公爵家次男の巻き込まれ人生

加賀りょう

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第二章 変動

24話 父と

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「旦那様、シアリィルド様をお連れ致しました」
「入りなさい」
「はい」

応接室の大きな扉を開けば、立ったまま外を眺めているルトギアスがいる。顔だけをこちらに向けると、その眼と視線が合う。

「座りなさい、シアリィルド。カルナ、お前は下がっていていい」
「かしこまりました。では、失礼いたします」

バタンと扉が閉まった。言われるままシアリィルドは、ソファーに座る。すると、ルトギアスも向かい側へと腰を下ろした。

「クレーネとは会ったか?」
「はい」
「どうであった?」
「どう、ですか……?」

母親に会って、どうだったのかと父親に言われても、どう答えればいいかわからない。どういう意味だったのかと、問えばルトギアスは少し視線を鋭くして、腕を組んだ。

「そのままの意味だ。お前がどう思ったのかを聞いている。まさか、何も思わなかったわけではあるまい」
「……それは、そうですが。それが一体どうしたと」
「私は、お前に聞いている。クレーネと会って、お前はどう感じたのだ?」

質問の意図はわからないが、答えるまでは許されないらしい。シアリィルドは、クレーネと会った時のことを思い出す。何を感じたのか。答えられるとすれば、どのような想いか。口に出せば照れ臭いが、それでも言わなければ解放されない。ルトギアスの視線から目を逸らす。

「……驚きました」
「何がだ?」

目を逸らしたことは気に留めず、その先を促される。言葉を選びながら、シアリィルドは説明した。

「俺の知っている記憶から、随分痩せていましたから……それに」
「それに、何だ?」
「……あんな風に、思っていたとは考えてもみなかったので」
「あんな風とは?」

曖昧な表現をすべて追及される。何故、ここまで聞きたがるのかわからない。しかし、その圧力は逃げることを許さなかった。

「……死んでもいい、と……言われました。俺が、死んでいたらそうしていた、と」
「クレーネが、そういったのか?」
「はい……」

不安にさせた。そのような言葉では言い表せられない激情があった。相応しい表現が見つからない。あれを表すには、どんな言葉があるのだろうか。シアリィルドにはわからない。

「……相変わらず、極端な性格だ」
「?」
「まぁいい。お前が驚くのも無理はない。だが、それがあれの本性だ。共に過ごしていれば、お前も……いや、今は関係ない話だな」
「父上?」

何かを言いかけて首を横に振る。ルトギアスの意図は何なのか。だが、答えには納得したのか、ふかくすわり直すと天井を仰いだ。

「あれは嘘を言わない。本心だろう。だが、それは私が許さない……クレーネもわかっているだろうが、それでも割りきれない想いがある」
「……」

そう言って暫く動かずにいるルトギアスに、何も言うことが出来なかった。ただ、黙ってその姿を見ていただけだ。
漸く、ルトギアスがシアリィルドへ視線を戻すと、幾分和らいだ表情があった。

「来る前に、マナフィールから何か聞いていたか?」
「はい。ジークからの伝言を、もらいました」
「そうか。聞いたのか……」

それだけで、内容を理解したらしい。
シアリィルドが聞いたこと。それは、現在の世界の動きだった。魔族が集結していること。戦力を集めていること。恐らくは、過去に合ったような精鋭を集い、本格的な動きとなる前に叩くつもりだと言うことも。
ヴェルダン王国からは、白騎士団長が出向いたと聞いた。マナフィールからの話だと、集めた各国の精鋭らから、過去の伝説となった存在を選定するつもりだということらしい。アルリア法国は、女神を信仰するとともに、過去の伝説である精鋭の勇者を女神の遣いのようにしている節もある。過去と同じく、法国が中心となって戦うことで、より信仰を強固なものにしたいということだ。

「近く、選定の儀を行うそうだ。過去の英雄が残した数々の武器。扱えるものがいるかを見るとな」
「それは」
「全ての使用者が見つかることはないだろうが、一人でも多く見つかればいい。まだ、危機的状況ではない」

法国に安置されている武器は、当時の職人が英雄たち一人一人に合わせて作った唯一無二のもの。それは、過去の彼らにしか扱えない。何度も手にしようとした者が現れたが、扱えずに自らを消滅させることになったと聞く。理屈は分からないが、展示物に近い扱いになっていたはずだ。それが、武器として使用するつもりだという。危険すぎる賭けだ。
過去の英雄の血筋辿る方が、まだ可能性は高いというのに。そこでハッとする。

「父上、まさかジークを」
「他国は知らないが、我が国は殿下方を連れていくことは考えていない」

過去の英雄たちは各王家との繋がりがある。呼ばれても不思議ではない。
シアリィルドが知る限り、ヴェルダン王家にその血筋は入っていないはずだ。それでも確実ではないのだが、ルトギアスは否定している。ならば、シアリィルドが不在の間に、ジークランスが出掛けることはないだろう。

「お前が気にするのはそこか……?」
「え……?」
「まぁそれならばそれでいい。とにかく、選定が収まるまでは私も領地にいる。お前もだ。暫く、クレーネに心配をかけるのは控えるように。あれの心は、それほど強くない」
「……それは、分かりますが……俺は」
「問題はない。未だ、身体が癒えている訳ではあるまい? 今は、休むことを優先しなさい。鍛練も、暫くは控えるように」
「……はい」

強く言われてしまえば、頷くしかない。確かに、日常生活には困らない程度には回復した。歩くことも走ることも出来るだろう。それでも、一度毒に冒されたこの身は以前のようには動けない。体調も直ぐに崩す。負傷した左腕は時折痛みを与えてくる。完全に治るまでには、まだ時間が必要だった。魔法での治療をするほどではないため、領地にいても不都合はない。それでも、王都で長い間過ごしていたため、領地はシアリィルドにとって慣れない場所だ。まずは、この地に慣れる必要がある。ルトギアスには気づかれないように、シアリィルドはため息をついた。
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