婚約破棄?ざまぁ?悪役令嬢だって幸せになりたい。

鏡おもち

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「……国家反逆罪? 王都の花が枯れたのが私のせい?」


ゼノスが読み上げた召喚状の内容を聞いて、ユーリは瞬きを数回繰り返しました。


「あらあら。それは心外ですわ。私はあの子たちに、たっぷりと愛情と特製リン酸カリウムを注いできたのに。管理責任を棚に上げて、私のせいにするなんて……植物への冒涜(ぼうとく)ですわ!」


「問題はそこじゃないだろう、ユーリ。これは明らかに罠だ。貴様を王都へ引きずり出し、罪を着せて処刑するか、あるいは強制的に庭の修復をさせるつもりだぞ」


ゼノスは険しい表情で手紙の束を握りしめました。すると、その中から一枚の、ピンク色の香水がプンプンと漂う派手な便箋が落ちました。


「……おや、まだ何か入っているな。これは……カトレア男爵令嬢からの直筆の手紙か」


「まあ、カトレア様から? 新種の肥料のサンプルでも同封してくださったのかしら!」


期待に胸を膨らませるユーリの横で、ゼノスがその手紙を広げました。しかし、読み進めるうちに彼の眉間には深い深いシワが刻まれていきます。


「……ひどい内容だ。読むのも憚(はばか)られるぞ」


「えー。気になりますわ。読んでくださいな、ゼノス様!」


ゼノスは嫌悪感を隠さず、淡々とその内容を読み上げました。


『ごきげんよう、追放された可哀想なユーリ様。
今頃、砂漠で砂でも食べていらっしゃるのかしら?
殿下は毎日、私のために素敵な宝石を贈ってくださいますの。
そうそう、あなたが大事にしていたバラ園ですが、今は私が「可愛らしく」プロデュースして、全部抜いてしまいましたわ。
代わりに私が大好きな、ピンク色のリボンと派手な造花をいっぱい飾っていますの!
生花(なまばな)は枯れるし虫がつくから不潔ですものね。
今の殿下の愛は、私とこの「枯れない造花」に向けられています。
悔しければ、私たちの幸せな結婚準備を見に来ればよろしいですわ!』


読み終わった瞬間、部屋の温度が氷点下まで下がったかのような静寂が訪れました。


ゼノスは、隣に立つユーリがショックで泣き出すのではないかと心配し、そっと肩に手を置こうとしました。


「……ユーリ。気にするな、あんな女の言うことなど……」


「……許せません」


ユーリの声は、地を這うような低音でした。怒りのあまり、彼女の周囲に魔力の火花がバチバチと散っています。


「ああ、やっぱりショックだよな。大切に育てたバラを抜かれたのだから……」


「違いますわ、ゼノス様! そこじゃありません!」


ユーリはカトレアの手紙をひったくると、それをビリビリに引き裂きました。


「『生花は虫がつくから不潔』ですって!? 虫は生態系の大事なパートナーですわ! 益虫たちがどれだけ受粉のために頑張っていると思っているんですの! それを不潔の一言で片付けるなんて、昆虫学と植物学に対する宣戦布告ですわ!」


「……そっちか。いや、バラを抜かれたのはいいのか?」


「よくありませんわ! でも、それ以上に許せないのは『リボンと造花』です! 生命の営みを否定し、プラスチックや布で偽りの美しさを演出するなんて……。あの方は、王宮の庭を『死のゴミ捨て場』に変えるつもりなんですわ!」


ユーリの瞳が、これまでにないほど激しく燃え上がりました。


「ゼノス様! 私、王都へ行きます! 召喚状に従うのではありません。あのカトレアという名の『巨大な雑草』を、根っこから引っこ抜いて除草剤をブチ撒けるために行くんですの!」


「……ユーリ。貴様の怒りのポイントは相変わらずズレているが、そのやる気は嫌いではないぞ」


ゼノスは少しだけ口角を上げました。


「分かった。ならば私も同行しよう。王家が貴様に手出しをするなら、私の茨で王都ごと縛り上げてくれる」


「まあ、ゼノス様! 心強いですわ。でも、戦う必要はありません。私たちが持っていくのは、武器ではなく『肥料のサンプル』と『真実を見抜く益虫』たちですから!」


「……不穏な予感しかしないが、ついていくと決めたからな」


ユーリはすぐさまアンを呼びつけ、出発の準備を命じました。


「アン! 一番強力な魔力堆肥(たいひ)を十樽用意して! それと、私が品種改良した『音痴な声で鳴くヒマワリ』の種も! 王都を、本当の意味で賑やかな庭にしてあげますわ!」


「お嬢様……それ、完全に嫌がらせですよね? ……分かりました、すぐに詰め込みます!」


アンもまた、ノリノリでパッキングを開始しました。


こうして、婚約破棄されてから数ヶ月。
ユーリは「被害者」としてではなく、「最強の庭師」として、自分を追放した王都へと返り咲く決意を固めたのでした。


「待っていてくださいね、ヴィルフリート殿下、カトレア様。あなたたちの枯れ果てた心に、私の特製肥料をたっぷり流し込んで差し上げますわ!」


辺境の地に、ユーリの高笑いと花の香りが響き渡りました。
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