サトシ先生は美しき十代の乙女に手を出さない

白神ブナ

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第7章 三年一学期

第188話 花嫁修業よりも大事なこと

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 「ねえ、ねえ、美柑はどこへ行くの、大学?」

「行けるかどうかわからないから、教えなーい。ハルちゃんこそ、どーすんの?」

「わたしだって行けるかどうか……。模試の判定、E判定だった。彼の大学行くのやめようかなー」

三年生になると、模擬試験に第一志望の大学名を書いて、それに対してどれくらい合格率があるかで判定される。

桃瀬が『彼の大学』とポロっと言ったことで、桜井は去年のオープンキャンパスの写真を思い出した。

(なるほど、あの大学かぁ)

「ハルちゃん、今から第一志望を変えることないわよ。目標は高く持ちましょう」

「そういう美柑は、判定どうだったの?」

「あんなの当てにならないわよ。わたしだってE判定よ」

「美柑がEって、どんだけレベル高いところを狙ってんの!」

「だーかーらー、目標は高くだってば」

「そんなこと言ったって、モチベ下がるわー」

「模試は模試。総合選抜で行くんでしょ。総合選抜対策していこうよ」

「ってかさー、気になってたんだけど、そもそも美柑って進学するの?」

「え? なんで? するよー」

「卒業したら、すぐ結婚しちゃうのかと思ったわ」

「ハルちゃん、学校でそれは言わないで」

「誰とは言ってないから、いいじゃん。ほら、ミレイちゃんみたいなケースもあるし、意外とこの学校は結婚組いるんじゃないかなー」

「本当?」

「勘だけど」

桜井は女子校のお嬢様ってそうなのかと、改めて気付いた。
そうなると、婚約しているお嬢様は三年生になると何をしているのか、気になって来た。



 放課後。
桜井は、桜田ミレイが読書しているところへ行って話しかけた。

「ミレイちゃん、模試、どうだったー?」

「わたくしですか? E判定でしたわよ」

「わたしと同じだわ。ちなみに大学とか聞いちゃっていいかなー」

「……東京大学」

「えっ! マジで?」

「東大と適当に書きました。どうせ進学しませんから」

「進学しないということは……」

「卒業したら、結婚ですもの」

桜井は自分も結婚するつもりだが、一生懸命勉強している自分と桜田ミレイが違いすぎて驚きを隠せなかった。

「え、ミレイちゃんは、……じゃ、卒業までの高校生活は何をして……」

「花嫁修業ですわね。ほら、読んでいるこの本、『現代の花嫁修業でやっておくべき10のこと』」

「花嫁修業? なんてパワーワード!?」

桜井は、花嫁修業という言葉にアッパーカットを食らった。

「目次だけでもご覧になります?」

「うん、見たい」


「① 料理スキルをつける」

「ふーん。意外とあたりまえのこと書いているんだね」

(大丈夫、料理なら自信あるわ。よしっ、全然問題なし!)


「② 掃除スキルをつける」

「掃除ってスキルっていうの?」

「これは家政婦がやってくれますから、読み飛ばしてますわ」

(家政婦だと? お嬢様の感覚って、庶民とズレている)


「③ 洗濯スキルをつける」

「これも、スキル要る? 洗濯機に放り込むだけじゃん」

「あら、洗剤の種類も洗う洋服に応じて様々な種類があるらしいですわよ」

(まあ、確かに洗濯タグを見て洗い方がすぐ分かるようになれば、ベターよね。でもわたしは、これもなんとなくクリアしてるし)


「④ 最低限の裁縫スキルをつける」

「ボタン付けくらいなら、家庭科で習うし問題ないじゃん」

「でも、わたくし、ミシンって学校以外で触ったことないわ」

「えっと……家政婦さんがいれば、触れなくてもいいんじゃない?」

(家庭科で習っているだろが。いまさら修行する必要ある? 女子校の家庭科をなめんなよ)


「⑤ 家計簿をつける」

「ヤバい、これは続いた試しがないわ」

「桜井さん、家計簿つけたことありますの? すごい、すごーい!」

(おこづかい帳も付けたことないのかよ、お嬢様は!)


「⑥ アイロンがけスキルをつける」

「こんなの経験を重ねれば楽勝でしょ」

「アイロンは火傷するといけないからって、父に禁止されておりますの」

(ハハハ、そうなんだー。蝶よ花よと育てられているのね)


「⑦ 着付け」

「着付け? そんなのできないよ。ってか、今の時代に必要?」

「ですわよねぇ。お着物って、着せていただくものよね」

「いや、そうじゃなくて。美容室で着せてもらえるし、そもそも着物を着る機会がないじゃん」

(あ、お母さんは自分で着て仕事行ってるわ。必要ならお母さんから習おうっと)


「⑧ 保険の知識を学ぶ」

「げっ! 知らなーい、そんなことー。学ぶべきなの?」

「保険にどんな種類があって、どんな保障があるのか。社会保険の内容について理解し、他の保険に入る必要があるのか知る。ですって」

(無理。数字が並んだだけで吐き気がしてくるわ。そんなの保険屋さんか旦那さんにまかせちゃいえば? どうしても学べというなら、YouTubeで検索すればいいっしょ)


「⑨ 資格取得」

「ねえ、だんだんレベルアップしてない? 資格取得まできちゃったよ」

「結婚・出産をしたら、ゆっくり勉強する時間も取りづらくなってしまいます。就職に活かせる資格を持っておくと、再就職する際に選択肢が広がる……って書いてあってよ」

「ガチで、今の時代は必要かもね」

(そうよ。だからわたしは英検もTEAPも受けるのよ。偉いじゃん、わたし)


「⑩ 一般的なマナーを学ぶ」

「だめだー。そんなの知らなーい」

「あら、これは楽勝ですわ。冠婚葬祭や親戚付き合いなど、恥をかくことのないよう、社会人として必要な最低限のマナーは学んでおくべきよ」

「そ、そうなの? めんどくさそう」

「しかも、桜井さん。これでおしまいじゃなくってよ。
最後に結婚前にチャレンジすべき三つの事がありますの」

「何、何、それ」


「① 貯金をしておこう!」

「ああ、ダウト! そうかもしれないけど、わたしたち高校生だからバイトしない限り貯金できないじゃん」

「うちの学校は、アルバイト禁止ですしね」

「そこはスルーするしかないわ。ミレイちゃんはお相手が御曹司だし心配なしだね!」

(……サトシ先生の年収、知らないわ。聞けないし……まいっか)


「② 友達と旅行に行こう!」

「素敵、それはやってみたいわねー」

「でも、わたくしお友達いませんから……」

「え? 修学旅行で一緒の班だったじゃん。ミレイちゃんとわたしは友達だよー」

「ありがとうございます。では、最後の項目を読んでもいいかしら?」

「言って、言って!」


「③ 家族との時間を大切にしよう!」

「……なるほどね。最後に感動的な項目をもってきたわね」

(一番、重いわ)


すると、桜田ミレイは衝撃的な発言をした。

「まあ、こんな感じですけど、肝心な性生活については書かれておりませんの」

「きゃー! やめてー! ミレイちゃんからそんな言葉聞きたくなーい」

「あら、大事なことですわよ。新たな生命を産み育てることは、大事な使命ですわ」

桜田ミレイがどこまで経験しているのか「知りたい」と「知りたくない」、の狭間で桜井は揺れ動いた。

「で? 一応聞くけど、どうなの? 許婚の方とはどこまで……」

「なんだかねぇ、奥手なのか面倒くさがり屋さんなのか……」

「え、それって、具体的に聞いてもいいかしら?」

「ええ。先日、お着物を着てお会いしましたの。そしたら、『帯をとくのがめんどくさーい』って拗ねちゃって……」

「帯をとくって、それって、もしや……」

「だから、わたくし自分で帯をときましたの。『ほーら、ほら、簡単にとけましたわ。簡単よー』と言ってベッドに誘ったのに、帰ってしまわれて……」

「……ミレイちゃん、はっきり言っていい?」

「何かしら」

「それ、誘導ミス」

「えええ? どこがですか? 桜井さんなら経験豊富なんでしょ。教えてください」

「経験? 経験ねー。ないこともないけどねーー」

桜井はオホホホと笑ってごまかした。

(ミレイちゃんほど進んでないけど、ぎり禁断までは行っているのよ。でも言えないわ。卒業までは今のままキープよ。でないと先生、犯罪者になっちゃう)

桜田ミレイが、ベッドインまであと一歩だった話は、桜井にとって刺激が強すぎた。
頭の中は、ミレイの妖艶な姿の妄想でいっぱいになってしまった。



 そのとき、LINEがきた。
サトシからだった。

:今日は残業で遅くなるから、先にご飯食べて寝てていいよ

桜田ミレイの話で頭の中がいっぱいだった桜井は、『寝て』というパワーワードに
過剰に反応した。

(寝ててって、どこで? どうしよう。確認すべきよね。えっと、どこで寝てればいい?……あ、間違って送信しちゃった!)

:ベッドで寝てるばい

(いやん。語尾が謎の終止形!)

:間違いどす

(あ、またやっちまった)

ちなみに、桜井は布団で寝ているので、ベッドといえばサトシのベッドしかない。


 一方、LINEを受信したサトシは……

(何? ベッドで寝てるばい? 俺のベッドで? しかも九州訛りになってる。あ、今度は京都弁になった。どういう意味? どうした桜井。英語の勉強しすぎで、日本語が怪しくなってしまった?……、それとも何かの暗号?!)

桜井からの謎の暗号が気になって、その後の残業がなかなか進まないサトシだった。
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