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第4章 二年一学期
第141話 それでも大学受験します?
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桜井が風呂に入っている間に、サトシはレイコ姉さんに電話した。
「レイコ姉さん、久しぶり。サトシだけど」
―「あぁ? こっちは何時だと思っているのよ。こんな時間に何?」
ロサンゼルスにいるレイコ姉さんは、寝ている所を起こされて不機嫌だった。
「そっちは、朝?」
―「朝も朝、早朝の5時半よ。ふあぁ……」
「ごめん。ちょっと相談に乗ってほしくて」
―「んー? サトシがわたしに相談ということは、もしかして桜井さんのこと?」
「そ、そう。よくわかったな」
―「まさか、腹ませたとか?」
「何言ってんだよ。そんなことあるわけないだろ!」
―「じゃあ、別れた?」
「イマジネーションの振り幅が両極端だ。その真ん中はないのかよ」
―「真ん中はバリエーションが豊かで、予想不可能。そっちから言ってくれなきゃ、わかんないわよ」
サトシは、桜井が大学進学に興味を持ち、特にJ大学について関心があることを説明した。
―「ふうーん。で? サトシはどうなのよ」
「もちろん、応援するに決まっているじゃないか。桜井の夢は僕の夢だ」
―「は? 何をカッコつけているの? 全く心に響かないわ。ダサいの極み」
「響かなくても、俺は教師である以上、進路の相談に乗るのは当たり前だろ」
サトシが自分の意見をはっきり述べると、レイコ姉さんからの返事は止まってしまった。
しばらく無言が続いたので、サトシは電話が切れたのかと思った。
「もしもし?」
―「あのねぇ、サトシは本当にそれでいいの?」
「え?」
―「悩んでいるから、電話してきたんじゃないの?」
「えっと、桜井の英語指導に協力してほしくて……」
―「だからぁ! サトシは本当にそれでいいのか聞いているの!」
「はい、いいと思います」
―「教師としてのサトシに聞いても埒が明かないわ。結婚を前提に高校生と付き合っているサトシに質問!」
「素顔の俺?」
―「いい? 大学に合格したら、結婚して大学に通うことになるんだよ、桜井さんは。途中で妊娠したら、どうするの? 休学させるの?」
「そこは……、避妊します。恥ずかしい事聞かないでくれ」
―「あら大事な事よ。妊娠したら女は大変なのよ。それに、桜井さんは大学で学ぶうちに、留学したいと思うかもしれない。
「留学……、確かにJ大学なら可能性があるな」
―「短期か中期か、それとも長期か、わからないけれども、留学期間はサトシと離れ離れになる覚悟はできてる?」
「できてない……です」
―「だからさぁ、甘いのよ。桜井さんが大学を無事卒業までが大変よ。それでも彼女を大学受験させる覚悟はあるの?」
「わからない。俺の中に教師である自分と、恋人である自分がいて、客観的に判断できない」
―「でしょうね。それが相談内容ってわけね。女の子はね、大変なのよ。わたしだって、大学卒業して働いているうちに、婚期を逃し子供を産めるチャンスまで逃しつつあるのよ。桜井さんには普通にお嫁さんになって欲しいわぁ」
日本では、まだまだ学生が結婚して子供を産んだときのサポート体制はない。
レイコ姉さんの言うとおり、桜井が結婚して大学生活を送るのは厳しい道のりだ。
サトシは現実を突きつけられた気がした。
「桜井を幸せにしたいんだ」
―「もし、桜井さんが海外で働く道を選んだらどうするの? 教師やめて一緒に海外移住するの? それとも、離れたまま教師生活を続けるの?」
「その先は、……未来ある桜井の方を優先する。とにかく、俺のせいで夢を諦めさせたくない」
―「まあ、これからも迷い続けるかもね。何が正解かなんて、長い月日が経たないとわからないしね。とりあえず、協力はするわ」
「ありがとう、レイコ姉さん」
―「英語の勉強なら、サポートできるわよ。わたしの仕事場に、バイトに来ている日本人留学生がいるの。過去に留学経験なし、しかも進学校でもない高校から現役でJ大学に受かった努力家よ。その子から、英語の勉強方法や、レッスンを受けるといいかもね」
「そんな留学生がいるのなら、是非頼みたいな」
―「今、大学三年生だから、最近受験を経験したばかり。今どきの受験情報を知っていると思うのよね」
「その点も頼もしいな。で? 謝礼はどれくらい?」
―「それは、わたしから払っておくわ」
「それは悪いから、帰国したら請求してくれよ」
―「そうね。その時のリベートでいいわ。とにかく、彼ならうまくレッスンしてくれると思うわ」
「彼? 男か?」
―「なーに? 心配してるの、サトシ。大丈夫よぉ」
「そいつは、かっこいいのか? 画面に映るんだよな」
―「そうねぇ、かっこいい部類に入るかな? 歌もめちゃくちゃうまいし、とても面白い子よ」
「その男以外に、頼める人はいないのか」
―「ないわね。余計な心配しないでサトシ。彼はゲイだから」
「あ……そうなんだ」
―「安心した? 今日さっそく頼んでみるね。zoomで授業という形でいいかしら。週2回くらいで」
「そうだね。桜井にも伝えておく」
―「ねえ、いないの? いるんでしょ、桜井さん。出してよ」
「待って。今、お風呂からあがったみたいだから」
サトシは、携帯電話を持ってバスルームの前まで移動した。
「桜井、お風呂からあがったかぁ? レイコ姉さんから電話だけど、出る? それとも後にする?」
桜井はバスタオルを巻いたままの姿で、バスルームから飛び出してきた。
「マジで?! 話したーい!」
濡れた髪からは、まだ雫が垂れている。
「おい! なんちゅう恰好! 脱衣室で電話してていいから、こっちに来るな!」
桜井は、サトシの言うことなど気にも留めず、サトシから携帯を奪い取ると、レイコ姉さんと話し始めた。
「レイコ姉さーん、おひさしぶりでーーーす!」
―「桜井さん、大声で音が割れてるわよ。相変わらず元気ね。サトシにあらぬ姿を晒してるんじゃないでしょね」
「あ……、晒してましたぁー。アハハハ!」
サトシは、半裸の彼女のためにバスローブを持ってきてかけてやった。
そして、後ろから丁寧にタオルで髪の水分を拭き取ってから、ドライヤーで乾かしてやった。
「晒してましたーじゃないよ。風邪ひくだろ」
「アハハ―、ほんとだねー。レイコ姉さん、サトシ先生って優しいよぉ。髪乾かしてくれてるの」
―「……桜井さん、あんたって無敵だわ」
レイコ姉さんは、桜井なら今後どんなことがあっても、サトシとうまくやっていけそうな気がした。
「レイコ姉さん、久しぶり。サトシだけど」
―「あぁ? こっちは何時だと思っているのよ。こんな時間に何?」
ロサンゼルスにいるレイコ姉さんは、寝ている所を起こされて不機嫌だった。
「そっちは、朝?」
―「朝も朝、早朝の5時半よ。ふあぁ……」
「ごめん。ちょっと相談に乗ってほしくて」
―「んー? サトシがわたしに相談ということは、もしかして桜井さんのこと?」
「そ、そう。よくわかったな」
―「まさか、腹ませたとか?」
「何言ってんだよ。そんなことあるわけないだろ!」
―「じゃあ、別れた?」
「イマジネーションの振り幅が両極端だ。その真ん中はないのかよ」
―「真ん中はバリエーションが豊かで、予想不可能。そっちから言ってくれなきゃ、わかんないわよ」
サトシは、桜井が大学進学に興味を持ち、特にJ大学について関心があることを説明した。
―「ふうーん。で? サトシはどうなのよ」
「もちろん、応援するに決まっているじゃないか。桜井の夢は僕の夢だ」
―「は? 何をカッコつけているの? 全く心に響かないわ。ダサいの極み」
「響かなくても、俺は教師である以上、進路の相談に乗るのは当たり前だろ」
サトシが自分の意見をはっきり述べると、レイコ姉さんからの返事は止まってしまった。
しばらく無言が続いたので、サトシは電話が切れたのかと思った。
「もしもし?」
―「あのねぇ、サトシは本当にそれでいいの?」
「え?」
―「悩んでいるから、電話してきたんじゃないの?」
「えっと、桜井の英語指導に協力してほしくて……」
―「だからぁ! サトシは本当にそれでいいのか聞いているの!」
「はい、いいと思います」
―「教師としてのサトシに聞いても埒が明かないわ。結婚を前提に高校生と付き合っているサトシに質問!」
「素顔の俺?」
―「いい? 大学に合格したら、結婚して大学に通うことになるんだよ、桜井さんは。途中で妊娠したら、どうするの? 休学させるの?」
「そこは……、避妊します。恥ずかしい事聞かないでくれ」
―「あら大事な事よ。妊娠したら女は大変なのよ。それに、桜井さんは大学で学ぶうちに、留学したいと思うかもしれない。
「留学……、確かにJ大学なら可能性があるな」
―「短期か中期か、それとも長期か、わからないけれども、留学期間はサトシと離れ離れになる覚悟はできてる?」
「できてない……です」
―「だからさぁ、甘いのよ。桜井さんが大学を無事卒業までが大変よ。それでも彼女を大学受験させる覚悟はあるの?」
「わからない。俺の中に教師である自分と、恋人である自分がいて、客観的に判断できない」
―「でしょうね。それが相談内容ってわけね。女の子はね、大変なのよ。わたしだって、大学卒業して働いているうちに、婚期を逃し子供を産めるチャンスまで逃しつつあるのよ。桜井さんには普通にお嫁さんになって欲しいわぁ」
日本では、まだまだ学生が結婚して子供を産んだときのサポート体制はない。
レイコ姉さんの言うとおり、桜井が結婚して大学生活を送るのは厳しい道のりだ。
サトシは現実を突きつけられた気がした。
「桜井を幸せにしたいんだ」
―「もし、桜井さんが海外で働く道を選んだらどうするの? 教師やめて一緒に海外移住するの? それとも、離れたまま教師生活を続けるの?」
「その先は、……未来ある桜井の方を優先する。とにかく、俺のせいで夢を諦めさせたくない」
―「まあ、これからも迷い続けるかもね。何が正解かなんて、長い月日が経たないとわからないしね。とりあえず、協力はするわ」
「ありがとう、レイコ姉さん」
―「英語の勉強なら、サポートできるわよ。わたしの仕事場に、バイトに来ている日本人留学生がいるの。過去に留学経験なし、しかも進学校でもない高校から現役でJ大学に受かった努力家よ。その子から、英語の勉強方法や、レッスンを受けるといいかもね」
「そんな留学生がいるのなら、是非頼みたいな」
―「今、大学三年生だから、最近受験を経験したばかり。今どきの受験情報を知っていると思うのよね」
「その点も頼もしいな。で? 謝礼はどれくらい?」
―「それは、わたしから払っておくわ」
「それは悪いから、帰国したら請求してくれよ」
―「そうね。その時のリベートでいいわ。とにかく、彼ならうまくレッスンしてくれると思うわ」
「彼? 男か?」
―「なーに? 心配してるの、サトシ。大丈夫よぉ」
「そいつは、かっこいいのか? 画面に映るんだよな」
―「そうねぇ、かっこいい部類に入るかな? 歌もめちゃくちゃうまいし、とても面白い子よ」
「その男以外に、頼める人はいないのか」
―「ないわね。余計な心配しないでサトシ。彼はゲイだから」
「あ……そうなんだ」
―「安心した? 今日さっそく頼んでみるね。zoomで授業という形でいいかしら。週2回くらいで」
「そうだね。桜井にも伝えておく」
―「ねえ、いないの? いるんでしょ、桜井さん。出してよ」
「待って。今、お風呂からあがったみたいだから」
サトシは、携帯電話を持ってバスルームの前まで移動した。
「桜井、お風呂からあがったかぁ? レイコ姉さんから電話だけど、出る? それとも後にする?」
桜井はバスタオルを巻いたままの姿で、バスルームから飛び出してきた。
「マジで?! 話したーい!」
濡れた髪からは、まだ雫が垂れている。
「おい! なんちゅう恰好! 脱衣室で電話してていいから、こっちに来るな!」
桜井は、サトシの言うことなど気にも留めず、サトシから携帯を奪い取ると、レイコ姉さんと話し始めた。
「レイコ姉さーん、おひさしぶりでーーーす!」
―「桜井さん、大声で音が割れてるわよ。相変わらず元気ね。サトシにあらぬ姿を晒してるんじゃないでしょね」
「あ……、晒してましたぁー。アハハハ!」
サトシは、半裸の彼女のためにバスローブを持ってきてかけてやった。
そして、後ろから丁寧にタオルで髪の水分を拭き取ってから、ドライヤーで乾かしてやった。
「晒してましたーじゃないよ。風邪ひくだろ」
「アハハ―、ほんとだねー。レイコ姉さん、サトシ先生って優しいよぉ。髪乾かしてくれてるの」
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