婚約破棄!ついでに王子をどん底に突き落とす。

鏡おもち

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「……パルメ。君の瞳に、この宝石の輝きは届いているだろうか」

夕暮れ時のド・ラ・メール領。黄金色に染まる畑の真ん中で、セドリックが膝をついた。

その手には、王室の秘宝と言われてもおかしくない、拳ほどもある巨大なダイヤモンドのネックレスが握られている。

パルメは、愛用の『ガイア・ブレイカー』に寄りかかりながら、眉間に深い皺を寄せた。

「……セドリック殿下。それ、何ですの?」

「何って、愛の証だ。これを君の細い首に飾り、私の所有物……失礼、私の守護対象であることを世界に示したい」

パルメは、ゾクッと背筋に冷たいものが走るのを感じた。

(……間違いないわ。これは、高度な『嫌がらせ』ね!)

パルメの脳内では、かつての王妃教育で培われた「深読みスキル」が最悪の方向に回転し始めた。

(こんなに大きな石を首から下げたら、重くて穴掘りができないじゃない!)

(しかもダイヤモンドなんて硬いものを贈るなんて……『お前の性格は石のように頑固だ』という皮肉に決まっているわ!)

パルメは、セドリックの差し出した手を無造作に払いのけた。

「殿下! 私を侮らないでくださる? そんな重火器のような装飾品で、私の農作業を妨害しようだなんて、いい度胸ですわね!」

「……じゅう、かき?」

セドリックが呆然と呟く。

「ええ! これを着けて畑に出れば、屈むたびに首に負担がかかって、私の脊髄を破壊するつもりでしょう? なんて恐ろしい男かしら!」

「パルメ、違うんだ。これは君の美しさを際立たせるための……」

「いいえ、分かっていますわ! 次はこれですわね!」

パルメは、セドリックが昨夜こっそり庭に植えておいた、最高級の「真紅のバラ」の束を指差した。

「このバラ! 棘がびっしりついていますわ! これを私の寝室の近くに置くなんて……『お前は棘のある毒婦だ』という暗喩、あるいは物理的に私を刺し殺そうという暗殺計画ですわね!」

「……パルメ。君の想像力は、時に私の理解を超えていくな。だが、そこが堪らなく愛おしい」

セドリックは、拒絶されればされるほど、その瞳に熱い火を灯した。

「いいか、パルメ。君が私を疑うのなら、私は証明し続ける。明日は君の好きな食べ物を山ほど用意しよう。君が毒を警戒するなら、私が全て毒見してみせる」

「……食べ物? 毒見? ……ハッ! さては、私の胃袋を掴んで、この領地の『赤いソース』のレシピを盗み出す気ね!」

パルメはガイア・ブレイカーを構え、セドリックを威嚇した。

「産業スパイなら、今すぐお帰りになって! このソースは、私の老後の平穏を守るための生命線なんですのよ!」

「お嬢様、落ち着いてください。殿下はただ、死ぬほど重い愛をぶつけているだけです」

アンナが遠くから乾いた声でツッコミを入れるが、二人の世界には届かない。

「パルメ……。君のその、一切の甘えを許さない峻厳な態度。やはり君こそが、我が国の王妃にふさわしい。……決めた。私は明日から、君の家の門番として生活する」

「門番!? やめてください、不審者として通報されますわ!」

「君を守るためなら、不審者と呼ばれることさえ誉れだ」

セドリックは爽やかな笑顔で、憲兵に捕まりそうなセリフを吐いた。

パルメは頭を抱えた。

(リュント王子は『無能』だったけれど、この男は『異常』だわ!)

(せっかくニート生活を満喫しようと思っているのに、どうしてこうも変な男ばかり寄ってくるのかしら……)

パルメは、セドリックを無視して屋敷の中へと逃げ込んだ。

「アンナ! 今すぐ玄関の鍵を閉めて! あと、落とし穴のトラップを三箇所増やしておいてちょうだい!」

「承知いたしました。……でもお嬢様、殿下なら落とし穴に落ちても『パルメの掘った穴の中で眠れるなんて幸せだ』とか言いそうですよ」

「……その発想はなかったわ。なんて手強い嫌がらせなの……!」

パルメの「自由」を脅かす最大の敵は、かつての婚約者ではなく、狂信的な愛を抱えた隣国の王子へとシフトしていた。

パルメは、窓の外で自分の名前を呼び続けるセドリックの声をBGMに、耳栓をして眠りにつくのであった。
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