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帝国のスパイたちはユーリの「おもてなし植物」によってもみくちゃにされ、カトレアは蔦に引きずられて反省室(という名の温室)へ送られました。
嵐の去ったソーン領の境界線には、ゼノスが作り上げた巨大な茨の壁だけが、静かにそびえ立っています。
「……絶景ですわね、ゼノス様。ここから見下ろすと、王都がまるでお菓子の箱に入った小さな模型のようですわ」
ユーリは茨の壁の最上部、幅数メートルもある巨大な蔓の上に座り、足をぶらぶらさせながら目を細めました。
夕日に照らされた彼女の横顔は、泥がついているにもかかわらず、どんな宝石よりも瑞々しく輝いています。
「ああ。……あんな小さな場所に、私は囚われていたのだな」
ゼノスは彼女の隣に腰を下ろし、眼下に広がる広大な領地を眺めました。
かつては誰も近づかなかった死の大地。それが今や、ユーリの魔力によって命の輝きを取り戻し、黄金色の夕闇に包まれています。
「ゼノス様。見てくださいな、この茨の節々。私の魔力を吸って、小さな新芽が出ていますわよ。ここにブドウの蔓を誘引(ゆういん)したら、世界一高い場所で作る『天空のワイン』ができるかもしれませんわ!」
「……貴様は、どこまで行っても『園芸』のことばかりだな」
ゼノスは苦笑し、風に揺れるユーリの髪を愛おしそうに見つめました。
「当たり前ですわ! 植物には無限の可能性がありますもの。ねえ、ゼノス様。これからも私と一緒に、この壁を緑のカーテンで埋め尽くしてくださる?」
ユーリが屈託のない笑顔を向けると、ゼノスは一瞬、言葉に詰まったように視線を彷徨わせました。
「……ユーリ。……園芸の話ではない、大切な話がある」
ゼノスの声が、これまでにないほど深く、真面目な響きを帯びました。
「あら、新しい肥料の配合比率に関する重要事項ですか? それとも、カボチャの硬度をさらに上げるための魔力調整について?」
「……違う。いや、違わないが、そうではない」
ゼノスは大きく深呼吸をすると、ユーリの正面に向き直り、彼女の両手をしっかりと握りました。
「ユーリ・ド・フローリア。……貴様は、私の呪われた人生に飛び込んできた、最初で最後の一輪の花だ」
「まあ……。ゼノス様、今の例え、植物学的にも非常に詩的で素敵ですわ」
「……茶化さないでくれ。私は今、死ぬほど緊張しているんだ」
ゼノスの手のひらが熱く、微かに震えているのを感じ、ユーリは少しだけ目を見開きました。
「私は……貴様を、単なる『最高の庭師パートナー』だとは思っていない」
「……えっ? もしかして、私を『移動式堆肥生成機』だと思っていらしたの?」
「……なぜそうなる! ……いいか、よく聞け」
ゼノスは顔を真っ赤に染めながら、しかし力強い眼差しで、ユーリの瞳を真っ直ぐに見つめました。
「私は……一人の男として、貴様を愛している。貴様という花を、私の隣で、一生かけて守り、愛でていきたいんだ」
「…………」
ユーリは瞬きを数回繰り返し、そのまま石のように固まりました。
「……返事は、今すぐでなくていい。貴様の優先順位が『私』よりも『カブの追肥』にあることは分かっている。だが……」
「……ゼノス様」
ユーリが、震える声で彼の名前を呼びました。
「……ああ。なんだ?」
「……今、心臓の鼓動が、全速力で成長する竹の子のようなリズムを刻んでいますわ。……これ、もしかして、私の細胞があなたを『必要な養分』だと認識している証拠でしょうか?」
「……貴様。愛の告白に、養分とか細胞とか持ち込むのはやめてくれ」
ゼノスは溜息をつきましたが、ユーリの手を離しませんでした。
「いいえ、ゼノス様。私にとっても、あなたはもう、ただの素材ではありません。……私の根っこは、もうあなたの隣にしか張れない。あなたの魔力のトゲがないと、私は真っ直ぐに伸びていけないんです」
ユーリは顔を真っ赤にしながら、しかし確かな意志を込めて、ゼノスの手を握り返しました。
「私を……あなたの庭の、一生枯れない『主役』にしてくださいませんか?」
「……ああ。もちろんだ。……いや、貴様が主役で、私はその足元の土で構わん」
「まあ! 公爵様を土にするなんて、そんな恐れ多いこと……! でも、ゼノス様なら最高級の腐葉土になれそうですわね!」
「……最後はやはりそこか。……だが、それでもいい」
ゼノスは優しく笑うと、ユーリの額にそっと唇を寄せました。
「ユーリ。……結婚してくれ。貴様という花を、一生私の茨で抱きしめさせてほしい」
「……はい! 喜んで! その代わり、新居の寝室は温室仕様にしていただきますわよ!」
夕日に包まれた巨大な壁の上で、二人は初めて、お互いの唇を重ねました。
その瞬間、二人の魔力が共鳴し、巨大な茨の壁にいっせいに純白の花が咲き乱れました。
それは、どの王宮の庭園よりも美しく、どの伝説の聖地よりも清らかな、真実の愛の開花宣言でした。
「お、お嬢様ー! 閣下ー! 何やってるんですか、そんな高いところでー!」
壁の下から、アンが呆れたような、それでいて嬉しそうな声を張り上げていました。
「あら、アン! 見てちょうだい! 今、世界一幸せな『接ぎ木』が完了しましたわよー!」
「……接ぎ木と言うな、恥ずかしい!」
ゼノスの照れ隠しの叫びが、辺境の空に、幸せな余韻と共に溶けていきました。
嵐の去ったソーン領の境界線には、ゼノスが作り上げた巨大な茨の壁だけが、静かにそびえ立っています。
「……絶景ですわね、ゼノス様。ここから見下ろすと、王都がまるでお菓子の箱に入った小さな模型のようですわ」
ユーリは茨の壁の最上部、幅数メートルもある巨大な蔓の上に座り、足をぶらぶらさせながら目を細めました。
夕日に照らされた彼女の横顔は、泥がついているにもかかわらず、どんな宝石よりも瑞々しく輝いています。
「ああ。……あんな小さな場所に、私は囚われていたのだな」
ゼノスは彼女の隣に腰を下ろし、眼下に広がる広大な領地を眺めました。
かつては誰も近づかなかった死の大地。それが今や、ユーリの魔力によって命の輝きを取り戻し、黄金色の夕闇に包まれています。
「ゼノス様。見てくださいな、この茨の節々。私の魔力を吸って、小さな新芽が出ていますわよ。ここにブドウの蔓を誘引(ゆういん)したら、世界一高い場所で作る『天空のワイン』ができるかもしれませんわ!」
「……貴様は、どこまで行っても『園芸』のことばかりだな」
ゼノスは苦笑し、風に揺れるユーリの髪を愛おしそうに見つめました。
「当たり前ですわ! 植物には無限の可能性がありますもの。ねえ、ゼノス様。これからも私と一緒に、この壁を緑のカーテンで埋め尽くしてくださる?」
ユーリが屈託のない笑顔を向けると、ゼノスは一瞬、言葉に詰まったように視線を彷徨わせました。
「……ユーリ。……園芸の話ではない、大切な話がある」
ゼノスの声が、これまでにないほど深く、真面目な響きを帯びました。
「あら、新しい肥料の配合比率に関する重要事項ですか? それとも、カボチャの硬度をさらに上げるための魔力調整について?」
「……違う。いや、違わないが、そうではない」
ゼノスは大きく深呼吸をすると、ユーリの正面に向き直り、彼女の両手をしっかりと握りました。
「ユーリ・ド・フローリア。……貴様は、私の呪われた人生に飛び込んできた、最初で最後の一輪の花だ」
「まあ……。ゼノス様、今の例え、植物学的にも非常に詩的で素敵ですわ」
「……茶化さないでくれ。私は今、死ぬほど緊張しているんだ」
ゼノスの手のひらが熱く、微かに震えているのを感じ、ユーリは少しだけ目を見開きました。
「私は……貴様を、単なる『最高の庭師パートナー』だとは思っていない」
「……えっ? もしかして、私を『移動式堆肥生成機』だと思っていらしたの?」
「……なぜそうなる! ……いいか、よく聞け」
ゼノスは顔を真っ赤に染めながら、しかし力強い眼差しで、ユーリの瞳を真っ直ぐに見つめました。
「私は……一人の男として、貴様を愛している。貴様という花を、私の隣で、一生かけて守り、愛でていきたいんだ」
「…………」
ユーリは瞬きを数回繰り返し、そのまま石のように固まりました。
「……返事は、今すぐでなくていい。貴様の優先順位が『私』よりも『カブの追肥』にあることは分かっている。だが……」
「……ゼノス様」
ユーリが、震える声で彼の名前を呼びました。
「……ああ。なんだ?」
「……今、心臓の鼓動が、全速力で成長する竹の子のようなリズムを刻んでいますわ。……これ、もしかして、私の細胞があなたを『必要な養分』だと認識している証拠でしょうか?」
「……貴様。愛の告白に、養分とか細胞とか持ち込むのはやめてくれ」
ゼノスは溜息をつきましたが、ユーリの手を離しませんでした。
「いいえ、ゼノス様。私にとっても、あなたはもう、ただの素材ではありません。……私の根っこは、もうあなたの隣にしか張れない。あなたの魔力のトゲがないと、私は真っ直ぐに伸びていけないんです」
ユーリは顔を真っ赤にしながら、しかし確かな意志を込めて、ゼノスの手を握り返しました。
「私を……あなたの庭の、一生枯れない『主役』にしてくださいませんか?」
「……ああ。もちろんだ。……いや、貴様が主役で、私はその足元の土で構わん」
「まあ! 公爵様を土にするなんて、そんな恐れ多いこと……! でも、ゼノス様なら最高級の腐葉土になれそうですわね!」
「……最後はやはりそこか。……だが、それでもいい」
ゼノスは優しく笑うと、ユーリの額にそっと唇を寄せました。
「ユーリ。……結婚してくれ。貴様という花を、一生私の茨で抱きしめさせてほしい」
「……はい! 喜んで! その代わり、新居の寝室は温室仕様にしていただきますわよ!」
夕日に包まれた巨大な壁の上で、二人は初めて、お互いの唇を重ねました。
その瞬間、二人の魔力が共鳴し、巨大な茨の壁にいっせいに純白の花が咲き乱れました。
それは、どの王宮の庭園よりも美しく、どの伝説の聖地よりも清らかな、真実の愛の開花宣言でした。
「お、お嬢様ー! 閣下ー! 何やってるんですか、そんな高いところでー!」
壁の下から、アンが呆れたような、それでいて嬉しそうな声を張り上げていました。
「あら、アン! 見てちょうだい! 今、世界一幸せな『接ぎ木』が完了しましたわよー!」
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