温もりカフェで夢を見る

あや

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32.嘘か真か

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 ひとまず落ち着いた店内で、中々誰も口を開けずにいた。

 テーブルの近くには椅子を持ってきてエレノア嬢に座っていただいた。食べながら話を聴くのは失礼だと思い、とりあえずテーブルの上を片付けた。ギリギリまで食べていたボアにはもはや関心しかしない。
 興奮状態のフーリアは少し落ち着いたが、やっぱりおかしいのでレクターに押さえつけてもらっていた。

 片付けを手伝い終えると、気を利かせてくれたのかアマディオ殿がコーヒーを全員分に入れてくれていた。ありがたい。ひとまず全員落ち着いた方がいいと思う。

 テーブルの近くに座ったエレノア嬢はいつもよりもずっと緊張した面持ちだった。まぁそれは間違いいなくフーリアのせいだと思っっているのだけれども。

「エレノア嬢も落ち着いて。驚かせてしまってすまなかった。」

 静まり帰った店内で自分の声ひどく大きく聞こえる。目の前の小さな女性もようやく大きく息を吸って吐くと目の前のコーヒーに手をつけた。

「逆にこちらこそすみません。突然あんなこと言われて迷惑でしたか?一般人ですし。…というか、信じられませんよね。」
「いや、逆に声を上げてもらえてありがたかったよ。恥ずかしながら、ここ数日調査に陰りがあって。それが打開できるなら試してみたい。声をかけてくれてありがとう。」

 誠心誠意礼を告げると、いやいや!!!と焦ったように振る舞って、照れたように笑っていった。それが当たり前のように心地よくてこちらも頬が綻んでしまう。

「ロルフさん、頭下げるようなことじゃありませんから!!それに、お礼を言うとするなら、ロルフさんの愛用されている剣にぜひ。」

 エレノア嬢はそういうと自分の横にある愛刀を指さした。

「こいつが…?」

 そっと表面の鞘を撫でる。手に馴染む皮の手触りを感じる。それをみてエレノア嬢はふふっと微笑んだ。

「小さい頃から使われてるそうですね。とても慕われてますよね。」

 ピクリ、と目尻が動く。
 なぜ昔から使っていると分かったのだろう?やはり、本当なのだろうか?



 我々はそれを見定めなければならない。



 もし本当だとしたら、それは古代技術の復元ということになってしまう。
 学の少ない自分ですら大きな問題になるのは目に見えた。


 占い師の類か?ペテン師の可能性は?
 行動から何かを予測している?


 ことと次第によっては多額の金が動くことにもなりかねない。

 この場でその判断が下せるのはフーリア以外だろう。本当であればランドがいるのがいいのだが、まだ戻ってきていない。フーリアはあの興奮状態だ。正しい判断ができるのだろうか。

「エレノア嬢、本当にあなたの言っていた事はできるのだろうか?」

 そう声をかけると

「はい多分。」

 と曖昧に笑った。

「ええとですね、私まだ半人前みたいなものでして。色んな事を学んでる最中なんですけど、まだ失敗する事も多くて。みんなの力を借りて、成功すればいけると思うんですけど。簡単なものしか作ったことないので。」
「簡単なもの?」
「付喪神の加護をつけた道具の事です。」
「あー!!!お鍋とお皿ですよね!あとそこの冷蔵庫!絶対加護かけてますよね!?」
「フーリオ、煩いから黙ってろよ。」

 また興奮がぶり返したフーリオにグリージオの裏拳が入る。黙ったものの、痛さを感じていないような笑顔が怖い。

「はい、フーリオ調査部長の言ってることは当たっています。他にもそこのポットとか、ワッフルメーカーとか。あと、これとか。」

 そう言ってポケットから小さな巾着袋を取り出した。薄いグリーン色に幾何学模様が縫い付けてあるように見える。

「それは?」
「お守りです。先日モンスターに襲われたあと、彼らに言われて作ってみました。魔物って魔素を吸収する物が苦手らしいですね。弱体化するとか。」
「ああ、妖精や精霊なんかは自我も強いから自分を構成する魔素は保護してるだろうし、自衛する術を持っているらしいが、魔物とかは苦手かもしれないな。触っても?」
「はい、大丈夫です。」

 問いかけると、エレノア嬢は小さな袋をテーブルの上に置いた。
 自分は魔素や魔法には詳しくないが、グリージオがそれをカバーするように言葉を発した。第二騎士団ほどではないが、この中では魔法関係に精通している方だと思う。グリージオは手に取ると上下左右から見て、その模様を指でなぞった。

「中に何か入ってるな。」
「石です。」
「石?」
「本当は魔除けの謂れのある宝石とかの方が良いらしいんですけど、そんなのは準備できなかったので、それを拾ってきてもらいました。山から海に流れて、そこで月光を集めた石らしいです。詳しくは私もわからないんですけど。」
「なるほど…?」

 開けてみると、薄い黄銅色の丸っこい小さな石がグリージオの手に転がり出てきた。それを小さな袋に戻すと、フーリアがすごい速さでそれをとっていった。

「これ、石だけじゃなくて、布も、模様も何かしてます???してますよね??魔素すぐに吸収しちゃう♪っふふっふふふ何これ。」

 何かしているらしいフーリオは握ったり手のひらに乗せたりしているが、本当に少し落ち着いた方がいいのではないだろうか。

「ボア、必要ならもう一度あいつ拘束しておいてくれ。」
「はいよー。」
「や、ややややめて!大人しくするから!!ちゃんとするから!!」

 どうやらさっき投げられた後の拘束が強めだったからか、首をブンブンと振るとそっと巾着を名残惜しそうにテーブルに戻した。それを自分も手に持ってみる。自分には何の変哲もない小さな巾着袋と、小さな豆粒のようなそこら辺にある石にしか見えない。

「布は糸から生成してます。だいぶ可愛く作れたと思いますけど、大きいものはへにゃってなっちゃいますね。本当は水晶とか外いいらしいんですけど。どうやら探すのが大変みたいで。」
「探す?買うのではなく?」
「多分買ってもいいんでしょうけど、大体の部品は彼女たちが集めてしまいますね。」

 そういうとエレノア嬢は上の方を見上げた。そこには綺麗に手入れされているプランターが天井から麻紐でセンスよくぶら下げられている。それだけだ。

「お手伝い位できるかも、というのはこのお守りの応用なんです。ある程度の大きさを持つ水晶に加護を強めにかけることで魔素をちらる助力になると思ったんです。まずは一つ作ってみて、足りないようならもう一つ…加護も許容範囲があるので。」
「グリージオ、水晶なら手に入るか?」
「どんなものがいいか詳しく教えてもらえたら。予算は費用からある程度捻出できると思うし、王家の家宝を貸せというよりは現実味があるだろうな。本当にできればという前提だけど。」

 グリージオが考えながら顎髭に手をやる。

「ただ、準備するにしても本当にそれができると確信できるか、だな。こちらも湯水のように予算があるわけじゃない。」
「があああああ!?これをみてもわからないんですか!?こんな貴重な機会を棒に振るのですか!?!予算ぐらいなんとかしてくださいよ!!!!」
「ボア。」
「はーい。」
「ぎゃああああ!!やめて!しまっ!!首締まる!!!」

 フーリアの横槍が入ったのでとりあえずボアに言うと、子供のように抱え上げられて、そのままぎゅっと締め上げられていた。本当にちょっと黙っていてもらいたい。エレノア嬢があわあわとその状況を見てるのだけが申し訳なかった。

「あ、あの!一応信じてもらえるように何か作ると言うことでどうでしょう?皆さんに見ていていただいても構わないので!」
「見ても構わないのか?」
「はい、勿論です。その方がわかってもらいやすいと思うので。この店にあるポットをわかりやすい形で作ろうと思うのですけどどうでしょうか?」

 ポット…そう言ってエレノア嬢はカウンターを指さした。そこには街中でありふれた形のものがあった。火をつけるタイプではなく、魔力を通すことで使用するタイプだ。わかりやすいのだろうか?

「…一応見せてもらえるか?」
「はい。すぐがいいでしょうか?」
「できれば早い方が。」
「わかりました。ちょっとお待ちいただけますか?」
「ああ。」

 そう言うとエレノア嬢は静かに立ち上がり、バックヤードに姿消していった。
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