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第6章 二年三学期
第173話 白金女子学園志望理由、聞く?
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西新宿にあるK塾。
桜井はいつもの時間より早く着いてしまった。
英語のクラスが使う予定の部屋では、まだ国語の授業が行われていた。
桜井は、教室のドアの外で国語が終わるのを待っていたが、国語の授業内容がよく聞こえてくる。
(やだ、国語の受講料払ってないのに、授業内容が丸聞こえ。しかも、結構面白そう)
国語の授業を聞いていると、受講している錯覚に陥った。
(なるほどー。古文って英語と同じ覚え方なんだ。……なんて感心していていいのかしら。これって盗聴にならない?)
桜井は、最初は少し罪悪感を持って国語の授業を聞いていたが、あまりの面白さに国語の授業に夢中になっていた。
国語の授業が終わって講師がドアを開けると、立っていた桜井とご対面した。
「すみません。国語取ってないんですけど、質問していいですか?」
「君、誰?」
「すみません。次の時間にここを使う英語クラスの生徒です。早く着き過ぎちゃって待っていたら、国語の授業が面白くて、つい」
「なんだ。同じ塾生なんだ。いいよ、質問受け付けるよ」
国語を取っていないのに、正々堂々と質問するこの勇気、というか厚かましさ。
桜井がわからなかった箇所を講師に質問すると、講師は丁寧におしえてくれた。
「ここはこうだから○○なんだよ。古文も文法さえ押えれば得点できる分野だからね」
「ありがとうございました」
「よかったら、うちの塾で出版しているテキストと問題集を使ってみたら? ここで売っているよ」
桜井は、タダで授業を聞いて質問までしてしまい、図々しいと自覚している。
もちろん、テキストと問題集を拒む立場にない。
心の中の焦りとは裏腹に、表向きは優等生ムーブをした。
「うわー、嬉しい! 買わせていただきます!」
(くっ……思わぬ出費……痛いわぁ)
講師が勧めてくれたテキストは、厚さが1センチあるかないかぐらいの薄さだった。
「これは、薄いから何回も周回して繰り返しやってごらん。必ず自信につながるから」
「はい、頑張ります!」
(また優等生ムーブしてしまった。わたしって嫌な女)
サトシは、職場である白金女子学園での定例職員会議が長引いて、帰りが遅くなっていた。
「ただいまー。ごめーん、遅くなった」
リビングに行くと、テーブルの上に数冊の参考書が置かれ、桜井はそれを見つめて茫然としていた。
塾から帰って来てからその姿勢でいたのか、制服姿のままだった。
「おかえりなさい……」
「桜井、どうした? 今日は塾だったんだろ。ご飯はまだだよね」
「ごめんなさい。ご飯つくってない」
「塾だったんだから仕方ないよ。どうした、どこか痛いのか?」
「参考書を買ってしまったから、お金が無くて買い物出来なかった」
「いいよ、いいよ。参考書を買ったのは無駄遣いじゃないんだし、そんなに落ち込むな」
「はぁ……、先生が疲れて帰って来たのに、わたしったらご飯も作れないなんて、自分が情けないわ」
「俺は別に気にしてないよ」
「でもお腹すいているよね」
「まあ、それは正直……」
「わかった。待ってて、何か作る」
桜井は制服姿のままでキッチンに向かった。
サトシが着替えてリビングに戻って来ると、制服姿の桜井が料理していた。
「制服が汚れるぞ。エプロンがあるだろ」
(なんだか、制服姿の桜井がキッチンで料理しているのって、萌えるんだが)
「うん。でも、もう出来上がるから」
笑顔で振り返った桜井に、サトシは萌えた下心を隠し笑顔を返した。
テーブルには、野菜炒めラーメンが運ばれてきた。
「「いただきます」」
サトシはラーメンをすすりながら、桜井の料理の腕に感動していた。
「冷蔵庫にろくなものがなかったろ。よく簡単に野菜炒めラーメンなんかできるな」
「だって、キャベツと玉ねぎがあったから。あとはインスタントラーメンよ」
「天才だな」
「これくらいなら、いつでも」
ラーメンをすすりながら、桜井は続けた。
「落ち込んでたけど、先生の顔を見たら料理する気になった。不思議ね」
「もともと、桜井は料理好きだからね」
「お腹をすかせた顏を見ると、作ってあげたくなっちゃうんだよね。アキラもそうだったし」
「おいおい、俺は弟のアキラくんと同レベルか」
「似ているかも……、アキラは今頃どうしてるんだろ。タマゴ焼きを作って持って行かなきゃ」
「じゃ、今度の土曜日でも、実家に帰る?」
「先生も一緒なら、帰る」
「わかった。残っている仕事を片付ける」
桜井は、仕事と聞いて、定例職員会議が長引いたことが気になっていた。
「先生、差し支えない範囲でいいんですけど、職員会議が長引いた理由って何ですか?」
「ううーん、白金女子学園の入試に、来年から面接を入れようということになった。都内の私立で面接が無いのは珍しいからね」
「そうなんだ」
「大学入試も面接重視になりつつあるし、白金女子学園も学力一本という入試スタイルから脱却しようと……」
「すごいねー。五十嵐先生になってから、どんどん改革されていくね、いい方向へ」
「そうなんだけどね。中学生に志望理由を聞いて、正直に答えるかどうか疑問だけど。ところで、桜井はどうして白金女子学園を志望したの?」
「……家から一番近かったから」
「え、そんな理由?」
「ほら、わたしの家って母子家庭だったし、弟の面倒をわたしがずっと見なきゃいけなかったでしょ。時短で通学できるところという理由で選んだら、お母さんも賛成した」
「時短!? そんな理由?」
自分の志望理由を改めて言葉にすると、桜井はずいぶんと安直だったことに気が付いて、弾けるように笑い出した。
「ハハハハハー! わたしが面接受けていたら、確実に落ちてたね」
「いや、学業よりも家族を大切にするいい子だと思う。俺なら合格にする」
「またまたー、先生ったらぁ」
桜井は顔を真っ赤にして照れた。
「でもー、サトシ先生に巡り会えたから、志望校はここで正解だった」
「さ、さ、桜井! デレてないで、早く食べなさい。早く制服を着替えて……、キッチンの洗い物は俺がやっておく」
サトシは、急に恥ずかしくなって、ガチャガチャと食器を片付け始めた。
「うわっ! 待って、まだ食べ終わってないのに、なんでー?! 片付けないでーっ! 先生のいじわるぅ」
(桜井、なんだよー。制服姿でデレるなよ。危険、危険、ストップ! ストップ! あ、あっぶねー)
桜井が着替えに自分の部屋へ行く後ろ姿を見送りながら、サトシはつぶやいた。
「あんまり俺をドキドキさせるなよ」
桜井はいつもの時間より早く着いてしまった。
英語のクラスが使う予定の部屋では、まだ国語の授業が行われていた。
桜井は、教室のドアの外で国語が終わるのを待っていたが、国語の授業内容がよく聞こえてくる。
(やだ、国語の受講料払ってないのに、授業内容が丸聞こえ。しかも、結構面白そう)
国語の授業を聞いていると、受講している錯覚に陥った。
(なるほどー。古文って英語と同じ覚え方なんだ。……なんて感心していていいのかしら。これって盗聴にならない?)
桜井は、最初は少し罪悪感を持って国語の授業を聞いていたが、あまりの面白さに国語の授業に夢中になっていた。
国語の授業が終わって講師がドアを開けると、立っていた桜井とご対面した。
「すみません。国語取ってないんですけど、質問していいですか?」
「君、誰?」
「すみません。次の時間にここを使う英語クラスの生徒です。早く着き過ぎちゃって待っていたら、国語の授業が面白くて、つい」
「なんだ。同じ塾生なんだ。いいよ、質問受け付けるよ」
国語を取っていないのに、正々堂々と質問するこの勇気、というか厚かましさ。
桜井がわからなかった箇所を講師に質問すると、講師は丁寧におしえてくれた。
「ここはこうだから○○なんだよ。古文も文法さえ押えれば得点できる分野だからね」
「ありがとうございました」
「よかったら、うちの塾で出版しているテキストと問題集を使ってみたら? ここで売っているよ」
桜井は、タダで授業を聞いて質問までしてしまい、図々しいと自覚している。
もちろん、テキストと問題集を拒む立場にない。
心の中の焦りとは裏腹に、表向きは優等生ムーブをした。
「うわー、嬉しい! 買わせていただきます!」
(くっ……思わぬ出費……痛いわぁ)
講師が勧めてくれたテキストは、厚さが1センチあるかないかぐらいの薄さだった。
「これは、薄いから何回も周回して繰り返しやってごらん。必ず自信につながるから」
「はい、頑張ります!」
(また優等生ムーブしてしまった。わたしって嫌な女)
サトシは、職場である白金女子学園での定例職員会議が長引いて、帰りが遅くなっていた。
「ただいまー。ごめーん、遅くなった」
リビングに行くと、テーブルの上に数冊の参考書が置かれ、桜井はそれを見つめて茫然としていた。
塾から帰って来てからその姿勢でいたのか、制服姿のままだった。
「おかえりなさい……」
「桜井、どうした? 今日は塾だったんだろ。ご飯はまだだよね」
「ごめんなさい。ご飯つくってない」
「塾だったんだから仕方ないよ。どうした、どこか痛いのか?」
「参考書を買ってしまったから、お金が無くて買い物出来なかった」
「いいよ、いいよ。参考書を買ったのは無駄遣いじゃないんだし、そんなに落ち込むな」
「はぁ……、先生が疲れて帰って来たのに、わたしったらご飯も作れないなんて、自分が情けないわ」
「俺は別に気にしてないよ」
「でもお腹すいているよね」
「まあ、それは正直……」
「わかった。待ってて、何か作る」
桜井は制服姿のままでキッチンに向かった。
サトシが着替えてリビングに戻って来ると、制服姿の桜井が料理していた。
「制服が汚れるぞ。エプロンがあるだろ」
(なんだか、制服姿の桜井がキッチンで料理しているのって、萌えるんだが)
「うん。でも、もう出来上がるから」
笑顔で振り返った桜井に、サトシは萌えた下心を隠し笑顔を返した。
テーブルには、野菜炒めラーメンが運ばれてきた。
「「いただきます」」
サトシはラーメンをすすりながら、桜井の料理の腕に感動していた。
「冷蔵庫にろくなものがなかったろ。よく簡単に野菜炒めラーメンなんかできるな」
「だって、キャベツと玉ねぎがあったから。あとはインスタントラーメンよ」
「天才だな」
「これくらいなら、いつでも」
ラーメンをすすりながら、桜井は続けた。
「落ち込んでたけど、先生の顔を見たら料理する気になった。不思議ね」
「もともと、桜井は料理好きだからね」
「お腹をすかせた顏を見ると、作ってあげたくなっちゃうんだよね。アキラもそうだったし」
「おいおい、俺は弟のアキラくんと同レベルか」
「似ているかも……、アキラは今頃どうしてるんだろ。タマゴ焼きを作って持って行かなきゃ」
「じゃ、今度の土曜日でも、実家に帰る?」
「先生も一緒なら、帰る」
「わかった。残っている仕事を片付ける」
桜井は、仕事と聞いて、定例職員会議が長引いたことが気になっていた。
「先生、差し支えない範囲でいいんですけど、職員会議が長引いた理由って何ですか?」
「ううーん、白金女子学園の入試に、来年から面接を入れようということになった。都内の私立で面接が無いのは珍しいからね」
「そうなんだ」
「大学入試も面接重視になりつつあるし、白金女子学園も学力一本という入試スタイルから脱却しようと……」
「すごいねー。五十嵐先生になってから、どんどん改革されていくね、いい方向へ」
「そうなんだけどね。中学生に志望理由を聞いて、正直に答えるかどうか疑問だけど。ところで、桜井はどうして白金女子学園を志望したの?」
「……家から一番近かったから」
「え、そんな理由?」
「ほら、わたしの家って母子家庭だったし、弟の面倒をわたしがずっと見なきゃいけなかったでしょ。時短で通学できるところという理由で選んだら、お母さんも賛成した」
「時短!? そんな理由?」
自分の志望理由を改めて言葉にすると、桜井はずいぶんと安直だったことに気が付いて、弾けるように笑い出した。
「ハハハハハー! わたしが面接受けていたら、確実に落ちてたね」
「いや、学業よりも家族を大切にするいい子だと思う。俺なら合格にする」
「またまたー、先生ったらぁ」
桜井は顔を真っ赤にして照れた。
「でもー、サトシ先生に巡り会えたから、志望校はここで正解だった」
「さ、さ、桜井! デレてないで、早く食べなさい。早く制服を着替えて……、キッチンの洗い物は俺がやっておく」
サトシは、急に恥ずかしくなって、ガチャガチャと食器を片付け始めた。
「うわっ! 待って、まだ食べ終わってないのに、なんでー?! 片付けないでーっ! 先生のいじわるぅ」
(桜井、なんだよー。制服姿でデレるなよ。危険、危険、ストップ! ストップ! あ、あっぶねー)
桜井が着替えに自分の部屋へ行く後ろ姿を見送りながら、サトシはつぶやいた。
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