公爵家次男の巻き込まれ人生

加賀りょう

文字の大きさ
6 / 39
第一章 始まり

6話 不穏な気配

しおりを挟む
夕食を終えると、本来ならば護衛としてジークランスの部屋を警護するはずだったが、休めと強制的に外されてしまったため、シアリィルドは与えられた部屋へと戻ってきていた。
軍服の上着を脱ぎ椅子へ掛けると、そのまま椅子へと座り込む。ベッドの傍には、シアリィルドの荷物がある。部下たちが運んでくれたのだろう。
隊長であり、公爵子息ということからか、部屋には浴室が備え付けられていた。屋敷にはニジムと数人の使用人が住んでいると言っていたが、浴室が備え付けとなっている部屋はそれほど沢山あるわけではないはずだ。

「気を遣わせたみたいだな……」

まだ酔いが残っているので、直ぐには入らない。少し火照った身体を冷やそうと、シアリィルドは窓を少し開け夜空を眺めた。程よい風が頬を撫でる。

「ここがコラールか。予想以上に直ぐ近くだったな」

シアリィルドが考えているのは、例の西の森が騒がしいという件だった。ここに来る途中に、見かけた森が該当する場所だ。街にも護衛官がいる。出入口はもちろんのこと、巡回なども行っているはずだ。それでも、街に入る時の様子から、少しピリピリしているように見えた。王子殿下の訪問によるものなのか。それとも別の理由なのか。
もし、森のざわめきが何かしらの影響を与えているのなら、無視することはできない。今、街にはジークランスが滞在しているのだから。

「念のため、保険はかけておくか」

街は広いが、結界を張る程度ならば問題ないだろう。
魔力を高めながら、屋敷を中心に範囲を広げる。街の外までカバーできればいい。

「っ……」

流石に広範囲過ぎたのか、結界を張り終えると眩暈がシアリィルドを襲った。座った状態で行っていたため、倒れるようなことはない。額を抑えながら、冷静に己の魔力を確認すれば、それほど使用したわけでもなかった。魔力の消耗が激しかったわけでもないということは、単純な疲労ということだろう。
ニジムのいうことは正しかったということだ。

「今日は、休んだ方が良さそうだな」

外の状況については、明日改めて確認をすればいい。必要であれば、ジークランスの傍を離れる許可をもらわなければならないことになる。いずれにしても、まずは体を休めるのが先だ。
重たい身体を起こし、シアリィルドはその足で浴室へと向かった。




翌朝、陽が昇り始めた頃に目が覚めた。身体を起こし、服を着替える。軍服に上着を羽織ったところで、部屋の外に人の気配を感じた。

「誰だ?」
「失礼しました。起きておられましたか」
「ケイオス」

扉を開けたのは、ケイオスだった。既にきっちりと軍服を着ている。入ってくるケイオスに挨拶をしつつ、上着の前を閉めた。

「本日の予定について、確認をと思ったのですが宜しいですか?」
「構いません……昨日は、ありがとうございました」
「いえ……こちらも特に問題はありませんでしたので」

簡単に昨夜についての報告を聞く。ケイオスは夜勤扱いとなるので、日中は休みだ。この後、休憩に入るということだった。一睡もしていないにも関わらず、疲れた顔さえ見せないケイオス。軍に入れば、徹夜など日常茶飯事。何年も同じように過ごしていれば、慣れると言われたがシアリィルドは未だその域には達していないということだろう。

「わかりました。ご苦労様です」
「それでは、私は失礼します」

ケイオスを見送り、屋敷の中に人の気配が増えてきたところで、シアリィルドも部屋を出る。朝のミーティングは、夜勤メンバーを除く全員だ。応接室をこの時間だけ借りていた。そろそろ、いい頃合のはず。
一階にある応接室へと行けば、それなりに人数が揃っていた。まだ姿が見えない者もいるが、時間厳守である。遅れは許されない。

「おはようございます」
「「おはようございますっ!」」

ピシっと声が合う様に、思わず苦笑する。ここにいる多くがシアリィルドよりも年上なのだが、表面上は不満げな顔をしている者はいない。
今日のジークランスの予定と、隊の動きについて指示を出す。シアリィルドと数人がジークランスと共に、街中の視察に出かけが、それ以外の隊員らは屋敷および侍女らの警護を行う。視察へ共についてきた彼女たちが、何かしら街に出ることがあれば付き添うことも任務の一つだからだ。

各々が応接室から出て行くのを見ながら、何かを感じたシアリィルドはふと窓から外を見た。

「……」

結界に何かが触れた。そんな気配だった。だが、違和感は直ぐに去る。人の出入りではない、何かだ。

(後で様子を見に行くか)

何かある前に、この目で確認しておきたい。だが、まずはジークランスへ挨拶をしてこなけらばならない。更に、朝食も共にするよう言われている。ジークランスを待たせるわけにはいかない。シアリィルドは、一先ず感じた違和感を置いておき、意識を戻した。すると、視線を感じる。本日は、共に行動する部下の一人だ。名をスティーブ・ガルシアという。

「……どうかしましたか?」
「その、どうされたのかと思いまして」

外を見て動かなかったシアリィルドを不思議に思ったらしい。確かに、外から見れば何事かと思うだろう。

「すみません、気になる気配があったので」
「気配、ですか?」
「……殿下の元へ行きましょう」

その部下に答えることなく、シアリィルドは足を動かした。常日頃から気配を気にしているシアリィルドにとっては当たり前なことだが、一般的ではない行動だ。今は魔法を常に使用している状態なので、より敏感に感じることができる。この魔法は、ある意味でシアリィルドの特異魔法だ。知られて困ることではないのだが、説明するのも面倒だ。
話題を避けるため、応接室を出れば彼も後からついてきた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

七日後に神罰が落ちる。上層部は「下を切り捨てろ」と言った——私は全員を逃がす

蒼月よる
ファンタジー
七日後、この港に神罰が落ちる。 追放された元観測士イオナだけが、その事実を知っていた。 しかも災害は自然現象ではない——誰かが、意図的に引き起こそうとしている。 港の上層部はすでに手を打っていた。「下層区画を緩衝被害区として切り捨てる」秘密契約。被害を最小限に見せかけ、体制を守る冷徹な計画だ。 イオナは元護送隊長ガルム、荷運び組合長メラとともに動き出す。 犯人を暴き、証拠を公開し、住民を逃がし、工廠を止める——すべてを七日で。 被害を「選ぶ」管理か、全員を「残す」運用か。 追放観測士の、七日間の港湾カウントダウン・サスペンス。 この作品は以下の箇所にAI(Claude Code)を利用しています。 ・世界観・設定の管理補助 ・プロット段階の壁打ち ・作者による執筆後の校正

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...