婚約破棄で、隣国へ送られる。住めば都って本当ですか?

鏡おもち

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「さあ、作戦会議(ミーティング)ですわよ! 全員集合!」


翌朝、私は旅館『湯煙亭』の薄暗いロビーに、関係者(といっても三人とおじいさん一人)を集めた。


私の前には、広げた地図と、昨夜書き殴った「温泉街復興計画書」がある。


「お嬢様。……その、頭に巻いている『必勝』と書かれた手ぬぐいはなんですの?」


アンネが、心底嫌そうな顔で私の頭を指差した。


「形から入るのがプロデューサーの鉄則ですわ! これ、実は実家の救急箱に入っていた止血帯なんですけど、ちょうどよかったですわ!」


「……。ルルさん、やる気なのはわかりますが、まずは現状を整理しましょう」


アルさんが、呆れ顔を通り越して少し感心したような様子で口を開いた。


「そうですわね。まず、敵を知らねばなりません。山の向こうの『魔導サウナランド』! あそこの魅力は何ですの、おじいさん!」


私は番頭のおじいさんに扇子を向けた。


「へい……。あちらは、最新の魔導具で一気に体を温め、キンキンの水風呂に入り、外気浴で『ととのう』……とかいうのが売りだそうで。若いやつらは、短時間で快感が得られるあっちの方が効率がいいって言うんですわ」


「効率……! なんて無粋な言葉かしら! 温泉とは、じっくりと湯に浸かり、無駄な時間を楽しむ贅沢ですのに!」


私は机をバンッ! と叩いた。


「でも、お嬢様。効率を求める若者層をこちらに呼び戻すには、それなりの『フック』が必要です」


アンネが冷静に指摘する。


「わかってますわよ。そこで! 私の悪役令嬢としての経験を活かした、新コンセプトを発表しますわ!」


私はバッと計画書を裏返した。そこに大きく書かれていたのは――。


「『悪役令嬢流・女王様接客温泉』! これで行きますわ!」


ロビーに沈黙が流れた。


アルさんが、ゴリゴリとこめかみを押さえ始めた。


「……。ルルさん。それは、具体的にどういった内容なのでしょうか」


「簡単ですわ! 今、この町に足りないのは『刺激』です! 客を甘やかすのではなく、あえて厳しく、高飛車に、お嬢様口調で接客するのですわ!」


「……。つまり、客を罵るのですか?」


「いいえ! 『あら、そんな端っこの方で縮こまっていてどうするの? もっと真ん中で堂々と浸かりなさいな!』と、愛のある喝を入れるのですわ。これを『デレなしツン温泉』として売り出します!」


「……。お嬢様。この町の唯一の生き残りであるおじいさんに、それをやらせるのですか? 死人が出ますよ」


アンネのツッコミに、私はふむ、と考え込んだ。


「確かに。おじいさんの罵声はただの愚痴に聞こえますわね……。なら、接客は私とアンネがやりますわ! アルさんには、外で呼び込みをしてもらいます!」


「……。俺が、呼び込みを?」


「ええ! そのイケボと、フードの奥に見える整った顎のラインがあれば、女性客はイチコロですわ! 『私を癒やせるのは、この温泉だけか……』とか適当に呟いておけばよろしいのよ!」


「……。恥ずかしすぎて死ねと言われている気がします」


アルさんがガックリと肩を落とした。


「弱音を吐かないでくださいな! これは、アルさんが私の『パートナー』だと言ったことへの代償ですわよ!」


私はぐいっとアルさんの顔に近づいた。


「……。……。……わかりました。やればいいのでしょう、やれば」


アルさんは顔を赤くして(たぶん怒りで)、渋々承諾した。


「よし! 方針は決まりましたわ! まずはこのボロボロの暖簾を買い替え、入り口に『選ばれし者以外、立ち入り禁止』という看板を立てますわよ!」


「逆効果ではないですか……?」


「いいえ! 人間、禁止されればされるほど、中が見たくなるものですわ! これぞ、悪役令嬢流・逆心理マネジメントです!」


私は高笑いしながら、旅館の裏手にある物置へと走り出した。


「……。アンネさん。彼女は、本当に王宮にいた頃よりも生き生きしていますね」


アルさんが、遠くを見つめながら呟いた。


「ええ。あの方は、狭い鳥籠の中にいるべき人ではなかったのでしょう。……ただ、巻き込まれる私たちの身にもなってほしいものですが」


「……。全くだ」


二人の深いため息を背中で聞きながら、私は温泉街の再興という新しい「ゲーム」に胸を躍らせていた。


婚約破棄? 国外追放?


そんなもの、私の快進撃のスパイスにすぎないのですわ!
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