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Episode6:波間の揺りかご
⑦
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「お風呂、ありがとうございました。後片づけも」
パタパタとスリッパを鳴らしながら、風呂上がりの瑛茉がリビングに戻ってきた。
火照って潤んだ榛色の瞳。緩く編みこまれた髪は胸元に流され、ほかほかの頬はうっすらと紅潮している。パイル地の青いマキシワンピースから覗く白い肌は、さながら熟れた白桃のように透きとおっていた。
「いいよ、お礼なんて言わなくて。一緒に住んでるんだから。何か飲む?」
「え、と……あ!」
「どうしたの?」
「今朝、バイト前に、水出し煎茶を作って冷やしておいたんです」
「へー、美味しそう」
「美味しくできてるといいんですけど。……あっ、わたし注ぎます」
「ううん。俺がやるから、瑛茉ちゃんはソファで座ってて」
日課となっている経済紙の閲読。その紙面をテーブルに広げたまま、崇弥はソファから立ち上がった。
おろおろと惑う瑛茉の手を引いてソファに座らせ、冷蔵庫へと向かう。ふたり分のグラスを用意し、氷を入れると、冷えた煎茶を手際よく注いだ。
「はい、どうぞ」
「あっ、ありがとうございます」
「こちらこそ」
グラスの中で、ゆらゆらと揺蕩するエメラルドグリーン。氷に反射してきらめくさまは、さながら洗練された宝石のよう。
ふたり並んでこくりとひとくち。
雑味のない、まろやかな味わいが、口いっぱいに広がる。
「ん。美味しい」
「ほんとだ。はじめて選んだ茶葉だったからどうかなって思ってたんですけど、香りもすごくいいですね」
清涼感あふれる、まさに夏にぴったりの一杯。
水出し煎茶に挑戦するのは、これがはじめてだったけれど、どうやらうまくいったみたいだ。
「……」
「……?」
と、なにやら意味深な眼差しを向けられていることに気づいた瑛茉。きょとんとした目で、崇弥を見つめ返す。
一秒。
二秒。
三秒。
不思議に思い、口を開きかけた。
次の瞬間。
「……っ!?」
彼との至近距離が、一瞬にしてゼロ距離へと変わった。
ふわりと鼻翼をくすぐる甘やかな香り。隣にあったはずのぬくもりが、背後へと移動する。
腹部に回された両手。肩口にあたる吐息。
瑛茉は、崇弥の腿のあいだに、すっぽりと収納されてしまった。
「ちょっ……崇弥さん!!」
「おっ。その反応、ものすごくtypically Japanese(日本的)だね。……っていうか、無防備すぎる君が悪い」
そう言うと、崇弥は瑛茉のうなじに唇を落とした。透きとおるその肌に、ついばむようなキスを何度も繰り返す。
唇が触れるたびに、ぴくりと跳ねる瑛茉の肩口。その反応につい嗜虐心がそそられるも、これ以上はと理性でどうにか踏みとどまった。
昨夜。瑛茉から想いを告げられ、被っていた〝保護者〟としての皮は一気に剥がれ落ちた。ひと月以上も同居していて、よくもまあ耐え抜いたものだと、崇弥自身非常に驚いている。
とはいえ。
「嫌だったらちゃんと言ってね。君の嫌がることは、したくないから」
育ち過ぎた巨大なこの感情を、一方的にぶつけるのは違う。
何よりも尊重すべきは、瑛茉の気持ちだ。
「……い、です」
そう、言い聞かせていたのに。
「え……?」
「だから、その……嫌じゃない、です」
「……っ、ほんと、そういうところ……」
がくっと肩を落とす。
崇弥の口から思わず溢れ出た喜びの溜息が、虚空に散った。
パタパタとスリッパを鳴らしながら、風呂上がりの瑛茉がリビングに戻ってきた。
火照って潤んだ榛色の瞳。緩く編みこまれた髪は胸元に流され、ほかほかの頬はうっすらと紅潮している。パイル地の青いマキシワンピースから覗く白い肌は、さながら熟れた白桃のように透きとおっていた。
「いいよ、お礼なんて言わなくて。一緒に住んでるんだから。何か飲む?」
「え、と……あ!」
「どうしたの?」
「今朝、バイト前に、水出し煎茶を作って冷やしておいたんです」
「へー、美味しそう」
「美味しくできてるといいんですけど。……あっ、わたし注ぎます」
「ううん。俺がやるから、瑛茉ちゃんはソファで座ってて」
日課となっている経済紙の閲読。その紙面をテーブルに広げたまま、崇弥はソファから立ち上がった。
おろおろと惑う瑛茉の手を引いてソファに座らせ、冷蔵庫へと向かう。ふたり分のグラスを用意し、氷を入れると、冷えた煎茶を手際よく注いだ。
「はい、どうぞ」
「あっ、ありがとうございます」
「こちらこそ」
グラスの中で、ゆらゆらと揺蕩するエメラルドグリーン。氷に反射してきらめくさまは、さながら洗練された宝石のよう。
ふたり並んでこくりとひとくち。
雑味のない、まろやかな味わいが、口いっぱいに広がる。
「ん。美味しい」
「ほんとだ。はじめて選んだ茶葉だったからどうかなって思ってたんですけど、香りもすごくいいですね」
清涼感あふれる、まさに夏にぴったりの一杯。
水出し煎茶に挑戦するのは、これがはじめてだったけれど、どうやらうまくいったみたいだ。
「……」
「……?」
と、なにやら意味深な眼差しを向けられていることに気づいた瑛茉。きょとんとした目で、崇弥を見つめ返す。
一秒。
二秒。
三秒。
不思議に思い、口を開きかけた。
次の瞬間。
「……っ!?」
彼との至近距離が、一瞬にしてゼロ距離へと変わった。
ふわりと鼻翼をくすぐる甘やかな香り。隣にあったはずのぬくもりが、背後へと移動する。
腹部に回された両手。肩口にあたる吐息。
瑛茉は、崇弥の腿のあいだに、すっぽりと収納されてしまった。
「ちょっ……崇弥さん!!」
「おっ。その反応、ものすごくtypically Japanese(日本的)だね。……っていうか、無防備すぎる君が悪い」
そう言うと、崇弥は瑛茉のうなじに唇を落とした。透きとおるその肌に、ついばむようなキスを何度も繰り返す。
唇が触れるたびに、ぴくりと跳ねる瑛茉の肩口。その反応につい嗜虐心がそそられるも、これ以上はと理性でどうにか踏みとどまった。
昨夜。瑛茉から想いを告げられ、被っていた〝保護者〟としての皮は一気に剥がれ落ちた。ひと月以上も同居していて、よくもまあ耐え抜いたものだと、崇弥自身非常に驚いている。
とはいえ。
「嫌だったらちゃんと言ってね。君の嫌がることは、したくないから」
育ち過ぎた巨大なこの感情を、一方的にぶつけるのは違う。
何よりも尊重すべきは、瑛茉の気持ちだ。
「……い、です」
そう、言い聞かせていたのに。
「え……?」
「だから、その……嫌じゃない、です」
「……っ、ほんと、そういうところ……」
がくっと肩を落とす。
崇弥の口から思わず溢れ出た喜びの溜息が、虚空に散った。
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