【元幹部自衛官 S氏 執筆協力】元自衛官が明治時代に遡行転生!〜明治時代のロシアと戦争〜

els

文字の大きさ
52 / 135

第52話.偵察

しおりを挟む
雑居地官営鉄道の北限、平成でいう旭川辺り。その付近に設営された聯隊(れんたい)本部を離れて私はなおも北上した。
そう、私を含む第三中隊の百三十八名は、ルシヤ帝国の影響下にあるであろう地域にまで進出し、その実情を探るのが使命である。
どの程度ルシヤ兵が駐屯しているのか、また武装しているのであれば、その規模を調査して把握するのだ。

天気の良い陽気な空の下を、二列縦隊でせっせと歩く。
この時代、とにかく日本人は歩く事が多かった。生きる事は歩く事であり、それを苦にする者は少ない。
三十キログラムを超える装備を身に付けてもなお、明るく進んでいくのは頼もしい限りである。

二日目の昼すぎ、隣を歩く天城小隊長が言った。

「穂高。野宿は平気か?俺はどうも節々が痛くていかん」
「平気でもないですが、慣れてはいます。山奥育ちなので」
「そんなものか?」

ざっざっと砂を蹴りながら歩く。再び天城小隊長が口を開いた。

「今日は民間の家に世話になる予定だ」
「進路沿いの村落ですか。ゆっくりですね」

進軍の速度は、ずいぶんゆっくりだ。兵が疲れぬように配慮してか、小休止を入れながらの余裕を持ったスケジュールである。

「うん。ルシヤの影はないし、中隊長殿も今回の任務の肝は浦地衣歩似(ウラジイポニ)近郊だと考えておられる。いたずらに消耗せんようにとのことだろう」

そしてしばらく歩いて、小休止。
兵たちは各々腰を下ろして休むが、天城小隊長はそうはしない。彼が皆と居る時に座って居る姿は見たことがないほどだ。
すっと背筋を伸ばしたまま立っている姿は、とても好感の持てるものだ。彼は尊い生まれであるという噂だが、噂は本当かもしれん。
天城小隊長がうららかなお天道様を見上げて、うっすらと目を細めて言った。

「日があるうちは良いが、やはり四月とはいえ朝夕は冷え込むからな。民間の家を借りられるならば、雨風しのげる屋根がありがたい」
「そうですね。日中との寒暖差も大きい、風邪をひかんようにしてください」
「うん。しかし、ふふ、はははっ」

おもむろに上を向いたと思うと、天城小隊長が笑い始めた。

「小隊長殿?」
「いやすまん。今こそ戦場に向かわんという武士(もののふ)が揃って風邪の心配かと思うとおかしくてな」
「しかし体調管理も任務のうちですからね」
「ははははっ、そうだな」

そんなたわいのない話をしながら、歩いていった。
そうして夕刻。
日が西の空に沈みかけた頃に、予定の村落に到着した。しかし様子がおかしい、出迎えの人間も居ないし、静かすぎる。

「小隊長殿。これはどうもおかしいですね」
「うん。よし二小隊止まれ」
「「二小隊止まれ!」」

小隊長の指示を復唱する。訓練された兵らは号令に忠実に、足を止めた。すぐに小隊長が私に顔を近づけて、他に聞こえないくらいの音量で言った。

「前方の中隊長殿の指示を仰ぐ。ここを頼んだ。

そうして天城小隊長は歩いて行った。どうやら中隊長も違和感を覚えたようで、足を止めて何か考えているようだ。

「よし第二小隊!荷物は下ろすなよ、全員そのまま付近を警戒しろ。動くモノがあれば報告せよ」


……


「全ての屋敷が無人である」

十分程経って、ゆっくり歩いてきた天城小隊長がそう言った。
屋敷が無人と言ったのか。村に人が居ないという意味か、しかし何故だ。

「無人ですか?」
「ああ、もぬけの殻だ。人っ子ひとりいない」
「ルシヤの罠でしょうか?」

異様な状況だ。
立ち寄る予定の村の人間が消えているというのは、何かの意思が関与していると見て良いだろう。今考えられるのは、ルシヤに誘い込まれてしまった、ということではないのか。

「いや、どうかな、略奪されたような痕跡も争った跡もない。まるでそう、村丸ごと神隠しにでもあったような感じであったが……」

しかし、実際に村を見た小隊長の受け取った感覚はまた違うようだ。
兵らに悟られぬように努めて冷静に振舞ってはいるが、予想外の出来事に士官連中は混乱している。私も心穏やかではいられない。
小隊長は一拍置くと、私に向き直って続けた。

「なんにせよ中隊長殿は、ここで予定通り一泊させるつもりだ」
「それはあまりにも危険ではないでしょうか。予定通りというのはそうですが、前提が違う」
「そうだな。しかし危険ではあるだろうが、それは野営でも同じだろう。見張りはしっかり立てねばならんだろうが」
「決定ですか?」
「……決定だな。中隊長殿は、この村はルシヤと関係なく何らかの原因で廃村となった、そう見ている」

ふうっと一息、茜色の空を見あげた。
この時間から野営地を探して設営するよりは、無人の民間を拝借する方が良いのか。

「あまり騒ぐなよ、兵に動揺が伝わってはならんからな」
「はい。初めから廃村を利用する手筈であった、という事ですね」
「そうだ」

これがルシヤの罠であれば、我々など一たまりもないだろう。そうでは無いことを祈りつつ、私も今出来ることをしよう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

処理中です...