていただきます」




「「「サトシ先生! まさか!!」」」

教職員たちはみな驚き、その場にいた長谷川までもが叫んでしまった。

 その時だった。
職員室のドアがバーーンと開いて、桜井が現れた。

「遅れて申し訳ありません! 会議中にお邪魔します!」

桜井の後ろから汗だくでヨレヨレになった青柳先生が、おぼつかない足取りで職員室に入ってきた。

「遅くなりました。桜井を迎えに行ってました」

「青柳先生……帰ってしまったのかと」
「桜井美柑を迎えに行ってたんですか」
「やるじゃないですか、青柳先生」

教頭は、桜井の登場に一瞬焦った。
長谷川は、わが娘の登場に希望の光を見た。

「美柑ちゃん! よく来た!」




桜井は教頭の前まで進み出ると、声高々に宣言した。

「わたし、退学しません!! ちゃんと卒業まで、頑張りますっ」

青柳先生は、桜井の宣言に感動して思わず目が潤んでしまった。

「よく言った、桜井……」

しかし、職員室の空気は重かった。
その重い空気に気が付いた青柳先生は、戸惑った。

「あ、あれ? みんな喜ばないの? 桜井を連れて来たのに。僕頑張ったよ」

教頭は落ち着きを取り戻し、青柳先生を一瞥すると言った。

「残念。遅かったですわね。たった今、サトシ先生が辞職願を出されました」

青柳先生は、目の前がクラクラした。

「遅かったか……」

桜井は、後頭部を誰かに殴られたようなショックを受けて、座り込んだ。

「嘘でしょ。サトシ先生、嘘でしょ! 嘘だと言ってください!! うわーーーん、わたしったらなんてことをしてしまったの。サトシ先生、辞めちゃいやぁーー!」

「桜井、いいんだこれで。これで、君は無事にこの学校を卒業できる」

桜井は自分を責めた。
自分が言った一言で、こんなに大問題になって、一番大事なサトシまで失ってしまうとは思ってもいなかった。

「わたしって、なんて馬鹿なの。うっ、うっ、うっ……」



 桜井がまだ泣きやまないうちに、事務局の職員が、職員室の扉を開けて入って来た。

「すみません、失礼します。校長先生、たった今、理事長がお見えになりました」

教頭は、事務局の職員をにらんだ。

「今、大事な会議の途中です。申し訳ありませんが、理事長は応接室でお待ちいただいて……」

教頭の言葉を遮って、校長は事務員に言った。

「いや、理事長はこの会議に出席するために来たんです。どうぞ、お通しください」

「は? 校長先生? 理事長までお呼びになったんですか?」

「いいえ、今朝、理事長の方から連絡を受けましてね。ぜひ、この緊急会議に出席したいと」

職員室の中はざわついた。

すると、黒いスーツに身を包んだ、立派な老紳士が秘書を伴ってやってきた。
職員一同、起立して理事長をお迎えした。

「いやあ、もっと早く来るつもりでしたが、遅くなってしまいました。皆さん、どうぞ着席してください」

校長は、にこやかに理事長の席を案内した。

「理事長、すみません。ご足労頂いて」

「いや、何。サトウホールディングスの社長につつかれましてね。何やら、管理職による理不尽な行動で、ある生徒が退学させられるとか何とか。その生徒が、どうやらご子息の大切な許婚だって言うじゃありませんか。管理職というから、てっきりパワハラしたのは校長かと思いましたよ。アハハハ」

校長は髪の毛のない頭を掻きながら、笑った。

「いやあ、わたしも信用されておりませんな。ハハハ」

すると、理事長と呼ばれた老紳士は、机の上にあった辞職願に気が付き、とたんに顔を曇らせた。

「何だねこれは」
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