サトシ先生は美しき十代の乙女に手を出さない

白神ブナ

文字の大きさ
204 / 273
第7章 三年一学期

第203話 迷探偵工藤の推理に頼るが……

しおりを挟む
 サトシは家に帰って来たが、キッチンのネギは乾いてそのままになっていた。

(たぶん実家に帰ったのだろう。今頃は、お母さんに泣きながら俺の非情な態度を訴えているかもしれない。『こんな男のところに嫁にはやれない』なんて、ご両親は怒り心頭かもな……)

 サトシは、誰もいないリビングでカバンを放り投げ、ネクタイを外して椅子の背にかけた。
ボーっと座っていると、工藤先生から電話がかかって来た。
サトシは今朝の出来事の一部始終を説明した。

―「なんだよー、サトシ。ついに別れたか」

「うるせー」

―「しょうがねえな。工藤探偵事務所に依頼する?」

「何それ。お前? 探偵を雇うまでもないさ。実家に帰ったんだろう。そこでご両親の耳に喧嘩の話が入って、これでご破談だよ」

―「サトシって、つける薬がないくらいバカな。『別れてやる』って、桜井は本気で言ったと思うか? 俺の推測、これは桜井が指定校推薦に納得していない心の歪みが原因だ」

確かにサトシは、桜井の母から本心を聞き出してと頼まれて、未だ聞いていなかった。
工藤先生に言われると、それが元凶のような気もしてきた。

―「サトシさぁ、ちょっと桜井の部屋に入ってみてくれないか」

「なんで? 本人がいないのに勝手にそんなことしていいのかな」

―「何か、手がかりがあるはずだ」



工藤先生に促されて、サトシは桜井の部屋に入った。

「失礼しまーす。泥棒じゃありませんよー」

サトシは机の上に、本が3冊積んであるのが目に入った。
何かと本のタイトルを読んでみる。

「世界食糧危機? 食糧クライシス、世界争奪戦と日本の農業。……世界と日本の食料問題?」

―「おい、何をつぶやいているんだ? サトシ」

「桜井が読んでいる本のタイトルだ。こんな難しい本を読んでいたのか」

―「なるほどねー、桜井はそんなことに興味があったんだ」

「知らなかった」

―「それを研究したかったのかもしれないな。だから総合グローバル部希望なのか。理由がちゃんとしてるじゃん」

「まだまだ子供だと思っていたのに……」

―「あと、目につくものを教えてくれ」

サトシは部屋を見回した。
きれいに整理整頓された部屋には、無駄なものは一切なかった。
そんな質素な部屋に、制服だけが主がいないままハンガーに掛けられていた。

「制服がある」

―「制服を置いて出て行ったのか。それは、……実家に帰っていないな」

「そんなバカな。桜井は実家しか行くところがないはず」

―「今後も学校に通う子が、制服置いて実家に帰ると思うか?」

「思わない。だとしたら、どこへ……。工藤、どうしよう」

―「落ち着け。これは俺の推測にすぎない。まず、桜井の実家に電話してみろ。それで、そこにいたら問題なし」

「わかった。電話を一旦切るぞ」


 サトシは、桜井の実家に電話した。

「こんにちは、お母さん。あの、お嬢さんはそちらに帰ってますか?」

―「え、娘がどうしたんですか? 家には来ていませんけど」

「そうですか」

サトシは、自分の考えが甘かったことを反省した。

―「サトシ先生、うちの娘、また学校をさぼったんですか? 全くしょうがない子ね」

「いいえ、違います。今日は、学校は休みで、サボってなんかいません」

―「あら、それならどうして……」

「実は、今朝、……喧嘩してしまいまして、お嬢さんに『別れてやる』と言われてしまいました」

―「まあ! あのバカ娘。なんてことを」

「いいえ、わたしが悪いんです。お母さんに頼まれたのに、お嬢さんの本心を聞き出せていなかった。そのせいです」

―「はあ……、あの子ったらそうとう拗らせているんですね」

「拗らせて?」

―「わかりました。長谷川にも伝えておきます。あの子のことです。たぶん今夜にはお腹すいたーって帰って来るでしょう」

「お母さん、すみません。わたしの責任です。お嬢さんが別れると言うのなら、責任を取ってわたしはそれで……」

―「やめてくださいます? まだ結論を出すのは早すぎます。それは最後の最後でしょ。とにかく、早く娘を無事に見つけることが最優先。お願いしますよ、サトシ先生。あの子の別れるという言葉を本気にしないでください。あの子、自分のストレスをどこにぶつけたらいいのかわからないんですよ」

「お母さん……」

―「サトシ先生は優しいから、受け止めてくれると思ったのでしょ。すみませんねぇ、わがままに育ってしまって」

「いいえ、そんなことはありません」


 サトシは桜井の母との電話を切ると、工藤先生に電話した。

「工藤の推理は当たっていた。実家には帰っていなかった」

―「やはり、そうか」

「どこへ行ったんだろう」

―「サトシ、覚悟しておけ。どこかで補導されたり、どこかで事件や事故に巻き込まれたりしたら、警察から連絡がくる。桜井の家と、あとは学校宛に……」

「そしたら、終わりだな、本当に」

―「そうはならないことを祈るしかない。ここは都内だから、どこへでも出られる。遠くへ行こうと思えば行ける。遠くへ行くとしたら、どこか心当たりは?」

「わからない。桜井と一緒に行動することが無かったから」

―「思い出せ。どこかあるはずだ」



 夜の8時を回った。
桜井の母の言う通りなら、お腹すいたーと言って帰って来てもいい時間だ。
以前も、いつの間にか帰って来て寝ていたこともあった。

 夜9時。
これは警察からの連絡を待つ段階かと思われた、そのとき、電話が鳴った。

(警察?)

サトシは慌てて、スマホの画面を確認した。

(長谷川……、まさか警察から実家に連絡が来た?)

サトシは、緊張しながら電話に出た。

―「サトシ先生ですか。長谷川です」

桜井の父親からの電話だった。
サトシの緊張はマックスになった。

「こ、こ、こんばんは。どうも申し訳ございません!」

―「先ほど、連絡がありまして……」

「どなたから?! お嬢さん本人からですか?」

―「いいえ、美柑じゃありません」

サトシは、めまいがした。

(警察から!? 終わった。でも、桜井が無事であればそれでいい。お願い、神様―!!!)

長谷川は話を続けた。

―「電話は、家内の父からです。美柑を今夜は山梨に泊めると」

「山梨?」

―「ご心配おかけして申し訳ありません。美柑は無事です。明日の朝にでも迎えに行こうかと思っています」

「無事ならそれで……ありがとうございます、長谷川さん」

―「お礼は変ですよ、サトシ先生。止してください」

安心して、サトシは全身の力が抜けた。
だが、このまま終わらせるわけにないかない。

「わたしに、わたしに迎えに行かせてください。お願いします。またお嬢さんから別れると言われるかもしれませんが、……ちゃんと話をさせてください」

―「たぶん、美柑もそれを望んでいると思います。悔しいですけど、迎えに行く役はサトシ先生に譲りましょう。絶対に幸せにすると、先生は約束したのですから。お願いしますよ」

「わかりました。朝一番で行きます」

桜井は母の実家、山梨に行っていた。
昨年の夏に、無理やり山梨に連れていかれたことを思い出した。
山梨なら、東京から電車で行ける距離だ。


 サトシは工藤先生に、桜井は山梨の祖父母に家で無事だと電話で伝えた。

―「よかったー。俺の推理が外れて」

「すまない。それで明日の朝一番の列車で迎えに行ってくる」

―「この際だからさ、二、三日、そっちでゆっくりすれば? 有給取ってさ」

「いや、別れ話に三日は必要ないと思う」

―「おい、別れ話しに行くつもりなら行くな! ちゃんと、心を開いて仲直りして来い。そのために、迎えに行くんだろ」

「うん」

―「桜井に会いたくないと断られるかもしれないが、本当はサトシに迎えに来て欲しいはずだ。お前が行って、ガッチリハートを捕まえてこい!」

「わかった。ありがとう工藤」

―「あ、お土産は、甲州ワインでいいよ」

「お安い御用だ」

工藤探偵事務所の読みは当たっていた。
桜井は、都内から行ける遠い所に行っていた。
夏休みだから、去年の夏休みを思い出して行った可能性はある。
ただ、サトシがそれを思いつかなかったため、工藤探偵事務所は、最悪警察から連絡が来ると言うしかなかったのだ。

(どんな顔をして迎えに行こうか……。とりあえず、あれは必須だな)

桜井が一年生の終わりの頃、サトシが用意したあれを持って行こうとサトシは心に決めた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...