初恋の先輩が私の義兄になりました。

万実

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雨宿り

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不安に思いながら空を見上げると、ぽつり、ぽつりと雨が顔にあたりだした。

あ、私傘持ってない。

まずいな、雨足が強くなってきた。

びしょ濡れになりながら走り出した私は、そんな空模様と同じように不安と悲しみが込み上げてきた。

でも今はそんなことよりも、この雨をやり過ごす為の場所を探さなければならない。

暫く走ると川沿いの道に出た。
橋が見える。橋の下で雨宿りができそう。
走って橋の下まで来た私は自分の身なりを見やる。

ああ、こんなに濡れそぼって···。
髪や制服からはポタポタと雨粒が滴り落ちる。
だんだん冷えてきており、このままここにいては確実に風邪をひく。

だけど、無闇に走ってきたので帰り道が分からなくなってしまった。

それに、帰ったところで家から追い出されるかもしれないのに。

私、もうどうしたらいいのかホントにわからないよ。

頬に流れ落ちるのは涙なのか雨粒なのか。
寒さで震えが止まらなくなり、たまらずしゃがみこんでうずくまった。

「み···ゆ?」

「えっ?」

不意に名前を呼ばれたような気がして顔をあげた。

私の目の前に誰かが佇んでいる。
その人は傘を片手に持つ背の高い男性。

彼は息を切らして、私を見下ろしている。そしてなぜか泣きそうな顔をしている。

「···なんで?」

私はにわかに信じられずに呟いた。
なんでここに柚希先輩がいるの?

「帰ろう」

そう言って先輩は手を差し出した。
帰ろうって、どこに?
何でそんなことを言うのかわからずに、私は首を傾げる。

「あの柚希先輩、私を追い出したいんじゃないの?」

ずっと胸にしこっていた言葉が溢れ出した。
言ってしまった。
でも、本当はもっと早くに言うべきだった。
だって、ずっと思い悩んでいるなんて、苦しいばかりなのだから。


私の言葉を聞いた先輩は目を見開き、悲しみに満ちた表情をした。

「ああ、やっぱり」

そう言って彼は天を仰ぎ、ため息をついた。

「俺と親父の会話、聞いてたんだよな?」

私はコクリと頷いた。

「そうか···ごめん。俺があんなことを言ったばっかりに君を傷つけた。あれは俺の完全な八つ当たりだ。会ったこともない君に対して言うことじゃなかった。本当にすまない。約束する、決して追い出したりしないよ。今は一刻も早く帰って着替えないと風邪をひいてしまう」

あまりに優しい言葉に私は驚くと共に、少しずつ胸に凝った塊が溶け出してきたように感じる。
それでも私は恐る恐る聞いた。

「私は家にいてもいいの?」

先輩は大きく頷いた。

「もちろん、一緒に帰ろう」

先輩はそう言うと、改めて手を差し伸べた。

先輩の顔はとても優しげで、それを見たらやっと安心して、私もおずおずと右手を差し出した。

手を引かれ立ち上がった私はふらつき、前のめりになる。
体勢を立て直そうにも、力が入らない。

倒れる!

と思った瞬間、私は先輩に抱きとめられた。

うわ!
思ったより筋肉質なんだね。

って、違う違う。
何言ってるの、私のバカあ!
うう、おかしいな、暑いのか寒いのかよく分からなくて、頭がボーっとなってきた。

「凄い熱じゃないか!」
先輩は傘を投げ捨て私を抱き上げた。
意識は朦朧とし、息遣いが荒くなる。

けれど私は頼ってばかりではいけないと、先輩を見上げて言った。

「歩けるから下ろして」

先輩は首を横に振り「いいから、気にするな」とだけ言うと後は黙々と歩いてゆく。

申し訳ないと思いつつも、閉じた瞼を開けることはできず、その後、記憶の糸はぷつりと途切れたままだった。


それからどの位たったのか、私は不思議な夢を見た。

薄茶色の毛色の大型犬が私にじゃれついてくる。その毛が頬に首に触れると、くすぐったくてクスクスと笑った。
可愛くて頭を撫でると、その犬は嬉しそうに顔を擦り寄せてきた。
ひとしきり一緒に遊んで、その犬は満足したのか尻尾を振って帰ろうとした。
その犬の後ろ姿を見て、私は急に寂しくなって「お願い、行かないで」と、その犬に抱きついた。
涙が溢れて止まらない私を、その犬は慰めるかのようにぴたりと寄り添う。
いつまでもずっと一緒にいるよ、とその目が言っているようで、私はとても嬉しくなって、安心して眠りについた。
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