媚薬をアイツに試してみたら

万実

文字の大きさ
上 下
2 / 12

クリスの家へ

しおりを挟む
私はクリスの家の前に立ち、玄関のノッカーを叩いた。

執事が現れてすぐにクリスの部屋に案内される。

幼馴染みだから、こういうときは便利だ。



「こんにちは」



私は声をかけて部屋に入ると、クリスはソファーに腰掛けて本を読んでいる所だった。

本から顔を上げた彼と目が合い、私は咄嗟に作り笑顔を見せた。

これから〖媚薬〗を使うのだ。

バレないようにしなければならない。



クリスは驚いたような顔をして立ち上がり、私の近くまで歩いてきた。



「シルフィ、どうした。お前がここに来るなんて珍しいな。何年ぶりか」



背が高い彼を見上げる私は、こほんと咳払いをひとつして口を開いた。



「珍しいお茶を手に入れたから、たまにはクリスと一緒に飲もうかなあと思って」



私は手に持っているバスケットを開け、サンドイッチと茶葉、そして例の小瓶を彼に見せた。

それを見たクリスは一瞬ぎょっとしたように見えた。



「ん、どうしたの?」

「い、いや。何でもないんだ」



クリスはゴホゴホと少し咳き込んだ。

訝しむ私に気付き、すぐにいつもの取り澄ました表情に戻るとニヤリと笑って呟いた。



「お前、お茶とか入れられるの?」

「まあ!失礼ね。それくらい出来るわよ」



ほら、始まった。

私が何かするとすぐにチャチャを入れてくる。

どうして素直にありがとうって言えないのかな?

このサンドイッチだって私の手作りなんだから。

今日の為に一生懸命作ったのだ。

多分美味しいはず。

見た目はなんだけど···。



私は執事に用意してもらったポットとカップを受け取り、お茶を入れ始める。

ポットに茶葉とお湯を入れ、しばらく蒸らしてカップに注ぐ。二つのカップに用意しておいた小瓶の薬を一滴ずつ垂らした。

薬はさあっとお茶に溶け込んだ。

あ、もちろん私はお茶を飲むつもりはない。



「シルフィ、その小瓶は何?」



キター!

バレないように演技演技。



「え?あー、これね。これを入れるとお茶が美味しくなるんですって!ちょっと甘いみたいだけどね」

「え?甘いのかそのお茶」

「あれ、甘いお茶ダメだったっけ?」

「お前、入れる前に聞けよ」

「あう···」



うわあ、まずい。

そうだったっけ?昔は甘い飲み物好きだって言ってたと思ったけど、味覚が変わったのかな。

この〖媚薬〗は甘いから、お茶などに混ぜて使う事が多いという話で、私はよく考えずにその通りにしてしまったんだけど。完全にリサーチ不足だった。そういう事なら〖媚薬〗は試せないじゃない。



はうう。

泣きそうな顔をして少しうつ向いた。

それを見たクリスは「お前はホント相変わらずだな」と言い、笑いながらポンポンと私の頭を撫でた。

そしてティーカップを持って少しずつお茶を飲んだ。
しおりを挟む

処理中です...