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第98話.潜伏
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月が出ていた。
夜は眠る。眠るが、ウナと交代で眠るのだ。
さすがにこの状況下で無防備に眠れる程、肝は座っていない。
眠ると言っても、すっかり眠り込んでしまう事はなく仮眠を取るのだが。神経が高ぶって中々眠れない、目を閉じてみるだけだ。
火も熾せないし、身体は濡れていて体温が奪われていく。靴の中まで泥でぐっしょりだ。そんな状況下で枯れ木の底に潜みながら眠れる人間がいたら顔を見てみたい。
気温の問題もあるが身体を乾かせないというのは、非常にストレスになる。
「……」
無言でウナの方をみる。
月明かりに照らされて、うっすらとその輪郭が見えた。穏やかな顔で、規則正しく胸が上下している。
完全に寝ている。
この状態で眠れる者の顔を見てみたいと思っていたが、こんな身近に潜んでいたとは。盲点だった。この間、中将に啖呵を切って見せた時にも思ったが、こいつは大物になるな。
定時となり、見張り番の交代の為にウナを起こす。
「ウナ、交代だ。見張りだぞ」
「うん……わかった」
彼は寝起きの顔で返事を返した。
むしり、むしり。
その大きな目が涙目になっている。
むしり、むしり。
寝ているのか起きているのか。ウナは、ぼうっとした顔で朽木の裏をめくっている。
「何をしている」
「えー……食べる物無いかなって」
「携行口糧(カンパン)がまだあったろう」
「そうじゃなくて、あの。ここにさ……あった」
枯れ木をほじくって何かを見つけたようだ。嬉しそうに取り出したのはウネウネと蠢く白い芋虫だった。
「なんだそれは」
「虫」
それはわかる。見れば分かる。どう見ても何かの幼虫であり、ロールケーキではない。
じっと見ていると、ウナは躊躇なく顔の部分を毟りとって、それを一口で頬張った。頭部を失ってなお蠢くそいつが、静かに口中に消えていった。
※生でそのまま食ってしまった。
潜伏に支障がでるから火を使う訳にはいかないので、そうするしかないのだが。少々、カルチャーショックを受けた。
「タカは虫、食わないのか?」
「好んでは食わないな。もし食べるとしても調理する」
「ふぅん」
ウナは興味なさげに相槌を打って再び芋虫を探し始めた。携行口糧(カンパン)がまだあるのにもかかわらず、そうしているのはそちらの方が馴染みがあるからだろう。
「ともかく、私は少し休む。頼むぞ」
そう言って、小さくなって目を閉じた。
翌朝。
装備と身体の様子を確認した。凍傷にでもなっておれば任務に支障が出る。ウナとお互いの状況をチェックする。手足も動くし、どこにも異常はなさそうだ。万全の体調とは言い難いが、十分に動く事はできる。
雪兎の調子も良い。
明け方に十人ほどのルシヤ兵が麓をウロウロしていたので、彼奴等の半数の手足を吹き飛ばしてやった。一思いに殺すより手負いで返す方が効果的に打撃を与えられる。負傷者を救護する為に人員を割く事になるし、それを目撃したものに恐怖を植え付ける事ができるからだ。
それからも昼にかけて数組の兵隊が山に入って来たが、全て同じように追い返した。哀れにも彼らは、私達の位置を見極める事すら出来ずに排撃されていった。
……
※この物語はフィクションです。虫の生食は絶対にやめましょう。食中毒の原因となる細菌や寄生虫に感染する恐れがあります。虫を食べる場合は必ず加熱してからにしましょう。生の方が美味しいという虫も聞いた事がないので、加熱した方が美味しく食べられると思います。
夜は眠る。眠るが、ウナと交代で眠るのだ。
さすがにこの状況下で無防備に眠れる程、肝は座っていない。
眠ると言っても、すっかり眠り込んでしまう事はなく仮眠を取るのだが。神経が高ぶって中々眠れない、目を閉じてみるだけだ。
火も熾せないし、身体は濡れていて体温が奪われていく。靴の中まで泥でぐっしょりだ。そんな状況下で枯れ木の底に潜みながら眠れる人間がいたら顔を見てみたい。
気温の問題もあるが身体を乾かせないというのは、非常にストレスになる。
「……」
無言でウナの方をみる。
月明かりに照らされて、うっすらとその輪郭が見えた。穏やかな顔で、規則正しく胸が上下している。
完全に寝ている。
この状態で眠れる者の顔を見てみたいと思っていたが、こんな身近に潜んでいたとは。盲点だった。この間、中将に啖呵を切って見せた時にも思ったが、こいつは大物になるな。
定時となり、見張り番の交代の為にウナを起こす。
「ウナ、交代だ。見張りだぞ」
「うん……わかった」
彼は寝起きの顔で返事を返した。
むしり、むしり。
その大きな目が涙目になっている。
むしり、むしり。
寝ているのか起きているのか。ウナは、ぼうっとした顔で朽木の裏をめくっている。
「何をしている」
「えー……食べる物無いかなって」
「携行口糧(カンパン)がまだあったろう」
「そうじゃなくて、あの。ここにさ……あった」
枯れ木をほじくって何かを見つけたようだ。嬉しそうに取り出したのはウネウネと蠢く白い芋虫だった。
「なんだそれは」
「虫」
それはわかる。見れば分かる。どう見ても何かの幼虫であり、ロールケーキではない。
じっと見ていると、ウナは躊躇なく顔の部分を毟りとって、それを一口で頬張った。頭部を失ってなお蠢くそいつが、静かに口中に消えていった。
※生でそのまま食ってしまった。
潜伏に支障がでるから火を使う訳にはいかないので、そうするしかないのだが。少々、カルチャーショックを受けた。
「タカは虫、食わないのか?」
「好んでは食わないな。もし食べるとしても調理する」
「ふぅん」
ウナは興味なさげに相槌を打って再び芋虫を探し始めた。携行口糧(カンパン)がまだあるのにもかかわらず、そうしているのはそちらの方が馴染みがあるからだろう。
「ともかく、私は少し休む。頼むぞ」
そう言って、小さくなって目を閉じた。
翌朝。
装備と身体の様子を確認した。凍傷にでもなっておれば任務に支障が出る。ウナとお互いの状況をチェックする。手足も動くし、どこにも異常はなさそうだ。万全の体調とは言い難いが、十分に動く事はできる。
雪兎の調子も良い。
明け方に十人ほどのルシヤ兵が麓をウロウロしていたので、彼奴等の半数の手足を吹き飛ばしてやった。一思いに殺すより手負いで返す方が効果的に打撃を与えられる。負傷者を救護する為に人員を割く事になるし、それを目撃したものに恐怖を植え付ける事ができるからだ。
それからも昼にかけて数組の兵隊が山に入って来たが、全て同じように追い返した。哀れにも彼らは、私達の位置を見極める事すら出来ずに排撃されていった。
……
※この物語はフィクションです。虫の生食は絶対にやめましょう。食中毒の原因となる細菌や寄生虫に感染する恐れがあります。虫を食べる場合は必ず加熱してからにしましょう。生の方が美味しいという虫も聞いた事がないので、加熱した方が美味しく食べられると思います。
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