殿下、ゴミの分別はお済みですか? 私は今日から、推しと生きていきますわ!

鏡おもち

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王宮の一角、かつてミナモルと語り合うためではなく、彼女が持参した高級茶菓子を貪るために使われていたサロンに、ジークフリート殿下の怒声が響き渡りました。


「どういうことだ、宰相! なぜ今月の私の遊興費……いや、公務経費がこれっぽっちしかないのだ!」


ジークフリート殿下は、目の前に突きつけられた予算書を震える指で指し示しました。


デスクの向こうでは、疲労困憊といった様子の宰相が、眼鏡を押し上げながら深いため息をついています。


「殿下。忘れたとは仰いませんよね? アステリア公爵家との婚約を一方的に、かつ盛大に破棄されたのはどこのどなたですか」


「それは私だ! だが、あんな冷酷な女を追い出したのだ。国を挙げて祝杯を挙げるべきだろう!」


「祝杯を挙げる金が、その公爵家から出ていたのですよ。アステリア家は婚約破棄の翌朝、王家へのすべての献金と、あなたが愛用していた特注前髪維持用魔法薬の提供を停止しました」


「……なに?」


ジークフリート殿下の動きが、ピタリと止まりました。


彼は、ミナモルが「ただ居るだけで金が湧き出る泉」だと思っていたのでしょう。


「それだけではありません。殿下がリリアーヌ様に贈る予定だった、隣国の宝石商への支払いも滞っております。先方は『公爵家の保証がないなら、現金一括払いで』と仰っていますが、いかがいたしますか?」


「なっ……現金一括だと!? そんな、数千万ルピスもするものを、今の私の小遣いで払えるわけがないだろう!」


「であれば、購入は断念するしかありませんな。……ああ、それから。リリアーヌ様がサロンでお待ちです。また新しいドレスのカタログをお持ちですよ」


「リ、リリアーヌが……」


ジークフリート殿下の顔に、冷や汗が伝いました。


そこへ、扉を勢いよく開けて、ピンク色のフリルをこれでもかと盛り付けたリリアーヌが飛び込んできました。


「ジーク様ぁ! 見てください、このドレス! 次の夜会で着たいんですけれど、たったの五百万ルピスなんですの。お安いでしょう?」


「五、五百万……。リ、リリアーヌ、少し落ち着こう。ほら、君は今のままでも十分に美しいし……」


「あら、ジーク様。ミナモル様を追い出せば、その分のお金が私に回ってくるって仰いましたわよね? まさか、王子様が嘘をつくはずありませんわよね?」


リリアーヌの瞳が、獲物を狙う猛禽類のように鋭く光りました。


「い、いや、もちろんだとも! ただ、少し手続きに時間がかかっていてな……」


「早くしてくださいませ。私、貧乏くさい生活なんて耐えられませんの。あ、あと、騎士団のあの……カインとかいう不愛想な男も、ミナモル様と一緒に追放してください。目障りですわ」


ジークフリート殿下は、リリアーヌの要求に頷きながらも、心の中では激しく計算を巡らせていました。


(……おかしい。ミナモルがいなくなれば、すべてが上手くいくはずだった。なのに、なぜこんなに胃が痛いのだ。なぜ前髪のセットが決まらないのだ!)


「そうだ、宰相! あの女はどうしている! 今頃、実家で泣き崩れて、私への謝罪文でも書いているのではないか?」


「いえ。ミナモル様は公爵家を勘当され、現在は騎士団で清掃員として働いておられます。……非常に、生き生きと」


「清掃員だと!? あの高慢な女が、雑巾を持って床を這いつくばっているというのか? ……はっ、そうか! 私を振り向かせるための、健気なパフォーマンスだな!」


ジークフリート殿下は、都合のいい解釈を脳内に展開しました。


「わざと卑賎な仕事に身を落とし、『こんなに苦労している私を見て、殿下、戻ってきてください』というアピールに違いない! ふん、相変わらず愛が重い女だ。……よし、少し様子を見に行ってやる。私が直接『もう無駄だ』と言ってやれば、あいつも絶望して、また金を……いや、真心を差し出すだろう!」


「殿下。それはただのストーカー行為では……」


宰相の制止を振り切り、ジークフリート殿下はマントを翻して立ち上がりました。


「リリアーヌ! 少し用事ができた。金の問題はすぐに解決してやる。……待っていろ、ミナモル! 貴様の小細工など、すべてお見通しだ!」


ジークフリート殿下は、自分の財布が空であるという現実から目を逸らし、颯爽とサロンを飛び出していきました。


その後ろ姿を、リリアーヌは冷ややかな目で見送りました。


「……チッ。金のない王子なんて、ただの前髪男じゃないの。早くミナモルを丸め込んで、公爵家の金を引き出させなさいよ、使えないわね」


「……リリアーヌ様。独り言が漏れておりますぞ」


宰相は天を仰ぎ、近々、胃薬の予算を増額しようと心に誓いました。


一方、そんなドロドロした王宮の空気など露知らず、ミナモルは騎士団の廊下で、カイン団長が脱ぎ捨てた訓練着の「繊維の密度」について熱い議論を交わしていたのでした。
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