2 / 5
過去
塾
しおりを挟む
いつから、自分はそこそこ頭がいいと
思っていたのだろうか。
いつから、自分は勉強ができると
思っていたのだろうか。
「…成績表、見せないとダメ?」
「ダメ。今学期の成績が悪かったら
塾に行くって言ったのは
幸音だからね?」
「ウグッ…
そこを何とか…次、次頑張るからさ…ね?」
玄関先で母親に媚びを売る羽目になるとは、
数時間前の俺は思ってもいなかっただろう。
「次はないからね。
家の近くに新しく塾ができたの。
一対一の個別塾で親身になって
教えてくれるんだって。」
「そっか…」
俺が何も言わないのをいいことに、
母親はテンション高めに
塾の話をしながら
リビングへの道を開けてくれる。
「新しい塾って
商店街の所にできたやつ?」
「そうそう。世田さんのお肉屋さんが
あった土地にね。
あそこ土地は大きかったから。」
田舎とも都会とも言えない
微妙な場所が俺の住んでいるところ。
近所の人とはそれなりに顔見知りだし、
よく行くお店は
店員さんが顔を覚えてくれてる。
「世田さん、娘さんと暮らすんでしょ?
閉店する前
お肉買いに行ったとき聞いた。」
「そうそう。
塾のことも世田さんから聞いたのよ。
教え方が上手で
イケメンな先生がいるんだって。」
イケメン、の言葉に
自分で言ったにもかかわらず
母親はウキウキだった。
「体験授業あるけど行くわよね?
今週末…明日って土曜日か!
じゃあ、明日体験授業の予約
入れとくわね。」
自分抜きで自分の予定が決まるのは
それなりにあることで慣れている。
明日は家でゲームしようと思ってたのに。
__________________________________
次の日
「幸音。準備できた?」
朝の10時。
いつもなら寝ている時間に
起こされた俺は
朝から不機嫌でしかなかった。
「なんかいるものあったっけ?」
「筆記用具持ってるなら大丈夫よ。」
「だよね。…うん、準備できたよ。」
歩いて数十分かかる道を
母親と歩くのはいつぶりだろうか。
昔はよく、母親と一緒に
手をつないで商店街を歩いていた。
『あらぁ、幸くん。
お母さんとお買い物?』
『うん!荷物持ち係なんだぁ!』
『まぁ、お母さんも助かっちゃうわね?』
『いやいや、荷物持ち係といっても
自分の欲しいお菓子しか
持たないんですよ。』
『そっそんなことないもん!
今日は持つよ!
どんな荷物でもどんとこい!だよ!』
ふと昔のことを思い出す。
結局、俺はその日も荷物を持つことはなかった。
(あれ?そういえば、
母さんも荷物持ってなかったよな。
あれって誰が持ってたんだっけ?)
もどかしい、
思い出せないもやもやが募っていく。
一人頭を抱え、唸りながら
母親の横を歩いていると
ふいに母親の足が止まった。
「幸音、ついたよー。
見て見て。
なんだかおしゃれな感じの塾だよ…」
母親の言葉に顔を上げると、
今まで見たどの塾よりも
おしゃれな塾がそこにあった。
勉強勉強、合格率何パーセント、
受験対策実施中などの文字も一切なく、
カフェと言われても
一瞬納得してしまうような、
そんな建物だった。
「母さん。これあってるの?
ほんとにここなの??」
あまりの想像とのギャップに
母親に問いかけるも
問いかけられた本人も首をひねっていた。
「いやでも、
世田さんのお肉屋さんここでしょ?」
「そうだけど…」
親子で入口に立ち止まっていると、
突然扉が開いた。
扉から顔をのぞかせたのは、
整った顔立ちの男の人だ。
「体験授業をご予約されてた
音成様ですか?」
耳になじむ涼しげな声が頭に響く。
まるで、この人が
夏を連れてくるかのような、
そんな錯覚を起こしてしまう。
たった一言聞いただけなのに、
俺はこの人を好きになっていた。
思っていたのだろうか。
いつから、自分は勉強ができると
思っていたのだろうか。
「…成績表、見せないとダメ?」
「ダメ。今学期の成績が悪かったら
塾に行くって言ったのは
幸音だからね?」
「ウグッ…
そこを何とか…次、次頑張るからさ…ね?」
玄関先で母親に媚びを売る羽目になるとは、
数時間前の俺は思ってもいなかっただろう。
「次はないからね。
家の近くに新しく塾ができたの。
一対一の個別塾で親身になって
教えてくれるんだって。」
「そっか…」
俺が何も言わないのをいいことに、
母親はテンション高めに
塾の話をしながら
リビングへの道を開けてくれる。
「新しい塾って
商店街の所にできたやつ?」
「そうそう。世田さんのお肉屋さんが
あった土地にね。
あそこ土地は大きかったから。」
田舎とも都会とも言えない
微妙な場所が俺の住んでいるところ。
近所の人とはそれなりに顔見知りだし、
よく行くお店は
店員さんが顔を覚えてくれてる。
「世田さん、娘さんと暮らすんでしょ?
閉店する前
お肉買いに行ったとき聞いた。」
「そうそう。
塾のことも世田さんから聞いたのよ。
教え方が上手で
イケメンな先生がいるんだって。」
イケメン、の言葉に
自分で言ったにもかかわらず
母親はウキウキだった。
「体験授業あるけど行くわよね?
今週末…明日って土曜日か!
じゃあ、明日体験授業の予約
入れとくわね。」
自分抜きで自分の予定が決まるのは
それなりにあることで慣れている。
明日は家でゲームしようと思ってたのに。
__________________________________
次の日
「幸音。準備できた?」
朝の10時。
いつもなら寝ている時間に
起こされた俺は
朝から不機嫌でしかなかった。
「なんかいるものあったっけ?」
「筆記用具持ってるなら大丈夫よ。」
「だよね。…うん、準備できたよ。」
歩いて数十分かかる道を
母親と歩くのはいつぶりだろうか。
昔はよく、母親と一緒に
手をつないで商店街を歩いていた。
『あらぁ、幸くん。
お母さんとお買い物?』
『うん!荷物持ち係なんだぁ!』
『まぁ、お母さんも助かっちゃうわね?』
『いやいや、荷物持ち係といっても
自分の欲しいお菓子しか
持たないんですよ。』
『そっそんなことないもん!
今日は持つよ!
どんな荷物でもどんとこい!だよ!』
ふと昔のことを思い出す。
結局、俺はその日も荷物を持つことはなかった。
(あれ?そういえば、
母さんも荷物持ってなかったよな。
あれって誰が持ってたんだっけ?)
もどかしい、
思い出せないもやもやが募っていく。
一人頭を抱え、唸りながら
母親の横を歩いていると
ふいに母親の足が止まった。
「幸音、ついたよー。
見て見て。
なんだかおしゃれな感じの塾だよ…」
母親の言葉に顔を上げると、
今まで見たどの塾よりも
おしゃれな塾がそこにあった。
勉強勉強、合格率何パーセント、
受験対策実施中などの文字も一切なく、
カフェと言われても
一瞬納得してしまうような、
そんな建物だった。
「母さん。これあってるの?
ほんとにここなの??」
あまりの想像とのギャップに
母親に問いかけるも
問いかけられた本人も首をひねっていた。
「いやでも、
世田さんのお肉屋さんここでしょ?」
「そうだけど…」
親子で入口に立ち止まっていると、
突然扉が開いた。
扉から顔をのぞかせたのは、
整った顔立ちの男の人だ。
「体験授業をご予約されてた
音成様ですか?」
耳になじむ涼しげな声が頭に響く。
まるで、この人が
夏を連れてくるかのような、
そんな錯覚を起こしてしまう。
たった一言聞いただけなのに、
俺はこの人を好きになっていた。
0
あなたにおすすめの小説
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる