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救世主
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「ハル、その手を離せ!」
ずんと響く低い声を発したユズに、気後れするまいと、陽貴先輩は私を自身の後ろへと隠した。
「陽貴先輩、離してお願い」
陽貴先輩は抵抗する私の手をぐいっと引き、耳元で呟いた。
「嫌だと言ったら?」
その一言を聞いたユズは、一瞬押し黙ったかと思うと、周囲が凍りつくほどの冷気をその身に纏った。
そう感じるほど、ユズの中から怒りが迸っていた。
ユズは物凄いスピードで距離を詰め、陽貴先輩の胸ぐらを掴んだ。
陽貴先輩が殴られる!
そう思った時。
『ピンポーン』
玄関の呼び鈴が響き渡った。
ユズの拳は陽貴先輩の頬の寸前でピタリと止まった。
緊迫していた私たちの手も止まった。
呆気に取られた陽貴先輩は思わず、私を掴んでいた手の力を緩めた。
こんな状況で来客?!
なんてタイミングなの!
この来客は正に救世主だ。
この絶好のチャンスを逃す手はない。
私は陽貴先輩の手を振り払い、急いで玄関の扉を開けた。
そこには女性が立っており、彼女はつかつかと家の中に入り込み、ぐるりと辺りを見回すと話し始めた。
「やっぱりもめてるじゃない!ここに来て正解だったわ」
「小糸ちゃん!」
その女性は私の親友、小糸ちゃんだった。
なぜ小糸ちゃんがここに現れたんだろう?
理由は分からないけれど、助かった事には変わりないのだ。
小糸ちゃんは陽貴先輩をキッと見上げて腕を掴んだ。
「ハル先輩!行くよ」
小糸ちゃんの行動に、どう対応したら良いのか分からないまま、陽貴先輩は首を傾げた。
「情報屋、これは一体どういう事だ?」
小糸ちゃんは掴んだ腕を一旦解放し、腕を組んだ。
「ハル先輩、私言ったよね。私が売った情報で、相手方に不利益を与えない事って。覚えてるよね?」
「······」
陽貴先輩は少しだけ目を逸らした。
この顔は、心当たりがあるのだろう。
「この状況を見れば、先輩が約束を反故にしたことは明白。よって、違約金を支払って貰います」
「はあ?違約金?」
小糸ちゃんは思いっきり悪い笑顔で、陽貴先輩の腕を掴んで引っ張った。
「人様のお宅の入り口で話す事じゃないでしょ!さあ、行くわよ」
「お、おい、情報屋。待ってくれ。俺はまだ美結に話があるんだ」
慌てた陽貴先輩は、小糸ちゃんの手を振り解こうとしたけれど、小糸ちゃんはニヤっとほくそ笑んで掴んだ手に力を込めた。
「ハル先輩、私をあまり甘く見ない方が良いよ。この事が全校生徒に知られてもいいと思うなら、好きにすればいいけど。因みに、あること無いこと吹き込むの、私得意だから」
陽貴先輩は、さあっと青ざめ急に大人しくなった。
「ああ、ユズ先輩に美結。騒ぎを起こしてゴメンね」
「いや···」
「ううん、ゴメンだなんて。助けてくれてありがとう」
小糸ちゃんは首を横に振った。
「私は情報に命をかけてるの。だから、私の情報で親友が傷つく事があってはならない。それだけの事よ。じゃあ私、急ぐから」
小糸ちゃんはそう言うと、パチっとウィンクをして、陽貴先輩を引き連れて去って行った。
「なんだったんだ、今の?」
ユズはそう言うと、首を傾げた。
今にも陽貴先輩に殴りかかろうとしていたのに、すっかり毒気を抜かれたユズは、「訳が分からない」と呟いた。
そりゃそうだろう。
怒涛の展開だったからね。
色々と拗れてしまったから、うまく説明できるか分からない。
でも私は、この出来事についてユズにしっかりと話さなければならない。
「ユズ、ゴメンね。私、説明するから」
「うん···」
不安げなユズの手を取り、私はキッチンの扉を開けた。
ずんと響く低い声を発したユズに、気後れするまいと、陽貴先輩は私を自身の後ろへと隠した。
「陽貴先輩、離してお願い」
陽貴先輩は抵抗する私の手をぐいっと引き、耳元で呟いた。
「嫌だと言ったら?」
その一言を聞いたユズは、一瞬押し黙ったかと思うと、周囲が凍りつくほどの冷気をその身に纏った。
そう感じるほど、ユズの中から怒りが迸っていた。
ユズは物凄いスピードで距離を詰め、陽貴先輩の胸ぐらを掴んだ。
陽貴先輩が殴られる!
そう思った時。
『ピンポーン』
玄関の呼び鈴が響き渡った。
ユズの拳は陽貴先輩の頬の寸前でピタリと止まった。
緊迫していた私たちの手も止まった。
呆気に取られた陽貴先輩は思わず、私を掴んでいた手の力を緩めた。
こんな状況で来客?!
なんてタイミングなの!
この来客は正に救世主だ。
この絶好のチャンスを逃す手はない。
私は陽貴先輩の手を振り払い、急いで玄関の扉を開けた。
そこには女性が立っており、彼女はつかつかと家の中に入り込み、ぐるりと辺りを見回すと話し始めた。
「やっぱりもめてるじゃない!ここに来て正解だったわ」
「小糸ちゃん!」
その女性は私の親友、小糸ちゃんだった。
なぜ小糸ちゃんがここに現れたんだろう?
理由は分からないけれど、助かった事には変わりないのだ。
小糸ちゃんは陽貴先輩をキッと見上げて腕を掴んだ。
「ハル先輩!行くよ」
小糸ちゃんの行動に、どう対応したら良いのか分からないまま、陽貴先輩は首を傾げた。
「情報屋、これは一体どういう事だ?」
小糸ちゃんは掴んだ腕を一旦解放し、腕を組んだ。
「ハル先輩、私言ったよね。私が売った情報で、相手方に不利益を与えない事って。覚えてるよね?」
「······」
陽貴先輩は少しだけ目を逸らした。
この顔は、心当たりがあるのだろう。
「この状況を見れば、先輩が約束を反故にしたことは明白。よって、違約金を支払って貰います」
「はあ?違約金?」
小糸ちゃんは思いっきり悪い笑顔で、陽貴先輩の腕を掴んで引っ張った。
「人様のお宅の入り口で話す事じゃないでしょ!さあ、行くわよ」
「お、おい、情報屋。待ってくれ。俺はまだ美結に話があるんだ」
慌てた陽貴先輩は、小糸ちゃんの手を振り解こうとしたけれど、小糸ちゃんはニヤっとほくそ笑んで掴んだ手に力を込めた。
「ハル先輩、私をあまり甘く見ない方が良いよ。この事が全校生徒に知られてもいいと思うなら、好きにすればいいけど。因みに、あること無いこと吹き込むの、私得意だから」
陽貴先輩は、さあっと青ざめ急に大人しくなった。
「ああ、ユズ先輩に美結。騒ぎを起こしてゴメンね」
「いや···」
「ううん、ゴメンだなんて。助けてくれてありがとう」
小糸ちゃんは首を横に振った。
「私は情報に命をかけてるの。だから、私の情報で親友が傷つく事があってはならない。それだけの事よ。じゃあ私、急ぐから」
小糸ちゃんはそう言うと、パチっとウィンクをして、陽貴先輩を引き連れて去って行った。
「なんだったんだ、今の?」
ユズはそう言うと、首を傾げた。
今にも陽貴先輩に殴りかかろうとしていたのに、すっかり毒気を抜かれたユズは、「訳が分からない」と呟いた。
そりゃそうだろう。
怒涛の展開だったからね。
色々と拗れてしまったから、うまく説明できるか分からない。
でも私は、この出来事についてユズにしっかりと話さなければならない。
「ユズ、ゴメンね。私、説明するから」
「うん···」
不安げなユズの手を取り、私はキッチンの扉を開けた。
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