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第5章 二年二学期
第167話 工藤先生による大学受験相談室
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「何が問題なのか俺にはさっぱりわからない」
サトシが工藤先生から言われた一発目がこの言葉だった。
「よくあることじゃないか。志望する大学に公募推薦や総合選抜で受験し、万が一落ちた場合は同じ大学に一般入試で受験する。あるいは、他の大学でまだ総合選抜をやっているところを探す。そこは教師の腕の見せ所だ」
「わかっているんだけど、青柳先生に言われるとつい反発したくなる……」
「サトシの場合はそれだけじゃないだろ」
「え?」
「ただの教え子ではない。桜井のことになると保護者みたいに心配になるんだろ」
「保護者って……、俺ってそんなに年をくってない。いや、くってるか」
工藤先生と大山先生は、年を認めたサトシを見て笑った。
大山先生は、運ばれてきた天ぷらそばを工藤先生とサトシの前に動かした。
「サトシ先生? 気持ちは複雑なんですよね。教師の立場と彼氏の立場、見守っているうちに親心ですか?」
「そんな……」
「青柳先生は自分の受験経験から、入試方式によって勉強方法が違うと言ったかもしれない。しかし、現場の実情を知らないね。白金女子学園は、早くから総合選抜希望が増えると予測して、学校の授業は高校三年生の一学期で終わるようにカリキュラムを組んでいるんだ。二学期以降は、小論文の書き方とか面接の受け方、そして、ひたすら模擬試験を受けさせる。私立高校の強みだね」
「そうなのか。塾みたいだな」
「それを言っちゃお終いヨ。総合選抜の子も学力が落ちないように対策しているんだよ。でないと、大学に入ってから付いて行けないからね。すでに合格が決まった子とまだこれから子が、混在するようになった教育現場で、希望する子には全員冬季補習をする。つまり共通テスト対策、今日の俺がしている仕事がまさにそれだ」
「そうか、受験方式を複数にするのは、何も受験対策に限ったことではないんだ」
「でも、落ちれば落ちるほど、残された大学の募集人数は少なくなるし、おまけに早稲田とか慶応を落ちた優秀な子が出願してくるから、共通テスト方式のライバルは強敵だ」
「ということは、早めに受かった方がいいってことか」
「桜井のケースで説明すると、まず公募推薦、だめだったら一般入試のTEAP利用型がベストだろうね。まだまだTEAP利用の大学は少ないから、準備している受験生は比較的少ないだろう。もしも、そこでダメだったら、共通テストになるんだけど、おそらく周りの優秀な受験生に負ける可能性が大きい。だいたい、桜井に全教科を全力で対策させるのは無理だろう」
「確かに、そう思う」
「だったら得意の英語で、モチベーション上がるようなスケジュールを組んでやれば?」
「誰が?」
「サトシ、お前だよ。塾の先生よりもお前の方が適しているだろ」
「うん、そう思う。なんかさ、教師である俺が言うのも変だけど、桜井は最近勉強しすぎているような気がするんだよなぁ」
「俺もそう思う。英検もやってー定期テストも頑張ってー、100点取ってって、褒めてやりたいけど心配にもなるわな」
大山先生は、蕎麦をすすりながらむせた。
「ゴホッゴホッ……100点? 桜……井がっ? ゴホッ」
「大山先生、水飲んで水!」
「そこは、サトシがうまくオフスイッチになってやらないとな? なんだか保護者に喋ってるみたいになったな。これは保護者面談か?」
「まさか、俺にご飯を作れとか言うんじゃないよな」
サトシは、蕎麦を食べてながら笑った。
「お、いいねえ、サトシ。作ってやれよ、ご飯」
「マジか」
「俺なんか、カミさんと共働きだから、ご飯は協力して作っているんだぞ」
「え、工藤が?」
「工藤先生が、料理を?」
「うん。うちのカミさんは料理の下ごしらえだけして、俺に調理方法を指示してくるんだ。これがまったくもって偉そうでさ……、ああ、桜井に似ているかも。サトシが好きになる女のタイプって変わっていないんだな」
「何、何、工藤先生の奥さんって、サトシ先生の元カノなんですか?」
「そうだよ。言ってませんでしたっけ、大山先生」
サトシは工藤先生と大山先生の間に七味唐辛子を差し出して、元カノについての会話を止めた。
「ストップ! 工藤、七味いる?」
「ああ、頼む」
サトシは、七味唐辛子をこれでもかと振りかけてやった。
「バカ! やめろ! もういい。やめろって!」
大山先生は、ほとんど食べ終わっていたどんぶりを持ち上げて、七味唐辛子攻撃から逃げた。
「サトシ先生。大人げないなぁ。桜井に写メしちゃいますよ」
「大山先生! どうして桜井のメルアド知っているんですかっ!」
「冗談ですよ、冗談。生徒の個人的なメルアドなんて知っているわけないでしょ」
サトシは大山先生の言葉に、それもそうだと思って冷静さを取り戻そうとした。
「サトシ、落ち着け。まずは、桜井をちゃんと指導してやれ」
「そうだな、悪かった。大山先生も、すみませんでした」
「例えばこんなのはどうだ? 英語で指示してクッキングとか面白そうじゃん。ヒアリングの訓練にもなる」
「お、そのアイデア、もらった」
大山先生は伝票を持ってレジに向かった。
「工藤先生、午後も冬期講習ですか? もう戻りましょう」
「はい、今行きます。サトシ、桜井にLINEしとけよ」
「待って、俺も急いで食べ終わる!」
サトシが工藤先生から言われたアドバイスで、一番印象に残ったのは、「お前が好きになる女のタイプは変わっていない」だった。
おいおい、もっと大事なことがあるだろ。(天の声)
サトシが工藤先生から言われた一発目がこの言葉だった。
「よくあることじゃないか。志望する大学に公募推薦や総合選抜で受験し、万が一落ちた場合は同じ大学に一般入試で受験する。あるいは、他の大学でまだ総合選抜をやっているところを探す。そこは教師の腕の見せ所だ」
「わかっているんだけど、青柳先生に言われるとつい反発したくなる……」
「サトシの場合はそれだけじゃないだろ」
「え?」
「ただの教え子ではない。桜井のことになると保護者みたいに心配になるんだろ」
「保護者って……、俺ってそんなに年をくってない。いや、くってるか」
工藤先生と大山先生は、年を認めたサトシを見て笑った。
大山先生は、運ばれてきた天ぷらそばを工藤先生とサトシの前に動かした。
「サトシ先生? 気持ちは複雑なんですよね。教師の立場と彼氏の立場、見守っているうちに親心ですか?」
「そんな……」
「青柳先生は自分の受験経験から、入試方式によって勉強方法が違うと言ったかもしれない。しかし、現場の実情を知らないね。白金女子学園は、早くから総合選抜希望が増えると予測して、学校の授業は高校三年生の一学期で終わるようにカリキュラムを組んでいるんだ。二学期以降は、小論文の書き方とか面接の受け方、そして、ひたすら模擬試験を受けさせる。私立高校の強みだね」
「そうなのか。塾みたいだな」
「それを言っちゃお終いヨ。総合選抜の子も学力が落ちないように対策しているんだよ。でないと、大学に入ってから付いて行けないからね。すでに合格が決まった子とまだこれから子が、混在するようになった教育現場で、希望する子には全員冬季補習をする。つまり共通テスト対策、今日の俺がしている仕事がまさにそれだ」
「そうか、受験方式を複数にするのは、何も受験対策に限ったことではないんだ」
「でも、落ちれば落ちるほど、残された大学の募集人数は少なくなるし、おまけに早稲田とか慶応を落ちた優秀な子が出願してくるから、共通テスト方式のライバルは強敵だ」
「ということは、早めに受かった方がいいってことか」
「桜井のケースで説明すると、まず公募推薦、だめだったら一般入試のTEAP利用型がベストだろうね。まだまだTEAP利用の大学は少ないから、準備している受験生は比較的少ないだろう。もしも、そこでダメだったら、共通テストになるんだけど、おそらく周りの優秀な受験生に負ける可能性が大きい。だいたい、桜井に全教科を全力で対策させるのは無理だろう」
「確かに、そう思う」
「だったら得意の英語で、モチベーション上がるようなスケジュールを組んでやれば?」
「誰が?」
「サトシ、お前だよ。塾の先生よりもお前の方が適しているだろ」
「うん、そう思う。なんかさ、教師である俺が言うのも変だけど、桜井は最近勉強しすぎているような気がするんだよなぁ」
「俺もそう思う。英検もやってー定期テストも頑張ってー、100点取ってって、褒めてやりたいけど心配にもなるわな」
大山先生は、蕎麦をすすりながらむせた。
「ゴホッゴホッ……100点? 桜……井がっ? ゴホッ」
「大山先生、水飲んで水!」
「そこは、サトシがうまくオフスイッチになってやらないとな? なんだか保護者に喋ってるみたいになったな。これは保護者面談か?」
「まさか、俺にご飯を作れとか言うんじゃないよな」
サトシは、蕎麦を食べてながら笑った。
「お、いいねえ、サトシ。作ってやれよ、ご飯」
「マジか」
「俺なんか、カミさんと共働きだから、ご飯は協力して作っているんだぞ」
「え、工藤が?」
「工藤先生が、料理を?」
「うん。うちのカミさんは料理の下ごしらえだけして、俺に調理方法を指示してくるんだ。これがまったくもって偉そうでさ……、ああ、桜井に似ているかも。サトシが好きになる女のタイプって変わっていないんだな」
「何、何、工藤先生の奥さんって、サトシ先生の元カノなんですか?」
「そうだよ。言ってませんでしたっけ、大山先生」
サトシは工藤先生と大山先生の間に七味唐辛子を差し出して、元カノについての会話を止めた。
「ストップ! 工藤、七味いる?」
「ああ、頼む」
サトシは、七味唐辛子をこれでもかと振りかけてやった。
「バカ! やめろ! もういい。やめろって!」
大山先生は、ほとんど食べ終わっていたどんぶりを持ち上げて、七味唐辛子攻撃から逃げた。
「サトシ先生。大人げないなぁ。桜井に写メしちゃいますよ」
「大山先生! どうして桜井のメルアド知っているんですかっ!」
「冗談ですよ、冗談。生徒の個人的なメルアドなんて知っているわけないでしょ」
サトシは大山先生の言葉に、それもそうだと思って冷静さを取り戻そうとした。
「サトシ、落ち着け。まずは、桜井をちゃんと指導してやれ」
「そうだな、悪かった。大山先生も、すみませんでした」
「例えばこんなのはどうだ? 英語で指示してクッキングとか面白そうじゃん。ヒアリングの訓練にもなる」
「お、そのアイデア、もらった」
大山先生は伝票を持ってレジに向かった。
「工藤先生、午後も冬期講習ですか? もう戻りましょう」
「はい、今行きます。サトシ、桜井にLINEしとけよ」
「待って、俺も急いで食べ終わる!」
サトシが工藤先生から言われたアドバイスで、一番印象に残ったのは、「お前が好きになる女のタイプは変わっていない」だった。
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