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「……アンナ。このドレス、物理的に殺しにきているわ。重すぎて首の骨が悲鳴を上げているわよ」
運命の結婚式当日。王城の控室で、私は鏡の中に映る「白銀の彫刻」のような自分を見つめていた。
最高級のシルク、数千粒の真珠、そして頭上にはあの伝説のティアラ。
どこからどう見ても、国を挙げて祝福される完璧な花嫁だ。
「お嬢様。それは愛の重みというものです。王妃となるお方が、そんなひ弱なことでどうしますか」
「愛じゃなくて質量(キログラム)の話をしているのよ。……ねえ、今からでも遅くないわ。このヴェールを顔に巻きつけて『誰だか分かりませんわよね?』って言って逃げ出しましょうか」
「無駄ですよ。城の周りは十重二十重(とえはたえ)に近衛騎士団が展開しています。お嬢様が蟻一匹通さない包囲網の主役なのですから」
アンナが私の髪を一房整え、満足げに頷いた。
私は絶望的な気分で溜息をついた。
婚約破棄を狙って入学したあの日から、どうしてこうなったのか。
雑草を贈り、変顔を晒し、足が臭いとまで嘘をついた。
それなのに、私の「悪役令嬢(自称)」への道は、いつの間にか「建国以来の聖女」への特急券に変わっていた。
「ロニエ! 準備はいいかい?」
扉が勢いよく開き、まばゆいばかりの正装に身を包んだアレン王子が現れた。
今日の彼は、いつも以上に光り輝いていて、直視すると網膜が焼けそうだ。
「……殿下。準備はできていますわ。……というか、これ以外に選択肢がないようですもの」
「ふっ、ははは! 君らしいね、ロニエ。その『運命すらも当然のように受け入れる』超然とした態度……。やはり君を妻に選んで正解だった」
王子は私の手を取り、そっと引き寄せた。
「さあ、行こう。国民が、君という奇跡の誕生を待っている」
大聖堂の扉が開くと、地響きのような歓声とパイプオルガンの音が私を包み込んだ。
何千人もの貴族、そして窓の外に詰めかけた数万の平民たちが、私を見て涙を流し、祈りを捧げている。
「(……嘘でしょう。私、ただお昼寝がしたいだけのズボラ女なのに、なんで神々の一員みたいな扱いを受けているのよ……)」
祭壇の前で、国王陛下が満足げに頷いている。
アレン王子が、私のヴェールをゆっくりと上げた。
その瞳には、狂おしいほどの情熱と、独占欲、そして揺るぎない愛が宿っていた。
「神に誓う。僕は生涯、ロニエ・エヴァンズを愛し、守り、彼女の望むすべてを叶えると」
「……では、ロニエ・エヴァンズ。あなたも誓いますか?」
司祭の問いかけに、私は最後のリベンジとして、あえてこう答えた。
「……誓いますわ。私は生涯、自分に正直に、怠惰を愛し、殿下を困らせることをやめないと」
さあ、これで会場は静まり返るはずよ!
聖なる誓いの場で「怠惰」を宣言するなんて、前代未聞の不謹慎だわ!
「…………おおおっ!!」
どよめきが起きた。だが、それは非難ではなかった。
「なんて……なんて深い誓いなんだ! 『自分に正直に』……それはつまり、王家という枠に囚われず、常に真実の姿で僕に寄り添うという宣言……!」
アレン王子は感極まった様子で、私の手を握りしめた。
「そして『怠惰を愛する』。それは、激動の時代にあって、僕に安らぎと休息を与え続けるという献身の決意……! さらに『困らせる』というのは、僕が慢心しないよう、常に刺激を与え続けるという愛の鞭だね! ロニエ、君の誓いに、僕は今、魂が震えるほどの光を見たよ!」
「…………(もうダメだわ。この人、完全に無敵だわ)」
「ロニエ様万歳!」「真実の愛の王妃様だ!」「怠惰こそ安らぎの聖域!」
大聖堂は、かつてないほどの熱狂に包まれた。
私の「不謹慎な誓い」は、なぜか「新しい時代の王妃の心得」として、歴史に刻まれることになってしまった。
その後の披露宴では、リリアさんが「お姉様、一生ついていきます!」と号泣し、ベアトリス様が「ロニエ様親衛隊、ここに完結……いえ、新章突入ですわ!」と気勢を上げ、カイルが「お嬢様、諦めて王宮のインフラ整備に協力してください」と諦め顔で書類を持ってきた。
夜。ようやく二人きりになった新居の寝室で、私は天蓋付きの豪華なベッドに倒れ込んだ。
「……はぁ。疲れたわ。本当に、本当に疲れたわ……」
「お疲れ様、ロニエ。今日からここが、君の新しい『修行の場』であり、安らぎの家だ」
アレン王子が私の隣に座り、優しく髪を撫でた。
「殿下……。私はまだ、諦めていませんからね。いつか、隙を見て離れに逃げ込んで、今度こそ本物の『婚約破棄』……いえ、『離縁』を勝ち取ってみせますわ」
「ふふ、楽しみだね。君が逃げるたびに、僕はまた君を見つけ出し、何度でも恋に落ちるだろう。君のその『反抗』こそが、僕を生かすエネルギーなんだから」
王子は私の額に、深く、愛おしげに口づけをした。
「(……嘘でしょう。私の嫌がらせが、あの方の寿命を延ばしているっていうの……?)」
私は、ふかふかの枕に顔を埋めながら、静かに目を閉じた。
とりあえず、明日の朝は昼まで寝てやる。それが私の、王妃としての最初の「悪行」だ。
……もっとも、それがまた「王の心身を休ませるための献身的な配慮」として、侍女たちの間で称賛されることになるのは、もう少し先の話。
完璧すぎて可愛くない?
いいえ、私はただ、婚約破棄されたいだけなんです!
――没落希望の令嬢の受難(溺愛)の日々は、これからも末長く、幸せに続いていくのであった。
運命の結婚式当日。王城の控室で、私は鏡の中に映る「白銀の彫刻」のような自分を見つめていた。
最高級のシルク、数千粒の真珠、そして頭上にはあの伝説のティアラ。
どこからどう見ても、国を挙げて祝福される完璧な花嫁だ。
「お嬢様。それは愛の重みというものです。王妃となるお方が、そんなひ弱なことでどうしますか」
「愛じゃなくて質量(キログラム)の話をしているのよ。……ねえ、今からでも遅くないわ。このヴェールを顔に巻きつけて『誰だか分かりませんわよね?』って言って逃げ出しましょうか」
「無駄ですよ。城の周りは十重二十重(とえはたえ)に近衛騎士団が展開しています。お嬢様が蟻一匹通さない包囲網の主役なのですから」
アンナが私の髪を一房整え、満足げに頷いた。
私は絶望的な気分で溜息をついた。
婚約破棄を狙って入学したあの日から、どうしてこうなったのか。
雑草を贈り、変顔を晒し、足が臭いとまで嘘をついた。
それなのに、私の「悪役令嬢(自称)」への道は、いつの間にか「建国以来の聖女」への特急券に変わっていた。
「ロニエ! 準備はいいかい?」
扉が勢いよく開き、まばゆいばかりの正装に身を包んだアレン王子が現れた。
今日の彼は、いつも以上に光り輝いていて、直視すると網膜が焼けそうだ。
「……殿下。準備はできていますわ。……というか、これ以外に選択肢がないようですもの」
「ふっ、ははは! 君らしいね、ロニエ。その『運命すらも当然のように受け入れる』超然とした態度……。やはり君を妻に選んで正解だった」
王子は私の手を取り、そっと引き寄せた。
「さあ、行こう。国民が、君という奇跡の誕生を待っている」
大聖堂の扉が開くと、地響きのような歓声とパイプオルガンの音が私を包み込んだ。
何千人もの貴族、そして窓の外に詰めかけた数万の平民たちが、私を見て涙を流し、祈りを捧げている。
「(……嘘でしょう。私、ただお昼寝がしたいだけのズボラ女なのに、なんで神々の一員みたいな扱いを受けているのよ……)」
祭壇の前で、国王陛下が満足げに頷いている。
アレン王子が、私のヴェールをゆっくりと上げた。
その瞳には、狂おしいほどの情熱と、独占欲、そして揺るぎない愛が宿っていた。
「神に誓う。僕は生涯、ロニエ・エヴァンズを愛し、守り、彼女の望むすべてを叶えると」
「……では、ロニエ・エヴァンズ。あなたも誓いますか?」
司祭の問いかけに、私は最後のリベンジとして、あえてこう答えた。
「……誓いますわ。私は生涯、自分に正直に、怠惰を愛し、殿下を困らせることをやめないと」
さあ、これで会場は静まり返るはずよ!
聖なる誓いの場で「怠惰」を宣言するなんて、前代未聞の不謹慎だわ!
「…………おおおっ!!」
どよめきが起きた。だが、それは非難ではなかった。
「なんて……なんて深い誓いなんだ! 『自分に正直に』……それはつまり、王家という枠に囚われず、常に真実の姿で僕に寄り添うという宣言……!」
アレン王子は感極まった様子で、私の手を握りしめた。
「そして『怠惰を愛する』。それは、激動の時代にあって、僕に安らぎと休息を与え続けるという献身の決意……! さらに『困らせる』というのは、僕が慢心しないよう、常に刺激を与え続けるという愛の鞭だね! ロニエ、君の誓いに、僕は今、魂が震えるほどの光を見たよ!」
「…………(もうダメだわ。この人、完全に無敵だわ)」
「ロニエ様万歳!」「真実の愛の王妃様だ!」「怠惰こそ安らぎの聖域!」
大聖堂は、かつてないほどの熱狂に包まれた。
私の「不謹慎な誓い」は、なぜか「新しい時代の王妃の心得」として、歴史に刻まれることになってしまった。
その後の披露宴では、リリアさんが「お姉様、一生ついていきます!」と号泣し、ベアトリス様が「ロニエ様親衛隊、ここに完結……いえ、新章突入ですわ!」と気勢を上げ、カイルが「お嬢様、諦めて王宮のインフラ整備に協力してください」と諦め顔で書類を持ってきた。
夜。ようやく二人きりになった新居の寝室で、私は天蓋付きの豪華なベッドに倒れ込んだ。
「……はぁ。疲れたわ。本当に、本当に疲れたわ……」
「お疲れ様、ロニエ。今日からここが、君の新しい『修行の場』であり、安らぎの家だ」
アレン王子が私の隣に座り、優しく髪を撫でた。
「殿下……。私はまだ、諦めていませんからね。いつか、隙を見て離れに逃げ込んで、今度こそ本物の『婚約破棄』……いえ、『離縁』を勝ち取ってみせますわ」
「ふふ、楽しみだね。君が逃げるたびに、僕はまた君を見つけ出し、何度でも恋に落ちるだろう。君のその『反抗』こそが、僕を生かすエネルギーなんだから」
王子は私の額に、深く、愛おしげに口づけをした。
「(……嘘でしょう。私の嫌がらせが、あの方の寿命を延ばしているっていうの……?)」
私は、ふかふかの枕に顔を埋めながら、静かに目を閉じた。
とりあえず、明日の朝は昼まで寝てやる。それが私の、王妃としての最初の「悪行」だ。
……もっとも、それがまた「王の心身を休ませるための献身的な配慮」として、侍女たちの間で称賛されることになるのは、もう少し先の話。
完璧すぎて可愛くない?
いいえ、私はただ、婚約破棄されたいだけなんです!
――没落希望の令嬢の受難(溺愛)の日々は、これからも末長く、幸せに続いていくのであった。
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