公爵家次男の巻き込まれ人生

加賀りょう

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第一章 始まり

16話 父との会話

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朝食はシアリィルドの体調を考慮したスープ粥だった。まだ、力が入らない右手を何とか動かして食す。オリヴァーと、食事を運んできたメリサは、いつでも手を出せるようにとその様を見つめていた。
半分ほどなくなったところで、シアリィルドは手を止める。

「坊っちゃん?」
「……悪い」
「お手伝いしますか?」
「いや、下げてくれ」
「かしこまりました。オリヴァー、貴方は坊っちゃんの側に」
「はい」

メリサが片付けていく。本来なら筆頭侍女であるメリサの仕事ではないのだが、様子を見るためにわざわざメリサが来たのだという。これが、目覚めてから初めての食事だったからだろう。
マナフィールと執事であるマーク、料理長らに報告するはずだ。恐らくは、帰って来ているだろう屋敷の主であるシアリィルドの父にも。

「……はぁ」
「大丈夫ですか?」
「あぁ……少し疲れただけだ」

スプーンで掬うだけの動作だった。それさえもシアリィルドにとっては疲れる動作だ。手を握ったり開いたりと繰り返すが、緩慢な動きにしかならない。

「シアリィルド様……お休みに、なられますか?」
「……いや」
「いえ、お休みください。今は休むことが、シアリィルド様のお仕事です」

問答無用というように、シアリィルドの背からクッションを取り除き、ベッドへと横にさせられる。支えを失えば、シアリィルドには姿勢を維持することは出来ないので、寝ているしかない。

「わかった」
「はい、そうしてください。今、タオルを」
「入るぞ」
「っ?」

部屋の外から声がしたと同時に、扉が開かれる。その姿を見て、オリヴァーの身体が強張った。シアリィルドからは見えないが、声だけでそれが誰かはわかってしまう。

「……父上」
「下がりなさい、オリヴァー。世話は、私の話が終わってからでいい」
「は、はいっ。承知しました、旦那様。では……シアリィルド様、後程参りますので」

話があるということから、たった今外したクッションを再び用意して、シアリィルドは支えられながらも身体を起こした。姿勢が安定したのを確認すると頭を下げ、オリヴァーは急ぎ部屋から出ていった。
タタタッと足音が遠ざかるのを確認すると、ベッドの側にある椅子へと座る。
現ファルシース公爵家当主、ルトギアス・フォン・ファルシース。銀髪に黒い瞳。長身体躯で、今は退いているが若かりし頃は王国軍の師団長を務めたほどの剣豪だった。シアリィルドの剣の師でもある。

「シアリィルド」
「はい……」
「目が覚めて何よりだった。今の状況は、マナフィールより聞いているな?」
「はい。謹慎、と聞いています」

厳しい顔をし、腕を組むルトギアス。鋭い視線を向けられても、シアリィルドは逸らすことを許されてはいない。

「本当ならば、辞めるべき案件だ。陛下や殿下から止められなければ、そうしていただろう。異変を察知していながら、対応が遅すぎる。これは軍の失態。お前の処罰とは別だ」
「……」
「軍としてお前に処罰はないそうだ。何とも甘温い集団になったものだな……シアリィルド。申し開くことはあるか?」
「……ありません」

まだ一年足らずしか所属していないシアリィルドには、何も返す言葉はない。厳しい場所だとも、楽な場所だとも感じたことがないからだ。
この答えに満足しなかったのか、ルトギアスは更に眉を寄せた。

「……私は、お前の実力ならば、既に師団長クラスだと思っている。それは今も変わらん。だが……まだお前には足りないものがあるようだ」
「……父上?」
「一週間後、私は領地へ戻る。お前も共に来い。いいな」
「なっ……父上っ」

来たときよりも機嫌を悪くしたルトギアスは、立ち上がってそのまま部屋を出ていく。何がルトギアスの怒りに触れたのか分からず、シアリィルドはただ呆然と消えた姿を追っていた。

ファルシース公爵家が治める領地は、王家直轄領と隣接している土地だ。差ほど離れている訳ではないが、1日で往復できる距離ではない。無理に馬で飛ばせば可能な場所にある。
一体どういうつもりなのか。シアリィルドには、ルトギアスの考えが全くわからなかった。


暫く放心していると、ガチャリと扉が開く。ハッと意識を戻せば、オリヴァーと共にマナフィールが来ていた。

「兄、上?」
「やぁ、おはようシアリィルド。どうやら、父上と何か話をしたようだが……何を言ったのかな? 私は言ったはずだと思ったけれど、お前は聞いていなかったのかい?」
「……」

傍まで来ると、先ほどまでルトギアスが座っていた椅子に腰を下ろす。

「父上は大層ご立腹だと伝えたよね?まぁ、父上も言葉足らずな部分はあるだろうけれど……あの人は、人としてシアリィルドの行動は理解できているはずだよ。だけれど、父として、当主としては認めるわけにはいかないから、戒める意味を込めて謹慎にしたはずなんだ。それが、突然連れて戻ると言う……全く。シアリィルド、父上から何か聞かれなかったかい?」
「……申し開くことがないかと、問われましたが、ないと答えました」

軍に対しての話をしていたはずだが、それについてシアリィルドに言えることはない。だから、そう伝えたまでだ。しかし、マナフィールは頭を抱えてしまった。

「本当に……そういうところは、何でも受け入れるような姿勢はお前の美徳でもあるけれど、欠点でもあるね……たぶん、父上はお前からちゃんと話を聞きたかったんだと思うよ。どうしてお前がその行動を取ったかを」
「それは、既に報告があったと思いますが」
「勿論だよ。まぁ、その先はちゃんと父上から聞くことだね」
「……」

それ以上はマナフィールの推測に過ぎないと、口を閉ざした。

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