15 / 39
第一章 始まり
15話 もう一人の幼馴染
しおりを挟む
翌日、カーテンが開けられる音で目が覚めた。目を開ければ、オリヴァーがそこには立っている。
「オリヴァー……?」
「あ、おはようございます、シアリィルド様」
「おはよう」
挨拶を返し身体を起こそうとすれば、それを見たオリヴァーがさっと近づき、シアリィルドの背を支えてくれた。支えられることで身体を起こす。背にクッションを入れられると、姿勢が安定する。こうして起きている方が、今のシアリィルドは楽だった。
昨日よりは、怠さも和らいでいる気もする。とは言え、ベッドから出ることは出来ないだろう。
「助かる。すまない」
「何を仰るんですか。この程度、いつでも申し付けてください……今日のご気分はどうですか?何か召し上がれます?」
「……そう、だな。少しだけもらう」
「わかりました。少々お待ちください」
そう言って、オリヴァーが部屋の外に声をかける。部屋の前には、侍女が待機していたようで彼女に指示を伝えているようだ。伝え終わると、オリヴァーは戻ってくる。青緑色の髪をツインテールにし、その灰色の大きな瞳を持っている彼女は、控えめに言って美人だった。シグムント子爵家の令嬢でもあり、作法も教養もしっかりと身に着けており、公爵家の侍女たちの中でも信頼できる人物だ。
だが、シアリィルドが学院を卒業して以来、屋敷に戻っていないこともあり、こうして会って話をするのは久しぶりだった。
「オリヴァー……そういえば、お前は実家に帰るはずじゃなかったのか?」
「……そういえば、そんなことも言っておりましたね。って、それ一年前の話ですよ」
呆れたように肩を落とすオリヴァー。確かに、最近の話ではない。だが、子爵家に戻るという話は確かにあった。オリヴァーはシアリィルドの一つ上だ。貴族女性ならば、結婚適齢期である。結婚のために実家に戻るという風にシアリィルドは聞いていた。だから、屋敷にいないはずだったのだ。
昨日は、それどころではなかったので聞きそびれた。当たり前のように侍女として仕事をしているということは、破談になったのかもしれないが、シアリィルドは事情を知っておきたかった。
「……シアリィルド様はご存知だと思いますが、私の母は奥様の妹です。そのため、ファルシース公爵家と縁が得られると考えた先方からお話がありました。実家は子爵家ですから、相手方である伯爵家からのお話は断りすることが出来なかったのです」
「……どこの、だ?」
「ロドリゲス卿です。ご存知ですか?」
「……あぁ。最悪だな」
「はい……最悪だったんです」
ロドリゲス伯爵。貴族の間では有名な人物だった。年は30を過ぎたところだが、金遣いが荒く、娼館に通い詰めているらしい。借金も相当あると聞いていた。元々は、由緒正しい伯爵家の者として品行方正だったらしく、結婚をすれば元の真面目な青年戻ってくれるのではないかと、両親は結婚相手を探していたという。たが、伯爵というプライドもあって、誰でも良いわけではない。それなりの家柄の令嬢をと探したところ、シグムント家に至ったらしい。
「何度かパーティーで話しかけられたことがありまして、そこで私を見初められたとお話があったようです。息子の初恋だから、どうしても叶えたいのだと……」
「……話の文句としてはあり得る、か」
「はい……伯爵家からの縁談ですから、初めは両親も喜びましたが、実際の婚約が決まると色々とありまして」
貴族の子女にとって、婚約すれば破棄されることはほとんどないため、結婚することは確定だ。家同士の決まり事である以上、個人的な感情でこれを無にすることはできない。
だからこそ、相手側も大きく出たのか、嫁入りのためのお金である支度金を直ぐに渡すように要求してきたのだった。それも金額まで指定する始末。恐らくは借金の返済の為だろう。更には、愛人がいることもわかった。伯爵なのだから、愛人の一人や二人は許容するように言われたが、結婚前からそのような存在がいるのは、全くもって別の話である。
共にパーティーに出ると、公爵家の名前を出す始末。このままでは、ファルシース公爵家にも迷惑がかかると判断したオリヴァーの母は、姉であるファルシース公爵夫人に相談することにした。
結果、公爵が働きかけて婚約を白紙に戻すことが出来た。白紙扱いなので、オリヴァーの名誉は守られた形だ。
「本当に、酷い方でした……」
「……変な奴に目をつけられたな」
「はい……ですので、今はちょっと結婚は考えられません。ということで、お屋敷に戻らせていただいたんです」
結婚をしなければならないのは理解するが、少し時間を置きたいということらしい。社交界へもそれからは出ていないようだった。
シグムント子爵もオリヴァーの自由にしていいと、承諾書したとのことで、気がすむまで働くことも出来るという。
「お前……ずっと公爵家にいるのか?」
「それも一つの人生かとも思います。もしくは……シアリィルド様が結婚したら、そのお屋敷に筆頭侍女としてついていけるかなとは、考えておりますよ」
「……気が早いだろ」
「いいえ、遅いくらいです」
キッパリとオリヴァーは告げる。容赦のない態度ではあるが、これがシアリィルドとオリヴァーの間では普通だ。
マナフィールの従妹として行儀見習いとして公爵家に来てから侍女となったオリヴァーは、学院に入るまでは共に過ごしていた。ジークランスとは違うが、オリヴァーもシアリィルドにとっては大切な幼馴染の一人なのだ。
この幼馴染が苦労するのなら、白紙になって良かったとシアリィルドは安堵するのだった。
「オリヴァー……?」
「あ、おはようございます、シアリィルド様」
「おはよう」
挨拶を返し身体を起こそうとすれば、それを見たオリヴァーがさっと近づき、シアリィルドの背を支えてくれた。支えられることで身体を起こす。背にクッションを入れられると、姿勢が安定する。こうして起きている方が、今のシアリィルドは楽だった。
昨日よりは、怠さも和らいでいる気もする。とは言え、ベッドから出ることは出来ないだろう。
「助かる。すまない」
「何を仰るんですか。この程度、いつでも申し付けてください……今日のご気分はどうですか?何か召し上がれます?」
「……そう、だな。少しだけもらう」
「わかりました。少々お待ちください」
そう言って、オリヴァーが部屋の外に声をかける。部屋の前には、侍女が待機していたようで彼女に指示を伝えているようだ。伝え終わると、オリヴァーは戻ってくる。青緑色の髪をツインテールにし、その灰色の大きな瞳を持っている彼女は、控えめに言って美人だった。シグムント子爵家の令嬢でもあり、作法も教養もしっかりと身に着けており、公爵家の侍女たちの中でも信頼できる人物だ。
だが、シアリィルドが学院を卒業して以来、屋敷に戻っていないこともあり、こうして会って話をするのは久しぶりだった。
「オリヴァー……そういえば、お前は実家に帰るはずじゃなかったのか?」
「……そういえば、そんなことも言っておりましたね。って、それ一年前の話ですよ」
呆れたように肩を落とすオリヴァー。確かに、最近の話ではない。だが、子爵家に戻るという話は確かにあった。オリヴァーはシアリィルドの一つ上だ。貴族女性ならば、結婚適齢期である。結婚のために実家に戻るという風にシアリィルドは聞いていた。だから、屋敷にいないはずだったのだ。
昨日は、それどころではなかったので聞きそびれた。当たり前のように侍女として仕事をしているということは、破談になったのかもしれないが、シアリィルドは事情を知っておきたかった。
「……シアリィルド様はご存知だと思いますが、私の母は奥様の妹です。そのため、ファルシース公爵家と縁が得られると考えた先方からお話がありました。実家は子爵家ですから、相手方である伯爵家からのお話は断りすることが出来なかったのです」
「……どこの、だ?」
「ロドリゲス卿です。ご存知ですか?」
「……あぁ。最悪だな」
「はい……最悪だったんです」
ロドリゲス伯爵。貴族の間では有名な人物だった。年は30を過ぎたところだが、金遣いが荒く、娼館に通い詰めているらしい。借金も相当あると聞いていた。元々は、由緒正しい伯爵家の者として品行方正だったらしく、結婚をすれば元の真面目な青年戻ってくれるのではないかと、両親は結婚相手を探していたという。たが、伯爵というプライドもあって、誰でも良いわけではない。それなりの家柄の令嬢をと探したところ、シグムント家に至ったらしい。
「何度かパーティーで話しかけられたことがありまして、そこで私を見初められたとお話があったようです。息子の初恋だから、どうしても叶えたいのだと……」
「……話の文句としてはあり得る、か」
「はい……伯爵家からの縁談ですから、初めは両親も喜びましたが、実際の婚約が決まると色々とありまして」
貴族の子女にとって、婚約すれば破棄されることはほとんどないため、結婚することは確定だ。家同士の決まり事である以上、個人的な感情でこれを無にすることはできない。
だからこそ、相手側も大きく出たのか、嫁入りのためのお金である支度金を直ぐに渡すように要求してきたのだった。それも金額まで指定する始末。恐らくは借金の返済の為だろう。更には、愛人がいることもわかった。伯爵なのだから、愛人の一人や二人は許容するように言われたが、結婚前からそのような存在がいるのは、全くもって別の話である。
共にパーティーに出ると、公爵家の名前を出す始末。このままでは、ファルシース公爵家にも迷惑がかかると判断したオリヴァーの母は、姉であるファルシース公爵夫人に相談することにした。
結果、公爵が働きかけて婚約を白紙に戻すことが出来た。白紙扱いなので、オリヴァーの名誉は守られた形だ。
「本当に、酷い方でした……」
「……変な奴に目をつけられたな」
「はい……ですので、今はちょっと結婚は考えられません。ということで、お屋敷に戻らせていただいたんです」
結婚をしなければならないのは理解するが、少し時間を置きたいということらしい。社交界へもそれからは出ていないようだった。
シグムント子爵もオリヴァーの自由にしていいと、承諾書したとのことで、気がすむまで働くことも出来るという。
「お前……ずっと公爵家にいるのか?」
「それも一つの人生かとも思います。もしくは……シアリィルド様が結婚したら、そのお屋敷に筆頭侍女としてついていけるかなとは、考えておりますよ」
「……気が早いだろ」
「いいえ、遅いくらいです」
キッパリとオリヴァーは告げる。容赦のない態度ではあるが、これがシアリィルドとオリヴァーの間では普通だ。
マナフィールの従妹として行儀見習いとして公爵家に来てから侍女となったオリヴァーは、学院に入るまでは共に過ごしていた。ジークランスとは違うが、オリヴァーもシアリィルドにとっては大切な幼馴染の一人なのだ。
この幼馴染が苦労するのなら、白紙になって良かったとシアリィルドは安堵するのだった。
0
あなたにおすすめの小説
【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】
~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~
ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。
学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。
何か実力を隠す特別な理由があるのか。
いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。
そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。
貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。
オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。
世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな!
※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
七日後に神罰が落ちる。上層部は「下を切り捨てろ」と言った——私は全員を逃がす
蒼月よる
ファンタジー
七日後、この港に神罰が落ちる。
追放された元観測士イオナだけが、その事実を知っていた。
しかも災害は自然現象ではない——誰かが、意図的に引き起こそうとしている。
港の上層部はすでに手を打っていた。「下層区画を緩衝被害区として切り捨てる」秘密契約。被害を最小限に見せかけ、体制を守る冷徹な計画だ。
イオナは元護送隊長ガルム、荷運び組合長メラとともに動き出す。
犯人を暴き、証拠を公開し、住民を逃がし、工廠を止める——すべてを七日で。
被害を「選ぶ」管理か、全員を「残す」運用か。
追放観測士の、七日間の港湾カウントダウン・サスペンス。
この作品は以下の箇所にAI(Claude Code)を利用しています。
・世界観・設定の管理補助
・プロット段階の壁打ち
・作者による執筆後の校正
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる