温もりカフェで夢を見る

あや

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33.さっそくお試し作成

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「…これは?」
「材料です。」

 ニコニコと目の前に色んな物が並べられて行く。

 よく建材で見かけるような木の板。
 青と赤のガラスがいくつか。
 鉄の小さな板が一つ。

 それだけだ。

 フーリアがソワソワと周りを眺めている。グリージオは横で首を捻っていた。

「ポットが元々あるわけじゃないのか?」
「はい。一から作るんです。」
「一から…。」

 さらに首を捻っている。

「グリージオどうしたんだよ。」
「いや、確か魔導具は元々ある製品に魔石をセットして、その力を使うための機構を魔力とその魔力を通すための塗料なんかを使って作っていくはずだ。一から作るって言うのはポットをここから組み立てるのか?と思ったんだけど、目の前にあるのは板だから簡単に組み立てられないだろ?」
「ああ、そうだな。フーリア、作り方の概要はグリージオが言ってることであってるのか?」
「はい。そうですよ。塗料とはちょっと違いますけどね。人によって作り方も変わったりしますし。私なんかは魔力をそのまま製品に焼き込んだりしますね。職人なんかで魔力が少ない人は、グリージオさんの言ってた塗料みたいなものを介して機構を組み込んでいきます。」

 そんなふうにして魔道具は作られているのか…。グリージオに魔導具の作成方法を確認して、さらにフーリオにも確認するとこの作り方は不思議に見えた。

「そうやって魔導具って作られてるの初めて知りました!」

 さらに不思議なことに、楽しそうにエレノア嬢は魔導具の作り方を初めて知ったらしい。純粋に驚いたような声をあげている。嘘はあまり感じない。エレノア嬢の後ろでは、準備している様子をアマディオ殿が覗き込んで見守っている。彼も初めてみるのだろうか?

「あの、一つお願い事があるんですが。」

 準備を終えたらしいエレノア嬢が声をあげた。

「なんだろうか?」
「できればこの加護付きのアイテムの事を隠してもらえないでしょうか?」

 そのお願いはひどく不思議なものに感じた。もし自分を売り込もうと言うのなら、まず隠して欲しいとは言わないだろう。自分の働きをみてもらい、それに対して評価、報酬を望むはずだ。そうではなくこの事実を隠してほしいという。

「それはなぜ?」

 そう尋ねるとエレノア嬢は一瞬言葉を考えるように下を向いた。そして、すぐにまっすぐ自分を見つめ返してきた。

「できれば私は、ここでこの店を大事にしていたいんです。そして付喪神たちから、この技術が今はないものだと聞き及んでます。今回は…ロルフさんの剣の付喪神さんに頼まれたのでこのお手伝いを申し出ましたが、できれば秘匿して彼らを守りたいと考えてます。」

 そこには力強い意思が宿って見えた。

「な!!!!こんな素晴らしい技術なのに!!黙っているなんて勿体無い!」

 そんな彼女の言葉に食ってかかったのはフーリアだった。絶望感丸出しで顔面も蒼白だ。

「これはいわば太古の技術!失ってしまった秘術なんですよ!?!?なのに目を瞑るなんておかしい話でしょう!?王家でも珍しい宝と同じものが作れるかもしれないんですよ!?その価値をみすみす見逃すのですか!?あなたもあなたですよ!!この話は王家や国の中枢に話をするべきですよ!きっともっと高待遇でその力を発揮できるはずです!!ぜひそうすべきだ!!」
「ちょっと、お前は本当に黙ってろ。すまない。協力してもらうのに。あれは放っておいてくれ。」
「はい…。」

 ギロリとフーリアを睨む。ヒッと小さく声を出し、そして黙ったのを見計らってエレノア嬢に詫びを入れた。本当に自分の興味のあることになると饒舌になるようだ。

「こちらは協力して貰っている身だ。他にも多く世話になっている。なるべく君の思い通りに対処できるようにしよう。」
「!!ありがとうございます!!」

 彼女は勢いよく頭を下げてきた。こちらが助けてもらうのだから頭を下げるべきだと言うのに。

 エレノア嬢は本当にこの事を隠したかったのか、ほっとしたように胸を押さえている。フーリアにあれだけのことを言われたのに隠したいと言う気持ちには一点の曇りはないらしかった。

 ただ、フーリオだけは納得できていないようだった。睨んだので声を顰めたが何やらぶつぶつ言っている。あとでもう一度釘を刺しておいた方がいいかもしれない。グリージオに目をやると静かに頷いていた。

 憂いが晴れたからか、いつものように元気な様子になったエレノア嬢は軽く腕まくりをするとくるりと周りを見渡した。見回した、と言っても我々ではなく上の方をぐるっと見た、と言う感じだ。

「では、やってみます。失敗しませんように!」

 戯けた様子でそんな事を言う。

 ふと、周りがほのかに明るくなったような気がした。それは他の面々も感じているようで、レクターやボアもキョロキョロとしていた。グリージオは黙って見定めるように目の前の光景を見つめている。

 

 それは不思議な光景だった。

 

 彼女が目を閉じて手をかざすと先程の材料がゆるゆると空中に浮いていく。

 そしてそれぞれが光を帯びながら丸い球体に液体のように変わっていった。

 グニグニと形を変えていく様は物質の概念を超えていて、目の前でスライムのように波打っている。それらは光ったまま今度はゆっくりと合体を始めた。色が混じり合う。この物質はなんと言えばいいのだろうか?

 周りは全員言葉を失っているようだった。フーリアは異常なほど目を爛々と輝かせ、グリージオとレクターは固唾を飲んでいた。ボアは口が空いていたし、アマディオ殿は目を見開いている。

 その中でエレノア嬢だけがリラックスした表情で手を翳していた。ほのかに彼女も銀色の光を纏っていて、さらに右手の指の根本、左手の人差し指の根本が指輪を嵌めたようにうっすらと輝いている。ふわりふわりと、周りに光の玉が舞っていて。夏が来ると言うのに雪の中にいるような、幻想的な気持ちになった。

 全ての部品が一つになると、グルングルンと球体の中で回り出した。ギュルギュルと音も鳴っている。

 と、そこで一段と強い光がその場所を包んだ。思わず目を細めてしまう。

 

 と。不思議なものを見た。

 

 部品の球体の周りにいる6人の小さな人間のようなもの。
 その中の一つ。緋と蒼の瞳のものとバチッと目があった気がした。

 

 あれは、多分知っている。

 心臓の速さが急に加速したのを感じる。変な汗がじっとりと背中に湧くのを感じるのに、いやに喉の渇きも感じた。

 
 光が収まると、そこには何の変哲もないポットが目の前のテーブルに一つ、最初からそこにあったかのように置かれていた。

「よかった!動かして見ないとわかりませんが、見た目は成功ですね!」

 目を開けて確認したエレノア嬢が声を弾ませている。周りはみんなしんと静まっていた。

 エレノア嬢は小走りでカウンターにいくと、ボウルに水を入れてくる。それをその出来立てのポットに入れていく。

「誰でもいいので、持ち手に触ってもらえますか?」
「あ、ああ…」

 恐る恐ると言ったように、グリージオが手を伸ばす。そっとそのポットの持ち手に触れると瞬時にポットの中身が沸騰したようにコポコポと鳴り始めた。その様子にグリージオがギョッとする。

「誰が触っても使えるようにしてます。成功ですね!」
「驚いた…こんなにすぐ使えるものなのですね…。」

 グリージオの言葉にも驚きが隠せないでいた。その場にいる全員がそれを見て驚いていた。

  
 俺以外。

  

 




 なんでお前がここにいるんだ?

 


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