サトシ先生は美しき十代の乙女に手を出さない

白神ブナ

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第8章 三年二学期

第214話 体育祭・借り物競争でガチバトル

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 レースが始まっている最中、グランドに座りながら、サトシは必死に桜井の姿を探していた。
桜井はB組の応援席で桃瀬と一緒にいた。
桃瀬と笑いながらしゃべっている姿を確認すると、サトシは安心した。

(よかった。元気そうで)

 借り物競争の順番が回って来た。
サトシの隣に青柳先生がスタートラインに並んだ。

「行けー! 青柳先生! 負けるなー!」
「キャー! サトシ先生―! イケメン! がんばってー!」

どちらの応援も飛び交う中、スタートの合図が鳴った。

パーン!

メモが置いてある赤い三角コーンの地点まで、サトシと青柳先生はほとんど同時だった。
三角コーンの下に置かれた紙を拾い、二人同時に目を通す。
サトシは、借り物の指示を確認した。

『教え子以上、恋人未満』

(なにこれ……マジか?)

思わず紙を握りしめるサトシ。
だが、青柳先生はすでに目標を定めていた。

「桜井ー! お前しかいないだろー!『一番応援したい人』ってー!」

青柳先生は笑顔で手を振りながら、まっすぐ桜井に向かって走り出していた。
桜井は驚いたまま、固まってしまった。
その瞬間、サトシも走り出していた。
桜井に真っ直ぐなまなざしを向けながら……

「……来い、桜井!」

息を切らせながら、青柳先生とサトシの二人から迫られ、桜井は一瞬戸惑った。

「え、……同時に二人?!……」

しかし……次の瞬間、桜井は迷いなくサトシの手を掴んだ。

「いこっ……サトシ先生!」

サトシの顏はパーッといっぺんに明るくなり、桜井の手を強く握り返した。

桜井がサトシと走り出して、青柳先生は焦った。
とりあえず、近くにいた桃瀬の手を取って走り出した。
驚いたのは、何の関係も無い桃瀬だ。

「えええーーー! 何、わたしスペアなのーーー?」

短距離なら桜井の足は速い。
桜井はサトシをリードして一緒に走った。
二人でゴールを目指す。
周りは生徒も教師も大騒ぎだ。



「美柑、がんばれー!!」
「キャー! サトシ先生が美柑先輩と走ってるー!」
「おおお、校長先生、あれはいいんでしょうか?」
「いいですねえ。このまま二人でゴールインです。はっはっはっはっは……」

校長の予言通り、そのまま二人で走り抜け、テープを切った。

大山先生がサトシ先生を捕まえた。

「はい、1位! サトシ先生」
「2位は、青柳先生」

サトシは肩で息をしながら、そのまま地面にへたった。
ゴールの歓声のなか、桜井は頬を紅潮させながらサトシのメモを奪い、無理やり確認した。

「“教え子以上、恋人未満”って……これ、生徒会で先生が書いたんですか?」

「……違う。けど……否定する理由もない」

「……何それ、ズルくない? 先生。みんなが見ている前で、こんなに正々堂々と……」

「うん。ズルくていいだろ。今日だけは、な……。はぁー、きっつ!」

青柳先生は、先にゴールしたサトシ先生を見て苦笑した。

「いやー、これは完敗。やられたなあ……もしかして、着替えを見なかったら、桜井は僕を選んでくれたかな」

サトシは反論しようと……

「それは……」

「それは無い!」

青柳先生に言おうとした一言を、桜井が先に言った。

「着替えを見なかったとしても、わたしが選ぶのはサトシ先生だから」

その言葉にサトシはキュンとした。
そして、胸に残るのは、桜井の手の温もりと……、「選ばれた」という事実だった。

それが、教師という枠を超えてはいけないと分かっていても。
今日だけは、勝ってよかったと、心からそう思った。



 放課後の帰り道。
桜井は、桃瀬と夏梅に冷やかされた。

「桜井さん! ねえねえ、サトシ先生と走ってゴールしたでしょ? あれってどういうこと?! 学級委員長として、事実確認させてちょうだい」

「“教え子以上、恋人未満”とか、やばくない? あれ先生、ガチで美柑のこと……ってか、未満っておかしくない? 恋人でいいんじゃないの?」

「ひゃっ……! そんなんじゃないわよ!」

「待ってよ美柑。しかも、青柳先生まで美柑を選んじゃってさ。わたしなんか、結局スペアよスペア!」

美柑は顔を真っ赤にして、早歩きになった。
すると、夏梅も早歩きに負けずに付いてきた。

「へえ~? じゃあ、なんであんな顔して走ってたのかしら?  “俺の生徒だ!”って顔してたけど?、サトシ先生」

「そ、それは……先生が……本気で勝ちたかっただけで……!」

「夏梅ったら、わかっているくせに、もうやめなよ。はいはい、どうもごちそうさまでした♡」

桃瀬と夏梅は満足げに笑いながら、手を振って交差点で去っていった。

「じゃあねー。またねー」

(……うう、マジ恥ずかしかったよ)



 その夜。
サトシは疲れ切って、ソファーの上に抜け殻のように座っていた。
桜井はそんなサトシのために、熱いお茶を持ってきた。

「……先生」

(まるで空気の抜けた風船?!)

「あ、ありがと。お疲れ。……体育祭、よく頑張ったな」

「……あの、借り物の紙に書いてあった言葉。先生、なんとも思わなかったんですか?」

「思ったよ。……ずるいなって」

「……? 恋人未満なんですか?」

「そんな言葉書かれたら、桜井とこに走るしかないじゃないか。事実は未満じゃないけど、他に選択肢がなかった……負けたくなかったんだよ、青柳先生にも、自分にも」

サトシの言葉に、桜井は胸がキュンとした。

「……わたし、すごく嬉しくって恥ずかしかったけど、先生が来てくれて、ちょっと誇らしくもあった……かな」

サトシはふっと目をそらした。

「……そっか。なら、よかった」

一瞬、沈黙が流れた。
だがそのあと、サトシはいつもの調子で口を開いた。

「でもな、もうちょっと走り方練習しておけ。フォーム崩れてたぞ、最後」

「もー! ムード台無し! 何よ、偉そうに。 わたしがリードして走ったんだからねっ!」

「甘やかすばっかりが教師じゃないからな」

そう言って、サトシはそっと視線を自分の湯飲み茶わんに向けた。
その目は、照れ隠しだと分かるくらいに泳いでいた。

「あああああーー」

そして、熱いお茶をすすると、つい親父のような声が出てしまった。

「あ、そういえば、病院、何だって?」

「あっ、そうだったわ。LINEしなくてごめんなさい。体に病気は無かったわ。もう少しで成熟するから、そしたら自然に治るでしょうって」

「よかった。安心したよ」

「それと、受験に重ならないようにピルもらってきた」

「ピル? そんなもん飲んで大丈夫なのか?」

「ちゃんと、医師の指示通りに飲んでいれば大丈夫だって。受験が終わったらもう飲まないから……その、……あれだって」

「何」

「あれって言ったら、あれしかないっしょ!」

「全くわからん」

「知らない!……」

サトシは疲れ切った頭で考えたが、さっぱり意味がわからなかった。

「……ちゃんと……妊娠できるって」

サトシは、飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。

……ン、ゴフォッ!

吹き出すのを我慢したら、かえってむせて苦しんだ。

ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ……

「やだ! 先生、大丈夫?! 水持ってくる?」

むせて鼻からお茶を出し、涙まで出て来た。
愛する女子高生に背中をさすってもらっている、クールでイケメンなサトシ先生は、来月33歳になる。

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