私を愛さないなんて、世界最大の損失ではなくて?

鏡おもち

文字の大きさ
28 / 28

28

しおりを挟む
カイル王子の失脚から一年後。エーデルワイス領は、名実ともに「美の聖地」として世界的な観光地へと変貌していた。


その中心にある領主の館……かつては朽ち果てたボロ屋敷だった場所は、今や純白の大理石と、領地のバラ、そして温泉の蒸気を利用した温室庭園に囲まれた、豪奢な宮殿となっていた。


そして今日、その宮殿で、一組の結婚式が執り行われる。


「……お嬢様。いや、今日からは奥様、とお呼びしなければなりませんね」


控え室で、純白のウェディングドレスに身を包んだミントに、専属メイドのアンナが涙を拭いながら声をかけた。


ミントは、ジルコンのこだわりで領地の職人たちに作らせた、壁一面を覆う巨大な姿見の前に立っていた。


「アンナ。今日という日を境に 私の呼び名が変わるなんてことはないわ。私はいつだって『世界で一番美しい私』よ。それ以外の呼び方なんて 必要ないわ」


ミントは鏡の中の自分に 近づいては離れ 様々な角度から自身の晴れ姿を確認していた。


「見てちょうだい このドレスのレース。一針一針が 私の美しさに感動して震えながら縫われたのが分かるわ。そしてこのブーケ……バラたちが『ミント様に抱かれたい!』と競い合った結果 選ばれた精鋭たちよ。ああ 私ってば なんて罪深い花嫁なのかしら」


ミントは恍惚とした表情で、自分自身を強く抱きしめた。


「……お待たせしました、ミント様。準備はよろしいでしょうか」


扉が開き、礼装に身を包んだジルコンが現れた。彼もまた、一年前とは見違えるほど堂々とした、領主の夫に相応しい風格を漂わせている。


「あら、ジルコン。貴方、今日の衣装、悪くないわね。私の純白の輝きを引き立てるための、絶妙な『影の色』を選んだわね。褒めてあげるわ」


「……ありがとうございます。私の人生のテーマは、貴女の『引き立て役』を極めることですから」


ジルコンは穏やかに微笑み、ミントに手を差し出した。


「さあ、行きましょう。村人たちも、王都からの来賓も、皆が貴女の登場を待ちわびています」


「ええ、分かっているわ。世界が私を呼んでいるのね」


ミントはジルコンの手を取り、一歩を踏み出そうとした。


だが、その足がピタリと止まった。


「……ちょっと待って、ジルコン」


「どうされましたか? ドレスの裾が?」


「違うわ。……まだ、一番大切な儀式が終わっていないわ」


ミントはジルコンの手を離し、再び巨大な姿見の前に戻った。


そして、深呼吸をした後、鏡の中の自分に向かって、今日一番の、最高の笑顔で投げキッスを送った。


「……今日も世界で一番可愛いわ、私! この世で一番愛してる! 結婚おめでとう、私!」


「…………」


アンナは天井を仰ぎ、ジルコンは肩を震わせて笑いを堪えた。


「……ふっ、くくっ。最後まで、貴女はブレませんね」


「当然でしょう? 私が私を愛さなくて、誰がこの完璧な花嫁を幸せにするというの? さあジルコン、エスコートしなさい。私という奇跡を、世界に見せつけてあげるのよ!」


ミントは再びジルコンの手を取り、今度こそ扉の向こうへと歩き出した。


その先には、彼女を称える何千もの人々の歓声と、彼女自身が築き上げた、輝かしい未来が待っている。


婚約破棄、追放、断罪。すべての悲劇を「自分への愛」という最強の武器で粉砕し、自らを世界の中心へと押し上げた、伝説の悪役令嬢ミント・エーデルワイス。


彼女の物語は、これからも鏡の前で、永遠に続いていくのであった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

【書籍化決定】アシュリーの願いごと

ましろ
恋愛
「まあ、本当に?」 もしかして。そう思うことはありました。 でも、まさか本当だっただなんて。 「…それならもう我慢する必要は無いわね?」 嫁いでから6年。まるで修道女が神に使えるが如くこの家に尽くしてきました。 すべては家の為であり、夫の為であり、義母の為でありました。 愛する息子すら後継者として育てるからと産まれてすぐにとりあげられてしまいました。 「でも、もう変わらなくてはね」 この事を知ったからにはもう何も我慢するつもりはありません。 だって。私には願いがあるのだから。 ✻基本ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。 ✻1/19、タグを2つ追加しました ✻1/27、短編から長編に変更しました ✻2/2、タグを変更しました

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

後妻の条件を出したら……

しゃーりん
恋愛
妻と離婚した伯爵令息アークライトは、友人に聞かれて自分が後妻に望む条件をいくつか挙げた。 格上の貴族から厄介な女性を押しつけられることを危惧し、友人の勧めで伯爵令嬢マデリーンと結婚することになった。 だがこのマデリーン、アークライトの出した条件にそれほどズレてはいないが、貴族令嬢としての教育を受けていないという驚きの事実が発覚したのだ。 しかし、明るく真面目なマデリーンをアークライトはすぐに好きになるというお話です。

彼女が高級娼婦と呼ばれる理由~元悪役令嬢の戦慄の日々~

プラネットプラント
恋愛
婚約者である王子の恋人をいじめたと婚約破棄され、実家から縁を切られたライラは娼館で暮らすことになる。だが、訪れる人々のせいでライラは怯えていた。 ※完結済。

夢を現実にしないための正しいマニュアル

しゃーりん
恋愛
娘が処刑される夢を見た。 現在、娘はまだ6歳。それは本当に9年後に起こる出来事? 処刑される未来を変えるため、過去にも起きた夢の出来事を参考にして、変えてはいけないことと変えるべきことを調べ始める。 婚約者になる王子の周囲を変え、貴族の平民に対する接し方のマニュアルを作り、娘の未来のために頑張るお話。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

もしもゲーム通りになってたら?

クラッベ
恋愛
よくある転生もので悪役令嬢はいい子に、ヒロインが逆ハーレム狙いの悪女だったりしますが もし、転生者がヒロインだけで、悪役令嬢がゲーム通りの悪人だったなら? 全てがゲーム通りに進んだとしたら? 果たしてヒロインは幸せになれるのか ※3/15 思いついたのが出来たので、おまけとして追加しました。 ※9/28 また新しく思いつきましたので掲載します。今後も何か思いつきましたら更新しますが、基本的には「完結」とさせていただいてます。9/29も一話更新する予定です。 ※2/8 「パターンその6・おまけ」を更新しました。 ※4/14「パターンその7・おまけ」を更新しました。

処理中です...