温もりカフェで夢を見る

あや

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31.感謝とお礼の加護と混沌別サイド

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(どうやって言い出せばいいのか。)

 騎士団に力になることを決めて、ひとまず腹は括った。だが、どう切り込めばいいのかわからない。

 アマンダさんに背中を押されたお昼の営業中、そんなことを考えていた。
 多分、今日も業務が終わったらこの店にランチパックと鍋のバスケットを返しにくるという名目で誰かはここにくると思うのだけど、いきなり話に踏み込んでもいいものなんだろうか?

 考えれば考えるほど胃がキリキリと痛むようだった。まだ騎士団の面々は訪れてもいないし、話してもいないのにこの為体である。仕事中にぼんやりとしないことで精一杯だ。たまにぼーっとしそうとなると、アマンダさんが声をかけてくれた。
 そんなに顔に出てたかな?
 とりあえず。忙しい時間をやり過ごせたのでよしとしよう。

 お昼が終わると、アマンダさんは少し用事があるから、と店を出ていった。夕方には戻るけど、もしかしたら準備は遅れるかもしれない、と言われたので気にしないで欲しいと伝えた。

 せっせと働いていて気も使えるアマンダさんだが、やはり前の店のことを気にしたり見にいったりしているっぽい。アマンダさんのことだから自分のできることはしたい、と知り合いに手を伸ばしてるのかもしれない。

 突然時間も空いたので、翻訳の仕事を店の隅でしながらビブリアに声をかけてみる。

『エペナちゃんに了承したことを伝えた方がいいかな?』
『来た時でもいいんじゃないの?』
『いや、すごく真剣だったから早く伝えてあげたら喜ぶかなって。ここから心話ってできない?』
『出来なくもないけど、すごく集中力がいるというか、ちょっと疲れるかも。やってあげようか?』
『いいの?』
『短い言葉だけだしね。その代わりエペナがすごい勢いで飛んできそうな気もするけど。』

 そう言って長い髪を揺らしながらカラカラと笑った。

『お願いします。私のチョコムースあげるね。』
『やった!お安い御用だわ!』

 そういうと集中するからか、上のプランンターの方に飛んでいってしまった。

 すると、本当に飛んできた。
 コーヒーいっぱいも飲み終えていないくらいで窓から入ってきて、窓辺でうつらうつらしていたリヒトに突っ込んでいっていた。
 突っ込んだ瞬間は見ていないが、結構大きめの痛い!という叫び声が店内に響いた。

 やっぱり甲冑が飛び込んできたら痛いのかな。

 抗議するリヒトは放ったまま、エペナはこっちを向いた。そして握手するように私の左手の人差し指を両手で包み込んだ。

『ありがとう!ありがとう!こんなに早くに決めてもらえるなんて…感謝しかないわ!』
『ここに来るの早かったね。』
『来ずにはいられなかったわ!』

 そう興奮した面持ちでいうと、指を握手したままブンブンと振った。ちょっと痛い。
 そして、気がついたようにじっと指を見つめると、そっと唇を落とした。

『それ…』

 ふわりと指の根本が銀色に光ったかと思うとすぐに消えていってしまう。

『一番はロルフだけど、エレンの助けにも絶対飛んでくるからね。左手が空いててよかった。』

 今度はおでこにちゅっとするとくるくると回って飛びながら喜びを表しているようだった。呆気に取られていると、突っ込まれたお腹をさすりながら、リヒトが寄ってきた。恨めしそうな顔をしている。顔色は最悪だけど大丈夫だろうか?

『エレンは言い出し方に迷ってる。今日中には言い出せないかもな。』

 珍しくそんな意地悪を言っている。いつもは大人しい、というか我関せずのリヒトが珍しい。よっぽど痛かったのかもしれない。

『心配することないわ!解決できるってどどーんと発表したらいいのよ!』
『どどーんと…。』

 復唱してみる。

『復唱しなくていい。』

 リヒトさんになんか怒られた。

『お前さてはエレンのことなんも考えてないな。却下だ。』
『え?みんな驚くけど喜んでくれるわよ!!』
『だめだ。エレン、あいつ浮かれて前が見えてない。』

 結構大変なことだと思っているのに、エペナがいうと途端に軽く挨拶でもすればいい、みたいなノリに聞こえてしまうから不思議だ。

 リヒトはまた珍しく、眉間を指で揉み込んでいた。早く報告することを誤ったかもしれない。

 とはいえ、頬を紅潮させて喜んでいるエペナを見ていると、決断して良かったなとも思う。私だけではなく、他のみんなのところにまでクルクル飛んでいって喜びを報告している。ナージュは優しいし、ノリが似ているからか、一緒に抱き合って頑張ろう!と鼓舞しあっていた。お兄ちゃんんお方は仕方がないな、とでもいうようにふわりとした尻尾を揺らしながら見守っている。

 あとは、本人たちに伝えるだけだ。

 

 

 

 

 

 

 
 そして騎士団の方に伝えると、店の空気は凍ったり灼熱になったり迷走したり?と、とても愉快な感じになってしまった。いや、実に伝えた時は緊張していてそれどころではなかったのだけれど。

 周りが暗くなって、常連さんも食事を終えて少しずつ帰っていくぐらいの時間にロルフさんたちは店に訪れた。

 レクターさんがバスケットを手渡してくれて、お礼を言うと

「いいんすよ。いつもご馳走様っす。」

 と言ってくれるのがちょっとほっこりする。
 メニュー表を持っていくと、いつものようにお酒はいらないので食事だけで。とロルフさんに言われた。以前も聞いていたのだけれど、仕事の話も多いからか、ここにきてからは飲んでないんだ、と言っていた。横の方でグリージオさんの山吹色の目が恨めしそうにロルフさんを見ても知らん顔だ。ボアさんに至っては見てもいないのか、自分のメニューを悩み抜いて普通に注文をしている始末。

 注文を取るとき、フーリアさんはペンをじっと見たり、伝票をじっと見たりしている。ググッと目元に力が入ったかと思うと、

「これは違うか。」

 と疲れた様子で椅子に戻ってしまった。レクターさんが失礼っすよと言いながらメニューを渡しているが何かぶつぶつ言っていた。

 聞いたメニューを受け取り、カウンターに戻ってアマンダさんと食事を準備しているときにも、あちらのテーブルの皆さんは疲れた様子で何かを話し合っているようだった。

 ちなみに食事はほとんどボアさんの胃の中に入っていってしまう。ちゃんとベースキャンプで他の隊員と食事はとってきているらしく、ここへはボアさんの追加の食事という体で簡単な話し合いをしているようだった。

 基本的にはその話の内容は聞いていない。けれど全く聞こえないということもない。だけれどもこれはお客さんの話なので口を出したり外に話したりすることはしない。お店側のマナーだ。

 なのにこれから口を出します…と考えるとやたら緊張してしまう。ああ、変な子だな、とかおかしい奴と思われなければいいのだけど。

 できた料理を時間差をつけて出しながらも、ロルフさん達のテーブルを見やる。幾らか話をしてひと段落するとグリージオさんは席を立って外へ出ていった。

 茶色い箱の茶色い巻紙をしたタバコをいつも吸っているみたいだが詳しいことはタバコを吸わないのでわからない。ただ、通りすがりにいつも燻った甘い香りがする。

 グリージオさんが出ていってから、お水のピッチャーの替えを持っていくと、ロルフさんが受け取ってくれた。

「ロルフさんも吸われるんですか?タバコ。」
「いや、嗜むぐらいかな。昔は普通に吸ってた。」
「グリージオより吸ってたんじゃない?」
「そうか?」
「そうだよー。あ、俺は全く興味ない。」
「へえ、そうなんですね。」

 なんだか意外だ。二人ともあまり吸うイメージがなかったのだけど、ロルフさんは吸うのか。でもグリージオさんみたいな匂いはしないな。

「あんな煙いもの、よく口に入れられるな…。」
「まあ好みっすよね。。集中力が高まるとかなんとか。」
「頭働かせるなら甘いもの取った方がまだいいに決まってる。」
「え?フーリアデザート?じゃあ、俺もー。」
「違うボア君!そういいう意味で言ったわけじゃない!」

 片や調査部長さんは嫌煙家みたいだ。ボアさんが解釈違いを起こしているのになんか焦っている。…多分、ボアさんの頼むデザートの量を知っているからだろう。

「君は食べ過ぎだよ!もっと頭を働かせて、現状をなんとか打破できないか考えたらどうなの?」
「俺の食欲は、そっち方面に使うものじゃないんで♪」

 そういうと目の前の大きな魚の切り身のソテーをぺろりと口に入れてしまった。

 

 あ、

 
 伝えるなら今じゃないか??

 話の流れ的にも…きっと変じゃないよね?

 グッとお腹に力を入れるが緊張で手が震える。

 

 
「あ、あのぉ」

 最初に出た声はお腹に力を入れたものの、全然小さくて

「そのことなんですけど、私お手伝いできるかもしれません。ま、魔素散らす事できるかもというレベルでふ…ですけど。」

 そして思い切り噛んだ。
 きまりが悪くて、カウンターの見えないところに隠れたくなったのは内緒だ。

  
 でもここで隠れてはダメなのだ。

「付喪神…ご存知ですか?ロルフさんの剣…いるんですけど、彼女が手助けしてって。だから、できるかどうかはわからないんですけど、そういう手助けできるもの、作ってみようかと思って…」

 最後の方はまた声が小さかったかもしれない。恥ずかしいまま俯いていたのだが、反応は何も聞こえない。やらかしたか…と顔を上げると、周りが固まっているのが見えた。

「あ…あれ??」

 何かやばいことでも言っただろうか?いや、おかしいこと言ってるとは思われたかもしれない。かといってじゃあ他にどう切り出せば良かったのだ…と頭の中でぐるぐる考えていたら

「なんだって!?」
「ちょ!?!?エレノアちゃん!?!?」
「ほら!!!!ほらほら!!間違ってなかった!?!」
「打開できるのほんとっすか!?!」
「エレノアちゃんの悩みってこれ!?」

 同じタイミングで全員が喋り出してびっくりした。その声で驚いたグリージオさんが帰ってくる。
 さらにおなじタイミングでフーリオさんがものすごい速さで駆け寄ってくる。カウンター越しにジャンプして入ってくるのかと思った。それを一瞬置いて行かれたレクターさんが必死に押さえ込んでいる。

 と思ったらグリージオさんがボアさんに声をかけてフーリオさんを放り投げてしまった。ギョッとするが、ちょっとだけホッとしてしまう。

「ごめんよ嬢ちゃん。話が見えないんだけどなんかあった?ことによってビビらせたことをあいつの上司にちくった上で最敬礼で謝罪させるけど。ったく。フーリアも貴族なんだから婦女子驚かすなよ…。」

 そう言ってすまなさそうに語りかけるフリージオさんに思い切り首を振る。最敬礼なんて恐れ多い。びっくりしただけだから別に大丈夫なのに。

 それよりも細くっても普通の大人であるフーリオさんを放り投げる方がびっくりだ。今はボアさんに抑えられてて、それから必死に出ようと踏ん張っている。…なんだか難しそうだけど。

 そこでもう一度先ほどと同じように言ってみた。

「あの、私、多分問題の解決の手伝いが出来ます。魔素…散らせます。」
「はい??」

 グリージオさんも固まってしまった。
 こんな場合はどうしたらいいのだろう?

 
 上を見ると面白そうにみんなが下を覗き込んでいた。
 他人事だと思って!!なんとかしてよ、この空気!!
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