乙女ゲームの攻略対象者から悪役令息堕ちポジの俺は、魂の番と幸せになります

琉海

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12.紅玉可愛い

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「ちぃたま、ちぃたま、これ、おいちぃね!」
「うん。おいしいね」
「あらあら~。紅玉様お手々がバターでベタベタですねぇ」

俺の事をどう呼ばせたらいいかと考えて「ちぃ兄さま」と呼ばせたんだが、舌足らずな紅玉は「ちぃたま」としか言えなかった。くっそ可愛い。おかげで顔がデロデロになってしまう。
まだ幼い紅玉は上手に食べられず、焼き菓子をわし掴みするもんだから手が油でべったべただ。その手であちこちを触るもんだから、母が定期的に手を拭いてあげている。
俺も母も幼い紅玉にメロメロである。

どうやら紅玉はマナー授業を抜け出してきたらしい。なにをどうしたのか侍従をも巻き、さ迷ったあげくこちらの宮に迷い込んだらしい。
気づいたら1人ぼっちになっていて心細くなってむやみやたらに走り回ってコケたと。
渡りをつけて、第三王子の侍従に迎えに来るよう伝えてある。

「ジャネット様、紅玉様の侍従が参りました」
「お通しして」

ややあって、息せき切って部屋に訪れた侍従が、紅玉を見るなりへたり込みそうになった。顔が青ざめているから相当、焦ったのだろう。そらそうだ。

「紅玉様…!」
「あー!ちゅみれだぁー!」
「ちゅみれ…?」
「名を名乗る事をお許し頂けますでしょうか」

俺が首を傾げたから、侍従が申し訳なさそうに言った。

「うん」
「私は、スミレと申します。此度は、私の怠慢でこちらにご迷惑をおかけして大変申し訳ございません…!何を持ってしても償わせて…」
「いやいやいや。ちょっと待って?怖い!怖いよ!おちついて?」
「いやしかし…」

スミレ君、君の手にあるのは短剣だよね?腹ぁかっ捌く気?!
俺らに対して侮蔑を感じないし、いい人そう。だけど、不器用そう。第三王子の侍従なのに大丈夫かな?

「ね、一緒にお茶しない?」
「いえ!そんな畏れ多い!!」
「いいじゃない。ここは私たちしかいないもの。それに、紅玉様まだ召し上がっている最中ですもの。せめてこれを召し上がるまでは、どうかしら」
「いやでもしかし…」
「うん。色々と間違っていることはわかってるの。でも、僕らいっつも2人だけだから、たまには賑やかなお茶会にしたいの…だめ?」
「うっ…!」
「だめかしら?」
「うぅぅ!」
「ね?お茶しよ?」
「ちよ?」
「…はい。よろこんで」

いまいちよく分かってなさそうな紅玉が俺に追従するもんだから、うなだれたスミレ君が陥落してどっかの居酒屋みたいな返事をした。
それから俺たちはギクシャクするスミレ君を囲みながら、紅玉が食べ終わるのを待ってお開きとした。

「紅玉様がこちらでお茶をしていた事が分かると怒られると思うから内緒にしていただける?」
「はい。もちろんです」

きりっと答えるスミレ君を見ながら、母は策士だなと思った。俺は純粋に「お茶しようぜー!」のノリだったけど、母はスミレ君を仲間に引きずり込んだんだと思う。
お前も茶ぁしたろ?と。

「こーぎょく、僕らと一緒にお菓子をたべたことはナイショだよ?あと、僕のこともね」
「ないちょ?」
「そう。ナイショだ。僕らだけの秘密ね!」
「ひみちゅなの!」
「そ。シーッ」
「しぃー!」

子供はナイショごとが好きだから、キラキラとした目で嬉しそうに一緒に人差し指を口の前で立ててしぃーっとやる。

「ちぃたま、また、あしょぶ?」
「うーん…そうだなぁ。また機会があれば、ね」
「きかい?」
「あぁ。それじゃ分かんないか。また、今度あえたらね。でも、僕とかあさまのことは秘密だよ」
「あい!ひみちゅ!」
「紅玉様…!」

何故だかスミレ君が滂沱の涙を流している。
聞けば、こんなに楽しそうにしている紅玉を見るのは初めてであると。皇后である母親はあまり会いにこず、王である父も多忙のためほとんど会わない。
唯一近しい存在である兄も、王太子教育で多忙のためあまり会えないのだそうだ。

なるべく時間を作って会うように頑張っているらしいが、なかなかかなわない。
第三王子専用の広い宮にポツンといる紅玉を見ると、仕方がないとはいえ胸が引き絞られるように苦しいのだと吐露した。
話を聞いて、侍従だけでも寄り添ってくれる人がいて良かったなと思う。

しかし、兄も人間らしいところがあるものだな。
可愛い実弟のためなら心を砕くのね。ふーんっ!でも、ちょっとだけ見直したよ。
あいつ、マジ鬼畜で陰湿だからさー。そんな可愛いく愛情深い頃があったなんてちょいと感慨深いわ。

そういえば…義兄弟は悪役設定だったから、あまり背景を知らないんだよな。
紅玉と接してみて、元々はこんなに素直で可愛い奴なのかと驚いた。
そうだよな。ちっちゃな頃から極悪ってこたぁないよな。
そう思って、横にいる紅玉を見下ろすと、こちらを見上げた紅玉と目が合って、にこっと満面の笑みを返された。

「ぐはぁ…」

思わぬ破壊力に心臓を撃ち抜かれてしまったぜ…おそるべし、美形ショタ!

「ちぃたま、どちたの?いたいいたいなの?」
「孔雀さんは紅玉様に身悶える病を発症しているだけですから大丈夫ですよ。お気になさらず」

胸を押さえてうずくまる俺の頭をナデナデする紅玉に向かって、母が何やら言っている。
紅玉には難しすぎて伝わらなかったらしいが、大丈夫と分かって「ほーっ」とか言いながら胸を押さえている。やめて!やめてよぉ!可愛すぎて極悪っっ!!!
これ以上一緒にいたら、紅玉菌が体中に回ってえらい事になる。
さっさとお引き取り願おう。

見送りをする時に、寂しくなっちゃった紅玉にうるうるお目目で抱き着かれて「またあしょぼ?」と懇願されてしまい、諾と答えてしまったのは仕方がないと思う。

「孔雀さん、よく頑張りましたね。でも、あの攻撃は防げませんわ」
「はい…かあさま」

俺も母も、紅玉とまた会う事は危険だと分かってはいるんだが、如何せんあの可愛さである。ぴゅあっぴゅあで懇願されると…ねぇ?
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