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「……ふぅ。やはり王宮のコンロは火力が安定していてよろしいですわね」
私は額の汗を拭い、大皿に山盛りにされた「鋼鉄猪のガッツリ味噌焼き」を眺めて満足げに頷きました。
厨房全体に広がる、焦げた味噌と脂の香ばしい匂い。
これこそが人間を野生に呼び戻し、明日への活力を与える真の聖歌ですわ。
「ラテ様……。ああ、この匂いだけで私はあと十年は長生きできそうです……」
先ほどまで幽霊のようだった料理長が、今は震える手で味見用の肉を口に運び、涙を流して震えています。
よしよし、まずはスタッフの福利厚生(胃袋)から改善するのは基本中の基本ですわね。
そこへ、ふらふらとした足取りで食堂に現れたのは、鼻をヒクつかせたジュリアン王子でした。
彼の後ろには、不機嫌そうに顔を歪めたマリア様も控えています。
「……ラテ。貴様、勝手な真似を。王宮の神聖な空気が、獣の脂で汚れているではないか」
「あら、王子。お顔の割に鼻は正直なようですわね。先ほどから喉仏が激しく上下しておりますけれど、何か飲み込みたいものでもございますの?」
「なっ……! 私はただ、お前の蛮行を止めに来ただけだ!」
「蛮行? 失礼ね。私は飢えた民(料理人)を救済しているだけですわ。……ほら、王子も一口いかがです? 毒なんて入っていませんわよ。強いて言えば、あまりの旨さに理性が崩壊する程度の毒は入っておりますけれど」
私が切り分けた肉を差し出すと、ジュリアン王子は「ふん、毒味をしてやろう」と偉そうに受け取りました。
一口、咀嚼した瞬間。
「…………っ!!」
王子の瞳が見開かれ、肩がガタガタと震え始めました。
彼は無言で二口目、三口目と肉を詰め込み、しまいには皿を奪い取る勢いで食べ始めました。
……あら、マナーもへったくれもありませんわね。
「……う、旨い。なんだこれは。口の中で肉が暴れている……。昨日のバラのスープとは、宇宙の成り立ちからして違う……!」
「ジュリアン様!? そんな卑しいものを食べないでくださいませ! ああっ、お洋服にタレが!」
マリア様が叫びますが、一度「本物の味」を知った王子の胃袋は止まりません。
完食した王子は、満足げな溜息をつくと、急にこれ見よがしに居住まいを正しました。
「……ラテ。認めよう。お前の料理の腕だけは、王宮に必要だ。……どうだ。これまでの無礼を水に流し、お前を再び私の婚約者に戻してやってもいいぞ」
「……は?」
私は、持っていたトングを床に落としそうになりました。
今、この男、何と言いましたの?
「聞こえなかったのか? マリアは私の心の癒やしだが、お前は私の胃袋の管理人として側に置くことを許可してやる。公爵令嬢としての地位も戻るのだ。感謝して跪け」
食堂に、冷ややかな静寂が訪れました。
私の隣で、カシアン様が剣を抜きそうになるのを、私は手で制しました。
いいえ、ここは私の「口撃」で仕留めるべき場面ですわ。
「……ジュリアン王子。一つ伺いますが、あなたは一度床に落として、泥と砂にまみれたステーキを、もう一度お皿に戻して食べたいと思いますの?」
「何を……? そんな汚いもの、食べるわけがなかろう」
「今のあなたの提案は、まさにそれですわ。私という最高級の食材を、あなたは一度ゴミ箱へ投げ捨てたのです。それを今さらお腹が空いたからと拾い上げようとするなんて……。控えめに言って、吐き気がしますわ」
「な……貴様、王子に向かってなんたる無礼を!」
「無礼なのはあなたの頭の構造ですわ! いいですか、王子。今の私は、ヴォルフ領で大切に育てられ、愛され、最高に脂の乗った状態です。そして、その私を一番美味しく『鑑賞』してくれるのは、隣にいるカシアン様だけなのです!」
カシアン様が、私の言葉に驚いたように目を見開きました。
……少し言い過ぎたかしら?
いえ、これくらい言わないと、この賞味期限切れの王子様には伝わりませんわ。
「王都の生活? 地位? そんなもの、カシアン様が焼いてくれる一切れの肉以下の価値もありません。私はもう、あなたの煮え切らない態度の付け合わせ(サイドメニュー)になるつもりはありませんの。お引き取りくださいな、メインディッシュ(カシアン様)の邪魔ですわ!」
「……くっ、ラテ! 後悔しても知らんぞ!」
王子は顔を真っ赤にして、逃げるように食堂を去って行きました。
マリア様も、私のツヤツヤした肌を忌々しそうに見つめてから、その後を追います。
「……ふぅ。お腹が空いている時に馬鹿な話を聞くと、余計にエネルギーを消費しますわね。……カシアン様、今の、聞いていました?」
私は少し照れくさくなって、カシアン様の袖を引きました。
「……ああ。お前が私を『最高級のメインディッシュ』と言ってくれたこと、一生忘れん。……。……おい、ラテ。なぜそんなに顔を背ける」
「……。……。……熱いからですわ! コンロの熱のせいですわよ!」
「……。……そうか。ならば、その熱を冷ますために、今夜は私の部屋でゆっくりと『今後の献立』について語り合おうか」
カシアン様が私の耳元で囁きました。
……あら。なんだか、王宮のどの高級デザートよりも甘い声ですわね。
でも、私の心臓が高鳴っているのは、あくまで「新しいレシピ」への興奮のせい……。
「……カシアン様。語り合うのはいいですが、夜食も用意してくださいましね?」
「ああ。お前が満足するまで、何度でも付き合ってやる」
私たちは、呆然とする料理長たちを置いて、仲良く厨房へと戻りました。
王子の復縁要請?
そんなもの、今日のデザートの「リンゴのコンポート」を煮詰める時間よりも、どうでもいいことですわ!
私は額の汗を拭い、大皿に山盛りにされた「鋼鉄猪のガッツリ味噌焼き」を眺めて満足げに頷きました。
厨房全体に広がる、焦げた味噌と脂の香ばしい匂い。
これこそが人間を野生に呼び戻し、明日への活力を与える真の聖歌ですわ。
「ラテ様……。ああ、この匂いだけで私はあと十年は長生きできそうです……」
先ほどまで幽霊のようだった料理長が、今は震える手で味見用の肉を口に運び、涙を流して震えています。
よしよし、まずはスタッフの福利厚生(胃袋)から改善するのは基本中の基本ですわね。
そこへ、ふらふらとした足取りで食堂に現れたのは、鼻をヒクつかせたジュリアン王子でした。
彼の後ろには、不機嫌そうに顔を歪めたマリア様も控えています。
「……ラテ。貴様、勝手な真似を。王宮の神聖な空気が、獣の脂で汚れているではないか」
「あら、王子。お顔の割に鼻は正直なようですわね。先ほどから喉仏が激しく上下しておりますけれど、何か飲み込みたいものでもございますの?」
「なっ……! 私はただ、お前の蛮行を止めに来ただけだ!」
「蛮行? 失礼ね。私は飢えた民(料理人)を救済しているだけですわ。……ほら、王子も一口いかがです? 毒なんて入っていませんわよ。強いて言えば、あまりの旨さに理性が崩壊する程度の毒は入っておりますけれど」
私が切り分けた肉を差し出すと、ジュリアン王子は「ふん、毒味をしてやろう」と偉そうに受け取りました。
一口、咀嚼した瞬間。
「…………っ!!」
王子の瞳が見開かれ、肩がガタガタと震え始めました。
彼は無言で二口目、三口目と肉を詰め込み、しまいには皿を奪い取る勢いで食べ始めました。
……あら、マナーもへったくれもありませんわね。
「……う、旨い。なんだこれは。口の中で肉が暴れている……。昨日のバラのスープとは、宇宙の成り立ちからして違う……!」
「ジュリアン様!? そんな卑しいものを食べないでくださいませ! ああっ、お洋服にタレが!」
マリア様が叫びますが、一度「本物の味」を知った王子の胃袋は止まりません。
完食した王子は、満足げな溜息をつくと、急にこれ見よがしに居住まいを正しました。
「……ラテ。認めよう。お前の料理の腕だけは、王宮に必要だ。……どうだ。これまでの無礼を水に流し、お前を再び私の婚約者に戻してやってもいいぞ」
「……は?」
私は、持っていたトングを床に落としそうになりました。
今、この男、何と言いましたの?
「聞こえなかったのか? マリアは私の心の癒やしだが、お前は私の胃袋の管理人として側に置くことを許可してやる。公爵令嬢としての地位も戻るのだ。感謝して跪け」
食堂に、冷ややかな静寂が訪れました。
私の隣で、カシアン様が剣を抜きそうになるのを、私は手で制しました。
いいえ、ここは私の「口撃」で仕留めるべき場面ですわ。
「……ジュリアン王子。一つ伺いますが、あなたは一度床に落として、泥と砂にまみれたステーキを、もう一度お皿に戻して食べたいと思いますの?」
「何を……? そんな汚いもの、食べるわけがなかろう」
「今のあなたの提案は、まさにそれですわ。私という最高級の食材を、あなたは一度ゴミ箱へ投げ捨てたのです。それを今さらお腹が空いたからと拾い上げようとするなんて……。控えめに言って、吐き気がしますわ」
「な……貴様、王子に向かってなんたる無礼を!」
「無礼なのはあなたの頭の構造ですわ! いいですか、王子。今の私は、ヴォルフ領で大切に育てられ、愛され、最高に脂の乗った状態です。そして、その私を一番美味しく『鑑賞』してくれるのは、隣にいるカシアン様だけなのです!」
カシアン様が、私の言葉に驚いたように目を見開きました。
……少し言い過ぎたかしら?
いえ、これくらい言わないと、この賞味期限切れの王子様には伝わりませんわ。
「王都の生活? 地位? そんなもの、カシアン様が焼いてくれる一切れの肉以下の価値もありません。私はもう、あなたの煮え切らない態度の付け合わせ(サイドメニュー)になるつもりはありませんの。お引き取りくださいな、メインディッシュ(カシアン様)の邪魔ですわ!」
「……くっ、ラテ! 後悔しても知らんぞ!」
王子は顔を真っ赤にして、逃げるように食堂を去って行きました。
マリア様も、私のツヤツヤした肌を忌々しそうに見つめてから、その後を追います。
「……ふぅ。お腹が空いている時に馬鹿な話を聞くと、余計にエネルギーを消費しますわね。……カシアン様、今の、聞いていました?」
私は少し照れくさくなって、カシアン様の袖を引きました。
「……ああ。お前が私を『最高級のメインディッシュ』と言ってくれたこと、一生忘れん。……。……おい、ラテ。なぜそんなに顔を背ける」
「……。……。……熱いからですわ! コンロの熱のせいですわよ!」
「……。……そうか。ならば、その熱を冷ますために、今夜は私の部屋でゆっくりと『今後の献立』について語り合おうか」
カシアン様が私の耳元で囁きました。
……あら。なんだか、王宮のどの高級デザートよりも甘い声ですわね。
でも、私の心臓が高鳴っているのは、あくまで「新しいレシピ」への興奮のせい……。
「……カシアン様。語り合うのはいいですが、夜食も用意してくださいましね?」
「ああ。お前が満足するまで、何度でも付き合ってやる」
私たちは、呆然とする料理長たちを置いて、仲良く厨房へと戻りました。
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