サトシ先生は美しき十代の乙女に手を出さない

白神ブナ

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第4章 二年一学期

第146話 サトシ先生を田舎へ連れ出せ

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 ピンポーン
サトシは玄関のチャイムで起こされた。
ベッドから起き上がると、二日酔いで頭がズキズキした。

(痛っ)

ピンポーン! ピンポーン、ピンポーン!

チャイムが連打されるたびに、頭に響く。

(誰だよ。せっかくの休みにこんな朝早く)

サトシが寝起きで玄関のドアを開けると、桜井が立っていた。

「あっ……」

「おはようございます。先生、寝起きですか?」

「はは、あぁその……、昨夜飲み過ぎてしまって」

「知ってます。お母さんから聞きました。今日来たのは、工藤先生からサトシ先生を引っ張り出してくださいって頼まれたんです」

「工藤先生? 引っ張り出す?」

そこへ、桜井の母親が顔を出した。

「おはようございます、サトシ先生。今日から長谷川の運転で田舎の方へ家族旅行なんですの。工藤先生が、サトシ先生を絶対連れて行けって昨夜お店で暴れたもんですから」

「は?」

「さぁさ、早く支度してください。荷物は要りませんから。美柑、先生の身支度を手伝ったら、車に連れてきてちょうだい」

「ウザい……わかったわよ。じゃ、先生、お邪魔しまーす」

サトシは、何が何だかわからず、ボサボサの頭を掻きながら突っ立っていると、桜井が強引に家の中に入って来た。

「うわー! しばらく来ていない間に、部屋が凄いことになってる。掃除してないのですか? ダメじゃん」

「桜井の家族旅行に、俺が一緒に行くのか?」

「そうですよ。とにかく早く着替えて! 荷物は最小限でいいですから」

「……ああ、とりあえず、わかった」

サトシにとって、久しぶりに見る桜井の姿だった。
工藤先生が言っていた通り、少し痩せたように見えたが、相変わらずはきはきした言い方は何も変わっていないように思えた。

サトシは、カジュアルな服に着替えて洗面台に立って鏡を覗き込むと、桜井がせっせとリビングに脱ぎ捨ててあった服をまとめて洗濯機に入れている背中が見えた。
そんな桜井の姿を見て、サトシは愛しくてしょうがなかった。

(桜井が何を考えているのか知りたい。俺も俺だ。そんなことはわかり切っているのに。どうしてこんなに不安になっているのか……)

「先生、準備できた? 行くよ」

荷物を持って玄関から出ようとした桜井だったが、それをサトシは玄関のドアにドンッと手を付いて止めた。
桜井は驚いて、振り返った。
怯えるように見上げている桜井の顔を、サトシはじっと見つめた。

「嘘だね」

桜井は、サトシに今まで見たことも無い大人の男性を見て、動揺した。

「工藤先生に言われたから、俺を連れ出す? 違うよね。俺に会いに来たんだろ。桜井は人に言われただけで行動する子じゃない」

「先生、まだ酔ってる?」

「俺は素面(しらふ)だ。君は久しぶりに俺の家に来ても、明日からまた俺の事なんか忘れてしまうじゃないのか?」

桜井は真っ赤になりながら言い返した。

「先生のこと、忘れたことなんかないし、これからも忘れるなんてありえないけど?!」

言い返した桜井は、自らサトシの背中に腕を回すと、そのまま抱き着いた。
サトシは、久しぶりに嗅ぐ桜井の匂いに安心した。

「ごめん。怒るつもりはなかった」

「うん、わかってます。行こ。先生」



 長谷川はバンの運転席で待っていた。
助手席には母親、弟たちはその後ろ、最後尾の桜井の横にサトシがお邪魔する形で乗り込んだ。

「すみません、家族旅行にお邪魔してしまいまして」

「あら、サトシ先生はもう家族でしょ」

「そうですよ。お父様からもよろしく頼むと言われました」

「親父から? 工藤と言い親父と言い……。全くおせっかいだな」

桜井の弟アキラとアツシは、はしゃいでいた。

「おじさんが一緒だ! やったぜ!」

「アキラ、先生を困らすんじゃないわよ」

「何言ってんだ、美柑。僕たちはおじさんの子分だよ。おじさん、美柑がわがまま言ったら言ってくれ。僕たちがやっつけてやるから」

「ありがとう、アキラくん」

サトシは心強い子分を持って、なんて幸せなんだろうと苦笑した。



 車は山梨県へと入った。
行先は、桜井の母親の実家だった。
自然豊かな田園地帯にある兼業農家の家だった。
そこでは、桜井の祖父母も健在で、娘と孫たちと婿の帰りを待っていた。

「よく来たねぇ。長谷川さんも美柑もアキラも。アツシくんは、初めましてだね。それから……」

お邪魔虫のサトシは、祖父母に挨拶した。

「すみません。関係も無いのにお邪魔しております。美柑さんの……」

サトシはそこまで言いかけて、なんて自己紹介したらいいものか戸惑って、言葉に詰まってしまった。
そこへ、すかさず桜井が割って入って堂々とサトシを紹介した。

「お爺ちゃん、わたしのこ、婚約者よ。許婚のサトシさん」

「おんや、まあ、驚いた。そうかい、美柑。これはどうも……遠くからこんな田舎へご苦労さんでした」

「佐藤サトシといいます。よろしくお願いいたします」

「こちらこそ。サトシさん、美柑をよろしくお願いしますね」

サトシは、桜井が祖父に自分を許婚と紹介したことに、ほっとした。


桜井の祖父の家にはスモモが生り、車で行った斜面にはぶどう園があった。
みんなでぶどう狩りして、楽しんでいると桜井の母親が言った。

「ここじゃ、桃とぶどうは買うもんじゃないの。もらう物なのよ」

「え、そうなんですか? お母さん」

その後、サトシはアキラたちに引っ張られて、ぶどう園の中を散々歩きまわされた。
桜井は祖父のそばで、ぶどうの袋入れ作業を手伝っていた。


 夕食は祖母の手料理だった。

「田舎なもんで、こんな料理しかないんだけど、お口に合うかしらね。サトシさん」

大皿に盛られた、唐揚げや、稲荷寿司、ポテトサラダに煮物、どれも料理は美味しかった。
味付けが桜井とよく似ていた。
桜井の料理の腕は、お婆ちゃん譲りなのかもしれない。

桜井は、田舎の家に来てのびのびしているようだった。

「ああ、料理してると楽しいわ。ストレス発散」

「桜井、痩せたか? ちゃんと食べてる?」

「先生、わたしね、本当は料理したいんです。でも、新しい家では家政婦のハマさんがなんでもやっちゃうもんだから、料理できないんですよ。美味しくないわけじゃないの。ただ料理しないで勉強ばかりしてたら、食欲が落ちちゃった」

「そうか。勉強しすぎじゃないのか?」

「でも、今やらないと英検ヤバいじゃん。わたしなんか必死にやらないと、受験に間に合わないし」

「そうか」

桜井のいう事はもっともだった。
しかし、サトシは教師として進学指導すべきなのかどうか、迷いがあった。

(料理が桜井のストレス発散か。それなら、俺の家で料理してくれればいいのに。勉強時間の管理もできるし。……あれ? 自分に都合のいい事ばかり考えてないか?)



 夜になると、床の間続きの和室に全員分の布団を敷き詰めて、枕投げが始まった。
まるで修学旅行だ。
サトシはアキラたちから、徹底的に標的にされた。

「もう、参った、参った。勘弁してくれー」

「おじさん、まだまだこれからだよー。いくぞー!」

「こら! アキラ! アツシ! いい加減に寝なさい! 先生はあんたたちのおもちゃじゃないのよ」

それを聞いていた祖父が、サトシが先生だと知ってしまった。

「先生だって? サトシさんは先生なんですか」

「あ、お爺ちゃん。えっとー、先生っていろんな先生がいるのよ。ほら、病院の先生とかー」

「病院? 医者か?」

「いいえ、わたしは……」

「サトシさん、外へ散歩に行きましょう」

「夜なのに?」

「夜は星、星がきれいなの。行きましょ!」

サトシは、桜井に手を引かれて、家の外へと連れ出された。

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