11 / 28
11
しおりを挟む
「……国家反逆罪? 王都の花が枯れたのが私のせい?」
ゼノスが読み上げた召喚状の内容を聞いて、ユーリは瞬きを数回繰り返しました。
「あらあら。それは心外ですわ。私はあの子たちに、たっぷりと愛情と特製リン酸カリウムを注いできたのに。管理責任を棚に上げて、私のせいにするなんて……植物への冒涜(ぼうとく)ですわ!」
「問題はそこじゃないだろう、ユーリ。これは明らかに罠だ。貴様を王都へ引きずり出し、罪を着せて処刑するか、あるいは強制的に庭の修復をさせるつもりだぞ」
ゼノスは険しい表情で手紙の束を握りしめました。すると、その中から一枚の、ピンク色の香水がプンプンと漂う派手な便箋が落ちました。
「……おや、まだ何か入っているな。これは……カトレア男爵令嬢からの直筆の手紙か」
「まあ、カトレア様から? 新種の肥料のサンプルでも同封してくださったのかしら!」
期待に胸を膨らませるユーリの横で、ゼノスがその手紙を広げました。しかし、読み進めるうちに彼の眉間には深い深いシワが刻まれていきます。
「……ひどい内容だ。読むのも憚(はばか)られるぞ」
「えー。気になりますわ。読んでくださいな、ゼノス様!」
ゼノスは嫌悪感を隠さず、淡々とその内容を読み上げました。
『ごきげんよう、追放された可哀想なユーリ様。
今頃、砂漠で砂でも食べていらっしゃるのかしら?
殿下は毎日、私のために素敵な宝石を贈ってくださいますの。
そうそう、あなたが大事にしていたバラ園ですが、今は私が「可愛らしく」プロデュースして、全部抜いてしまいましたわ。
代わりに私が大好きな、ピンク色のリボンと派手な造花をいっぱい飾っていますの!
生花(なまばな)は枯れるし虫がつくから不潔ですものね。
今の殿下の愛は、私とこの「枯れない造花」に向けられています。
悔しければ、私たちの幸せな結婚準備を見に来ればよろしいですわ!』
読み終わった瞬間、部屋の温度が氷点下まで下がったかのような静寂が訪れました。
ゼノスは、隣に立つユーリがショックで泣き出すのではないかと心配し、そっと肩に手を置こうとしました。
「……ユーリ。気にするな、あんな女の言うことなど……」
「……許せません」
ユーリの声は、地を這うような低音でした。怒りのあまり、彼女の周囲に魔力の火花がバチバチと散っています。
「ああ、やっぱりショックだよな。大切に育てたバラを抜かれたのだから……」
「違いますわ、ゼノス様! そこじゃありません!」
ユーリはカトレアの手紙をひったくると、それをビリビリに引き裂きました。
「『生花は虫がつくから不潔』ですって!? 虫は生態系の大事なパートナーですわ! 益虫たちがどれだけ受粉のために頑張っていると思っているんですの! それを不潔の一言で片付けるなんて、昆虫学と植物学に対する宣戦布告ですわ!」
「……そっちか。いや、バラを抜かれたのはいいのか?」
「よくありませんわ! でも、それ以上に許せないのは『リボンと造花』です! 生命の営みを否定し、プラスチックや布で偽りの美しさを演出するなんて……。あの方は、王宮の庭を『死のゴミ捨て場』に変えるつもりなんですわ!」
ユーリの瞳が、これまでにないほど激しく燃え上がりました。
「ゼノス様! 私、王都へ行きます! 召喚状に従うのではありません。あのカトレアという名の『巨大な雑草』を、根っこから引っこ抜いて除草剤をブチ撒けるために行くんですの!」
「……ユーリ。貴様の怒りのポイントは相変わらずズレているが、そのやる気は嫌いではないぞ」
ゼノスは少しだけ口角を上げました。
「分かった。ならば私も同行しよう。王家が貴様に手出しをするなら、私の茨で王都ごと縛り上げてくれる」
「まあ、ゼノス様! 心強いですわ。でも、戦う必要はありません。私たちが持っていくのは、武器ではなく『肥料のサンプル』と『真実を見抜く益虫』たちですから!」
「……不穏な予感しかしないが、ついていくと決めたからな」
ユーリはすぐさまアンを呼びつけ、出発の準備を命じました。
「アン! 一番強力な魔力堆肥(たいひ)を十樽用意して! それと、私が品種改良した『音痴な声で鳴くヒマワリ』の種も! 王都を、本当の意味で賑やかな庭にしてあげますわ!」
「お嬢様……それ、完全に嫌がらせですよね? ……分かりました、すぐに詰め込みます!」
アンもまた、ノリノリでパッキングを開始しました。
こうして、婚約破棄されてから数ヶ月。
ユーリは「被害者」としてではなく、「最強の庭師」として、自分を追放した王都へと返り咲く決意を固めたのでした。
「待っていてくださいね、ヴィルフリート殿下、カトレア様。あなたたちの枯れ果てた心に、私の特製肥料をたっぷり流し込んで差し上げますわ!」
辺境の地に、ユーリの高笑いと花の香りが響き渡りました。
ゼノスが読み上げた召喚状の内容を聞いて、ユーリは瞬きを数回繰り返しました。
「あらあら。それは心外ですわ。私はあの子たちに、たっぷりと愛情と特製リン酸カリウムを注いできたのに。管理責任を棚に上げて、私のせいにするなんて……植物への冒涜(ぼうとく)ですわ!」
「問題はそこじゃないだろう、ユーリ。これは明らかに罠だ。貴様を王都へ引きずり出し、罪を着せて処刑するか、あるいは強制的に庭の修復をさせるつもりだぞ」
ゼノスは険しい表情で手紙の束を握りしめました。すると、その中から一枚の、ピンク色の香水がプンプンと漂う派手な便箋が落ちました。
「……おや、まだ何か入っているな。これは……カトレア男爵令嬢からの直筆の手紙か」
「まあ、カトレア様から? 新種の肥料のサンプルでも同封してくださったのかしら!」
期待に胸を膨らませるユーリの横で、ゼノスがその手紙を広げました。しかし、読み進めるうちに彼の眉間には深い深いシワが刻まれていきます。
「……ひどい内容だ。読むのも憚(はばか)られるぞ」
「えー。気になりますわ。読んでくださいな、ゼノス様!」
ゼノスは嫌悪感を隠さず、淡々とその内容を読み上げました。
『ごきげんよう、追放された可哀想なユーリ様。
今頃、砂漠で砂でも食べていらっしゃるのかしら?
殿下は毎日、私のために素敵な宝石を贈ってくださいますの。
そうそう、あなたが大事にしていたバラ園ですが、今は私が「可愛らしく」プロデュースして、全部抜いてしまいましたわ。
代わりに私が大好きな、ピンク色のリボンと派手な造花をいっぱい飾っていますの!
生花(なまばな)は枯れるし虫がつくから不潔ですものね。
今の殿下の愛は、私とこの「枯れない造花」に向けられています。
悔しければ、私たちの幸せな結婚準備を見に来ればよろしいですわ!』
読み終わった瞬間、部屋の温度が氷点下まで下がったかのような静寂が訪れました。
ゼノスは、隣に立つユーリがショックで泣き出すのではないかと心配し、そっと肩に手を置こうとしました。
「……ユーリ。気にするな、あんな女の言うことなど……」
「……許せません」
ユーリの声は、地を這うような低音でした。怒りのあまり、彼女の周囲に魔力の火花がバチバチと散っています。
「ああ、やっぱりショックだよな。大切に育てたバラを抜かれたのだから……」
「違いますわ、ゼノス様! そこじゃありません!」
ユーリはカトレアの手紙をひったくると、それをビリビリに引き裂きました。
「『生花は虫がつくから不潔』ですって!? 虫は生態系の大事なパートナーですわ! 益虫たちがどれだけ受粉のために頑張っていると思っているんですの! それを不潔の一言で片付けるなんて、昆虫学と植物学に対する宣戦布告ですわ!」
「……そっちか。いや、バラを抜かれたのはいいのか?」
「よくありませんわ! でも、それ以上に許せないのは『リボンと造花』です! 生命の営みを否定し、プラスチックや布で偽りの美しさを演出するなんて……。あの方は、王宮の庭を『死のゴミ捨て場』に変えるつもりなんですわ!」
ユーリの瞳が、これまでにないほど激しく燃え上がりました。
「ゼノス様! 私、王都へ行きます! 召喚状に従うのではありません。あのカトレアという名の『巨大な雑草』を、根っこから引っこ抜いて除草剤をブチ撒けるために行くんですの!」
「……ユーリ。貴様の怒りのポイントは相変わらずズレているが、そのやる気は嫌いではないぞ」
ゼノスは少しだけ口角を上げました。
「分かった。ならば私も同行しよう。王家が貴様に手出しをするなら、私の茨で王都ごと縛り上げてくれる」
「まあ、ゼノス様! 心強いですわ。でも、戦う必要はありません。私たちが持っていくのは、武器ではなく『肥料のサンプル』と『真実を見抜く益虫』たちですから!」
「……不穏な予感しかしないが、ついていくと決めたからな」
ユーリはすぐさまアンを呼びつけ、出発の準備を命じました。
「アン! 一番強力な魔力堆肥(たいひ)を十樽用意して! それと、私が品種改良した『音痴な声で鳴くヒマワリ』の種も! 王都を、本当の意味で賑やかな庭にしてあげますわ!」
「お嬢様……それ、完全に嫌がらせですよね? ……分かりました、すぐに詰め込みます!」
アンもまた、ノリノリでパッキングを開始しました。
こうして、婚約破棄されてから数ヶ月。
ユーリは「被害者」としてではなく、「最強の庭師」として、自分を追放した王都へと返り咲く決意を固めたのでした。
「待っていてくださいね、ヴィルフリート殿下、カトレア様。あなたたちの枯れ果てた心に、私の特製肥料をたっぷり流し込んで差し上げますわ!」
辺境の地に、ユーリの高笑いと花の香りが響き渡りました。
1
あなたにおすすめの小説
公爵令嬢の辿る道
ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。
家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。
それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。
これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。
※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。
追記
六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
婚約辞退いたします。だってこの国、沈みますもの
鍛高譚
恋愛
「婚約はお断りいたします――この国は近い将来、崩壊しますので」
そう言い放ったのは、社交界でも目立たない子爵令嬢、マリン・アクアリウム。
ある日、とある舞踏会に突如現れた王太子ガイア殿下。
誰もが驚く中、なんと彼はマリンに婚約を申し出る。
周囲は騒然。「子爵令嬢が王太子妃!?」「断る理由などないはず!」
――だが、彼女は断った。「この国は、もうすぐ滅びます」――と。
そんな不吉な言葉を口にしたことで、彼女は“狂言癖のある嘘つき令嬢”と噂され、
家族にさえ見放され、ついには国外追放の身に。
だが、彼女の予言は本物だった――
数年後、王国に未曾有の大災厄が迫る。
国土が崩れ、海に沈む都市。人々が絶望する中、思い出されるのは、
あの舞踏会でただひとり“滅び”を告げた少女の名。
「彼女なら、この国を救えるかもしれない……」
皮肉にも“追放令嬢”マリンは、再び王都に呼び戻され、
滅びゆく国で最後の希望として担ぎ上げられる。
信じてもらえなかった過去。
それでも人々の命を守ろうと奔走するマリン。
そして、王子ガイアが差し伸べた、あの日と変わらぬ手。
――たとえ国が滅んでも、あなたとともに歩んでいきたい。
【完結】レイハート公爵夫人の時戻し
風見ゆうみ
恋愛
公爵夫人である母が亡くなったのは、私、ソラリアが二歳になり、妹のソレイユが生まれてすぐのことだ。だから、母の記憶はないに等しい。
そんな母が私宛に残していたものがあった。
青色の押し花付きの白い封筒に入った便箋が三枚。
一枚目には【愛するソラリアへ】三枚目に【母より】それ以外、何も書かれていなかった。
父の死後、女性は爵位を継ぐことができないため、私は公爵代理として、領民のために尽くした。
十九歳になった私は、婚約者に婿入りしてもらい、彼に公爵の爵位を継いでもらった。幸せな日々が続くかと思ったが、彼との子供を授かったとわかった数日後、私は夫と実の妹に殺されてしまう。
けれど、気がついた時には、ちょうど一年前になる初夜の晩に戻っており、空白だったはずの母からの手紙が読めるようになっていた。
殺されたことで羊の形をした使い魔が見えるようになっただけでなく『時戻しの魔法』を使えるようになった私は、爵位を取り返し、妹と夫を家から追い出すことに決める。だが、気弱な夫は「ソラリアを愛している。別れたくない」と泣くばかりで、離婚を認めてくれず――。
婚約破棄したその場から、ざまぁは始まっていました
ふわふわ
恋愛
王国随一の名門、アルファルド公爵家の令嬢シャウラは、
ある日、第一王子アセルスから一方的に婚約を破棄される。
理由はただ一つ――
「平民出身の聖女と婚約するため」。
だが、その“婚約破棄したその場”で、ざまぁはすでに始まっていた。
シャウラは泣かず、怒らず、抗議もしない。
ただ静かに席を立っただけ。
それだけで――
王国最大派閥アルファルド派は王子への支持を撤回し、
王国最大の商会は資金提供を打ち切り、
王太子候補だったアセルスは、政治と経済の両方を失っていく。
一方シャウラは、何もしていない。
復讐もしない。断罪もしない。
平穏な日常を送りながら、無自覚のまま派閥の結束を保ち続ける。
そして王国は、
“王太子を立てない”という前代未聞の選択をし、
聡明な第一王女マリーが女王として即位する――。
誰かを裁くことなく、
誰かを蹴落とすことなく、
ただ「席を立った」者だけが、最後まで穏やかでいられた。
これは、
婚約破棄から始まる――
静かで、上品で、取り返しのつかないざまぁの物語。
「私は何もしていませんわ」
それが、最強の勝利だった。
世界の現実は、理不尽で残酷だ――平等など存在しない
鷹 綾
恋愛
「学園内は、身分に関係なく平等であるべきです」
その“正義”が、王国を崩しかけた。
王太子ルイスは、貴族学院で平民出身の聖女マリアがいじめられたと信じ、
婚約者である公爵令嬢アリエノール・ダキテーヌを断罪し、婚約破棄を宣言する。
だが――
たとえそれが事実であったとしても、
それは婚約破棄の正当な理由にはならなかった。
貴族社会において、婚約とは恋愛ではない。
それは契約であり、権力であり、国家の均衡そのものだ。
「世界は、残酷で不平等なのです」
その現実を理解しないまま振るわれた“善意の正義”は、
王太子の廃嫡、聖女の幽閉、王家と公爵家の決定的な断絶を招く。
婚約破棄は恋愛劇では終わらない。
それは、国家が牙を剥く瞬間だ。
本作は、
「いじめられたという事実があっても、それは免罪符にはならない」
「平等を信じた者が、最も残酷な結末に辿り着く」
そんな現実を、徹底して描く。
――これは、ざまぁではない。
誰も救われない、残酷な現実の物語である。
※本作は中世ヨーロッパをモデルにしたフィクションです。
学園制度・男女共学などは史実とは異なりますが、
権力構造と政治的判断の冷酷さを重視して描いています。
---
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる