サトシ先生は美しき十代の乙女に手を出さない

白神ブナ

文字の大きさ
168 / 273
第5章 二年二学期

第167話 工藤先生による大学受験相談室

しおりを挟む
 「何が問題なのか俺にはさっぱりわからない」

サトシが工藤先生から言われた一発目がこの言葉だった。

「よくあることじゃないか。志望する大学に公募推薦や総合選抜で受験し、万が一落ちた場合は同じ大学に一般入試で受験する。あるいは、他の大学でまだ総合選抜をやっているところを探す。そこは教師の腕の見せ所だ」

「わかっているんだけど、青柳先生に言われるとつい反発したくなる……」

「サトシの場合はそれだけじゃないだろ」

「え?」

「ただの教え子ではない。桜井のことになると保護者みたいに心配になるんだろ」

「保護者って……、俺ってそんなに年をくってない。いや、くってるか」

工藤先生と大山先生は、年を認めたサトシを見て笑った。
大山先生は、運ばれてきた天ぷらそばを工藤先生とサトシの前に動かした。

「サトシ先生? 気持ちは複雑なんですよね。教師の立場と彼氏の立場、見守っているうちに親心ですか?」

「そんな……」

「青柳先生は自分の受験経験から、入試方式によって勉強方法が違うと言ったかもしれない。しかし、現場の実情を知らないね。白金女子学園は、早くから総合選抜希望が増えると予測して、学校の授業は高校三年生の一学期で終わるようにカリキュラムを組んでいるんだ。二学期以降は、小論文の書き方とか面接の受け方、そして、ひたすら模擬試験を受けさせる。私立高校の強みだね」

「そうなのか。塾みたいだな」

「それを言っちゃお終いヨ。総合選抜の子も学力が落ちないように対策しているんだよ。でないと、大学に入ってから付いて行けないからね。すでに合格が決まった子とまだこれから子が、混在するようになった教育現場で、希望する子には全員冬季補習をする。つまり共通テスト対策、今日の俺がしている仕事がまさにそれだ」

「そうか、受験方式を複数にするのは、何も受験対策に限ったことではないんだ」

「でも、落ちれば落ちるほど、残された大学の募集人数は少なくなるし、おまけに早稲田とか慶応を落ちた優秀な子が出願してくるから、共通テスト方式のライバルは強敵だ」

「ということは、早めに受かった方がいいってことか」

「桜井のケースで説明すると、まず公募推薦、だめだったら一般入試のTEAP利用型がベストだろうね。まだまだTEAP利用の大学は少ないから、準備している受験生は比較的少ないだろう。もしも、そこでダメだったら、共通テストになるんだけど、おそらく周りの優秀な受験生に負ける可能性が大きい。だいたい、桜井に全教科を全力で対策させるのは無理だろう」

「確かに、そう思う」

「だったら得意の英語で、モチベーション上がるようなスケジュールを組んでやれば?」

「誰が?」

「サトシ、お前だよ。塾の先生よりもお前の方が適しているだろ」

「うん、そう思う。なんかさ、教師である俺が言うのも変だけど、桜井は最近勉強しすぎているような気がするんだよなぁ」

「俺もそう思う。英検もやってー定期テストも頑張ってー、100点取ってって、褒めてやりたいけど心配にもなるわな」

大山先生は、蕎麦をすすりながらむせた。

「ゴホッゴホッ……100点? 桜……井がっ? ゴホッ」

「大山先生、水飲んで水!」

「そこは、サトシがうまくオフスイッチになってやらないとな? なんだか保護者に喋ってるみたいになったな。これは保護者面談か?」

「まさか、俺にご飯を作れとか言うんじゃないよな」

サトシは、蕎麦を食べてながら笑った。



「お、いいねえ、サトシ。作ってやれよ、ご飯」

「マジか」

「俺なんか、カミさんと共働きだから、ご飯は協力して作っているんだぞ」

「え、工藤が?」

「工藤先生が、料理を?」

「うん。うちのカミさんは料理の下ごしらえだけして、俺に調理方法を指示してくるんだ。これがまったくもって偉そうでさ……、ああ、桜井に似ているかも。サトシが好きになる女のタイプって変わっていないんだな」

「何、何、工藤先生の奥さんって、サトシ先生の元カノなんですか?」

「そうだよ。言ってませんでしたっけ、大山先生」

サトシは工藤先生と大山先生の間に七味唐辛子を差し出して、元カノについての会話を止めた。

「ストップ! 工藤、七味いる?」

「ああ、頼む」

サトシは、七味唐辛子をこれでもかと振りかけてやった。

「バカ! やめろ! もういい。やめろって!」

大山先生は、ほとんど食べ終わっていたどんぶりを持ち上げて、七味唐辛子攻撃から逃げた。

「サトシ先生。大人げないなぁ。桜井に写メしちゃいますよ」

「大山先生! どうして桜井のメルアド知っているんですかっ!」

「冗談ですよ、冗談。生徒の個人的なメルアドなんて知っているわけないでしょ」

サトシは大山先生の言葉に、それもそうだと思って冷静さを取り戻そうとした。

「サトシ、落ち着け。まずは、桜井をちゃんと指導してやれ」

「そうだな、悪かった。大山先生も、すみませんでした」

「例えばこんなのはどうだ? 英語で指示してクッキングとか面白そうじゃん。ヒアリングの訓練にもなる」

「お、そのアイデア、もらった」

大山先生は伝票を持ってレジに向かった。

「工藤先生、午後も冬期講習ですか? もう戻りましょう」

「はい、今行きます。サトシ、桜井にLINEしとけよ」

「待って、俺も急いで食べ終わる!」

サトシが工藤先生から言われたアドバイスで、一番印象に残ったのは、「お前が好きになる女のタイプは変わっていない」だった。

おいおい、もっと大事なことがあるだろ。(天の声)


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...