【完結】夕凪のピボット

那月 結音

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Episode1:青天の霹靂

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 月尾の悪い顔が、再度瑛茉に向けられた。
 状況が呑み込めず困惑気味の瑛茉は、崇弥と月尾の顔を、ただただ交互に見やるばかり。
「瑛茉ちゃんとこのマンションさ、今度改築することになって、あと三週間以内に一時退去しなきゃなんないんだよ」
「えっ! それはまた急な話だね……。退去先は決まったの?」
「いえ……まだ、です」
「大変なんだよ。親父さんはアメリカだから話し合うにもラグがあるし、親戚はほとんど四国にいるみたいだから遠くて頼れないし。……ってことで、俺から提案」
 この日いっとう悪い顔をした月尾が、カウンター越しに崇弥を見下ろす。
 一方、崇弥は、これから月尾が言わんとしていることを的確に汲み取っているようだった。わずかに眉を顰めるも、親友のしたり顔を黙って見上げる。
「改築工事が終わるまでの三ヶ月間、お前んちを退去先として瑛茉ちゃんに提供してあげてくんない?」
 そうして勢いよく投下されたのは、とんでも爆弾発言。提案というより、むしろ依頼だった。それも、かなり強引な。
「今より通学距離はちょっと長くなるけど全然範囲内だし、なにより立地は申し分ないからな」
「ち、ちょっと待ってください店長! 突然そんな——」
「こいつと住むの嫌?」
「あ、や、嫌とかじゃないですけど、その、家賃とか、そもそもわたしが押しかけるのは迷惑——」
「瑛茉ちゃんこう言ってるけど、お前迷惑?」
「いや、全然」
「だってさ。こいつのマンション持ち家だから、家賃とか気にしなくていいよ。……ってか、仮に賃貸だったとしても、瑛茉ちゃんから受け取るなんて野暮なことしないって」
 外堀を埋めるように、逃げ場を与えないように、ぐいぐいと話を進める月尾に、瑛茉の榛色の瞳がぐるぐる回る。
 悪い話ではないと思う、たぶん。
 いや、でも、本当に。
「……い、いいんですか? 三ヶ月も」
 二十二歳とはいえ、瑛茉は大学生。子どもも同然だ。子どもと同居するなど、いわば子守を押しつけられるようなもの。
「もちろん。瑛茉ちゃんさえよければ」
 にもかかわらず、無茶ぶり甚だしいこの提案に、寸分も感情を乱すことなく対応できる崇弥は、やはり格が違うということだろうか。
 大人たちふたりの、ある意味対照的な温顔を、再度交互に見やる。
「あ……えと……よろしく、お願いします」
 月尾によって、なかば無理やり持ちかけられた同居案は、この瞬間に可決した。


 < to be continued…… >
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