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広間に流れる空気はもはや断罪劇のそれではなく 完全にミントを称える祝祭の場へと変貌していた。
楽団が戸惑いながらも 勝利を祝うかのような軽やかなワルツを奏で始める。
「ミント様! どうか、私と一曲踊っていただけませんか!」
「いいえ、私こそが! ミント様のその輝きをエスコートする名誉を!」
かつて彼女を冷遇していた貴族たちが 我先にとミントの前で列を作り 跪いた。しかしミントは 手鏡で自分の前髪を一ミリの狂いもなく整えると 扇子で彼らを一蹴した。
「あら 困ったわ。皆様の熱意は認めるけれど 私の隣に立つには 少し……いえ かなり華やかさが足りないのではないかしら? 私のドレスの刺繍一つよりも地味な方と踊ったら 私の輝きが吸い込まれてしまうわ」
ミントは溜息をつき 視線を泳がせた。そして 壁際で静かに控えていた一人の男に 目を留めた。
「ジルコン。貴方、何をしているの? いつまで背景のフリをしているつもりかしら」
「……ミント様。私はただの護衛です。貴女のような主役と踊るなど 分をわきまえておりますよ」
ジルコンが苦笑しながら歩み寄る。ミントはその逞しい腕を強引に掴むと 広間の中央へと引きずり出した。
「いいから黙って私を支えなさい。この一ヶ月 私の側で磨かれ続けた貴方の鎧は 今や王都のどの貴族の礼装よりも 私を引き立てる絶好の反射板(リフレクター)になっているわ。私のダンスを世界一美しく見せられるのは 二番目の貴方だけよ」
「……はは。相変わらず 無茶苦茶な誘い文句ですね」
ジルコンは諦めたように溜息をつくと 優雅な所作でミントの腰に手を添えた。
音楽が一段と高らかに響き 二人は滑り出すように踊り始めた。
ミントの動きは 練習など必要ないと言わんばかりに完璧だった。彼女自身が輝く光の粒を撒き散らしているかのように ドレスの裾が美しく翻る。
「ジルコン 見て。今の私のターン。遠心力で私の髪が描く放物線……黄金比そのものだわ。ああ 自分で自分に見惚れて 目が回りそうだわ!」
「……前を見てください ミント様。貴女が転んだら 私は一生 自分の不手際を呪わなければならなくなります。貴女の美しさを守るのが 私の誓いですから」
ジルコンの瞳には 冗談ではない真剣な光が宿っていた。彼はミントを 壊れやすい宝物を扱うかのように それでいて力強く リードしていく。
「ミント様。先ほど 貴女は仰いましたね。自分を愛しているから強いのだと。……私は そんな貴女を愛している自分を誇りに思います」
ジルコンが耳元で 誰にも聞こえないような低い声で囁いた。
「……あら。ジルコン 貴方 今なんて言ったの? 音楽が私の賞賛に忙しくて よく聞こえなかったわ」
「……いえ。何でもありません。貴女はそのまま 鏡の中の自分だけを見ていてください」
ジルコンは少しだけ寂しげに しかし満足そうに微笑んだ。
「貴女の一番にはなれなくても 二番目でいい。……貴女を愛する自分を 私が一番に愛していれば 私は貴女と同じように 無敵でいられますから」
ダンスが終わると 同時に会場は爆発的な拍手に包まれた。
ミントは息一つ乱さず 観衆に向かって優雅に一礼した。その隣で ジルコンは影のように寄り添い 彼女の輝きを静かに守っていた。
「ジルコン 今日の貴方のステップ 合格点よ。私の美しさを邪魔せず むしろ土台として機能していたわ。褒美として 今夜は特別に 私の『寝顔鑑賞権』を十秒だけあげるわ」
「……十秒ですか。……謹んで お受けいたします」
二人のやり取りは 恋人同士のそれとは少し違う。しかし 王都の誰もが認めるほど その光景は奇跡のように美しかった。
カイルとフロラという「偽りの光」が消えた王宮で ミントという太陽と ジルコンという月は かつてない絆で結ばれ 輝きを増していくのであった。
楽団が戸惑いながらも 勝利を祝うかのような軽やかなワルツを奏で始める。
「ミント様! どうか、私と一曲踊っていただけませんか!」
「いいえ、私こそが! ミント様のその輝きをエスコートする名誉を!」
かつて彼女を冷遇していた貴族たちが 我先にとミントの前で列を作り 跪いた。しかしミントは 手鏡で自分の前髪を一ミリの狂いもなく整えると 扇子で彼らを一蹴した。
「あら 困ったわ。皆様の熱意は認めるけれど 私の隣に立つには 少し……いえ かなり華やかさが足りないのではないかしら? 私のドレスの刺繍一つよりも地味な方と踊ったら 私の輝きが吸い込まれてしまうわ」
ミントは溜息をつき 視線を泳がせた。そして 壁際で静かに控えていた一人の男に 目を留めた。
「ジルコン。貴方、何をしているの? いつまで背景のフリをしているつもりかしら」
「……ミント様。私はただの護衛です。貴女のような主役と踊るなど 分をわきまえておりますよ」
ジルコンが苦笑しながら歩み寄る。ミントはその逞しい腕を強引に掴むと 広間の中央へと引きずり出した。
「いいから黙って私を支えなさい。この一ヶ月 私の側で磨かれ続けた貴方の鎧は 今や王都のどの貴族の礼装よりも 私を引き立てる絶好の反射板(リフレクター)になっているわ。私のダンスを世界一美しく見せられるのは 二番目の貴方だけよ」
「……はは。相変わらず 無茶苦茶な誘い文句ですね」
ジルコンは諦めたように溜息をつくと 優雅な所作でミントの腰に手を添えた。
音楽が一段と高らかに響き 二人は滑り出すように踊り始めた。
ミントの動きは 練習など必要ないと言わんばかりに完璧だった。彼女自身が輝く光の粒を撒き散らしているかのように ドレスの裾が美しく翻る。
「ジルコン 見て。今の私のターン。遠心力で私の髪が描く放物線……黄金比そのものだわ。ああ 自分で自分に見惚れて 目が回りそうだわ!」
「……前を見てください ミント様。貴女が転んだら 私は一生 自分の不手際を呪わなければならなくなります。貴女の美しさを守るのが 私の誓いですから」
ジルコンの瞳には 冗談ではない真剣な光が宿っていた。彼はミントを 壊れやすい宝物を扱うかのように それでいて力強く リードしていく。
「ミント様。先ほど 貴女は仰いましたね。自分を愛しているから強いのだと。……私は そんな貴女を愛している自分を誇りに思います」
ジルコンが耳元で 誰にも聞こえないような低い声で囁いた。
「……あら。ジルコン 貴方 今なんて言ったの? 音楽が私の賞賛に忙しくて よく聞こえなかったわ」
「……いえ。何でもありません。貴女はそのまま 鏡の中の自分だけを見ていてください」
ジルコンは少しだけ寂しげに しかし満足そうに微笑んだ。
「貴女の一番にはなれなくても 二番目でいい。……貴女を愛する自分を 私が一番に愛していれば 私は貴女と同じように 無敵でいられますから」
ダンスが終わると 同時に会場は爆発的な拍手に包まれた。
ミントは息一つ乱さず 観衆に向かって優雅に一礼した。その隣で ジルコンは影のように寄り添い 彼女の輝きを静かに守っていた。
「ジルコン 今日の貴方のステップ 合格点よ。私の美しさを邪魔せず むしろ土台として機能していたわ。褒美として 今夜は特別に 私の『寝顔鑑賞権』を十秒だけあげるわ」
「……十秒ですか。……謹んで お受けいたします」
二人のやり取りは 恋人同士のそれとは少し違う。しかし 王都の誰もが認めるほど その光景は奇跡のように美しかった。
カイルとフロラという「偽りの光」が消えた王宮で ミントという太陽と ジルコンという月は かつてない絆で結ばれ 輝きを増していくのであった。
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