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第一章 始まり
7話 市場の視察
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午前中は、街の市場を見て回るということでジークランスと共に中心部にある市場へ出向いていた。
人の往来の中を行くため、服装はなるべく市井に紛れるような格好だ。ジークランスに至っては、目立つ金髪を隠すために茶色ウィッグを被っている。少し裕福な商家の息子を装うための変装らしい。
一方で、シアリィルドは軽装にして、深目に帽子を被っていた。軽装ではあるが、長めのコートを羽織り隠れるように帯剣している。普通の市民は帯剣していることなどない。あるとしても街の護衛官位だろう。そのため、隠しているのだ。
傍に大人数がいることも目立つので、ジークランスについているのはシアリィルドだけ。他の護衛は、少し離れて前後を護っている。
「予想よりも賑やかだな」
「まぁ、それほど王都からも離れていないからだろう」
そこかしこから、賑やかな声が聞こえている。商品を買う人や売る人。品物を見ながら、ただ話をして歩く夫婦。はしゃいでいる子どもたち。これがこの街の日常なのだろう。
「懐かしいな……」
「ジーク?」
「昔、二人でよく抜け出して城下に降りていた時のことを思い出した……今でも覚えているよ。あそこにいる子どもくらいの年齢だったか」
「そうだな」
ジークランスの視線の先には、7歳くらいの少年たちがいた。恐らくは近所に住む子どもたちだろう。その手に大きな籠を持っていることから、お使いの帰りなのかもしれない。シアリィルドたちがあのくらいの年齢だったのは、もう10年以上前の話。
幼い頃からよく一緒にいたジークランスとシアリィルド。初めて城内を出て、城下に来たときは何もかもが珍しかった。
ジークランスは王族で、シアリィルドとて公爵家の人間だ。自ら何かを買うことなどしない。それが普通で、当たり前のことだ。
だから、人と人との会話の中で、商品を受け取りお金を支払うというその光景は、シアリィルドたちにとっては不思議な光景以外の何ものでもなかった。当時は、どうにかしてお金を手にして、買い物をしていた。服装からして、貴族の子どもだということはバレていたのかもしれない。それでも、店の人々は知らぬ顔をしてシアリィルドたちに付き合ってくれたものだ。
勿論、今でもお金を持ち歩くことはほとんどない。買い物をするときでも、多くの場合家名を伝えて支払いを済ませる。こうして、市場に出て買い物をすることもない。
「どうする?久しぶりに買い物でもするか?」
「……何を買うんだ?土産か?」
「そうだな。せっかくだから私は何か買っていこうと思う……姉上と、シュリだろうな。あとは一応母上か」
ジークランスがいう姉とは、第一王女であるスィムレーア・クレメント・アイン・ヴェルダンだ。王位継承権第一位で既に立太子の儀も済んでいる次期女王である。ジークランスの4つ年上で、少々悪戯好きではあるが国主に相応しい人物と目されている。そして、シュリアーヌ・クレメント・フォン・ヴェルダン。愛称のシュリと呼ばれている王族の中の末姫。ジークランスの次位である第三位の継承権を持つ。末っ子故か、甘やかされて育てられたため、最近は我がまま振りが酷く目につく状態だった。無論、兄であるジークランスも甘やかしていた一人である。父である国王も含め、周囲から苦言を呈しているものの治る様子はない。見目が愛らしいのは周囲も認めるところではあるが、中身があれでは嫁ぎ先を見つけるのにも苦労するだろうとみられている。シアリィルドも出来れば、あまり会いたくない相手であった。
ジークランスを含め、三人の子の母であるのが王妃サレーテヌ・クレメント・ガイア・ヴェルダンだ。元侯爵家令嬢であり、公私にわたって国王を補佐している。シュリアーヌの現状に一番頭を悩ませているのも王妃殿下だ。何とか更生させようとしているようだが、王妃殿下自身も忙しい身の上だ。シュリアーヌに付き合うことはあまりできない。ジークランスも公務に関わるようになり、更に我がままが助長している状態だった。
それでいても、ジークランスには可愛い妹らしい。あまり良くない状況に置かれているということで、距離を置くようにしてはいるようだが、そう簡単にあの性格が治るわけがないとシアリィルドは思っている。
「豆な奴だな……」
「家族思いと言ってくれ。それで、シアはどうする?」
「別にいい」
「そうか。なら、一緒に選んでくれ。その方が母上たちも喜ぶ」
「わかった」
これに付き合わないという選択肢はない。一緒に視察に来ていることは、王妃殿下は勿論のこと、スィムレーアも知っている。無論、シュリアーヌもだ。渡すときに、シアリィルドも一緒に選んだと伝えるつもりなのだろう。王妃殿下やスィムレーアに対しては構わないが、シュリアーヌへの土産は選びたくないと思ってしまった。また、変に考えを飛ばされても困るからだ。自分の良いように解釈する癖があるシュリアーヌ。小さい頃からジークランスと共にいたため、一緒にいることも多かったシアリィルドがお気に入りなのだ。本人は、いずれ結婚するつもりでいるらしい。だが、シアリィルド自身は公爵家を継ぐわけではなく、軍人だという位置づけ。王族が降嫁するに相応しい立場ではない。だからシュリアーヌと結婚することはないのだ。それだけが、シアリィルドにとって救いだった。
上機嫌で品物を見始めたジークランスを見ながら、気づかれないようにシアリィルドはため息をついた。
人の往来の中を行くため、服装はなるべく市井に紛れるような格好だ。ジークランスに至っては、目立つ金髪を隠すために茶色ウィッグを被っている。少し裕福な商家の息子を装うための変装らしい。
一方で、シアリィルドは軽装にして、深目に帽子を被っていた。軽装ではあるが、長めのコートを羽織り隠れるように帯剣している。普通の市民は帯剣していることなどない。あるとしても街の護衛官位だろう。そのため、隠しているのだ。
傍に大人数がいることも目立つので、ジークランスについているのはシアリィルドだけ。他の護衛は、少し離れて前後を護っている。
「予想よりも賑やかだな」
「まぁ、それほど王都からも離れていないからだろう」
そこかしこから、賑やかな声が聞こえている。商品を買う人や売る人。品物を見ながら、ただ話をして歩く夫婦。はしゃいでいる子どもたち。これがこの街の日常なのだろう。
「懐かしいな……」
「ジーク?」
「昔、二人でよく抜け出して城下に降りていた時のことを思い出した……今でも覚えているよ。あそこにいる子どもくらいの年齢だったか」
「そうだな」
ジークランスの視線の先には、7歳くらいの少年たちがいた。恐らくは近所に住む子どもたちだろう。その手に大きな籠を持っていることから、お使いの帰りなのかもしれない。シアリィルドたちがあのくらいの年齢だったのは、もう10年以上前の話。
幼い頃からよく一緒にいたジークランスとシアリィルド。初めて城内を出て、城下に来たときは何もかもが珍しかった。
ジークランスは王族で、シアリィルドとて公爵家の人間だ。自ら何かを買うことなどしない。それが普通で、当たり前のことだ。
だから、人と人との会話の中で、商品を受け取りお金を支払うというその光景は、シアリィルドたちにとっては不思議な光景以外の何ものでもなかった。当時は、どうにかしてお金を手にして、買い物をしていた。服装からして、貴族の子どもだということはバレていたのかもしれない。それでも、店の人々は知らぬ顔をしてシアリィルドたちに付き合ってくれたものだ。
勿論、今でもお金を持ち歩くことはほとんどない。買い物をするときでも、多くの場合家名を伝えて支払いを済ませる。こうして、市場に出て買い物をすることもない。
「どうする?久しぶりに買い物でもするか?」
「……何を買うんだ?土産か?」
「そうだな。せっかくだから私は何か買っていこうと思う……姉上と、シュリだろうな。あとは一応母上か」
ジークランスがいう姉とは、第一王女であるスィムレーア・クレメント・アイン・ヴェルダンだ。王位継承権第一位で既に立太子の儀も済んでいる次期女王である。ジークランスの4つ年上で、少々悪戯好きではあるが国主に相応しい人物と目されている。そして、シュリアーヌ・クレメント・フォン・ヴェルダン。愛称のシュリと呼ばれている王族の中の末姫。ジークランスの次位である第三位の継承権を持つ。末っ子故か、甘やかされて育てられたため、最近は我がまま振りが酷く目につく状態だった。無論、兄であるジークランスも甘やかしていた一人である。父である国王も含め、周囲から苦言を呈しているものの治る様子はない。見目が愛らしいのは周囲も認めるところではあるが、中身があれでは嫁ぎ先を見つけるのにも苦労するだろうとみられている。シアリィルドも出来れば、あまり会いたくない相手であった。
ジークランスを含め、三人の子の母であるのが王妃サレーテヌ・クレメント・ガイア・ヴェルダンだ。元侯爵家令嬢であり、公私にわたって国王を補佐している。シュリアーヌの現状に一番頭を悩ませているのも王妃殿下だ。何とか更生させようとしているようだが、王妃殿下自身も忙しい身の上だ。シュリアーヌに付き合うことはあまりできない。ジークランスも公務に関わるようになり、更に我がままが助長している状態だった。
それでいても、ジークランスには可愛い妹らしい。あまり良くない状況に置かれているということで、距離を置くようにしてはいるようだが、そう簡単にあの性格が治るわけがないとシアリィルドは思っている。
「豆な奴だな……」
「家族思いと言ってくれ。それで、シアはどうする?」
「別にいい」
「そうか。なら、一緒に選んでくれ。その方が母上たちも喜ぶ」
「わかった」
これに付き合わないという選択肢はない。一緒に視察に来ていることは、王妃殿下は勿論のこと、スィムレーアも知っている。無論、シュリアーヌもだ。渡すときに、シアリィルドも一緒に選んだと伝えるつもりなのだろう。王妃殿下やスィムレーアに対しては構わないが、シュリアーヌへの土産は選びたくないと思ってしまった。また、変に考えを飛ばされても困るからだ。自分の良いように解釈する癖があるシュリアーヌ。小さい頃からジークランスと共にいたため、一緒にいることも多かったシアリィルドがお気に入りなのだ。本人は、いずれ結婚するつもりでいるらしい。だが、シアリィルド自身は公爵家を継ぐわけではなく、軍人だという位置づけ。王族が降嫁するに相応しい立場ではない。だからシュリアーヌと結婚することはないのだ。それだけが、シアリィルドにとって救いだった。
上機嫌で品物を見始めたジークランスを見ながら、気づかれないようにシアリィルドはため息をついた。
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