【元幹部自衛官 S氏 執筆協力】元自衛官が明治時代に遡行転生!〜明治時代のロシアと戦争〜

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第99話.合流

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山の中。
約束の時間、約束の場所で吾妻を待つ。
いや約束の場所を監視できる位置に張り込む、と言った方が正しいが。
獲物を待つハナカマキリのように、ジッと。岩陰に潜み、監視を続ける。

「待ち合わせが丸刈りの大男じゃあな」

暇にあかせて、そうぼそりと呟いたのをウナが耳ざとく聞きつけた。

「ダメなのか?」
「駄目じゃない。駄目じゃあないが、そりゃあ泥臭い男よりは小町娘と待ち合わせの方が楽しいさ」
「そんなもんか?」
「そうさ」と言って続ける。
「華が無いだろう。遠くから鮮やかな芍薬(しゃくやく)のような女性が見えれば、待っていた甲斐があったと心が躍る」

両手でボールのようなジェスチャーをしてみせる。

「それが団子虫頭(ダンゴムシヘッド)ならどうだ。逃げ出したくもなる」
「タカ、言い過ぎ」
「冗談だよ」

吹き出しそうなウナを見て、私も歯を見せずに口角を上げて笑う。吾妻の薄っすら青い丸頭が待ち遠しい。

「それにタカは結婚してるんだろ」
「……待て。何か来た」

シッと言葉を止めて、人影に着目する。ひょこりひょこりと丸い頭が物陰から覗いては消える。辺りを警戒しているのだろう、姿勢は低く周辺を観察しながら合流ポイントを目指している。

「アズマだ」
「ああ、しかし」

その背後を、かなり間隔は開けているがルシヤ兵が追跡している。つまり吾妻は尾行されているという事だ。

「ふん。ルシヤの方が一枚上手(いちまいうわて)だな」
「でもタカはそのもう一枚上だ」

雪兎のボルトハンドルを前後させ、薬室に弾丸を送り込んだ。殺意の塊が冷たい筒の中に閉じ込められる。「いつでも殺せる」という冷たい声が、この黒鋼の長銃から聞こえた。

ここから確認できるルシヤ兵は五名。
ウナを少し離れた位置に移動させて、敵の人数を確認する。視点を変えてみても敵は五名。悠長にしていると、吾妻も我々も危険に晒される可能性が高くなる。
伏射の姿勢を取り、照準器を覗き込んだ。

雪兎の銃口から真っ直ぐに、蜘蛛の糸が敵兵を貫くのが見えた。例の線だ、弾道予知の霊線。
それが敵兵二人を一直線に重ねた瞬間、引き金を引いた。

ドンッと言う轟音と共に雪兎が火を噴いた。
いつものように、肩に食い込む反動。銃口を飛び出した殺意の塊は、一人の頭をスイカのように割り、後ろにいたもう一人の太腿を吹き飛ばす。
「二人やった」ウナからの合図を受けつつ、次弾を装填する。

後三人。

再び目を向けると、混乱しているのか銃を構えて固まっているのが一人。照準を合わせてもう一度引き金を引く。今度は肩口に着弾して、血飛沫を吹き上げながら後ろに倒れた。
雪兎ほどの大口径ならば、身体のどこに当たっても致命的だ。手に当たろうが足に当たろうが、肉を巻き込み、血管に重大なダメージを与える。まず自力で動く事はできん。

後二人。
同時にウナからの報告。

「隠れた、もうここからは見えない」
「こっちもだ。私は右側から行く、ウナは左から回り込め!吾妻に撃たれるなよ」

そう言って左右に分かれて移動する。吾妻も私の狙撃音を聞いて上手く隠れたようだ。タタンっと軽い音が響いた。誰かが何処かを撃っている。しかし、煙も火も見えない。
身を隠しつつ、音の方へ向かう。

再び、小銃の音が聞こえた。焦る気持ちを抑えて、一度足を止めて地面に伏せる。
更にもう一発の銃声。音の方角からして、こちらが狙われているわけではないらしい。
そしておおよその位置は掴めた。
草陰から銃口を出して、雪兎を構える。
いるはずだ、どこかに。そして吾妻を狙っている。目を凝らして必死に探す。

いた。

上手く擬態しているルシヤの狙撃者だ。そして奴が小銃を構える先には、吾妻の姿があった。
させるかとばかりに、ルシヤ兵の頭部に照準を合わせた。狙う者は、中々狙われている事には気がつかないものだ。
銃口がブレないように、ゆっくりと引き金を落とした。彼奴等の小銃の音とは比べものにならない雪兎の咆哮。
音速を遥かに超える速度で標的の頭部に弾丸が吸い込まれていき、爆ぜた。

後一人。
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